無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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嫌な知らせ(裏2)

 朝起きてお兄さんのお弁当の準備をして、朝ご飯の支度をします。今日の朝はお手軽に、昨日の残りのハンバーグ、と行きたいところですが、お弁当にハンバーグを使ってロコモコ丼風にしているので、そうすると三食ハンバーグになってしまいますので、お野菜たっぷりの野菜炒めにします。味付けが昨日のソースなので、気がついてくれると嬉しいです。

 

 だいたい完成したところでお兄さんを起こしに行くと、寝起きのお兄さんにおはようより先にありがとうと言ってもらえます。ちょっとしたライフハックですね。

 

 ここで朝ごはんの仕上げをして、顔を洗ってきたお兄さんが戻って来るタイミングと配膳の終了を合わせます。

 

 一緒にご飯を食べて、ソースを褒めてくれたことににまにまします。本当は昨日のうちに聞きたかった言葉でしたが、今日であっても問題はありません。お兄さんが出張に行く前にもう一度くらい作っておきましょう。

 

 マヨネーズと中濃ソースをケースに入れてお弁当箱を包めば、お弁当の準備も完了です。あとは少しだけ残っている時間でお話して、お兄さんを見送れば朝のやることは終わり、自由時間に入ります。

 

 とはいえ、昨日までであればこの時間に自分のやりたいことをやっていましたが、今日はそうもいきません。お兄さんがいない2ヶ月の間、瑠璃華さんの家で過ごさなくてはならない訳ですから、その間の準備も必要になりますし、長く家を空けることになるので、念入りにお掃除もしておく必要があります。

 

 瑠璃華さんと会えるのは嬉しいけど、お兄さんと一緒にいれないのはやっぱり辛いなぁと考えながらお掃除を進めて、お昼ご飯を食べ、晩御飯の準備をします。

 

 お兄さんが帰ってきて、一緒に食べて、食休み。2ヶ月の間も家の契約自体は残っていて、なにか忘れ物があったら取りに帰ってこれると教えてくれました。これで、忘れ物をしても大丈夫です。もちろんするつもりはありませんが、したら終わりというのとしても大丈夫というものであれば、気の楽さが全然違います。

 

 お兄さんがシャワーに入っている間に洗い物を済ませて、自分のお布団を敷かずにお兄さんのベッドに座って待ちます。

 

 上がってきて、どうしたのと聞いてくるお兄さんに、そういう気分なのだと、嫌なら避けますと言うと、別に避けなくてもいいと言われたので、横にくっつきます。お兄さんは少しスペースを空けましたが、そこにさらにグイッと寄っていくと諦めたのか逃げなくなりました。

 

 シャワーから上がったばかりのお兄さんに、こんなにくっつくのははしたない気もしますが、寒いことを理由にすればギリギリ許される気もします。許されない気もしますが、その時はその時です。

 

 

 くっつきながらおしゃべりして、お兄さんに一緒にゲームをしてもらって、幸せな時間です。この時間がいつまでも続かないことが悲しいですが、それがわかっているのなら2ヶ月分を耐え切るために、いつもよりたくさんお兄さんを感じておかなくてはいけません。その結果もしかするとより寂しくなるかもしれませんが、その時はその時のわたしが何とかしてくれるでしょう。

 

 

 そろそろ寝るよというお兄さんにはいと返事をして、その場に寝転びます。

 

「お兄さんにしかこんなことはしませんから、大切にするならお兄さんが大切にしてください」

 

 ちょっと真剣な顔をして、自分のことをもっと大事にしなさいと言いかけたお兄さんに、そう被せて黙らせます。今のわたしは悪い子で、わがままな子で、はしたない子です。だから自分がしたいことをするために、お兄さんに対してちょっと生意気なことだって言ってしまいます。

 

 2ヶ月離れている間に寂しくならないように、寂しくなっても大丈夫なように、沢山お兄さんを感じておくのだと伝えて、一緒にいてくれると言ったのに離れなくてはいけないお兄さんの弱い所を突きます。罪悪感を抱えているお兄さんは、こんな言い方をしたらきっと受け入れるしかないからです。

 

 すこし、言い回しがえっちな風に聞こえますが、たぶんそちらの方には取られないでしょう。万が一取られてしまっても、思うところではありませんがよりお兄さんをわたしにずぶずぶにすることに繋がりますし、問題はありません。

 

 落ちないようにとベッドの壁側を譲ってもらって、左腕を抱きしめながら寝ます。一人のお布団よりもずっと暖かくて、お兄さんにベッドを借りた時よりもずっとお兄さんを感じられて、落ち着きます。

 

 

 ゆっくりと意識が溶けていって、深くて幸せな眠りにつけました。

 

 

 

 

 

 そのせいでしょうか、お兄さんが出張に行く日まで何度かベッドにお邪魔しましたが、どの日もお兄さんに起こしてもらうまで起きれませんでした。普段は、目覚ましをかければ携帯のバイブ機能だけで目が覚めるんです。

