無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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ひとりでおつかいできるもん!(裏2)

 個人情報を見るのに、思った以上に時間をかけてしまっていたため、お兄さんが不審に思っていたり怒っていたりしないか少し不安になりながら、玄関から出ます。

 

 もしかしたらお兄さんがいないかもしれないと、暇を持て余して先に行ってしまっているかもしれないと思いながら周囲を見ると、少し離れたところにいたお兄さんと目が合って、手を振られます。

 

 この様子だと、違和感を持たれたということはなさそうです。内心罪悪感とか背徳感が凄かったりしますが、そこだけは安心できました。

 

 

 ほっと一息ついて、玄関に鍵をかけます。当然ながら初めての経験なので上手くいかず、鍵の向きを一度間違えてしまいましたが、結局はちゃんと掛けれたので結果オーライです。

 

 

 後ろを振り返ってはいけないと言われているので、それに従って確認することなく、歩き始めます。道なりに真っ直ぐ進んで、特徴的な緑色の建物のところを左に曲がり、その先にある五叉路を右前に曲がります。

 

 途中見つけた横断歩道では、4回くらい念入りに左右の確認をして、反対側から来た人が不審そうにしながら渡るのを見て、ようやく渡ることができました。

 ショッピングモールで乗ることになったエスカレーターと言い、世の中には流れに合わせなくてはいけないものが多すぎるのではないでしょうか?とてもではありませんが、何も考えずに渡れるようになる日が来るとは思えません。先程の方は、なぜあんなに簡単に渡れたのでしょうか?

 

 

 そんなことを考えながら、道路の右側をひたすら歩き続けます。歩行者と車両のすれ違いの際により安全にと定められたらしい法律を、車が全く通っていない道でも守れるのは、わたしのいい子なところの表れではないでしょうか。

 

 少しすると、目的地のスーパーに到着しました。ほとんど人とすれ違っていないことはともかくとして、不安になってお兄さんがいるはずの後ろを振り返らずにここまで来れたのは、とてもすごいことでは無いでしょうか。いえ、普通の人にとって外を出歩くというのは至極当たり前のことだとは思いますが、わたしの環境であればここまでの進歩は十分に誇れるものであると思います。

 

 もちろん、そこまで精神を保てたのも、ちゃんとお兄さんのものと思わしき足音が聞こえていたからですが、それだけでできるなら、お守りでもあればなんでもできるようになってしまうでしょう。

 

 

 つまり、わたしは頑張ったのだと精一杯自画自賛して、スーパーの中に入ります。今日の目的は、中濃ソースを買うことです。

 

 

 けれど、これまで普通にお買い物をしてきた人達であれば、ある程度陳列されている場所も推測が着くのでしょうが、まともなお買い物が初めてなわたしには皆目見当もつきません。

 

 入口の野菜売り場で、どうしたものかと立ち止まって、なんとなしに上を見上げると、保存食と書かれた板が吊り下がっているのが目に入りました。そこで、以前お兄さんに教えてもらったことを思い出します。

 

 乾麺、袋麺、カップ麺、お菓子と、色々な文字が釣られている中で、見つけたのは調味料の文字。棚の上から下までみっちりと並べられた調味料の中から、ソースを探します。大きいので、あまり上の方にはないだろうと検討をつけて、下の方から探すと、予想が当たっていたようですぐに見つけることが出来ました。

 

 これまで使っていたサイズのものと、もうひとつ大きいサイズのもののどちらにするべきかを考えます。大きい方を買っても、悪くなるよりも先に使い切れるでしょうし、グラム単価で考えるとこちらの方がお得です。

 

 買い物の目的が、足りなくなったソースを買い足すことですから、今までと違う大きさを買って怒られることも無いでしょう。

 

 こちらにしようと手に持ったところで、冷蔵庫のことを思い出します。普段ソースはドアポケットの方に入っているのですが、元々高さがギリギリでした。さらに大きくなってしまうと、中に入り切るかが心配です。

 

 

 元々かなりの頻度でソースを使っていたというお兄さんが、お徳用サイズではなくひとつ小さいものを買っていた理由を、もっと考えておくべきでした。

 

 

 買う前に気付けたことに一安心して、いつもの大きさのものを選びます。そのまま、店員さんのいないレジでバーコードを通して、お金を払います。

 

 自動精算機の案内にしたがって操作して、無事に購入完了です。しっかりレシートを取って、お財布にしまいます。

 

 

 お兄さんが普段使っている買い物袋を持ってくればよかったなと、ソースを抱きながら思い、帰ります。

 

 車に気をつけて、横断歩道では何度も左右の確認をしてから渡ります。家の前について、部屋があっているかの確認も念入りにして、鍵を開けて中に入ります。

 

 

 思いのほか緊張していたらしく、扉が閉まるのと同時に気が抜けて、座り込んでしまいました。体に力が入らなくて、どうしようと思っているとお兄さんが帰ってきて、褒めてくれます。

 

 よく頑張ったねと言われて、頭を撫でられます。それが嬉しくて、温かくて、頑張ってよかったなと思えてしまいます。

 

 

 体に力が入らないわたしを避けて、お兄さんはわたしが持っていたソースを冷蔵庫にしまってくれます。

 

「だいぶ疲れているみたいだけど、まだやる気があるなら次は電話でも繋げながら行ってみる?」

 

 すみれちゃんのスマホは家の中でしか使えないから、その時は一旦僕と交換することになっちゃうけど、と言うお兄さんの言葉に、驚きます。わたしが1度考えた内容で、お兄さんが嫌がるだろうと思って諦めたものだったからです。

 

 週末にでもどうかなと言うお兄さんに、ぜひお願いしますと返して、ようやく体に力が入るようになったので起き上がって靴を脱ぎ、借りていたお財布と鍵を返します。

 

 お財布を受け取ったお兄さんが、この場でそれを確認しだして、おかしいところを咎められたりしないか少々不安にもなりましたが、幸いと言うべきかお兄さんはそれをその辺に放って、シャワーに入ってしまいました。

 

 もっと撫でて欲しかったなと欲しがりながら、水に浸けて落ちやすくなった茶碗の汚れを落とします。

 

 

 それも終わって、ダボッとした部屋着に着替えて、なんとなしにお兄さんの働いている会社の名前を調べます。その広報ページを見て、お兄さんがちゃんと写っていることも確認します。

 

 やっていることが、ストーカー行為、悪いことだということはわかっていても、やめられません。

 

 

 お兄さんがシャワーから出てくるまでの短い時間、わたしはそこに乗っているお兄さんの写真を見つめていたのでした。

 

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