無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

63 / 126
■しい■しい?お泊まり会1

 燐さんが出発したのを見送って、まずはキッチンのお片付けです。

 食べたあとの食器を移動させて、うるかしてから洗うのですが……いけませんね。呼び方が悪いのか、頭の中がとってもふわふわして、ピンク色になっています。

 

 燐さんが使っていた食器を見ると、イケナイ衝動が込み上げてきます。抑えなくてはいけないとわかってはいるのに、それを前にすると動きが鈍ってしまいます。頭の中で、それくらいならバレないのだからいいんじゃないかと言う何かがいて、それがわたしを人の道から外れた方に誘導します。

 

 

 ダメです。いくら燐さんのことを近くに感じたいからって、使ったあとの食器に手を出してしまったら、人としての大切なものを失ってしまいます。いえ、そんなものはどうでもいいのですが、バレたら燐さんに気持ち悪いと思われてしまうかもしれません。

 

 それは、ダメです。それだけは、ダメです。自分の奥底からふつふつと沸き上がる感情を、“燐さん”の呼び方と一緒に奥の奥に閉じ込めます。お兄さんに、変な姿を見せるわけにはいきません。お兄さんの前では、わたしはなるべく普通の子でなくてはならないのですから。そしてそれは、お兄さんの見ていないところから心がけなくてはならないのです。

 

 

 何とか洗い物を済ませて、お掃除に移ります。お布団を畳むついでにお兄さんの枕にころんってしようかとも思いましたが、わたしがご飯を用意している間に畳まれていたようで、きれいな状態でした。ひどい話です。

 

 しぶしぶ諦めて、30分くらいにはなってしまいますがお布団を干して、その間に掃除を終わらせます。予め用意していたこともあって、今日やらなくてはいけないことはほとんどないです。

 

 お昼ご飯を食べて、お布団を取り込みます。まだ干したりない気がしますから、今度換気しに来た時に干しなおしましょうか。定期的に空気を入れ替えないとお部屋はダメになると言いますし、そうしましょう。

 

 お泊まりセットと呼ぶには多すぎる荷物を用意して、戸締りの確認をします。窓の鍵はかけましたし、小窓も閉めています。電気も消して、冷蔵庫の中身も使い切りました。メニューは少し無茶をしましたが、突然出張になってしまったせいです。仕方ありません。

 

 家電をコンセントから抜いて、ガスの元栓もしっかり閉めます。ブレーカーも落としておいた方がいいのかなと思いましたが、流石にそこまでする必要はないでしょうか。

 

 外出前のやることリストに全部チェックがついていることを確認して、荷物を持ちます。前回の3日分とは違って、一時的にとはいえ生活拠点を移すわけですから、荷物の量も多いです。前回使ったものはお兄さんの出張で必要になったので、今回は瑠璃華さんのカバンをお借りしています。

 

 お家の鍵を閉めて、電車に乗ります。実は一人で電車に乗るのは初めてですが、手順は覚えていますし、お金もちゃんと持っていますから問題はないです。荷物が重たくて移動するのが大変なのは、問題と言えば問題かもしれませんが、まあ仕方の無いことでしょう。

 

 

 瑠璃華さんのマンションについて、部屋の番号を押してピンポンします。ちょっと気の抜ける音で、かわいいです。数秒してから、瑠璃華さんが応答してくれます。予めこれから向かうことを伝え、家にいるかの確認をしているため、瑠璃華さんが意地悪をしていなければいないということも入れ違いになることもありません。

 

 

「すみれちゃんいらっしゃいっ!随分と大荷物ですねぇ」

 

 どうぞどうぞ、洗面所はあっちですよーと言いながら、瑠璃華さんは迎えてくれて、荷物を運んでくれます。自分で運べますが、なんというか、悪くない気分です。くすぐったくてちょっと嬉しくて、むずむずします。普段わたしがカバンを受け取っている時、お兄さんもこんな気持ちなのでしょうか。そうだとしたら、帰ってきてからも続けなくてはいけませんね。

 

「首を長ーくしながら待ってたんですよ。すみれちゃん、ご飯は食べてきたんでしたっけ?」

 

 リビングに入るとすぐさま座らされて、目の前にお菓子が運ばれてきます。ご飯を食べたばかりなのでお腹は空いていないと言いましたが、どうぞどうぞと勧められてしまいます。

 

「この2ヶ月の間に、すみれちゃんを3キロは肥えさせることが、私の使命です。先輩の元に出……こほんっ、返すころには、ちょっとつまめるくらいにはお肉をつけてみせます」

