無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

25 / 126
鍋パーティー(裏1)

 瑠璃華さんと連絡先を交換して以降、ちょくちょくやり取りをしています。瑠璃華さんのおすすめのメニューや、好きなテレビ。面白かった小説の話など、教えてもらうことも沢山ありますが、何故かよく分からない事を聞かれることも、それなりの頻度であります。

 

 

“すみれちゃん、今日の晩御飯は何を作ったの?”

 

 

 これなんかは、よくわからない質問の代表格です。返信して、写真を送ると、“おいしそう!!いいなぁー(๑˘・з・˘)”と返ってきます。いいなぁーの部分は、私も食べたい!だったり、お腹空いた……だったり、先輩ばっかり……だったりしますが、共通しているのはそれ以降特に言及がないことです。たまにメニューの内容な盛り方などにも話が飛びますが、どちらにしてもそれほど長いやり取りにはなりません。

 

 そんな、反応にこそ困るものの、もはや日常にすらなったやり取りに、ある日突然一つの文言が追加されました。私も食べに行っていいかな?です。

 

 

 何度もやり取りをしてきましたが、初めての言葉でした。瑠璃華さんが直接わたしに関わろうとすることは、これまでありませんでした。

 

 

 

 普段作っているものを考えて、瑠璃華さんの要望に応えられるかを考えます。少なくとも今週と来週だと、今立てている予定では難しそうです。

 

 ただ、それ以上に、やはり一人人が増える以上食材の分も必要になるので、そこら辺を含めて、瑠璃華さんが家に来たがっていることをお兄さんに伝えます。

 わたしの考えられる、食品の事情は買い出しさえすればどうとでもなるので、家主であるお兄さんがそれを是とするか否とするかの問題です。

 

 

「ああ、溝櫛か。自分から積極的に来て欲しいって声をかけたりはしないけど、向こうが来たいって言うなら断る理由もないかな」

 

 少し前までならすみれがいたから断ってたけど、バレてるなら無理に押し通す必要もないしね。と、お兄さんは言います。なんというか、当然かもしれませんがわたしの知らない信頼関係が見えました。少しだけ、羨ましく思います。

 

 

 そんなふうに思っていることは隠しながら、お兄さんにありがとうと伝えます。瑠璃華さんの、そしてわたしのわがままを聞いてくれたお礼です。

 

 

 早速、瑠璃華さんにお兄さんがいいと言ってくれたことを伝えると、直ぐに既読が付いて“ヤッターッ!O(≧▽≦)O”と返ってきます。具体的な日程は、わたしだけでは決められないし、むしろわたしはいつでも合わせることが出来るので、お二人で決めるようにお願いします。

 

 

 お兄さんにもその事を伝えて、すぐにお兄さんのスマートフォンに通知が入ります。瑠璃華さんからだそうで、少しやり取りをした後に、今週の木曜日に一人分多く作れるかと聞かれました。

 

 わたしの作業量としては全然問題なくできて、けれども食材の方が足りなくなってしまうので、それを伝えます。また、瑠璃華さんの食べる量がわからないので、少し多めに作り、次の日の朝ごはんまで残るかもしれないことも伝えます。

 

 

「わかった。それじゃあ、面倒をかけちゃうけど必要な材料を後で教えて欲しいな」

 

 そう言って、瑠璃華さんへ返信を打ち込むお兄さんを傍目に、なんのメニューがいいかを考えます。幸い、なにかの料理にしか使えないような食材はほとんどないので、今から組み直せば十分間に合います。

 

 木曜日の気温は低かったはずなので、作るものは温かいもの。食べて安心感があって、女性である瑠璃華さんが喜んでくれるもの。健康と美容に、そこそこ気を使っていることは以前のやり取りでわかっているため、野菜は多い方が喜ばれるでしょう。ダイエットはしていないとのことなので、過度に糖質や脂質を控える必要もありません。

 

 

 条件が変に緩いので、これだというものが思い浮かびません。健康的で、温かいものはいつも作っています。ならいつも通りでいい気もしますし、何なら瑠璃華さんが食べたいと言っていたのはわたしが普通に作った料理です。変にこだわる必要はない気もしますし、むしろこだわらないのが正解な気もします。

