無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい 作:エテンジオール
お兄さんとお買い物に行って、色々買ってから少ししての平日、わたしこと莢蒾すみれは、部屋の中でたくさんの粉を広げています。
今日の目的はクッキー作り、なのですが、ひとつのレシピのものを沢山作るのではありません。いえ、正確には、使うレシピは一つですが、材料の小麦粉などを変えるため自ずと違うものになります。お兄さんが教えてくれた、対照実験というものです。
まず基本となるレシピは、瑠璃華さんに教えてもらったもの。
材料はそれぞれ、
小麦粉300g
砂糖100g
バター140g
卵40g
ベーキングパウダー小さじ2/3
です。とはいえ、このまま作るわけではなく、少ない量で行います。ついでにベーキングパウダーだけ単位が分かりにくいので、統一してみましょう。
小麦粉30g
砂糖10g
バター14g
卵4g
ベーキングパウダー0.27g
10分の1スケールです。このくらいの量になってしまうと、1gの誤差が大きな変化を産んでしまいますから、0.01g単位まで計れる電子計りを使って、ベーキングパウダー以外は有効数字3桁でピッタリ揃えます。
まずは小麦粉の種類から検証してみましょう。今回用意したのは普通の小麦粉、ドルチェ、エクリチュール、リスドォルの4つです。普通の小麦粉は、元々お家にあったやつなので、名前はわかりません。
まずは常温に戻したバターを、元の形が無くなるまで練ります。そこに砂糖とバニラエッセンスを少し加え、よく混ぜます。今回の砂糖は、上白糖です。おうちに元々あったのにわざわざ買ったのはもったいなかったと思いますが、人間ですからこんな失敗もあるでしょう。一番量が多いため、気にせず使うことが出来ます。
数回に分けて混ぜながら卵を注いで、全体がしっかり馴染んだら、ここからが変化の付けどころです。
混ぜていたものをピッタリ4等分して、それぞれに予めベーキングパウダーを混ぜておいた小麦粉を、ふるいにかけながら入れます。ヘラを使って全体がポロポロになるまで混ぜて、袋に入れて寝かせます。この時、混ぜすぎると仕上がりが固くなってしまうらしいので、要注意です。
冷蔵庫の中で30分寝かせて、平らなところで麺棒を使い伸します。厚さは、割り箸くらいです。昔ながらの割り箸を横に寝かせた状態で、その上を転がすと均等な厚さに仕上げることができます。このとき、クッキングペーパーを生地の上下に挟むことで、まな板にも麺棒にも生地がくっつかなくなります。便利です。
シート状にしたら、あとは型抜きです。かわいい型があればそれを使えばいいのですが、わたしは買い忘れてしまったので持っていません仕方が無いので包丁を使い、食べやすそうな大きさに分けます。
この伸す作業も、型を抜いた残りをまとめて繰り返したりすると、どんどん焼き上がりが固くなってくると教えてもらったので、要注意です。
ここまで出来れば、あとは焼くだけです。わたしが教えてもらった方法だと、レンジのオーブン機能を使って、150℃で13分との事でしたが、それぞれのレンジのばらつきや、焼く際の熱源との距離なんかもあるので、あくまで目安です。程々に様子を見ながら、爪楊枝で刺した時に生地がくっつかなければ焼きあがっているらしいので、暫くは待ちです。
次の、お砂糖の種類を変えた時の影響を調べる準備をしましょう。先程までのものは同じお砂糖で作ってそれを分けていたため、4つ分まとめて用意できましたが、次は違います。
ひとつずつ分けてバターを練ってそれぞれにお砂糖を入れていきます。今回使うのは上白糖、粉砂糖、ブドウ糖、果糖の四種類です。この中でもブドウ糖は、塊になっているものしか売っていなかったため、先程30分寝かせている間に頑張って削りました。ふるいにかけてサイズの選別もしたので、すっかり粉末状ですが、なかなかしんどかったので出来ればもうやりたくないです。
それぞれ混ぜて、よーく混ぜて、普通の小麦粉を入れていきます。あとは先程と同様の手順で30分寝かせます。
途中、焼き加減の確認なんかをしながら作業を進めて、寝かせている最中に最初の子たちが焼き上がりました。4種類の全部に、ひとつずつ代表として穴あきになってもらって、問題なく火が通っていることを確認します。
どれも綺麗な白い色です。クッキーと言えばもう少しきつね色に近いイメージがありましたが、これはほとんど焼く前と同じ白のままです。恐らく、低温で長く焼いたからでしょう。ドルチェを使ったものなんかは、少し力を加えると焼きあがったはずのクッキーが曲がって、元に戻るなんて不思議なことが起こりましたが、焼けてるはずです。
鉄板の上から、下に敷いたクッキングペーパーごと下ろして、テーブルの上に置きます。出来たてのものは熱くてまだ食べれないので、少し冷めるまで待ちます。お兄さんに食べてもらうのも、冷めた状態のものでしょうから、さすがにクッキーは出来たてにこだわりません。
