無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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 分岐条件
 溝櫛瑠璃華が自分の癖を目覚めさせず、幼心に封印する。
 灰岡茉莉が自殺に追い込まれず、兄妹仲が良好である。



BESTEND やさしいせかい1

 

 

 お母さんに別れを告げて、暗い夜の道を歩きます。お外に出るのは初めてなわたしですが、さすがに夜が暗いこと、昼が明るいことは知っています。それくらいのことは、家の中にいてもわかりますから、当然です。お母さんが帰ってきて、電気をつけてくれるまで、真っ暗なのは家の中でも一緒でしたから。

 

 もしかすると、真っ暗な時の家の中よりも、お星様の灯りがあるお外の方が明るいんじゃないかなと思いながら、初めての外を楽しみます。カポカポいうサンダルも、チャリチャリ転がる小石も、とても楽しくて、気持ちがどなどなしてきます。お歌を歌いたくなってしまいますが、今はまだお家からそれほど離れていないので、我慢です。お母さんに迷惑をかけるわけにはいきませんからね。

 

 のんびり歩いて、でも人目にはつかないように気をつけます。たくさんの人に見られてしまったら、わたしがここに存在していたことがバレてしまいますからね。このまま勝手に、こっそりと死ぬわたしは、人に見られるわけにはいかないのです。少なくとも、お母さんの元から離れるまでは。

 

 誰ともすれ違わなかったのは、きっと運が良かったからでしょうか。わたしのまともとは言い難い判断基準でも、わたしみたいな子が外を歩いているのは異常だとわかるので、誰にも怪しまれることのない今の環境は、きっと奇跡ですね。

 

 少し歩くだけで痛む足に途方に暮れながら歩いていると、正面から人が二人、歩いてくるのが見えました。どこかに隠れて、やり過ごさなくてはいけないとすぐにわかりましたが、それがわかったところで隠れられる場所はどこにも見あたりませんし、仮に見つけられたとしても、相手を見つけた以上向こうもわたしの存在には気がついているはずです。今から隠れても、なかったことにはならないでしょう。

 

 道、間違えたなと思いながら、せめて相手がわたしに対して無関心でありますようにと祈ります。最近の人は周囲に無関心だと読んだことがあるので、もしこの人たちが最近の人であれば、まだ何とかなるかもしれませんからね。最近の人じゃなかったら、どうするかはその時にまた考えましょう。

 

 なんでもない風をよそおって、一歩、また一歩と近付きます。とても緊張しますね。考えてみれば、お母さん以外ではじめて会う人です。そう考えると余計緊張してくるので、よくないですね。

 

「ねえ、君。こんな時間にそんな格好でどうしたの?何か困ってることがあるなら助けになるよ?」

 

 なるべく頭を空っぽにしながら、歩いていると、正面の二人、お姉さん二人は、わたしの方を見て小声でなにかを話した後、わたしに向けて声をかけてきました。知らない人に声をかけられるなんて、もしかしたら不審者さんかもしれません。……嘘です。さすがに、冗談でも親切にしてくれる人を不審者扱いなんてしたら失礼ですよね。考えていることを声に出さない習慣があってよかったなと思いながら、もうしわけなく思います。

 

 しかし、そんなふうに考えて現実逃避してしまいたくなるわたしの気持ちも、しかたがないと言えばしかたがないのではないでしょうか。だって、一番避けたかったことが目の前で起きてしまったのですから。家を出て最初に会った人が、わたしみたいな知らない子、それも、明らかになにか問題がありそうな子に対して迷うことなく声をかけるようないい人で、最近のじゃない人だったのです。

 

 途方に暮れたくなるのを我慢しながら、なんと答えるのが正解かを考えます。素直に目的、その辺で野垂れ死ぬことを答えたら、まず間違いなく止められるでしょう。こんなふうに声をかけてくる人が、それを聞いて何もしないと考えるほど、わたしはおばかさんではありません。

 

 関係ないから話しかけるな、というのも悪手のように思えます。好意を無下にするのは、相手に不快感を与えるか、逆にムキにさせるかのどちらかだと読んだことがあるからです。そうなると、どうするべきでしょうか。ただの変な子、と思われるのが、一周まわって安全かもしれません。変な子であれば、関わりたいとは思わないでしょうし、このまま離れてくれる可能性が高いです。記憶には残ってしまうでしょうが、それはこらてらるだめーじというやつですね。

 

「……えっと、その、わたし」

 

 冴えたやり方を思いついた!と思ったのですが、いざ実践しようとすると、上手に言葉が出てこないですし、考えれてみればわたしは何をすれば変な子だと思われるのかがわかりません。そんなことにも気付けないのに、これを選んでしまうなんて、さてはわたしはおばかさんですね。

 

 二人のお姉さんの、優しそうな顔の人、わたしに声をかけてきた人の顔が、少しずつ難しくなっていって、次第に怖い顔になっていきます。もしかしなくても、怪しまれているのでしょう。せっかく家を出るまでは上手にできていたのに、とんだ失敗です。

 

「ねえ、君。自分のお名前は言える?お姉さんに教えてくれないかな?」

 

