無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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家の中での過ごし方(裏)

 瑠璃華さんが来て、また会おうねと約束して、数日が経ちました。

 

 チクチク?と、新しい毛糸を使ってマフラーにチャレンジします。今回はダイヤ柄、お兄さんにプレゼントして、受け取って貰えるかなと思いながら作ります。一応、ほんのりと探りを入れてみたところ、お兄さんは寒いのが苦手で、マフラーとネックウォーマーを一緒に使うこともあるくらいらしいので、期待値としては十分です。

 

 

 今度は、受け取って貰えるといいなと思いながら、編み進めます。上手に作れれば、お兄さんは優しいからきっと使ってくれます。瑠璃華さんの話だと、以前は妹さんが編んだものを愛用していたらしいので、手作りのものに忌避感があるということも無いでしょう。

 

 

 

 

 そんなことを目標にしながら、ひたすら編み物を続けます。あまり早くは編めないけれど、一編み一編みを丁寧に、綺麗に編めたマフラーを、お兄さんが着けてくれる姿を想像しながら編み続けます。

 

 

 

 そうして編んでいると、お兄さんがなにか呟いたのが聞こえました。編むことに集中してしまっていたせいで、お兄さんの言葉を聴き逃してしまったのは、反省するべきことですが、聴き逃してしまったものはどうしようもないので、お兄さんにもう一度伝えて欲しいことを伝えます。

 

「お兄さん?どうかしましたか?」

 

 少し、言葉足らずではあるかもしれません。ただ、上手く聞き取れなかったことを伝えるという点でも、あるいは要件があればもう一度言って欲しいという主張としても、最低限満足に意図は伝えられていると思います。

 

 

「ごめん、なんでもないんだ。ただの独り言だから、あんまり気にしなくていいよ」

 

 

 お兄さんはそう言って、わたしの疑問に対して煙に巻きました。

 

 

 なんでもないなんて、そんなはずは無いんです。だって、そう言ってからも、お兄さんの視線はわたしから外れません。ただ視線から外れないだけであれば、むしろたくさんわたしを見てもらえるのは嬉しくすらあるのですが、残念なことにお兄さんの表情は暗いです。

 

 もっと明るければ嬉しいのに、あんなに暗い表情をされてしまったら、わたしがお兄さんにとって、何かしらの負担になっているって言われているようなものです。

 

 負担になりたいと、お兄さんに寄生したいと思ってこそいますが、わたしとしてもお兄さんの人生に悪影響を与えたいわけではないので、やっぱり暗い表情をされることは、わたしの望むところではありません。

 

 

 

 ただこのまま、編み物をしてお兄さんに喜ばれたいと思いながら、日常の家事をするだけでは、この生活は長く続かないかもな、と、不意に思いました。もっとお兄さんの役に立てるような存在にならなくては、そう遠くないうちにお兄さんに捨てられてしまうのではないかと、思いました。

 

 

「お兄さん、その、実は少しだけ相談があるんです」

 

 

 だから、わたしはもっと、役に立つ子であるべきなんです。他の人から見た時に、お兄さんがわたしを保護していることが、わたしと一緒にいることが恥ずかしくないくらいには、まともな子であるべきなんです。

 

 

 目標の最低ラインとしては、この国が義務としている中学程度の内容を満足に習得していること。それでどれだけ、お兄さんの役に立てるかはわかりませんが、できていないのとできているのであれば当然後者の方がいいでしょう。

 

 それが満たせたら、高等学校レベル。その学校によってだいぶ水準が変わるようですが、一応そのレベルの認定があるらしいので、そこを目標にします。これはすぐには無理でしょうし、数年くらいかかってしまうかもしれませんが、それくらいの知識があれば、選り好みをしなければ仕事が見つかるらしいです。

 

 

 その頃まで、わたしがここにいることが許されるなら、わたしがお兄さんにお金を渡すことすらできるかもしれません。これまでのお礼や、家賃分や養ってもらっている分程度にはなるかもしれませんが、一方的にお兄さんから貰うだけの状態から抜け出せるかもしれないのです。

 

 

「どうかしたのかな?何かあったんだったら、なんでも相談してくれていいんだよ?」

 

 

 そこまで考えて、その第一歩として、中学程度の内容を習得したい、わからないところを教えてもらいたいと、言おうとしたわたしに対して、お兄さんはその言葉を聞く前に、優しい言葉を返してくれました。

 

 いつも通りの優しいお兄さんです。だからきっと、お兄さんはこのわがままも聞いてくれます。以前は、否定されるのが怖くって、これから死ぬやつに学なんていらないでしょ?なんて言われたらと思って言えなかった言葉も、今なら言えます。

 

 

「えっと、その、相談なんですけど、わたしって、これまで暇な時間は家事のこととか、最近は手芸とかをやっているんです」

 

 まずは、これまでの過ごし方から。必要なことはちゃんとやっていますと、アピールをしながら、少しだけ時間を持て余していて、それを手芸に使っていると伝えます。これからの相談の内容で、家事が杜撰になることは無いですと、アピールします。

 

 

