無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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ひとりでおつかいできるもん!(裏1)

 すっごく自分勝手なわがままを言ってしまった後、大変なことをしてしまった申し訳なさと、形だけでもそれを許してくれた嬉しさ、それを許させてしまった罪の意識でぐちゃぐちゃになりながら、リカバリーの方法を考えます。

 

 

 本当ならわたしのことは気にしないで食べてきてくださいとお願いするはずだったのに、カップ麺に嫉妬してしまった後でそれを言っても絶対に本心からだとは思ってもらえません。

 

 その分もひっくるめて、お兄さんに疎まれないようにしなくてはいけないのです。元々マイナスだったものを、さらにマイナスにしてしまった以上、少しでもゼロに近付けなければいけません。わたしがいなくなれば全て丸く収まることは確かですが、それをしたくない以上難易度は一気に上がります。

 

 今のわたしにできることはほとんど全てやっていますし、お兄さんにしてもらっていることはお兄さんの好意によるものなのでそれを無下にすることはできません。

 

 

 せいぜいが、お兄さんから貰っているお金を使ってなにかプレゼントをするくらいですが、そもそもプレゼントを買うためにはお兄さんに着いてきてもらわなくてはいけません。お兄さんに迷惑をかけているお詫びで、さらにお兄さんに迷惑をかけるのは、おかしな話でしょう。

 

 

 わたしが一人で外に出れれば問題なかったのですが、まだどうしてもこわいです。早く克服したいと思うのですが……いえ、これは甘えですね。今まで後回しにしてきたせいで、お兄さんにお詫びが出来ないのです。

 

 

 何通りか、わたし自身がこの部屋から出て、お礼やお詫びの品を買う姿を想像します。

 

 何も無く一人で外に出るのはまず無理です。お兄さんと外に出るのは、つかみたくなっちゃうからダメです。お兄さんの後ろを、距離をとって追いかけるのは出来ると思います。逆にお兄さんが後ろから着いてきてくれるのも、大丈夫なように思えます。姿が見えなくても会話ができるなら、ギリギリ大丈夫ではないでしょうか。すぐに助けを求められるけど基本的には一人、というのは、まだ少し難しそうです。

 

 

 結局また負担をかけてしまいますが、どの道いつかはやらなくてはならないことでしたし、一人で外出ができるようになればお使いにも行けるようになります。長い目で見れば、比較的プラスになるでしょう。

 

 

 お兄さんにお願いする理由としては、買い出しの担当ができるようになる、というもので大丈夫でしょう。献立の融通がききやすくなることを伝えれば、しっかりとプラスの面もアピールできます。

 

 

 お願いする内容の方は、着いてきてもらうのがいいでしょうか。本当は会話だけから始めた方がいい練習になるのでしょうが、わたしがお兄さんに使わせてもらっている携帯は家の中かお兄さんのスマホの近くでしか使うことができません。それに、一人でお出かけをしたことがないので、道に迷わないかも心配ですし、これが無難な気がします。

 

 

 多分断られることは無いでしょうから、今日お兄さんが帰ってきたらお願いしてみましょう。実際にできるのは、早くても今週の週末になると思いますが、心の準備もありますから早いうちに伝えた方がいいです。

 

 

 ハンバーグを作りながら、お兄さんからの帰宅連絡に返信します。汁物のこととかを考えると、コンロがひとつじゃ不便なので、お兄さんへのプレゼントとは別にコンロが欲しくなります。晩御飯の支度は時間こそかかりますが一つで回せていましたが、朝のお弁当作りは時間が限られているのでどうしても作れるもののクォリティに限界が出てしまいます。

 

 お弁当ということもあって、出来たてで食べてもらう訳でもないので、作り置きに手を出すことも視野に入れつつ考えます。

 

 ひとまずものは試しで、一口サイズのハンバーグをいくつか作ってみます。冷めてから食べてみて、美味しく食べれたらお弁当にも入れてみましょう。お兄さんがレンジで温めてから食べれるのであれば、温めた際の味も確かめなくてはなりません。

 

 幸いと言うべきか、ハンバーグのタネを多く作りすぎてしまっていたため、数はそこそこ確保できます。上手く出来なかった場合はわたしのお昼ご飯になるので、もしもの場合も大丈夫です。

 

 

 一口サイズのものをタッパーに入れて、あら熱をとるために置いておくと、ちょうどお兄さんからメッセージが届きました。いつもの帰宅2分前通知です。

 

 

 料理の途中で汚れた手を洗って、姿見を見ながら身だしなみを整えます。にこっと口角を上げて、笑顔の練習をして、変な笑いにならないかチェックします。

 

 

「おかえりなさいっ!」

 

