無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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 どのくらいで終わらせるのか迷う(╹◡╹)


BESTEND やさしいせかい3

 瑠璃華お姉さんに借りたお布団で寝て、起きるとご飯が用意されていました。うれしいのとびっくりするの以上に、何もしていないのにご飯だけ食べさせてもらうのがもうしわけなくなってしまいますね。きっと二人は気にしないのでしょうが、わたしは気になってしまいます。

 

 気になるので、なるべく早く家事をさせてもらうために、まずはお手伝いから何をしたらいいか聞きます。

 

「それなら、食器をシンクに持って行ってくれるかな?」

 

 洗うのは潤かしてからやるから、水も溜めておいてねと言われて、その通りにします。茶碗洗いくらいならわたしでもできるのですが、自己申告したとしても二人からしたらどの程度できるかわからないと任せるのが不安でしょうし、最初は簡単なものからでも仕方がありません。それにしても簡単すぎる気はしますが。

 

 洗いやすいようにお皿を重ねて、上から水をかけます。油汚れがひどいものはないので、単純に重ねるだけでいいのは楽ですね。重ねることで節水にもなりますし、いい事づくめです。

 

 部屋に戻ると、二人は視線だけでなにかのやり取りをしていました。アイコンタクト、というやつですね。もしかするとただ見つめ合っていちゃついていただけかもしれませんが、それだとわたしがただの邪魔者になってしまうのでアイコンタクトです。邪魔者扱いだととても悲しいですから。

 

「すみれちゃん、今から買い物に行くんだけど、一緒に行けそうかな?」

 

 難しそうならお留守番をお願いしたいのだけど、と言うお兄さん。外に出るのは少し怖いですが、二人が一緒にいてくれるのであれば、がんばれます。けれど、わたしの服はボロボロのものしかありません。そんな格好で一緒に歩かれるのは、嫌ではないのでしょうか。

 

「すみれちゃんの着れる服、何かいいものがないか試してみましょうか。実家に帰れば昔のがあるんですけど、さすがにそんな時間はありませんし……」

 

 そう疑問に思っていると、別の部屋に行っていた瑠璃華お姉さんが何やら布の山を抱えて戻ってきます。瑠璃華お姉さんと、まだ会ったことのない茉莉お姉さんの服で、オーバーサイズでもそこまで気にならないものを持ってきてくれたようです。布団は勝手に借りちゃダメなのに服は借りていいのかなと疑問に思いましたが、何かあった時の責任は全部私が取る!と瑠璃華お姉さんが言っているので、大丈夫なのでしょう。

 

 部屋の真ん中に立たされて、服を体に当てられます。実際に当ててみて、いちばん良さそうなものを選んでくれているそうです。わたしに服の善し悪しはわからないので、選んでもらえるのはありがたいですね。

 

 ちょっと緩めで、丈がわたしにちょうどいいズボンと、ぷよぷよしたキャラクターのTシャツを渡されて、着替えるために脱衣所に来ます。何も考えずにその場で着替えようとしたら、男の人の前で着替えるなんてはしたない!と怒られてしまいました。反省しなきゃですね。

 

「ちょっと背伸びしてお姉ちゃんの服を着てみちゃったけど、オシャレ着はサイズが合わなかったから部屋着になった妹」

 

「それだ」

 

 鏡で見てみても、わたしにはそれがいいのかわかりません。おとなしく二人のところに戻ると、一瞬黙り込んだ二人が、そんなことを言いながら納得した様子を見せます。

 

 なんか既視感あると思ったら小さい頃の茉莉だ、なんて言い合う二人ですが、わたしからするとちんぷんかんぷんです。話についていけないと少し寂しくなってしまいますね。

 

 わたしが置いてけぼりなことに気付いた二人が、ごめんねと言いながらわたしのことを思い出してくれます。格好が変じゃないか聞くと、生暖かい視線で大丈夫と太鼓判を押してくれます。全然大丈夫じゃない気がするのは、きっと気のせいではないでしょう。

 

 靴だけは他に何もなかったので、昨日履いていたのと同じ、お母さんのお下がりを履いて、お兄さんの車に乗せられます。お兄さんが運転席、瑠璃華お姉さんがその後ろで、わたしはその隣です。初めて乗る本物の車にドキドキしていると、あんまりはしゃがないでいい子に座っていてねと瑠璃華お姉さんに言われてしまいます。もしかしなくても、すごく子供扱いされていますね。ちょっとだけムッとしましたが、わたしはいい子なので素直に大人しくします。子供扱いなのに大人しくって不思議だなと思っていたら、横から頭をいいこいいこされました。少しだけくすぐったくて、むずむずしてしまいます。

 

