無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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2人でのお買い物(裏)

 寒い風がピューピュー吹く中で、買い物袋を片手に提げながら、外を歩きます。お兄さんに貰ったマフラーが、首から入り込もうとする冷たい空気を止めてくれる以外は、服のそこかしこから入ってきますし、最初から丸出しな手や顔はキンッキンに冷えてます。

 

 手の方は、縮こめて袖に隠すことで、多少はマシになりますが、いちばん冷えやすい指先は相変わらず冷たいままですし、かじかんで上手に動かなくなるのも変わりません。

 

 お兄さんの手袋を編むよりも先に自分のものを用意しておくべきだったかもと思いますが、やはりお兄さんに喜んでもらえることの方がより大切です。自分のものは、どこかで買えばいいでしょう。

 

 少し回り道をして、100円ショップで買っていくことも考えましたが、あまり味気がないなと思ってしまいました。ただ必要なものを買うのに、味気も何もいらないのですが、どうせならお兄さんに選んでほしいと思ってしまいます。

 

 優しいお兄さんはきっと嫌とは言わないでしょうし、わがままを言ってみましょう。デートのお誘いです。恋愛感情がなくてもデートと呼ぶのかはわかりませんが、こういってみるとなにか特別なことをしているみたいでドキドキします。

 

 

 今日の夜にでも、早速誘ってみようと決めて、お家に帰って晩御飯の準備をします。毎日料理している成果か、最近は最初の頃と比べて格段に調理の速度が上がったので、よほど手間がかかるものでなければ3時くらいに取り掛かれば間に合うようになりました。お母さんみたいに、パパっと作れるようになるまでにはまだまだかかりそうですが、このまま頑張ればいつかはいけるかもしれません。

 

 

 お兄さんが帰ってくるまでにしっかりと晩御飯を作り終えて、おかえりなさいと迎えて、一緒に食べます。今日のメニューは鶏肉の炒め物です。

 

 

 食べ終わって、食器をうるかしている間に、お兄さんの横に座ります。お兄さんとのんびりお話する時間が欲しくって、わがままを言って作ってもらった食休みです。お話をしないで、横に座っているだけでも満足な時間ですが、今日は伝えたいことがあります。

 

 

「お兄さん、ちょっとお願いがあるんです」

 

 お兄さん、デートしましょう!なんて言える性格であれば、もっとはっきり誘えたのかもしれませんが、わたしには難易度が高すぎます。

 

「実は最近、外に出る時に寒さが気になって……防寒具を買おうと思うのですが、一緒に選んでもらえませんか?」

 

 わたしに出来るのは、こんな遠回しなお誘いだけです。こんなお誘いであっても、心臓がドキドキしてしまいます。落ち着かなくって、お兄さんの顔をチラチラ見ながら、断られたら嫌だなと思い裾を摘んでクリクリします。

 

 思いついた時にはドキドキして、楽しみだったはずなのに、いざ実際に行動に移してみると、お誘いするというのはとても緊張しますし、不思議な気恥しさがあります。

 

 

「お買い物のお誘いかな?週末まで待ってもらうことになると思うけど、それでも大丈夫?」

 

 もし緊急性が高いなら、今からでも大丈夫だけどと、お兄さんは簡単にOKをくれました。急ぎではないことと、他にも見たいものがあることを伝えると、ショッピングモールに行こうと言ってくれたので、その話に乗ります。

 

 無事にデートのお約束を取り付けたので、あと少しだけのんびり隣に座って、お兄さんがシャワーにいったのを確認して、小さくガッツポーズを取ります。わたしにしては、よくできました。完璧ではなかったとしても、上出来でした。

 

 どの服を着ていくのが、一番かわいく思ってもらえるかを考えて、当日それが綺麗に洗濯した状態になるように服のローテを検討します。

 

 

 そうして訪れたデートの当日。いつも通り、普段通りの動きでショッピングモールまで着いてしまいました。普段からお兄さんに恥じないように、服装に気をつけていることを踏まえても悲しいくらいの無反応です。一応今日もかわいいねと言ってはくれましたが、今日は特に気合を入れたのだからもう一声欲しかったです。

 

 ちょっとしょんぼりしながら、不意に自分が求めすぎていたことを理解して、内省します。いつもかわいいと言ってくれるだけで幸せなはずなのに、それを当たり前のものとして考えてしまっていました。家族であっても、図々しいことです。厚意でもらっているものを、足りないとケチつけるなんて厚かましいことです。