 どれも問題なさそうなので玄関の前で待って、ドアを開けたお兄さんに笑顔で言います。笑顔で元気よく挨拶されて、嫌な気持ちになる人はいないとネットでも見ましたが、確かにお兄さんはいつも少し嬉しそうにただいまと言ってくれます。お母さんのように、おかえりなさいと言われたら舌打ちしてしまうくらいには嫌な気持ちになる人もいるので、あまり信用していなかった記事でしたが、瑠璃華さんに挨拶した時の反応を見るにあながちおかしなものではなかったのかもしれません。

 

 お弁当箱を受け取って、シンクの横に置きます。カバンを受け取って、いつもの場所まで運びます。

 

 お弁当の感想も言ってもらって、感触が良さそうなことに満足します。お弁当を作って渡すのは初めてだったので、少し心配していましたが、おかしなものにはなっていなかったようです。

 

 

 晩御飯がチーズINハンバーグだと話しながら配膳をして、一緒に食べます。ちゃんと全体に火が通っていて、けれどもパサついてはいない、いい感じの仕上がりです。付け合せの人参やアスパラガスも美味しくできていたし、お兄さんがご飯をおかわりしてくれたので、大成功と言ってもいいでしょう。

 

 

 食べながらお弁当のフィードバックをもらったり、職場の人の反応とか、それを話すお兄さんの表情を見たり聞いたりします。

 

 明日はもう少し、おかずの分量を増やした方が良さそうだということがわかった所で、お弁当の話がひと段落着いたので、一度頭の中を切りかえて、お兄さんにお願いする内容を思い出します。

 

 

「あの、お兄さん。今までって、食材の買い出しとかは全部お兄さんがまとめてしてくれてましたよね」

 

 

 今の今まで話していた感触から、想定通りお兄さんの機嫌はいいです。また、お弁当を作ったことに関しても、普通に喜んでいるように見えます。

 

「でも今のままだと、この前みたいに突然予定を変更する時とかに、不便だと思うんです」

 

 なので、変に機嫌をとったり、言い回しに気を使ったりするよりも、不便だから解決しませんか?というような提案の方が良さそうだと判断しました。

 

 

「だから、近いうちに一人で買い物に出れるようになりたいのですが、見守っていただくことはできますか?」

 

 

 突然の申し出であることもあって、驚いた様子のお兄さんは少し考え込みます。これまで外出の度に服を握っていたわたしが、突然こんなことを言い出すのだから当然です。

 

 

 

「……それじゃあ、ちょっと性急だけど今から試してみる?今の時間だと人通りも少ないだろうし、ちょうどソースが無くなったところだしね」

 

 

 考えた結果、やってくれる気になったようです。とはいえ、週末くらいを想定していたわたしは、その急さに驚いてしまいます。自分の心の準備ができていない中で一丁前にお兄さんの疲れの心配をして、それじゃあこれねとお財布と鍵を渡されます。

 

 

 先に家を出てしまったお兄さんを見送って、頭の整理をします。とりあえず、すぐにしなくてはいけないのは着替えでしょうか。家の中は常にエアコンが付いているため、過ごしやすい温度ですが、外は寒いはずです。急いで外出用の服に着替えて、土曜日に買ってもらったばかりのモコモコな上着を着込みます。

 

 ふと気がついてしまったのですが、わたしが何も考えずに受けとってしまった鍵とお財布は、どちらもお兄さんにとってとても大切なもののはずです。

 

 当然そんなことはしませんが、今わたしが鍵をかけてしまえば、お兄さんは家に入れなくなってしまいますし、お財布の中に至っては個人情報の塊です。

 

 誘惑に負けて、中身を見てしまうと、ポイントカードから銀行のカード、保険証から運転免許証まで、全部入りっぱなしでした。

 

 

 悪いことをしている自覚は、ありました。お兄さんが不用心なのをいいことに、知らなくていい事まで知ろうとしています。やってはいけないとわかっているのにやめられなくて、止まれなくて、お兄さんの個人情報を頭に詰め込みます。

 

 お兄さんはわたしのことをなんでも知っているのに、わたしはお兄さんの名前の漢字すら知りませんでした。お兄さんがわたしに自分のことを話してくれないのがいけないのだと無理やり自分を正当化しながら、誕生日や勤め先なんかを覚えます。

 

 お兄さんのことを知れる喜びと、悪いことをしている罪悪感とでぐちゃぐちゃになりながら、何とか理性をフル動員させて全部をお財布の元あった場所に戻します。

 

 あまり遅いとお兄さんが戻ってきてしまうかもしれないし、もし戻ってきた時にわたしが個人情報を覚えているのを見たら、良い気がするはずもありません。

 

 結構な罪悪感を感じながら、わたしはお財布をポケットにしまい、玄関を開けました。

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