無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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ひとりでおつかいできるもん!

 すみれに作ってもらったお弁当をみんなの前で食べて、ついに春が来たのかとか、相手は誰だ?溝櫛ちゃんか?みたいなからかいをしこたま受けて、何とかやり過ごして終業時間。

 そこからさらに上司から呼び出しを食らって、最近本当に成績とか諸々いいねぇ〜、この調子だと来年はそこそこの昇給は固いだろうねぇとお墨付きをもらって、家に帰る頃にはいつもの時間だ。

 

 途中すみれに定時的な連絡を送って、それに合わせて到着時間を僅かに変えたりしながら、すみれが待ち構えている状態に、そのタイミングに合わせて家に帰る。

 

「おかえりなさいっ!」

 

 いつも通りの笑顔。カバンの中からお弁当の空箱を出してお礼を言い、カバンも渡す。

 

 美味しかったよと伝えると、よかった、晩御飯も自信作ですと返される。その流れでメニューを聞いてみると、チーズの入ったハンバーグだと教えてくれた。

 

 自分で作る時はチーズを入れずに作ることが多いので、最後に食べたのはいつだったかと考えながら食べると、できたてなこともあって舌を少し火傷したが、いつもより豪華な感じがしてとても良かった。

 

 焼き鳥屋に行ったせいか、無性にアルコールを合わせたくなってしまったが、健康のことを考えても、すみれの前で醜態を晒さないためにも控える。酔っ払うことは好きだが、この子に情けないところは見せたくない。

 

 

「あの、お兄さん。今までって、食材の買い出しとかは全部お兄さんがまとめてしてくれてましたよね」

 

 図らずとも禁酒が捗りそうだと、次の健康診断を楽しみにしていると、なにか覚悟を決めたような雰囲気のすみれが、そう切り出した。

 

「でも今のままだと、この前みたいに突然予定を変更する時とかに、不便だと思うんです」

 

 確かに、毎度毎度スミレに考え直してもらうのも大変だろうし、もっとこまめにした方がいいかもしれない。考えてもらう頻度が高くなってしまうが、週三回、そこまで出来なくても週に2回は買いに行った方がいいだろう。

 

 

「だから、近いうちに一人で買い物に出れるようになりたいのですが、見守っていただくことはできますか?」

 

 

 僕の負担が多くなるから遠慮させてしまっていたのかなと一人反省していると言われた内容は正反対のものだった。

 

 一瞬、すみれの行動範囲が大幅に広がってしまうことに、独り立ちへの第一歩かと思って止めたくなったが、止めるだけのまともな理由を思いつかないから問題ないと答えた。

 

 すみれが自主的に何かをしようとしているのに、それを応援するのではなくまず止められないかと考えてしまった自分の変化が嫌になる。死のうとするのすらなくなったら程なくしてどこかの施設を頼ることになるだろうと、それまでの繋ぎとして面倒を見ようとしていたはずなのに、気がついたらこのザマだ。

 

 

「……それじゃあ、ちょっと性急だけど今から試してみる?今の時間だと人通りも少ないだろうし、ちょうどソースが無くなったところだしね」

 

 ソース一本であれば500円もあれば足りるだろうし、それくらいなら今財布の中にある。すみれに心の準備が必要なければではあるが、お試しとしては悪くない条件じゃないだろうか。

 

 

「今からですか!?……いえ、わたしはいつでも大丈夫ですが、お兄さんは大丈夫ですか?」

 

 帰ってきたばかりで、まだ疲れているのではないかと言うすみれに、そんなに遠い訳でもないから気にならないと伝える。高々歩いて七分程度の距離を歩けないほど疲れ果ててはいない。

 

 

 茶碗をうるかしておく間に言ってしまおうと決めて、すみれに財布を渡す。今更すみれが財布を盗んだり同行するなんて心配はしていないので、カード類まで入ったままだ。

 

 

「それじゃあ、僕は先に外に出て、ちょっと距離を置いて見守っているから、ちゃんと電気を消して、鍵をかけてから来るんだよ。ちゃんとついて行くから、あまり後ろを振り返らないようにね」

 

 僕が視界に入っている時しか買い物を出来ないのでは意味が無いから、ちょくちょく振り返って確認しそうなすみれに念を押してから家を出る。とはいえ、鍵をちゃんとかけたかの確認もしなくてはいけないから、この時点では玄関の前で待機している。

 

 

 もう寝巻きに着替えていたこともあってか、多少準備に時間を要したすみれが、おっかなびっくり出てきて、目が合う。軽く手を振ってみると、安心したように息をついてから気合を入れて、玄関に鍵を差した。

 

 ガチャガチャと、鳴らして、鍵がかかった音がした。すみれが一度ドアノブを回して、鍵がかかっているのか確認してから歩き出したのを見て、念の為自分でももう一回確認してから後を追う。

 

 

 とはいえ、近い場所だし、一度一緒に訪れたこともあるところだ。つい数日前に行った駅までの道中でもある。よっぽど地理感覚が無いとかでなければ、迷うこともないだろう。

 

 そう自分に言い聞かせながら、一人でまともに外を歩くことが初めてなすみれなら、道が全く覚えられないこともあるかもしれないとドキドキする。

 

 これまでで唯一の一人歩きの経験が、家から追い出されて行くあてもなくさまよっていた時のものだ。帰るつもりがなかったのもあるかもしれないが、その時の道は全く覚えていないと言っていたし、可能性としては充分ありえるだろう。

 

 

 万が一すみれが迷子になったら、財布と鍵とを預けているので、僕は家に帰ることも出来ないしどこかに泊まることも出来ない。そうでなかったとしても探すことに変わりはないが、より危機感を持ったのでその一挙手一投足からも目を離さないようにしながら歩く。はたから見たら、今の僕は間違いなく少女をストーカーする不審者だろう。

 

 

 幸い道を間違えることも、近所の人に見られることもなくすみれがスーパーに着いたので、少しだけ安心しながら距離を詰める。

 

 

 以前に案内した時に、商品の場所は棚の上に大体のジャンルが書かれているから参考にするようにと教えたことを、ちゃんと覚えていたらしいすみれが上の方をキョロキョロしながらあるくのを見守る。そのままセルフレジで会計を済ませたところを確認して、中濃ソースを一本抱えた少女の後ろを歩きながら帰る。

 

 途中で困りそうならレジくらいは助けに入らなくてはと思っていたが、少し手こずりながらもポイントカードまで読み取っていたのを見て、問題ないことがわかった。

 

 

 

 帰り道も迷ったりすることなく、無事に部屋に入ったところまで確認して玄関を開けると、想像以上に気疲れしてしまったのか、すみれが座り込んでいた。

 

 

 よく頑張ったねと褒めながら頭を撫で、靴を脱ぐのを待って財布と鍵を返してもらう。

 

 ちゃんとレシートも取ってきてくれたし、あと何回か試して問題がなさそうなら、すみれに財布をプレゼントするべきだろう。ついでに、今は家から出ないからとSIMカードの入っていないお下がりのスマホを渡して連絡をとっていたが、外に出るのならちゃんと外でも使えるようにしなくてはいけない。

 

 

 

 格安SIMっていくらくらいなのかな、とか、渡す財布に食費分はどのくらい入れておくべきなのかとか、新しく考えることは増えてしまった。それに、すみれが僕から離れるように手助けをしているような気もする。

 

 けど、褒められてえへへとはにかむこの子のことを考えるなら、これでいいのだろう。

 

 もう何回か試してみて、無理だと投げ出してくれればいいのにと思う自分の心を押さえ込んで、僕はすみれが普通に外出できるようにする算段をし始めた。

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