 

 

 

 運転するお兄さんの横顔を見ながらそんなことを考えているうちにショッピングモールに着いて、エレベーターへ歩いていると何やらお兄さんが生温い目でこちらを見ています。

 

 

「いや、前に来た時と比べたら随分と成長したなぁって思ってたんだよ。ごめんね」

 

 わたしの過去の醜態を思い出しているのだろうと思って、なにか失礼なことを考えていないか聞いてみると、案の定考えていたようです。じとぉっとした目でお兄さんを見て抗議の意を伝えますが、そのことはそこまで大切なことでは無いのでそれだけで流します。

 

 

「おにいさん、その、よかったら手を繋いでくれませんか……?」

 

 だって、そんなことよりも今はデートです。ずっとずっと前からしてみたかった、手を繋いで歩くことを、今日初めてお願いします。わたしが一人で歩けるようになって、少々依存度合いが高いとはいえ、お互いの納得の元で対等な関係を築けたので、ついに繋ぎます。

 

 温かくて、大きな手です。わたしの手をすっぽりおおってしまう手です。手を繋がなきゃいけないわけじゃないのに、ただ繋ぎたいから繋いだ手から、幸せが溢れます。もっともっとこうしていたくなって、こうしていられることが嬉しくって、お兄さんの手をにぎにぎしてしまいます。

 

 

 心臓がどくどく鳴って、緊張と恥ずかしさで顔が赤くなっていそうです。繋いだ手が、よりピッタリくっついていくように感じるのは、わたしの手から出た汗のせいでしょうか。その事がさらに恥ずかしさを掻き立て、同時にお兄さんに気持ち悪がられないか心配になります。

 

 わたしの心の平穏を考えれば、手は離した方がいいのでしょうが、せっかく繋いだそれを離したくなくって、そのままやってきたのは洋服売り場です。今の季節に合わせた暖かそうな服がいっぱい並んでいる中で、目当ての場所は少し端の方にありました。

 

 

 買うものを選ぶために、自然と手は離されます。ドキドキから開放された安心感と、つい少し前まであった温もりがなくなる喪失感。そのふたつを抱えながら、まず見るのはイヤーマフです。寒すぎて耳が取れてしまいそうなので、他の物が買えなくてもこれは必須です。

 

 触った感じの質感なんかを調べながら、好みのものを探します。お小遣いはそれなりに溜まっているため、納得して買えるものを選びます。

 

 

 ひとまずイヤーマフの見当をつけたら、次は手袋です。同様に調べて、選びます。マフラーとかは見なくていいのかとお兄さんに聞かれましたが、お兄さんがくれたものがあるので他のものなんていりません。

 

 

「お兄さん、これとこれなら、どっちがいいと思いますか?」

 

 似たような色合いのものが、イヤーマフと手袋で共通してあって、更にそこから気になる色を選んだら、残ったのは2組だけでした。

 

 ピンクベージュのものと、灰色のもの。前者はわたしが普通に気に入ったもので、後者はお兄さんの防寒具とのお揃いを企んだものです。

 

 お兄さんにあげたマフラーも、今編んでいる手袋も、灰色です。それと同じ色をつけていたら、一緒、という感じが強くして、ふわふわします。

 

 内心で、灰色の方を選んでくれたら嬉しいなぁと思いながら、お兄さんの選択を待ちます。少し考えて、お兄さんが出した結論はピンクベージュの方。ちょっとだけガッカリしながら、選んでもらったイヤーマフと同じ色の手袋を手に取ります。

 

 

「すみれちゃん、ちょっと待って」

 

 

 それじゃあ買ってきますねとレジに向かおうとすると、お兄さんに呼び止められて、手に持っていた二つをするっと回収されてしまいます。

 

「これはすみれちゃんが趣味で買ってるんじゃなくて、ないと困るから買うものでしょ?それならお小遣いを使うんじゃなくて、家のお金で買わないと」

 

 ついでに、寒いならこれも必要だよねとヒートテックのシャツを勧められます。聞いたことはありましたが、使ったことはないものです。そんなに違うのかなと思いながら、シャツのサイズを聞かれてお兄さんに伝えます。

 

 そのままお会計をして、洋服売り場を出たら、そっとお兄さんが手を繋いでくれました。不意打ちでの行動にびっくりしながらも、自分ではドキドキしてしまって切り出せなかったでしょうから、とても嬉しいです。

