無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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 短編書こうとしたら思ってたものが書けなかったので帰ってきました(╹◡╹)

 思考が子供っぽくないのは回想だからです(╹◡╹)


閑話 幼い“悪意”の発露

 

 私が自分のおかしさを自覚したのは、幼稚園に入った頃だった。外で遊ぶのが、虫を取ったりするのが好きだった私は、積み木やお絵描き、絵本やかけっこなんかには興味を示さず、園庭で捕まえた虫で遊んでいた。

 

 巣の近くにいる蟻をさらって、離れたところに移動させて迷子になっている様を観察してみたり、折り紙で作ったはこの中に閉じ込めた虫が、どれだけの間元気に暴れているかを調べてみたり。

 

 良くも悪くも、知的好奇心が旺盛な子供だったのだ。一つ問題があったのは、少々共感性の発達が遅れていたこと。

 

 トンボの羽を毟って、飛べなくなった子がどうやって移動するのかを調べていたら、周りの男の子たちが騒いで、先生を呼ばれた。

 

「トンボさんがかわいそうだから、もうこんなことはしちゃダメだよ」

 

 優しくたしなめてくれた先生に、ようやく悪いことなのだと気が付いた。たしかに、生き延びるための術を奪われたトンボは、このままだと無抵抗に命を奪われることになる。

 

 なるほどそれは良くないことだ。自然に動けないのはかわいそうだし、この先に不安が残るのもかわいそうだろう。そう思った私は、手元にいた毟られたトンボを、大きなクモの巣に投げた。

 

 せっかく生まれてきたのだから、私が楽に終わらせて無に帰すのも忍びない。どこかに命を繋ぐべきだと思って、一番手っ取り早くて確実な蜘蛛の餌という道を選んだ。

 

 かわいそうなものをなるべく自然に返してあげようという私の想いは、受け入れて貰えなかったらしく、先生からはおかしなものを見るような目で見られた。

 

 

 次に問題が起きたのは、交尾しているカマキリを捕まえて、その雄が逃げないように腹の先から雌に食べさせた時だった。

 

 カマキリの共食いは、自然なことだ。私はただその手伝いをしていただけなのに、こういう()()()()()はしてはいけないのだと怒られた。

 

 帰り道を失って、彷徨う蟻がかわいかった。ずっと暴れていた虫が動かなくなって、でも突っつくとまた元気になるのが好きだった。足が残っているのに、突っつかれても掴まれても、お腹をぷにぷにされても逃げようとしないトンボが愛おしかった。食べられて子供のための栄養になるカマキリは、とても素敵だと思った。

 

 

 私は、ただ純粋に、自分の好きな姿を見たかっただけだった。自分が見たいと思うものを見て、その姿に愛おしさを感じているだけだった。

 

 何も、悪いことがしたかったわけではない。酷いことをしたかったわけでもない。ただ、私がやりたいと思ったことが、他の人にとっては残酷だと言われることだった。

 

 

「あのね、瑠璃ちゃん。虫さんと遊ぶの、これからはしないでほしいの。瑠璃ちゃんが虫さんと遊ぶの好きなのは知ってるんだけど、お母さんたちのおねがい、聞いてくれるかな?」

 

 今でこそわかる事だが、おそらく私の行動に危機感を持ったらしい先生が両親に連絡を入れたのだろう。カマキリの件から数日経って、私は両親と一つ約束をすることになった。

 

 虫と遊んではいけない。虫で遊んではいけない。自分で言うのも恥ずかしいが、周りの子供たちよりは比較的聡明であっただろう私は、それが()()()()で、けれども見られなければ問題ないことを理解した。

 

「……うんっ!おかあさんがいうなら、もうむしさんとはあそばないねっ」

 

 ただし、お母さんに伝わるような状態では。

 

 私は虫で遊ぶのが好きだった。ほかの遊びよりもずっと、それを楽しむことができてしまった。だからこそ、()()()()だとわかっていても、すぐさまそれをやめるということは考えられなかった。ダメだと言われていることが、良くないことだとはわかっていたのに、それをやめようとは思えなかった。

 

 バレなければ、好きなようにしていいのだ。胸の奥のこの衝動を、晴らして、満たしてもいいのだ。

 

 

 お母さんに対して、罪悪感はあった。きっと私の初めての嘘に、何も感じないような教育は施されていなかった。

 

 でも、その罪悪感と、実際に隠れて虫で遊ぶ背徳感、遊ぶことによる楽しさは、きっと私の人格形成に大きな影響を与えたのだろう。

 

 罪悪感が苦しかった。背徳感が辛かった。なのにそんな心を踏みにじるように、()()()()()()()()()()()をするのは、たまらない快楽だった。

 

 

 先生に、ほかの園児に、見つからないようにしながらこっそり虫で遊び続けた。バレなければ怒られることがないのだから、やりたいようにやれるのだから、やらない理由は……あるにはあるが、それは私を抑えるには弱いものだった。

