無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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BESTEND やさしいせかい4

 服を選ばれて、その次は布団を選びました。わたしの使う布団なんて、フローリング、いえ、押し入れの床板よりも柔らかければそれで十分なのに、二人はそれじゃ許してくれません。

 

 少しでも負担をかけないために、なるべく安いものを選ぶわたしと、二人にとっての最低限以上を求める二人。普通、こういうのは買ってもらう側がよりいいものをとわがままをいうのだとおもっていましたがどうやらそうとも限らないようです。二人が優しすぎるのかもしれませんね。

 

 そうして必要なものを買ってもらって、ふたりのごはんの買い物についていきます。疲れているのならベンチで休んでいいとも言われましたが、こんなに人が多いところで一人ぼっちにされる方が怖いです。

 

 瑠璃華お姉さんに手を繋いでもらって、ちょっとだけ安心できる状態で歩きます。買ってもらったばかりの靴はわたしの足にぴったりで、サンダルの時のように擦れていたくなることもありません。お洋服も、他の子たちが着ているものと同じで、一人だけ格好が浮いているなんてこともありません。びくびくしているのは他の子たちと違いますが、これは簡単に治せる気がしないので仕方がないでしょう。

 

「すみれちゃん、大丈夫。私がついているからね」

 

 ちょくちょくわたしを気にしてくれる瑠璃華お姉さんに勇気付けられながら、何とかお買い物を終わらせます。とはいえ、わたしは二人の後ろに隠れながらついていっただけなので、何もしていないのですが。

 

 帰りの車は、たくさん買った荷物が積まれているので、後ろの席には一人しか座れなくなっています。その一人も、膝の上に荷物を抱っこしないといけないので、だいぶ狭くなってしまいますね。どう考えても買い過ぎで、ふたりはわたしのためにお金を使い過ぎです。

 

「後ろだと狭くなっちゃいますから、すみれちゃんが助手席に乗ってください。そっちの方が、燐さんとも私ともお話がしやすいでしょう?」

 

 どうぞどうぞと勧めてくる瑠璃華お姉さんですが、わたしの第六感は何か怪しいと警鐘を鳴らしていました。ちょっと考えて気が付いたのは、積まれた荷物が運転席の後ろ、お兄さんの後ろにまとまっていることです。

 

「いえ、わたしの方が体が小さいですから、後ろに乗ったほうがいいと思います。瑠璃華お姉さんが前に乗ってください」

 

 わたしがそう言うと、瑠璃華お姉さんは少し驚いたような顔になって、すぐにいたずらっぽい表情に変わります。

 

「すみれちゃんだと荷物に潰されちゃうかもしれないじゃないですか。それとも、燐さんの隣がいやな理由でもあるんですか?」

 

 避けられてるなんてかわいそー、と瑠璃華お姉さんは楽しそうに笑います。勿論そんなつもりはありませんが、きっと否定させることでわたしを助手席に座らせる作戦なのでしょう。最初はただの好意で深い意味なんてないのかなとも思いましたが、ここまでしてわたしを座らせようとしているのを考えれば、なにか企んでいることは明確です。

 

「お兄さんの隣がいやなんじゃなくて、瑠璃華お姉さんの前がやなんです!絶対後ろからいたずらするつもりじゃないですか!」

 

 それに、いくらわたし荷物でつぶれたりなんかしません!と伝えると、瑠璃華お姉さんはペロッと舌を出して、ばれました?と企みを白状します。これには、運転席でやり取りを見ていたお兄さんも苦笑いです。

 

 バレちゃったなら仕方がないと諦めた瑠璃華お姉さんが助手席に座って、わたしはちょっと狭い後部座席を確保します。これでいたずらされることはありません。わたしの勝ちです。

 

 

 そうおもっていたのですが、車が動いたことでバランスが崩れた布団がわたしの方に倒れてきて、瑠璃華お姉さんが言ったとおりに潰されることになりました。お兄さんは気を付けても駄目だったかと少し申し訳なさそうにしていて、瑠璃華お姉さんは、だから言ったのにと、楽しそうに笑っています。試合に勝って勝負に負けたというのは、こんな感じなのでしょうか。なんだかとっても悔しいです。

 

 結局、お家の前に着いて、瑠璃華お姉さんに助けてもらうまでの間、わたしは荷物潰されたままでした。

 

 

 協力して荷物を運び、家の中に入れていきます。どれもわたしのものですから、手伝ってもらうのは申し訳ないのですが、一人でやろうとするといつまでかかるか分かったものではありません。わたしが運んでいる荷物の、4倍以上を一気に運んでしまうお兄さんの姿を見たら、自分だけで全部やろうなんて気持ちは飛んでいってしまいます。

 