 

 

「すみれちゃん、他には買いたいものとか見たいものとかないかな?」

 

 お兄さんに聞かれたので、製菓専門店を見てみたいと伝えると、それならこっちだよと、手を引きながら案内してくれました。ふわふわドキドキしながら歩いて、着いたのはたくさんの粉が並んだお店です。

 

 

 色々な小麦粉や砂糖がある中で、瑠璃華さんに特徴を教えてもらっていた小麦粉をいくつか、小さめのものを買います。砂糖は、普通の上白糖に粉砂糖、正確には砂糖じゃないらしい果糖やブドウ糖なんかも一緒に買い物かごに入れ、ベーキングパウダーとバターは一つだけ買います。砂糖の違いや、小麦粉の違いがある中で、どんな組み合わせが一番わたしにとって、お兄さんにとって美味しいのかを確かめるためです。

 

 色々なレシピを試してみたいけれど、わたしが食べられる量はそれほど多くないので、小スケールで試します。そのために、少なめの小麦粉を選びましたし、0.01グラム単位で測れる電子秤も買います。

 

 

 今度はちゃんと自分のお小遣いで買って、自分で持とうとしたらお兄さんが持ってくれました。やさしくて、うれしいです。

 

 

 

「お兄さん、連れてきてくれたお礼も兼ねて、今日はお兄さんが食べたいものをなんでも作っちゃいますよ!」

 

 嬉しくなって、お兄さんにわたしがしてあげられることを考えて、そんなことを言います。お兄さんが食べたいものを言ってくれれば、いつでもなんでも作りはしますが、お兄さんは普段何も希望を伝えてくれません。

 

 こんな機会でもなければ言ってくれないでしょうし、いつもより腕によりをかけて作りましょう。お兄さんの横顔を見上げながら、希望は何かと期待します。

 

 

「それなら、今日は魚介が食べたいかな。寒いから鍋で、何かある?」

 

 そう要望を言われてしまって、少し困ります。なんでもいいとは言ったものの、これまでに作ったことがあるものから希望が出てくると思っていたからです。

 

 特に困り所なのが、魚介というところです。お兄さんと暮らすようになってから、色々なものを作ってきましたが、実はわたしには、魚を使った料理の経験がほとんどありません。お魚を1匹買ってきても、捌き方がわかりませんし、お兄さんがお刺身を食べたいと言った時も、サクを買ってそれを切るだけでした。

 

 動画か何かで見ながら挑戦してみようかとも思ってはいますが、さすがにぶっつけ本番は不安です。

 

 しかし、だからといってお兄さんがせっかく出してくれた希望に、無理でしたなんて返すわけにもいきません。少しだけ時間を貰って、美味しいお魚の鍋と、ここのお店に売っているものの種類を調べます。

 

「難しそうだったら、他のもの、すみれちゃんが作りたかったり、作りやすかったりするもので大丈夫だよ」

 

 お兄さんはこんなふうに言ってくれましたが、わたしはここで引くことはできません。調べて、検討して、すっかり覚えてしまった栄養表と照らし合わせながら、メニューを決めます。

 

 

 目をつけたのは、ブリしゃぶ。名前のまま、ブリのしゃぶしゃぶです。刺身用にもなるぶりの切り身を、ダシの効かせたスープでしゃぶしゃぶして食べるらしく、ちょうど旬の魚でもあるため選びました。以前ほかの店でブリを見た時よりも安かったことも、理由の一つです。

 

「お兄さん、ブリしゃぶが美味しいみたいです!……お肉と比べるとやっぱり、ちょっと高くなってしまいますが、どうでしょうか?」

 

 お兄さんに確認をとって、それにしようと言ってもらったので、決定です。お魚は高いなぁと思いながら、少しでも安く食べれるように、捌き方を覚えますとお兄さんに伝えると、それなら僕が教えてあげると言ってくれました。

 

 一人で挑戦するのは怖かったのですが、お兄さんが教えてくれるなら一安心です。来週の週末に教えてもらう約束をして、今日はお家に帰って、サクを切ります。ちゃんと上手に作れるか、お兄さんが美味しく食べてくれるかを考えると心配になるので、いつも以上に慎重に味見をしながら作りましょう。

 




すみれちゃんが甘すぎて砂糖吐きそう……()
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