 

 

 けれど同時に、いつもより豪華なものを作っておもてなしをしたいと思うのもまた事実です。正確にはお兄さんへのお客さんでしょうが、わたしが初めて迎えるお客さんです。

 

 ちょっとでもいいところを見せたいし、すごいと思ってもらいたいです。なにかぴったりなものは無いかと、瑠璃華さんとのやり取りを見返してヒントを探します。なにか好きな料理の話をしていれば最高ですが、食材だけでもひとつ決まればそこからつながります。

 

 

 そうして探してみると、瑠璃華さんから美容について教えて貰っていたタイミングの話題に、豆乳の話があったので、豆乳を使うことに決めます。ついでに、豆乳を使う料理を、わたしは豆乳鍋しか知らないため、メニューも決定です。豆乳鍋に何か問題があればほかのものを調べもしましたが、なかったので決定です。

 

 

 冷蔵庫の残りを見て、追加で買ってきてほしい食材を考え、ついでに明後日と金曜日の献立も変えて、足りないものを伝えます。

 

 

 そして当日。お兄さんを送り出して、朝の段階から準備を始めます。お二人にも確認をとって、鍋の野菜はクタクタになるまで煮ることになっていますので、早い内から焦がさないように、とろ火で火にかけます。底が焦げ付いてしまうと一気に台無しになってしまうので、気をつけなくてはいけません。

 

 

 鍋の用意が終わったら、あとは家事をやります。洗濯物を干して、掃除機をかけて、念の為トイレも掃除します。キッチン周りは昨日のうちに済ませておいたので、少し散った分を取るくらいです。

 

 

 途中、お昼ご飯にレンジでパスタを茹でて、冷凍しておいたミートソースをかけて食べましたが、それ以外の時間はほとんど全部使って、なんとか家事をギリギリ終わらせます。

 

 お兄さんからメッセージが届くころにシャワーまで済ませて、煮詰まりすぎていたので少し鍋に水を足して、グツグツ聞こえる音の中で待ちます。

 

 いつもならこの時間に、自分のやりたいことをやっていたりもしますが、今日は朝から頑張りすぎたのか、何もやる気が起きません。たまに鍋を混ぜるために立つ以外は玄関に置いたクッションに座って休んでいます。休むのなら部屋に戻ればいいのですが、今はそれすら億劫です。

 

 

 ぼーっと待ちながら、何かやり残したことがないか考えます。全部やったはずなのに、まだなにかし忘れているような、不思議なモヤモヤが残ります。

 

 たくさんのことを全部終わらせた時に、よくそんな感覚になると見たことはありましたが、実際に体験するのは初めてです。

 

 

 ピロリンと、スマートフォンから通知音がします。少し前までの、お兄さんからしか来ない時とは違って、今は送信者を見ないと誰からかわかりませんが、案の定お兄さんからです。

 

 内容はいつも通りの、後2分くらいで着くというもの。急いで身だしなみを確認します。今日は瑠璃華さんがいることもあって、いつもよりもおしゃれな私服です。いつもは、家の中くらい着やすい格好でいるべきだとお兄さんに言われて、ダボッとした服を着ていたり、お兄さんのTシャツなんかを借りていたりしますが、人前となったらそうもいきません。

 

 多少だらしない格好をするまで、家の居心地が悪くないか何度も聞いてきて、リラックスしているアピールをしてから無くなったので、その時の過ごしやすさのまま今に至りますが、今日はお兄さんが最初に買ってくれた部屋着です。変に皺がついていたり、だらしなかったりするととても目立ってしまいます。

 

 

 玄関にある姿見で、ちゃんといつもよりもかわいくできているかを確認します。ついでに、笑顔の練習をします。そのすぐ後に、鍵が開けられる音が、すぐ目の前の扉から聞こえます。

 

 

 開かれて、姿を見せたのはお兄さんと瑠璃華さん。二人で仲良く並んで入ってきます。

 

 

 

 

「お兄さん、おかえりなさいっ!!瑠璃華さんも、お久しぶりです!」

 

 

 

 二人の前で、飛びっきりの笑顔で笑います。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。