 手伝ってもらうと言うよりも、ほとんど全部やってもらって、お片付けをします。こっちは、自分が触るのはちょっとと言ってお兄さんが辞退したので、わたしと瑠璃華お姉さんのふたりでやることになります。さすがに、下着とかもあるので手伝われるのは少し恥ずかしいです。別にいいかなとも思うのですが、瑠璃華お姉さんにそれは恥ずかしいことだからダメ。と言われたので恥ずかしいです。そういうものだと理解しました。

 

 瑠璃華お姉さんのタンスを一部空けてもらって、スペースをわけてもらいます。場所ができたらそこに買ってきたものを仕舞って、作業は終了です。全身疲れたと話すと、いっぱい動きましたからねと瑠璃華お姉さんに褒められます。あんよが上手でしたというのは、子供扱いにも限度があると思うのですが、優しい声と手つきでいい子いい子されてしまうとわたしはなにも言えません。

 

 疲れただろうからと布団に入らされて、撫でられているうちにすっかり眠ってしまいます。疲れていたこともあると思いますが、魔性の手です。

 

 目を覚まして、時計を見て、3時間もお昼寝をしてしまったことに気が付きます。何かがあるというわけではありませんが、あわてて起きて動こうとすると、全身が痛いことに気がつきました。

 

 動かないでいる分には大丈夫なのに、少しでも動かそうとするとそこが痛くなります。何が起きたのかわからなくて、どうすればいいのかわからなくて、瑠璃華お姉さんが来るまで布団の中で動かずにいます。

 

「……うん、ただの筋肉痛ですね」

 

 どこか悪いんじゃないか、病気なんじゃないかと不安になりながら、けれど自分から二人を呼ぶことはできずに、布団で待機していたわたしの言葉に対して、最初心配そうに聞いていた瑠璃華お姉さんはほっと安心したような顔をすると、わたしの症状にそう結論付けます。

 

 これまでずっと動いていなかったのだから仕方がない、当日で、こんなにすぐにくるのなら治るのも早いだろうとのこと。若いっていいですねとつぶやく瑠璃華お姉さんですが、わたしにはいまいちわかりません。なんで、痛いのが早い方がいいのでしょうか。けれど、わたしの話を聞いたお兄さんも同じことを言っていたので、きっと世の中ではそういうものとして知られているのでしょう。不思議です。

 

 晩御飯はお兄さんがお鍋を作ってくれていて、わたしが起きたのとほとんど同じタイミングでできあがったそうなので、寝起きでそうそうにご飯を食べます。食べて直ぐに寝るとうしになるといいますが、起きてすぐ食べると何になるのでしょうね。そんなことを考えながら食べていた水炊き鍋は、昆布つゆで食べるととても美味しいです。

 

 ご飯がすすむなと考えながら食べて、美味しいのにすぐにおなかいっぱいになってしまって悲しくなります。もっとたくさん食べられるようになれば、もっと美味しく食べられます。

 

 けれど、あまりよく食べるようになりすぎても、きっとよくありません。二人が食べる分が減ってしまいますし、わたしの食事だってタダではないのです。わたしのために、出費が嵩んでしまうのは、きっとあまりいいことではありません。

 

 そんなことを考えているわたしに気がついたのか、それともただの偶然かはわかりませんが、瑠璃華お姉さんは、今食べられないのならまた少し時間を置いてから食べればいいと言ってくれました。お兄さんも、栄養状態が良くなるまでは多少無理するくらい食べた方がいいと言って、わたしが後で食べる分を確保します。

 

 本当に、食べてもいいのでしょうか。わたしの気持ち、欲求としては食べたいのですけれども、それが二人の迷惑になっているんじゃないかということが気になります。

 

「ふぅ……いいですか、すみれちゃん。これは投資なんです」

 

 本当に食べていいのかと、迷惑になっていないかと聞くと、瑠璃華お姉さんは少し呆れたようにしながらわたしを見つめて、そんなことを言います。

 

「今のすみれちゃんは確かに、何もできませんし、いたとしても私たちが安心できるとか、見ていてかわいいくらいしか利点がありません。けれどしっかり元気になったら、その分もりもり働いてもらいます。掃除に洗濯ご飯の準備、しっかり分担ローテーションに組み込みますからね」

 

 私たちはわるーい大人だから、いたいけな子供に恩を売って働かせようとしているんです。だからすみれちゃんは気にしなくていいんですよと、優しい声で言う瑠璃華お姉さん。労働力のためなんて、嘘に決まってます。わたしに遠慮させないためのでっちあげです。

 

 でも、もし本当だったとしても、わたしはそれでもいいかなと思います。こんなに優しくしてくれる二人のためにお手伝いができるのなら、わたしはそれでも構いません。

 

 こんなに優しい、わるーい大人がいるのなら、みんなわるーい人になっちゃえばいいんです。

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