 

 すみれちゃんは痩せすぎなんです!と熱弁する瑠璃華さん。ところで、どうやらわたしは出荷されるらしいです。自覚がないだけで、実は子豚さんだったのでしょうか。ぶぅー。

 

 せっかく貰ったのに手をつけないのも失礼になってしまうでしょうから、立派なぶたさんへの一歩を食みしめます。しっとり柔らかタイプのクッキーで、わたしの理想とは異なりますがこれもひとつの完成品でしょう。わたしの作った、包丁で切り分けただけのものとは違って、チェス盤のように色分けされていたり、ぐるぐるの渦巻き模様になっていたりしています。茶色の部分はココアの味です。

 

 どうやって作ったのかを聞いてみると、アイスボックスクッキーという作り方を教えてくれました。太巻きのように巻くことで、金太郎飴みたいに同じものを作れるそうです。模様が崩れないように一度冷凍して固めてから切るのが特徴だとか。金太郎飴が何なのかはわかりませんでしたが、太巻きのようなものと言うことであれば検討がつきます。そんな作り方があったなんて、目からウロコです。

 

 甘いバニラの香りと、ほの苦いココアの味を同時に楽しめるという、魅惑の一品にぶたさんゲージを貯められます。気が付くと、それなりに量があったはずのクッキーは半分まで減っていて、わたしのお腹はいっぱいになっていました。出荷まで一直線です。

 

 

 このままではまずいと思い、ソファから立ち上がります。わたしを肥えさせると宣言した瑠璃華さんは嬉しそうににこにこしながら見ていましたし、もっと食べていいんですよーなんて言ってくれますが、このままではいけません。

 

「瑠璃華さん、晩御飯、晩御飯の準備をさせてください!」

 

 このままだと、栄養バランスが壊滅します。一般的な女の子は気にするらしい体重に関しては、お兄さんに嫌われない限りどうでもいいので気にしませんが、健康は別です。こんなふうにおなかいっぱいになるまでお菓子を食べて、朝ごはんやお昼ご飯も以前のお泊まり会と同じであれば、体がボロボロになってしまいます。

 

 

 何とか、キッチンは確保しなくてはなりません。二ヶ月もお世話になるのだから当たり前程度の家事はやろうと決めていましたが、その中でも特にキッチンは手放せません。

 

 今日くらいは出前でいいじゃないですかと甘言を囁く瑠璃華さんに、たくさんお願いをして何とかご飯を作らせてもらいます。ついでに、食材を買いに行くのに必要だろうからと合鍵やお財布も預かります。

 

「すみれちゃんなら大丈夫だと思いますが、レシートはちゃんともらってきてくださいね。無駄遣いとか、お釣りをポッケに入れちゃったりはメッ!ですよ」

 

 もちろんそんなことをするつもりは無いので、問題ありません。スーパーの場所もわからないでしょうし、今日は一緒に行きましょうと言う瑠璃華さんと一緒におうちを出て、一番近いというスーパーに向かいます。わたしの家よりも駅に近いためか、とても近いところにスーパーがありました。24時間営業で、とっても便利なスーパーでしたが、いつものところよりは少し狭くて品数も少ないですね。

 

 とはいえ商品の価格自体はそれほど変わらないので、あまり差を感じることはなさそうです。痒いところに手が届かない可能性はありますが、その時は使うものを変えましょう。

 

 

 寒い外に出てからメニューを考えたせいで、温まれてお手軽な鍋にしようと決まって、それに合わせた食材を買います。たっぷりのお野菜と、お野菜と、お野菜です。お肉はクッキーの脂肪分が気になるので、さっぱりとした鶏胸肉。鶏肉を使っていることですし、ベースは鶏がらスープと塩でいいでしょう。

 

 こっそりと買い物かごの中にお菓子を忍ばせる瑠璃華さんに、メッ!ってしながらお買い物を続けます。お金の出処は瑠璃華さんなので、わたしが止めるのもおかしな話だとは思いますが、瑠璃華さんが言うにはこれも様式美らしいです。バレずにお菓子をカゴに入れたら勝ちだとか。

 

 私がメッ!ってしたかったのにと不満そうにしていた瑠璃華さんですが、実際に始めると楽しそうにしていましたし、わたしもちょっと楽しいです。不思議な感覚ですが、お姉ちゃんがいたらこんな感じだったのかなと、少しだけそう思いました。




カクヨムに追いつきました(╹◡╹)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。