切り分けた時の、切れ端の部分から息を吹きかけて冷まして食べてみます。お兄さんの前に出すのは、ちゃんと綺麗な四角形のものがいいので、このあまりの部分は全て自分で食べてしまいます。
まず普通の小麦粉のものから。おそらく一番特徴に乏しい小麦粉だけあって、普通に美味しいもののあまり特筆することはありません。
次はドルチェ。焼き上がりの瞬間のような、指で曲がって元に戻る性質は消えてしまいましたが、とてもしっとりです。実はまだ生なのではないかと疑ってしまいますが、多分焼けています。
お次はエクリチュールです。これまでのふたつと比べると格段にサクッとしていて、クッキーを食べてる!という感じがします。
最後はリスドォルですね。これは一つだけ薄力粉ではないので、前三つのどれとも異なった味わいです。グルテンの量が多いせいか、クッキーと言うには少ししっかりしすぎていますね。
あくまでわたしの好みですが、エクリチュールが一番いいように思えます。ドルチェも美味しいので、そこはもう感性でしょう。しっとりを求めるか、サクサクを求めるかの違いです。
そうして食べ比べている間に寝かせる時間が終わったので、伸して切って焼いていきます。お家のレンジだと時間が短かったようなので、5分分延長して18分です。
焼き上がりは、見た目ではほとんど区別がつきませんね。心做しかブドウ糖と粉砂糖のものの表面がなめらかな気がしますが、比較しなければわからない程度です。
味の方は、上白糖と粉砂糖は余り変わらず、ブドウ糖は少しスッキリとした後味で、甘さは控えめです。果糖は、甘さは他のものよりも強めで、名前の如く果物みたいな甘さです。
食感は、上白糖と果糖、粉砂糖とブドウ糖に別れており、おそらく砂糖自体の粒子の細さによる変化でしょう。小麦粉を入れる前から、前者は少し砂糖の粒が残ったような見た目、後者は溶け合っている様子と別れていました。よりサクッと仕上がるのは後者なため、わたしはこっちが好きです。
サクサク×サクサクにすれば、まだ見ぬ至高のサクサクにたどり着けるのではないかと、わたしはエクリチュールと粉砂糖に期待を寄せます。ブドウ糖は、あまりにも面倒なのでいやです。お兄さんがこれだと言うのであれば小型のミキサーを購入しましょう。
ひとまずは今日の成果をまとめて、小麦粉ごとの特徴と砂糖ごとの特徴をまとめます。あとは、わたしの趣味で作ってもあまり意味が無いからお兄さんへのヒアリングをしてからですね。
ちょうどいい時間ですので、クッキーの余り部分を食べてお昼替わりにします。だいぶ少なめですが、その分は晩御飯でカバーしましょう。
8種類、正確には普通の小麦粉と上白糖の組み合わせを2度作っているため7種類ですが、それらが混ざらないように、わからなくならないようにラップでくるんで、名前を書いていきます。
あとはお兄さんが帰ってくるのを待つだけ。スーパーまで買い物に行って、晩御飯の支度をします。
いつも通り時間を合わせ、お兄さんが帰ってくるタイミングで完成。出来たて熱々の晩御飯を食べ、お兄さんがシャワーからあがってからが本番です。
「お兄さん、お兄さんのためにクッキーを焼いてみたのですが、食べてくれませんか?」
少しずつ違うので、どれがいちばん美味しいと思ったかも教えてほしいと伝えます。
「すみれちゃんが作ったクッキー?ぜひ食べさせてもらいたいな」
お兄さんの反応はそこそこ良さそうです。まずは小麦粉を変えたものから、食べてもらいます。
「風味とか食感とか、全然違うね。どれも特徴が別れていて美味しいけど、僕はこれが一番好きかな」
お兄さんが選んだのは、エクリチュールで作ったもの。わたしが好きなものと一緒です。お兄さんとクッキーの趣味が近いことに嬉しくなりながら、次は砂糖を変えたものを食べてもらいます。
「味ならこの二つ。食べ慣れていて、落ち着く味だね。食感だとこの二つかな、よりサクッとしていて、美味しいと思う」
選ばれた味は、上白糖と粉砂糖。食感はブドウ糖と粉砂糖でした。わたし自身は、味だけで言えばブドウ糖もかなり好きですが、次作りたいものとなるとエクリチュールと粉砂糖です。
お兄さんにサクサク加減はこのくらいがいいのか、もっとサクッとしたものの方がいいのかを聞いて、もっとと言われたので次の方針は確定です。次のお買い物の時に、エクリチュールを購入しておきましょう。
不採用になった小麦粉や砂糖達は、これから料理をする時に少しずつ使っていきます。フライパンを使って粉物を焼くのもいいかもしれません。
「すみれちゃん、今日はわざわざ僕のために作ってくれてありがとう」
そんなことを考えていると、お兄さんがわたしの頭を撫でてくれました。ふわふわして、幸せになります。朝から頑張ってきたものが、全部報われたように思えます。
この言葉だけで、頭を撫でてくれただけで、また作りたいと思ってしまいました。やっぱり、お兄さんはずるいです。
このレシピ通りにエクリチュール、粉砂糖、カルピスバターを使って作れば作者が作ってるのと同じクッキーができます。八割方実体験です(╹◡╹)