無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい 作:エテンジオール
茉莉ちゃんの家に行って、一緒に登校する。家がそれほど離れていないことと、茉莉ちゃんと話すのが好きなこと、1年半前までは毎朝お兄さんと一緒にいられたこともあって、習慣になったことだ。
「じゃあ僕はこっちだから。二人とも、勉強頑張ってね」
向かう場所が違うから、お兄さんとは途中で別れる。毎日とは行かないが、週に1、2回くらいの頻度でこうして一緒にいられることもまた、迎えに行き続けている理由である。今日は当たりだった。
当たりじゃなかったとしてもガッカリするとかは無いのだけれども、当たりであれば特段嬉しくなってしまう。だって、私はお兄さんのことが好きなのだから。好きな人のすぐそばにいられて、テンションが上がらない乙女はいないだろう。
朝からいいことがあったので、少しテンションが高くなりながら学校についた。
茉莉ちゃんは、小学校のクラスの中で、マスコットみたいな立ち位置だ。純粋で、優しくて、かわいい存在。積極的に茉莉ちゃんを嫌うような人なんていないような、みんなに好かれるような子だ。
その中で、そんな風潮の中で、私の立ち位置は茉莉ちゃんの親友で、でもけっして積極的に周囲と仲良くしない、どこか距離を取られるようなものだった。実際に、私がちゃんと友達と呼べるような相手は茉莉ちゃんしかいなかったし、それ以外の友人たちについてはとっても浅いところでのやり取りだけだった。
いや、私の性質を考えれば、その浅いやり取りこそが普通で、茉莉ちゃんのことを特別視している現状の方がおかしかったのだろう。
ともあれ、茉莉ちゃんと、浅い付き合いをしていた4人、ついでに私で、ひとつのグループを作ることには成功した。
浅い付き合いの内の4人、その内で積極性がある方の3人が様々な理由で私に弱みを握られていて、逆らうことが出来ない者共ということを除けば、どこにでもあるような仲良しグループだ。
明らかな弱みと、それを握っている私。その一部が、周囲に知られてしまえばこの先まともに過ごせなくなるようなものであることを鑑みれば、仲良しグループの半分は、私に忖度して従うだけの者共である。
残りの一人も流されやすく、周りがやれと言えばなんでもやってしまいそうな子なので、多数決で考えてもこのグループは私のものだ。この子もどこかそれを察しているようで、私に逆らうことはない。
このABCとDを上手に使って、茉莉ちゃんをいじめる。けっして命令することなく、彼女らが私に忖度して、勝手にいじめるように仕向ける。
どのようにやればいいのか迷ったが、なんてことはなかった。私がちょっと茉莉ちゃんの愚痴を言ったら、それだけで勝手に行動してくれたのだ。最初はきっと、ただの善意。でも、それが悪意になるまでに一年もかからなかった。
AもBもCも、あまりいい子ではなかったから、次第に楽しくなってきてしまったのだろう。そもそもが犯罪行為を私に握られて従っていたような子達だ。茉莉ちゃんのような純粋で天然でかわいい子は気に食わなかったのだろう。
私に隠れて茉莉ちゃんをいじめていた。本人たちはバレていないつもりらしいが、当然バレバレである。まだ、ちょっと意地悪されてる程度の認識の茉莉ちゃんが、困ったようにしているのが愛おしい。
中学校に上がって、私と茉莉ちゃんが別のクラスになったこともあってか、いじめは少しずつ酷くなっていく。陰口、悪口、仲間外れに始まって、少しすると物隠しや足掛けなどにも以降した。
この頃になると、ABCたちは私に対する忖度、私が愚痴を言っていたから茉莉ちゃんに文句を言うという理由ではなく、ただただ自分たちが楽しむためだけに茉莉ちゃんに酷いことをするようになっていた。おまけに最初から流されやすかったDは、天然物ではないが故の遠慮のなさというか、歯止めの効かなさを見せており、少々過激なこともやり始めていた。その辺のバランスを取るのは手間だったが、まあ、決行するタイミングで私が茉莉ちゃんの元にいれば阻止できるので問題は無い。
「昨日は茉莉ちゃん忙しかったんだよね?一緒に遊びたかったのに残念だなぁ」
中学校からの帰り道。いつも通り待ち合わせをして、茉莉ちゃんと帰る。茉莉ちゃんにとっては唯一、絶対いじめが起きない貴重な時間だ。そんな中で私が話題に挙げたのは、忙しかったという名目で茉莉ちゃんがハブられた前日のこと。
「う、うん。どうしても買わないといけないものがあって。ごめんね」
実際は誘われてもいなかっただろうに、咄嗟にそれっぽい理由を捻り出せたのは、茉莉ちゃんの優しさだろうか。
当然、こんなのは取ってつけた嘘だ。だって、A達は誘ったら断られたなんて言っていたけれども、私の茉莉ちゃんが私に何も言わずに断るわけがない。何も言わなかったとしても、今日の朝に謝ってこないわけがないのだ。
「……瑠璃ちゃん、あのね」
だから、用事があったというのは嘘。それを素直に言えなかったのは、言うなと脅されているからか、客観的に見た私の平穏を守ろうとしているのか。
「どうしたの?茉莉ちゃん」
私の想像と推察でしかないが、おそらく後者だ。脅しまでするのであれば、何も言うなではなく表面上誘った上で断れと言う方が確実だろうし、私ならそうする。
「ううん、やっぱりなんでもない」
いじめのことを相談したそうにしながらも、相談してしまえば“仲良しグループ”が壊れてしまうことはわかっているのだろう。5人で遊びに行くなど、私は表面上仲がいいアピールもしている。そのうえで、彼女らと茉莉ちゃんを比べたら、私は茉莉ちゃんを選ぶこともわかっているのだろう。
だから、私のために何も言えなくなってしまう。自分だけが我慢すればいいからと、抱え込んでしまう。
「なにー?気になっちゃうじゃん」
これだから、この兄妹は愛おしいのだ。バレバレなのにバレていない気で、とってもいじらしい。燐さんを壊すためにいじめている茉莉ちゃんも、こんなにかわいいと趣旨を忘れそうになってしまう。
「本当になんでもないの。ごめんね」
こんな、誤魔化しとも言えないような誤魔化しが通用すると考えるのなんて、よっぽど頭の中がお花畑でないといけない。そして茉莉ちゃんは、間違いなくお花畑なタイプだ。全て想定している上で、それに乗っかっている私でなければ誤魔化されないような雑なごまかしを本気でするような子だ。
その愚かさが、鈍さが、たまらなく愛おしい。