 

 お兄さんにギリギリまで寝てもらって、しっかりと自分は起きれるようにそうしているのですが、目が覚めないとそれもできません。お兄さんいわく、お兄さんが起きてわたしを起こすまで、とても幸せそうに寝ているとのことですが、結局解決しませんでした。

 

 寝起きにお兄さんが微笑みながらよく眠れたか聞いてくれて、頭をポンポンしてくれるので、わたしの幸せ的にはむしろプラスですが、お兄さんの食事を考えると、解決策を考えておかなくてはなりません。お兄さんが気にしていなさそうなことは不幸中の幸いですが、2ヶ月後までにどうにかしておきましょう。

 

 幸いと言うべきか、出張の出発日である今日はいつもより家を出る時間が遅いため、いつも通りに起きたお兄さんと同じタイミングで起きれば準備は十分に間に合います。

 

 朝ごはんは、ちょっとちゃんと目にご飯と焼き魚。同時並行で、お弁当として持って行ってもらうサンドイッチも用意します。お兄さんの見送りをしてから、お昼すぎくらいにはわたしも家を出るので、一応二人分です。

 

 朝ごはんを済ませて、出張ということもあってしっかりスーツを着ているお兄さんの、ネクタイを締めさせてもらいます。ここで、燐さん、なんて言ったら、まるで新婚さんみたいですね。

 

 自分で考えて自分で恥ずかしくなって、真っ赤になりながらネクタイを結び終えると、お兄さんがありがとうと言ってくれます。

 

 出発する前に、わがままを言ってお兄さんにぎゅってしてもらいます。2ヶ月も会えないから、最後の補給です。ふわっと香るのは、いつものお兄さんの匂いに混ざった防虫剤の匂い。

 

 

「お兄さん、ぜったい、ぜったい帰ってきてくださいね。わたし、まってますから。ちゃんと電話もしますから、無視しちゃやですよ」

 

 嫌いな匂いではありませんが、どうせならいつもの匂いそのままが良かったですね。どうしても我慢できなくなったら、瑠璃華さんの家を抜け出してお兄さんのベッドで寝に来ましょうか。

 

「大丈夫、絶対ちゃんと帰ってくるし、毎日仕事が終わったら連絡もする。すみれからも、ちゃんと連絡してくれると嬉しいな」

 

 この前の時は連絡くれなかったし、と、少しだけいたずらっぽくお兄さんが言います。忙しいかなと思って控えていた前回とは違って、今回はお兄さんが引くギリギリを狙って連絡しましょう。

 

「約束、ですよ。もうお兄さんは一回破ったんだから、次破ったら許しませんからね」

 

 許さない、なんて言っても、意味はありません。許さなかったからといってわたしに何が出来るわけでもないですし、ただちょっと念を押すだけです。けれどお兄さんは、それをわかっていて、それなら絶対守らないとねと言ってくれます。お兄さんのそういうところが、好きです。

 

 約束だと言って、指切りをします。破った時に飲ませるのは、針千本ではなくわたしのわがままです。特に飲んでもらいたいわがままもありませんから、何か考えておきましょう。

 

「お、お兄さんっ!ちょっと待ってください!!」

 

 もうやり残したことはないといった様子で、気合を入れて出発しようとするお兄さんを引き止めます。こちらを向いてもらって、屈んでもらって、おでこにちゅってします。急いで離れて、ドキドキするのを隠します。

 

 これは、家族へのものです。ネットで調べたので、家族にしてもおかしくないことは、わたしも知っています。だから、これはただ、大切なお兄さんに、無事に帰ってきて欲しいという気持ちしかなくて、やましい気持ちなんてちょっとしかなくて、普通の、普通の!!ことなんです。

 

「お、おにいさんが!ぶじにかえってこれるように、おまじないですっ!」

 

 バレていないでしょうか。バレている気がします。バレているでしょう。わたしの気持ちなんて、きっと筒抜けでしょう。恥ずかしくて床下収納に潜りたくなっていると、不意にお兄さんに頭を押えられて、前髪を上げられます。そしておでこに感じた、ちょっと湿っぽい感触。

 

「僕が帰ってくるまで、すみれが無事に過ごせるようにっておまじないだよ。……それじゃあ、いってきます」

 

 理解して、心臓が爆発しそうになります。いたずらっぽく笑って家を出た燐さんに言った、行ってらっしゃいはちゃんと聞こえていたでしょうか。恥ずかしい気持ちを抑えるのにいっぱいで、頭が吹っ飛ぶのに耐えるのが精一杯でした。

 

 

 

 

 気が付くと、玄関は閉まっています。間違いないのは、燐さんがずるくて、わるい人だということでしょう。

 

 真っ赤になった顔を押えながら、わたしは確信しました。

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