 優しくしてもらえるのがうれしくて、にまにまと変な顔になっちゃいます。そんな顔を見られるのが恥ずかしくて顔を背けると、瑠璃華お姉さんは首筋をスゥっとなぞってイタズラをしてきました。変な声が出てしまって、顔を見られるよりも恥ずかしくなります。それを見ながら楽しそうにしている瑠璃華お姉さんは、もしかしたらいじわるさんなのかもしれません。

 

 そうしているうちに、車が建物の中に入ります。ぐるぐる回って、一番上に来たら空いているところに止まりましたお兄さんと瑠璃華お姉さんが降りて、いつまでも動かないわたしのことを不思議そうな顔で見ます。動かないのではなく、どうすればいいのかわからないというのが正しいのですが、そとから見ていてもいまいち想像がつかなかったのでしょう。

 

 少し無言の時間があって、気が付いてくれた瑠璃華お姉さんが扉を開けてくれたので、わたしは車から降りることができます。

 

「すみれちゃん、こんな風に外に出るのは初めてだから緊張しちゃうでしょう?おねーさんがおてて繋いであげるから安心してね」

 

 わたしに向けて、すっと手を伸ばしてくれる瑠璃華お姉さん。やっぱり、子ども扱いされています。でも、緊張してしまうのも、実は不安なのも、間違っていませんから、素直につないでもらうしかありません。わたしとは違って柔らかくて、すべすべな手を握って、ちょっとだけ勇気をもらいます。いじわるなのかやさしいのか、わからないお姉さんですね。

 

 はじめてのエレベーターに乗って、お店の中に入ります。さっきまで人なんて、車の窓から見えるくらいしかいなかったのに、入ってみたらそこはもう人の海でした。休みだからちょっと多いねなんて話している二人の会話から考えれば、これでもそこまで多すぎるわけではないのでしょうが、つい昨日までお母さん以外の人を知らなかったわたしにとっては多すぎる環境です。

 

 それでも、何とかパニックにならずに済んだのは、瑠璃華お姉さんが一緒にいてくれたからで、手をつないでいてくれたからです。全身から血の気が引いている自覚がある中で、瑠璃華お姉さんの手の温かさが、心配そうに背中を擦ってくれるお兄さんの手の温かさが、わたしをわたしでいさせてくれました。

 

 少しして落ち着いてきたら、周りに気を配る余裕もできました。わたしのことを見ている人もいますが、それはきっと突然様子がおかしくなったわたし(子供)を心配するもので、落ち着いてみれば怖いものではありません。それ以外の人たちは私に対して全く関心を持っていないようなので、やっぱりこわいものではありません。わたしが怖がるようなものは、ここには何もないのです。

 

 そうわかれば、必要以上に怖がることはありません……嘘です。本当は、瑠璃華お姉さんが一緒にいてくれなかったら、手をつないでくれなかったら、まだ怖いままです。でも、つないだこの手があれば、その間はわたしは大丈夫です。

 

 瑠璃華お姉さんを確認するために、何度か手をにぎにぎしながら、二人にもう大丈夫だと伝えます。ちょっとふるえている手からわたしの強がりを感じた瑠璃華お姉さんが、ギュッと手を握ってくれて、わたしのことを先導してくれます。

 

 最初は、お母さんのお古のサンダルを替えるための靴屋さん。歩きやすくて、靴擦れ?しにくいというものを選んでもらって、その場で履き替えます。次は、靴を履くときに必要だという靴下、今日の夜以降に使う替えの下着、そこまで揃えてからの、わたしのための服の時間です。

 

 正直、わたしはもう疲れてしまったので、何でもいいから早くしてほしいという気持ちでいっぱいでしたが、瑠璃華お姉さんにとってはここが一番大事だったようで、わたしとつないだ手が離れていることにも気付かない様子で洋服選びに集中しています。離された時はどうなるかと思いましたが、幸いすぐにお兄さんが気付いてくれて、僕でよければと言いながら手をつないでくれたので、変なところは見せずに済みました。

 

 お兄さんの、瑠璃華お姉さんよりも温かい手の温度を感じながら、瑠璃華お姉さんが服を決めるのを待ちます。しばらくしていくつかの服を抱えながら、やっと戻ってきた瑠璃華お姉さんが、わたしと手をつないでいるお兄さんを見て、浮気だー!と怒って見せます。

 

 二人の間によくない影響を与えてしまったのかと思って、慌ててお兄さんとつないでいた手を離すと、そんなことは関係なくこちらにやってきた瑠璃華お姉さんが、すみれちゃん!私というものがありながらっ!と言いながら泣き真似をします。てっきり、お兄さんがいわれのない誤解をされてしまったのだと思っていたわたしは、予想外の状況に目が点になります。

 

 わたしの空いている反対側の手を握って、これで良しと言っている瑠璃華お姉さんの、これまたいたずらに気が付いて、いたずらでよかったと安堵します。そのまま着せ替え人形にされて、ようやくわたしの服が選ばれました。わたし自身はまったく選んでいないのでいまいち現実感はないですね。

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