無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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WORSTEND 溝櫛瑠璃華のハッピーエンド3

 時間が経てば経つほど、すみれちゃんは燐さんに心を開いていくし、燐さんもすみれちゃんのことを受け入れていく。最初に見た時はお互いに遠慮しあっているのがよく見えて、居候と家主という関係だったのに、いつの間にか二人の関係は年の離れた兄妹のような、家族のようなものになっていった。

 

 人は血の繋がりなんかなくても家族になれるのだと思わせてくれる、素敵な光景だ。2人ともまともな親に恵まれていなかったことを考えれば、その感動も一入である。まあ、燐さんの一番大切にしていた茉莉ちゃんを壊したのは私だし、この光景を壊すのも私なのだけれど。

 

 トランプタワーは崩す瞬間、真っ白なキャンパスは泥を塗る瞬間、愛情は失う瞬間がいちばん綺麗だ。信頼が崩れて失われる瞬間ははた言うべきにあらず。

 

 そんなことを思いながら定時上がりすると、どこか焦燥した様子の燐さんが目の前を歩いていたので声をかける。タイミング的にもなんとなく想像はつくけれど、実際に話を聞いてみたらやっぱり出張のことだった。

 

 予想通り、出張の話は燐さんの元に行ったらしい。行った先で通訳無しで喋れる人材が私と燐さんとその上司しかいなくて、私は一年目。燐さんの上司はとても忙しいらしいので、自ずと燐さんに白羽の矢が立つのは仕方のないことだろう。

 

 そして案の定、すみれちゃんを一人で家に置いておく訳にはいかないと、その間他のところいてもらわないといけないのだと困っている燐さんに、それなら私の家で預かりますよと伝える。元々何度か粉をかけていたこともあって、私自身がすみれちゃんに対して友好的に振舞っていたこともあって、その申し入れは直ぐに受け入れられた。一人で決めるのではなく形だけでもすみれちゃんに相談した方がいいんじゃないかとはおもったけれども、まあ、あと少しすれば消えることになる関係のことを、私がとやかく言うものでもないだろう。

 

「すみれちゃんが家に来ることになるのなら、私も一緒にその場にいた方が話が早いですよね。今日は定時だから早いですし、一緒に行きますよ」

 

 そう言って有無を言わせず燐さんの家までついて行けば、お出迎えをしてくれるのは玄関で待機していたすみれちゃん。まあ、燐さんの家ですみれちゃん以外の人がもし待機していたらそれはもうホラーなのだけれど。

 

 かわいい笑顔を見せてくれたすみれちゃんは、待ち人以外の存在に一瞬それを曇らせて、そのおまけが私であることに笑顔を取り戻す。なんで来たんだよ、とか思われなくてよかった。それなり以上になかよくしているすみれちゃんにそんなことを思われてしまったら、さすがの私でも少し傷つく。

 

 突然私が来たことに驚いて、料理が二人分しかないっ!とすぐに慌てた様子になるすみれちゃん。ついでに、瑠璃華お姉ちゃんが来るならわかった時点で教えてください!と怒られる燐さん。見ていてとても、家族っぽい。

 

 そんなすみれちゃんに、今日はちょっと話したらすぐ帰るからそんなにもてなしてくれなくてもいいよと伝えると、すみれちゃんは少し残念そうにしながらそうですかとつぶやいて、私を案内してくれる。

 

 普段燐さんが使っているというクッションを勧められて、そこに座る。すみれちゃんは自分用のものだという同じものに座って、家主のはずの燐さんはただまれた布団の上に座らされていた。なんでも、燐さんのせいで準備できなかったのだからそれくらいは我慢してもらわないととの事。

 

 そんな風に、ちょっとツンツンした様子を見せていたすみれちゃんだったけれど、それが続いたのは燐さんから出張の話を聞くまでのこと。いざ話を聞いたら、すみれちゃんは突然足元が崩れ去ったような顔をして、何とかできないんですかと私たちに聞いてくる。少なくとも私の思いつく範囲内では、燐さんと一緒に外国に行くことは不可能で、会社の命令をもし無視すれば、職と住を失った燐さんはめでたく無職ホームレスだ。当然すみれちゃんの居場所も残らない。

 

 そうならないためにも、私が一緒に来たのだと伝えると、すみれちゃんは悲しさや寂しさの中に、僅かに安堵を混ぜて見せた。

 

 そのまま話を続けて、10分もすればすみれちゃんはもう私の家に来る気満々になっている。決め手が毎週料理を教えることだったのには少し思うところがないわけではないが、まあそれも連れ込んで処分してしまったら全部なかったことになるのだから無問題。

 

 ある程度大きなものを持ってきさえすれば残りの細かいものは私が用意すると伝えて、今日はここらで退散。すみれちゃんはやっぱりなにか出しましょうかと言っていたけれど、私だって家に帰れば作り置きが待っている身だ。いきなり押しかけたのだし、ご飯までお世話になる必要はない。