 

 表では、幼稚園の先生や周りにいる園児たちの前では、上手に普通の園児であれたはずだ。自分のズレているところがわかればこそ、そこの細かいずれを修正することは出来た。周りに合わせて、振る舞うことは出来ていた。

 

 自画自賛するのであれば、そこまでの修正を、半ば感覚的とはいえ周囲にバレることなくできていた私の才能だろうか。

 

 ギリギリの、卒園ギリギリのタイミングまでは、しっかりとそれを隠し通すことが出来て、けれども偶然見つけた小鳥で遊んだことで、それが見つかってしまったことで、私はここにはいれなくなった。ここにこのままいたら周囲からまともな扱いを受けられなくなるという、お父さんの予想によって、小学校に入る前にこれまでの人間関係が一新された。

 

 

 

 新しい家、新しい土地。そして両親との新しい関わり方。両親は、私のことをおかしな子供としてみるようになった。けれども距離をとるのではなく、愛してくれた。

 

 この引越し自体も、その現れだろう。私のことを心配してくれたからこそ、いじめの可能性を考えてくれたからこそ、少なくとも中学生になるまでは知り合いに会うことがないであろう隣町まで引っ越してくれたのだ。当時はそこまで考えられなかったけれども、今であればその意図は理解できる。

 

 

「よーく聞いてね、瑠璃ちゃん。自分がされたら嫌なことは、他のものにもしちゃいけないの。他の人が嫌がっていたら、それもしちゃいけないの」

 

 そうしないと、周りの人と仲良くできないのだと、お母さんは教えてくれた。普通の子供になれとは言わず、普通の子供に擬態する方法を教えてくれた。周囲から排斥されない方法を教えてくれた。周りに悟られない範囲なら、虫で遊ぶことも許容してくれた。

 

 両親のことは好きだったから、私の遊びを許してくれるなら、わざわざ反抗する必要もつもりもない。お母さんに教えてもらった普通を自分に塗りつけて、問題ないと判断されて学校に行くことになった。

 

 お母さんが心配したことにならないか、せっかく練習した普通をちゃんとできるのか心配になりながら、小学校まで手を引かれて歩く。少ししたら一人で行かないといけなくなるから、ちゃんと道を覚えてねと言われながら、着いた小学校。

 

 お母さんが大人の人と話して、私はお姉さんに引き渡された。そのまま手を引かれて、連れて行かれたのは教室。

 

 明らかに不安そうにしている大部分と、多少緊張しつつも何か考えていそうな者。そして、見るからに何も考えていない、頭の中のお花畑が見える子。

 

 

 はいおかまり。灰岡茉莉。出席番号順に並べられて、偶然隣の席になったこの子は、初対面でも分かるほどの愛嬌こそあれど、お花畑なタイプだった。本人自身に悪意や悪い考えが無い分、付き合う上で気をつける必要のない、()な友人であった。

 

 そこまでわかっていれば、私が人間関係の構築を躊躇う理由はない。純粋な存在を挟むことで、自分への警戒を下げられることは、お母さんからも教わっていた。可能であれば、そのような存在を見つけて仲良くなり、利用するべきだと教わっていた。

 

 

 

 つくづく、子供に教えるような内容では無いと思うが、お母さんに教えてもらったその動きはどれもこれもが正しかった。

 

 

 私はきっとほとんどの人に違和感を持たれることなく過ごしているだろう。全くもって普通とは言えないが、行動だけは良識の範囲内に収めておいたのだ。

 

 

 問題があるとすれば、この茉莉ちゃんと仲良くなりすぎた、悪い言い方をすれば無駄に懐かれすぎたことで、虫で遊ぶ時間が取れなかったことだろうか。とはいえ、それが楽しいからずっとやっていただけで、やらないと死んでしまうわけではない。

 

 毎日聞かされる“お兄ちゃん”の話。すごく優しいとか、頼りになるとか、子供の貧困な語彙力で繰り返される褒め言葉。こんな、人の善性しか見てこなかったような子がここまで褒めるなんて、どれだけのお人好しなのだろうと興味を持った。

 

 興味のあるものの話というのは、聞いていて楽しいものだ。ちゃんと聞いて、覚えていて、同じことを話していても嫌がらない。それだけで、茉莉ちゃんは私と好んで話すようになったのだ。

 

 

 数日もしないうちに仲のいい“お友達”になって、入学から一週間もする頃にはお家にお呼ばれされた。

 

 同年代の子供、というよりも虫や小鳥以外と遊ぶのは初めてのことで、何をすればいいのかお母さんに相談したりしてから向かった、茉莉ちゃんの家。

 

 

 茉莉ちゃんに手を引かれながら入ったその一軒家で、私は()()に出会った。




胸糞タグについてですが、最初からつけるつもりがあった訳ではなく、感想を見てつけることを決めました。誤解されるような返信だったので、ここで弁明します。
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