「それでなんですけど、実はちょっと、一般教養くらいのこと、特に義務教育くらいの内容は知っておきたいなと思いまして。ほら、この先お兄さんと一緒に過ごすなら、それくらいの教養はあった方が、他の人と会う上でも恥にならないでしょうし、何よりわたしが知りたいなって思ったんです」

 

 

 誰かと話す上でも、知っておいた方がいい知識で、仮に出ていくことになっても困ることがない知識になります。お兄さんが、出て行って欲しい、でも死なれるのは寝覚めが悪い。という状況になった時に、出ていかせる理由の一つにもなるでしょう。当然わたしは易々と出ていくつもりはありませんが、お兄さんに嫌われてまで居着きたいとも思っていません。

 

 言い方のポイントとしては、お兄さんと一緒に過ごすなら、の部分でしょうか。わたしの中の、お兄さんと一緒にいたいという気持ちをさらっと混ぜた上に、お兄さんのそばにいたいと媚びます。

 

 

「それで、なんですけど、実は少しずつ、ネットで調べられるくらいの内容は勉強してきたんです。勝手にしていたことは、お兄さんが気に入らなければ怒ってほしいです。でも、やっぱりお兄さんに相談しておきたいなって思ったのと……どうしても調べるだけだとできないところが出てきてしまったので、教えて欲しくって」

 

 

 優しいお兄さんがそれで怒ることは無いでしょうし、まかり間違って、わたしがお兄さんから離れようとしてると思われて止められるのなら、それはそれで美味しいです。そう思われないためにも、相談しておきたいと言うことで、わたしの行動指針にお兄さんがあることを言外に伝えます。

 

 ついでに、勉強を教えてもらえたらよりお兄さんと話せる時間が増えるなんて考えて、もしかしたらよくできたねと褒められるかもと期待までしてみます。

 

 

「なるほど。うん、いいよ。ただ、だいぶ昔に習っただけのこととかもあるから、どれくらい役に立てるかはわからないけどね」

 

 わかるところならいくらでも説明するよ、というお兄さんが、昔塾の講師のアルバイトをしていたという情報は、かねてからの雑談の中で取得済みです。きっと教えることが嫌いではないだろうし、覚えている範囲も多いだろうと予想していました。

 

 

「よかったです……早速なんですけど、実はここの計算ができなくて……何度解いても答えがおかしな値になってしまうんです」

 

 

 とはいえ、最初からお兄さんがわからないなんてことになったら、何となく居心地が悪くなってしまいそうなので、最初はお兄さんの得意そうな科目から挑戦します。理系出身で、今もたまに計算する機会があるということなので、数学なら問題ないでしょう。

 

 自分で計算をしてみて、何度解いてもだめだった問題を、いくつか見せます。

 

 

「……うん。これくらいの内容なら問題なく教えられると思うよ。ただ、どこで間違えているのかがわからないから、一回解いてみてくれるかな?」

 

 お兄さんに紙とペンを渡されて、その場でもう一度解いてみます。何故かいくつか、解けてしまったものもありましたが、ほとんどは解けないままです。

 

 

「ここの式は、ここで移項のマイナスをつけ忘れているね。こっちは、左辺に掛け算を忘れている。そうだね、まずは式変形の基本、イコールの話からしてみようか」

 

 

 まず、イコールの記号の意味はわかるかな?と話を始めるお兄さん。右と左がおなじだという意味の記号だから、片方に何かをしたらもう片方にも同じことをしなくてはいけないのだと、それを利用して、式の中の邪魔なものを見かけ上消すのだと教えてくれます。

 

 

 それ以外にも、いくつか教えてもらった数学の基礎。それらを意識しながら計算するだけで、びっくりするほど簡単に解けました。

 

 

「その調子。すみれちゃんは要領がいいね」

 

 横に座って、教えてくれた、見てくれていたお兄さんが、頭をポンポンと撫でてくれます。サラッとしてて触り心地がいいから、つい手が伸びてしまうのだと、嫌だったらやめるからごめんね、と言われていますが、とっても安心できるのでもっとやってもらいたいくらいです。

 

 目を閉じて、その心地良さを謳歌します。瑠璃華さんが教えてくれた、今度くれると言っていたシャンプーを使ったら、もっとサラサラになって、もっと撫でてくれるようになるでしょうか?

 

 思わずにへらにへらしてしまいます。でも、その後すぐにやめられてしまったので、少しがっかりします。

 

 

「こうやって、わからないところを教えて貰えるのって、とっても久しぶりなんです」

 

 ガッカリしていることを悟られないように、あえて少し明るく振る舞います。撫でて、なんておねだりをして、断られてしまったらつらいから、何も言いません。褒めて欲しいなんて言わないで、褒めて貰えるように頑張ります。

 

 

「これくらいなら、いつでも見てあげるからね。わからないところがあったらいつでも聞くんだよ」

 

 

 うっすらと浮かべた笑顔と、優しい声。いつでもなんて言われたら、毎日でも聞きたくなっちゃいます。ずっと教えて欲しくなっちゃいます。

 

 

 でも、お兄さんの迷惑になってしまっては行けませんから、程々にしておきましょう。……一週間に一回くらいなら、お兄さんは快く教えてくれるでしょうか?

 




ラブコメ書いてみたい気持ちはあるけどどうやったら書けるのかがわからない……(╹◡╹)
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