無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい 作:エテンジオール
お鍋を食べて終わった一日目、一緒にパウンドケーキを作った二日目と過ごして、平和な時間が過ぎます。今日は瑠璃華さんがお仕事の日なので、会社に向かう瑠璃華さんを見送ったら、お掃除の時間です。
とはいえ、わたしを迎えるために大掃除まで済ませたと言っていただけあり、隅から隅まで片付いていますし、わたしができることなんてお布団を干してポカポカのふかふかにしておくことくらいです。せっかく、鍵のかかった引き出し以外は好きなように見て、掃除していいよと言われてるのに張合いがありませんね。
そういえば、鍵のかかった引き出しと言えばですが、お兄さんはわたしに対して隠し事とかもしていませんし、普通の男の人なら多少持っているらしいコレクションも見かけたことがありません。どこかわたしがわからないところに隠している可能性もないわけではありませんが、少なくとも家の中でものをしまえそうな場所は全部お片付けした自信があります。
そうなるとお兄さんは現物を持たずにデータだけで楽しむタイプなのでしょうか。それだと調査が難しいので避けてほしいところですが、実際にものが上がってきていない以上、その可能性は高いです。
瑠璃華さんが隠しているものが、そういうものだと決まったわけではありませんが、少なくともお兄さんはそういうものを隠していませんね。隠していてくれればもっと簡単に誘惑できるのですが、難儀なものです。
一応容易くお兄さんが色に負けてわたしを追い出さない保証になっているのは、不幸中の幸いでしょうか。そう考えればいいことですが、わたしに発情してくれないということはそれなりに危険性を孕むことですので、わたしとしては避けて欲しいところであります。
お兄さんがロリコンさんであれば、こんなに信用することは無かったのに、いざ信用してしまうと、お兄さんがロリコンさんだったら良かったのにと思ってしまうのは人の不具合でしょうか。
早速やることがなくなってしまったので、家から持ってきた毛糸を編みながら時間を潰して、お昼を待ちます。トーストを1枚食べて、思い出したのはお風呂掃除です。
毎日湯船に浸かる習慣がある瑠璃華さんのお家では、毎日浴槽を洗わなくてはいけません。毎日張り替えるのはお水がもったいない気もしますが、瑠璃華さんにとっては譲れないことらしいです。
洗って、お湯張りのボタンを押したらやることは終わります。ボタン一つで適切な量までお湯を入れてくれるのは、とても便利ですね。家でお湯を入れる時は、自分でお湯を止めないと溢れてしまうので気が抜けませんが、これであればそんな心配もいりません。
食材の買い物に行って、いつも通り作り始めようと思ったところで、ふと瑠璃華さんの要望を思い出します。家に帰ってきたら、ご飯よりも先にお風呂に入りたいというものです。
いつもの癖で作り始めそうになってしまいましたが、危ないところでしたね。今作り始めてしまうと、帰ってくる頃に完成してしまいます。そうすると、食べる頃には冷めてしまうでしょう。
またせずご飯を用意するのは諦めて、お風呂上がりにちょっと時間を置いてからご飯を食べてもらうことにしましょう。
それに合わせて少し遅めに、下ごしらえを済ませます。スープは温め直すことにして、おひたしは常温でもいいでしょう。あとはメインを焼くだけにして準備はOKです。
帰ってきた瑠璃華さんと一緒にお風呂に入って、毎度のように顔をむにむにされます。反応が面白いからと言って脇腹をくすぐるのは、ちょっとやめてほしいです。
半分くらいのぼせた瑠璃華さんがソファで放熱している間に料理を済ませてしまい、復活した瑠璃華さんとご飯を食べます。
お兄さんに晩御飯の写真と、お兄さんもちゃんとご飯を食べてくださいねのメッセージを送って、返信を楽しみに待ちます。時差を考えると、お兄さんの仕事が終わるのは明日の朝頃。今頃はお仕事始めの時間でしょうか。もしかすると朝ごはんを食べている途中かもしれません。
そんなことを考えながら食べ終わり、お兄さんから届いた、寝坊してご飯食べ逃したからお腹空いたというメッセージを見ます。しばらくはわたしがお兄さんを起こすか、ご飯の匂いで自然と起きるかのどちらかでしたので、そのどちらもない環境になってしまうと起きるのも難しいところがあるのでしょう。
明日からはちゃんと朝ごはんを食べてくださいねと送って、瑠璃華さんと話しながらようやくご飯に集中できて、一緒に横になります。すぐ横に感じる人肌の温もりは、とっても安心できて落ち着くものです。
これになれてしまったら、うちに帰ってからもお兄さんに同衾を迫ることになりかねないと反省しながらも、すぐ近くにある温かくて柔らかな誘惑に負けて眠ってしまいます。……おうちからわたしのお布団を持ってきた方がいいかもしれませんね。
朝になって起きて、そのことを瑠璃華さんに相談すると、すっごくしぶしぶといった様子で取りについてきてくれることになりました。わたし一人で運べればよかったのですが、お兄さん曰くそこそこ立派なお値段がするお布団ですから、抱えて電車に乗って運ぶのは難しいです。
私と一緒に寝ればいいじゃないですか、誰かと一緒じゃないと寝れなくなったっていいじゃないですか、なんならずっとここにいてくれてもいいんですよと主張する瑠璃華さんを説得するのは大変でしたが、車を出してくれることになったので解決です。
明け方頃に届いていたお兄さんからのメッセージに返信をして、瑠璃華さんを送り出します。コンロが二口あると、朝の準備が楽でいいですね。お弁当も作らなくていいと言われているため、間違いなく普段より楽なのですが、早速少し物足りません。
『もしもし、すみれ?』
お兄さんにメッセージを送って、暇かを確認します。暇で、家にいるとの事なので、声が聞きたいと言って電話をかけると、すぐに出てくれました。
「お兄さん、おはようございます。突然わがまま言っちゃってごめんなさい」
大した要件はありません。本当にただ、声が聞きたかっただけです。話したかっただけです。作業しながらで良ければいくらでも付き合うと言ってくれたお兄さんに甘えて、おしゃべりをします。わたしの方からは、何のご飯を食べたのかとか、週末にお布団を取りに行くこととか、そんなことばかりです。
それほど面白い話でも、目新しい話でもないのですが、お兄さんはちゃんと聞いてくれます。そして、お兄さんの方の話もしてくれます。食べ物の値段が違ったり、味付けが慣れないものだったり、普段使わない言葉しか聞かないから慣れなかったり。
仕事で、外部に話さない方がいいこと以外はなんでも教えてくれます。途中お兄さんのタイピングの音を聞くだけの時間を挟みながら一時間半ほど通話を続けて、これ以上は明日に響きかねないからと言われて終わります。
ちょっと寂しいですが、大満足です。また明日も電話をしたいですが、毎日するようでは迷惑になってしまうでしょうから、程々に控えなくてはなりませんね。