 きっと、意識的に柔らかくしたであろう表情で、お姉さんがわたしに名前を聞いてきます。間違いなく、アウトなやつです。ここから自然と別れる道には、進める気がしません。けれど、だからといって自力で逃げてしまおうにも、わたしの体力とこのサンダルでは10メートル逃げられれば上出来なくらいです。

 

 完全に、詰んでしまいました。何とかならないか考えるのも無駄なくらい、詰んでしまいました。こうなってしまえば、あとはもう自棄です。ケセラセラの精神で、行く末を見届けるしかありません。なるようになる、と言うよりも、なるようにしかならないという諦めに近いですね。

 

 大人しく、聞かれるままに名前を答えます。わたしの名前はすみれ、年はわかりません。歩いている目的はお散歩……ではなく、家を追い出されてさまよっています。

 

 質問と言うよりも、聴取と言いたくなるような内容ですね。もしかすると、このお姉さんたちは警察さんなのでしょうか?スーツとほろ酔いっぽい頬の赤みを見るに、きっと違いますね。

 

「……うん。すみれちゃん、うちに来るのと、一緒に交番に行くのとどっちがいい?」

 

 一通り聴取を終えたお姉さんが、腰を落としてわたしと目線を合わせながら、そんなことを聞いてきます。そのどちらかしかないのであれば、お姉さんの家に行った方がいいですね。交番に行ったら、巡り巡ってお母さんに迷惑をかけかねません。もちろんお姉さんと行ってもそうなる可能性はありますが、それが遠くなるのは確かでしょう。それであれば、わたしの行動は自ずと決まります。

 

 灰岡さん!?と、もう一人の方のお姉さんが驚いた声を上げても、お姉さん、灰岡さんは、近所迷惑だから静かにねと言うだけで、取り合いません。わたしのような得体の知れない人間を連れて帰るのは危ないんじゃないかというニュアンスのことを、きっとわたしに気を使って回りくどく伝えているお姉さんは、きっといい人でまともな判断ができる人ですね。

 

 それでも、まともな判断ができない人であったとしても、今のわたしにとって都合がいいのは灰岡さんの方なので、大人しくついて行きます。お姉さんの言葉から、灰岡さんの家にお兄さん、男の人がいることがわかり、少し緊張はしますけれど、それ以上に人と話すことに緊張している今、それくらいは誤差です。

 

 気がつくと話はまとまっていて、わたしは灰岡さんのお家でご飯を食べさせてもらうことになっていました。なんでそんな話になるのか、わけがわかりませんわかりませんが、返事をしてしまったので今更断ることもできません。幸いと言うべきかお腹はきゅうきゅう鳴いていますし、全然食べられないなんてことにはならないでしょう。……考えてみたら、お腹がすいているのはいつものことでしたね。毎日、朝から夜までずっと鳴いているような卑しい子でした。

 

 卑しいお腹のことは置いておいて、灰岡さんのお家に連れていかれます。食べ物で釣られてしまうようなわたしは、交番が嫌なこともあって、簡単に連れていかれてしまいます。誘拐とか、拉致とかを考えている人から見たら格好の獲物ですね。カモが鍋を背負って歩いているようなものでしょう。わたしなんて、大して食べれれる場所があるとも思いませんが。

 

 お姉さんにやんわりと止められながらも、止まる様子のない灰岡さんが、どこかに電話をかけました。話している内容は、ちょっと子供拾ったから連れて帰るねというニュアンスのこと。これだけ言われてOKを出す人がいるとすれば余程の変人でしょうが、電話の相手はそんな変人だったようです。どうなっているんでしょうね。

 

 わたしが常識だと思っていたことは常識じゃなかったのかな、まあ、わたしがまともな常識持ってるわけないもんなとも思いましたが、お姉さんの反応を見る限り、わたしと同じような価値観を持っているように見えます。やっぱり、見知らぬ子供を連れて帰る人も、それを簡単に受け入れる人も、普通じゃないですよね。正直、ついて行ったらバラバラにされて食べられると言われた方が納得できるくらいです。可食部の少ないわたしですが、それでもきっとお出汁くらいにはなれるでしょう。

 

 恐ろしいことに気がついて、ビクッとしてしまいます。わたしのことを食べようとしているのなら、こんなふうに連れて帰ろうとするのも、それを受け入れるのも何も不思議じゃありません。目の前のご飯につられて自分がご飯になってしまうなんて、わたしはお魚さんだったのでしょうか。

 

 一気に不安になりますが、ここまでついてきてしまったら、もう今更逃げることも出来ないでしょう。手を引かれているわけでも、紐で繋がれているわけでもありませんが、逃げられる気がしません。どなどなとおぼつかない足で左右に揺れながら、灰岡さんの家に着きます。お姉さんは途中で別れてしまったから、今ここにいるのはわたしたち二人だけです。悪いことをするのにはおあつらえ向きですね。

 

 ガチャりと扉が開いて、灰岡さんがただいまと言います。つられて入って、お邪魔しますと言うと、優しそうなお兄さんが迎えてくれました。




 Q.なんでこんなに遅くなったの?

 A.(この子達をちゃんと幸せにするのは)気が乗らなかったから(╹◡╹)
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