 

 

 そうして、一月足らず過ぎて、すみれちゃんが私の家にやってきた。かわいいかわいいお人形さんは、燐さんのものではなく私のものとして終わることになったのだ。とはいえうちに来て直ぐに連絡が取れなくなる、とかだとさすがにかなり不自然なので、1ヶ月くらいはこのまま家で育てる。育てて、適当なタイミングでお母さんにでも連れていかれたことにすればいい。すみれちゃんの実際のバックボーンは知らないけれど、少なくとも燐さんはすみれちゃんの説明を信じているようだから、それで問題ないだろう。私の方も、勝手に処分して不味いことにならないか確かめるために行方不明者リストを見て、すみれちゃんが載っていないことは確認した。少なくとも事件性のある失踪と思われていないのは確かだ。

 

 開けないように言った押し入れの中に、自分を処分するための道具が沢山入っているとは欠片ほども思っていなさそうな、脳天気なすみれちゃんと共同生活を送る。押し入れの、開けてすぐ見える部分にはカモフラージュとして、すみれちゃんが見たらきっと気まずくて私と話せなくなるものを入れてあるので、普通に共同生活を送れているということは言いつけを守って開けずにいるのだろう。素直なとてもいい子だが、そのせいで逃げることすら出来ずに命を落とすのだから、この世は残酷だ。

 

 すみれちゃんが抵抗して暴れたら面倒なので拘束するのはすみれちゃんが寝た後にして、両手に錠をかける。眠りが思っていたほど深くなかったのか、それだけで目を覚ましてしまったので口を抑えて、怯えた様子のすみれちゃんにしゃべっちゃダメですよと優しく言ってあげると、すぐにわかってくれたようで静かになった。

 

 すかさず口を塞ぐものを手からガムテープに取り換えて、怖くないから大丈夫とあやしてあげると、こんな状況にもかかわらず少し落ち着いた様子になる。面白いなぁと思いつつ今の状況を理解できるか聞いてみると、ふるふると首を横に振った。理解できないのに落ち着けと言われたら落ち着けてしまうのは、この子の才能と言えばいいのかそれだけ私が信じられているということなのか。もし後者なら完全に信じる相手を間違えている。

 

 ここで、安全を考えるのであれば首をキュッとしてあげるのが一番なのだけれども、それだけだといささか物足りないのも事実だ。せっかくの貴重な機会だから、多少のリスクを犯してでも楽しんでおきたい気持ちがある。

 

 少し考えて、やっぱり我慢できなかったので遊ぶことにした。おもちみたいなほっぺを餅つきしたり、たくさんの虫さんと“なかよし”させてあげたり、たくさん仲良くなった虫さんを食べさせてあげたり。茉莉ちゃんの時にはこうして目の前で鑑賞することが出来なかったけれど、無事に返すつもりのないすみれちゃんにならなんでもできた。やりたいことを全部やって、やり残しの内容にして、思い出の振り返り様に沢山写真を撮っておく。もしもの時には全部消さないといけないから、クラウド保存とかができない昔の携帯を使って、容量がいっぱいになるまで楽しむ。

 

 楽しむだけ楽しんだら、あとは処分するだけだ。最初はあんなに元気に反応してくれていたすみれちゃんも時間が経つにつれて大人しくなってしまって、最後には虚ろな表情で自分の終わりを受け入れていた。

 

 

 燐さんには拘束した翌日に、お出かけしていたらすみれちゃんがお母さんに連れていかれて、これ以上関わるようなら拉致として被害届を出すと脅されたと伝えた。朝のやり取りの分は私がすみれちゃんの文章を真似て送信したし、すみれちゃんからの言伝として数言のお礼と謝罪の言葉を捏造しておいたので、違和感はあまり持たれないだろう。動揺を装っておけば私がこんなことをしているとも思われないはずだし、仮に多少おかしく思われたとしても、信じて貰えるだけの関係性が私たちの間にはある。

 

 あとは燐さんが帰ってくるまでの間に、すみれちゃんだったものを綺麗に消してしまえばバッチリだ。




余談

瑠璃華さん無改心ルートだと、燐くんは瑠璃華さんへの高い好感度を刷り込まれると共に、トラウマが若干緩和されることによって、すみれちゃん相手でのコミュニケーションに若干のマイナス判定があります。これによりすみれちゃんへの感情が“かわいい妹分”以上に成長しないことに加え、すみれちゃんからの感情も“優しいお兄さん”程度で低迷、“実らない初恋”で停止します。この際に少しだらしないところや、瑠璃華さんへの好感度上げ行動などを見せることで、“好きになってはいけないあの人”に移行し、それ以降対応に遠慮が少なくなる“真・大事な家族モード”に至ります。
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