無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい 作:エテンジオール
ちなみに作者的には鬱1.5くらいの感覚でした(╹◡╹)
ついついお漏らししちゃってた程度(╹◡╹)
帰ってきたすみれから外出先であったことを聞き、僕の家を自分の家として帰って来てくれたことが嬉しくって、すみれの頭を撫でた。
これまでの経緯を考えると無いとは思っていたが、元住んでいた家に帰りたいと、お母さんの元に戻りたいと言われてしまったら、僕では止めることが出来なかった。そうならなかったのは、もうすみれのいない生活には戻れない僕にとっては、極めて重要な事だ。
そして、話を聞く限りすみれのお母さんがすみれを連れ戻そうとしているようにも思えない。もし連れ戻そうとしていれば、何かそれを匂わせる行動をとるだろうし、すみれに連絡先を教えるだけで終わりということはしないだろう。
正直なところ、そうされたら打つ手がなかったため、助かったと言えるだろう。たとえどれだけ僕とすみれが良好な関係を築けていても、親子関係を持ち出されてしまえば所詮僕は誘拐犯に過ぎない。戸籍がないことも、DNA鑑定か何かで解決されてしまうかもしれない。こちらから出せる札はネグレクトされていた事実くらいだが、だからといってすみれがすぐに得体の知れない僕の元に返されるなんてことはないだろう。
推測でしかないが、すみれのお母さんは罪悪感を抱いているのではないだろうか。すみれの聞かれた質問からするに、今の状態がいいものなのか悪いものなのかを探ろうとしているように思える。そうなったら、考えやすいのは連れ戻そうとしている事と幸せそうならもういいやと考えていることで、前者ではないだろうから放任の線が濃い。
そうである、と言うよりも、そうであったらなぁという程度の願望じみた推測だが、あまり間違ってはいない気もする。
まあ、僕がいくら頭を悩ませてもなんともならないことはともかくとして、今はすみれのことだ。話しているうちにそこそこ立て直したように思えるが、あんな表情で帰ってきたのだから、大丈夫なはずもないだろう。
せっかく素敵なプレゼントを貰ったのに、嫌なことになってしまったものだ。すみれとお母さんが和解できるならした方がいいと思うし、出会えたこと自体はいいと思うが、何もこのタイミングでなくても良かったのにと思ってしまう。
本人は大丈夫だと言っているものの、やはりこうなってしまうと心配なので、今日は一日ゆっくりしてもらう。すみれが来て以降、全くすることがなかった久しぶりの家事だ。
でもわたしの仕事が、お金をもらっているのに休むなんてと言って働こうとするすみれに、有給休暇という言葉を教えて何とか家事をもぎ取る。
これまで毎日休みなく働かせてしまっていた僕も問題だが、休んでいいと言っているのにここまで渋るすみれも大概だ。
特に予定していたメニューなんかもないということなので、ローテーションでいつも食べていた煮物を久しぶりに作る。しばらくブランクがあるとはいえ、慣れに慣れた作業だ。特に滞ることもなく終わる。
今回は一食分しか作っていないので、過去一で早く仕上げて、あとは煮るだけ。弱火にして待っている間にお風呂を洗っておく。普段はシャワーで済ませてしまうことが多いが、今日は湯船に浸かってゆっくりしてほしいと思ったのでお風呂の日だ。
「あ、お兄さん!お鍋を火にかけてる時は離れちゃダメです!」
お風呂の栓を閉めてキッチンに戻ると、玄関の前で腰に手を当てながら立っていたすみれに、めっ、と怒られる。一応弱火にはしていたのだと言い訳をしてみたものの、火種がある以上変わらないと正論を言われた。
「わたしのやることが全部なくなっちゃったんですから、お鍋の番くらいは任せてください」
何故か少しだけ、必死そうに見えるすみれ。残っている家事は全部僕がやると言った手前、それじゃあお願いというのも迷ったが、今はそうしておくのが正解な気がしたので、頼むことにした。
鍋を任せて、すみれが朝干してくれた洗濯物を取り込み、畳む。3日分くらい溜めてから洗ってもらっているため、それなりの量になる。
さすがに年頃の少女の下着を触ると嫌がられるだろうから、そこだけは鍋の番をしているすみれにやってもらって、それなりに時間が経ったので火からあげる。代わりに小鍋にほうれん草を入れておひたしを作り、最後に豆腐と乾燥わかめで味噌汁を作れば、夕食は完成だ。
少し寂しい気持ちもするが、それはすみれの料理になれてしまったからだろう。僕だけだった頃はおひたしも味噌汁もつくらなかったし、それを寂しいとも思っていなかった。
すっかり胃袋をおさえられていることを実感しながら、少し早めの夕食を食べる。今日はお風呂がわいているから、のんびり入るために早めにした。いきあたりばったりで行動したら自然とこうなってしまったとも言える。
慣れ親しんだ、面白みの無い味。作っている時こそ、久しぶりに食べるのだと少し楽しみにしていたが、実際に食べてみるとこんなものかという感じだ。けして不味いわけでは無いし、すみれもおいしいと言ってくれてはいるが、なんというか食べ飽きてしまっているのだ。
すみれがいなくなったらこれに戻さなくちゃいけないことに危機感をおぼえて、どうしたものかと考える。すみれだっていつまでもこうしてうちにいてくれるわけでは無いだろうし、いずれ何かしらの形で独り立ちするだろう。そうなったら僕は残されるわけで、そこにこの生活はない。
生活能力が最低限の人間が、生活水準をはねあげられて置いていかれるわけだ。干からびるか、水準を下げれなくて破産するかの2択だろう。恐ろしい話だ。
そんなことを考えながら食べて、すみれをお風呂に送りだす。不意に昔を思い出して、以前はよく見ていた銀行口座を見ると、すみれが来るまでとは比べ物にならないほど、増える速度が落ちていた。来てすぐのころの収支は一気にマイナスに傾いていたし、一時期の僕が見たら悲鳴をあげかねないだろう。
それなのに、今の僕はこんなにも満たされた気持ちになっているのだ。昔のことがなんだか馬鹿らしく思えて、でも実際貯金も大切だしどうしようかと考える。
解決策が出てくるわけがないとわかりながら考えつつ食器を洗って、一時間くらいのんびり入ってきたすみれと入れ替わりでお風呂に入る。
「おにいさん、その、よかったら一緒にゲームしませんか?」
普段からシャワーが多いためあまり長風呂をする習慣がない僕が上がって、ベッドに腰をかけていると、すみれが携帯を持って寄ってきた。
話を聞いてみると、溝櫛とやっていたリバーシを一緒にやりたいとのこと。ゲームと言うからネットゲームかなにかかと思ったが、すみれにはこれまでゲームという考えがあまりなかったらしく、デジタルゲームの話をするとぽかんとしていた。
なにかすみれに渡すのに良さそうなものはあったかなと考えつつ、しばらくリバーシを続ければ、それなりの時間だ。明日が休みということを踏まえても、そろそろ寝た方がいいだろう。
「お兄さん、今日、お兄さんのベッドで寝たいです。……だめ、ですか?」
寝際に、そんなことをすみれが言ってきて、いきなりこの子は何を言い出すのかと思ったが、話を聞いてみると言葉のそのままの意味で、僕のベッドで寝たいとのこと。要は寝床の交換をしないかという話で、すみれが嫌ではないのであれば僕には何も問題がない。
「おやすみなさい、お兄さん」
「うん、おやすみなさい」
ただ、普段の自分のものとは違う、少女っぽい甘い匂いの染み付いた布団に包まれながら寝ることは、僕にとっては少し、眠りにつきにくいものだった。