無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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閑話 ある“悪意”の暗躍2

 茉莉ちゃんはしっかりいじめられている。物を隠され、足をかけられ、水もかけられる。どうしてお兄さんが気付かないのかが不思議なレベルで、どうして私が気付いていないのか周りから怪しまれるレベルだ。

 

 今の私は、周囲から見たら結構な間抜けだろう。一番大切にしている友達が、虐められているのに、それに気付かずいじめっ子側とも仲良くしているのだから、そう見られて当然だ。

 

 お兄さんや茉莉ちゃんと同じくらいのお花畑認定は少し癪だが、そう思われている方が好都合な以上、受け入れるしかない。

 

 

 

 髪についたガムテープを何とか取ろうと頑張っている茉莉ちゃんを助けてから、一緒に帰る。どうしてこの子は、お昼寝してたらガムテープにダイブした、なんて適当すぎる理由で人を騙せると思っているのだろうか。

 

 少なくとも私にとっては、茉莉ちゃんがABCD達に虐められているのはわかりきったことだし、茉莉ちゃんのする言い訳やごまかしなんてものは、茉莉ちゃんと、お兄さんくらいしか騙せないような幼稚なものだ。

 

 

 それで誤魔化せると思わせてしまったのは私の失敗かもしれない。茉莉ちゃんが私にとって都合のいい解釈をする度に、それにある程度合わせてきたのは事実だ。お兄さんの解釈もしかり。私を騙すという成功体験のせいで、灰岡兄妹には分不相応な自信を持たせてしまっているかもしれない。

 

 

「瑠璃ちゃん、取ってくれてありがとう」

 

 見えなかったから取るのが大変だったのだとこぼす茉莉ちゃんに対して、そのお礼に答えることは簡単なことだ。そのままの意味として捉えて、どういたしましてと伝えればいい。

 

 

「茉莉ちゃんってば、もう同じことしちゃダメだよ?」

 

 

 茉莉ちゃんの認識に合わせて、ガムテープを外す。友達として、茉莉ちゃんのドジを笑いながら注意する。自然な光景だろう。これを見て、私が茉莉ちゃんがいじめられることを望んでいると思う人はいないはずだ。

 

 

 

 今日はこのまま家まで遊びに行って、お泊まり会をする。学校帰りに泊まりとなると、普通であれば学校に余計な荷物を持っていくことになり、指導される。ところが、二人の両親はかなり私を気に入ってくれているらしく、私のお泊まりセットが一通り灰岡家に常備されているので、このまま向かっても問題は無いのだ。

 

 私に対して向けられているその優しさを、3分の1でもお兄さんに向けていれば、この家族は真に幸せな家庭になれたのになと考えつつ、でもそうなると燐さんは私が好きな燐さんとは違ってしまうので、これで良かったと思う。

 

 

 

 私の求めるものをすぐ近所に用意してくれたおじさんとおばさんへの感謝を感じつつ家にお邪魔して、茉莉ちゃんと二人の時間を過ごす。

 

 

 内容はおしゃべりだったり、勉強だったりと多少ばらつきがあるが、ここまでに関してはまあ、予想の範囲内だ。途中帰ってきたお兄さんに、私の苦手な科目を教えてもらったことが収穫と言えば収穫だろうか。

 

 

 この先の受験の結果は、私はおそらく問題なくお兄さんと同じ学校に受かるだろう。問題は、ブラコンを拗らせて学力スレスレの所を志望している茉莉ちゃんだ。

 

 今この時期であればまだどうにでもできるだろうが、かなり優秀なお兄さんや、それよりも頭の回る私と比べて、茉莉ちゃんは決して頭が回る方ではなかった。

 

 当然、一番の友達としては茉莉ちゃんの応援はしたいし、余裕で受かりそうな身としてはその手伝いをするのは当然とも言える。というか、茉莉ちゃんが別の学校に通うなんてことになったら、私としては大失敗だ。

 

 せっかくここまで丁寧に育ててきた茉莉ちゃんが、私の元から離れてしまったら、これまでの努力が水の泡になってしまう。

 

 

 だから私が教えるのにもそれなりに熱は入るし、茉莉ちゃんのためには時間も惜しまない。もちろん遊ぶ時はちゃんと遊ぶし、勉強だけではないが、それもあって灰岡家からの信頼はいくらでも高まっていく。

 

 

 信頼が得られて、茉莉ちゃんの学力が上がって、お兄さん成分も補給できる。一見誰にとってもそんがない、Winだけの関係に見えるが、実は一人だけ損をしている人がいた。

 

 

 それは、何を隠そう燐さんだ。

 

 私の長年の観察から、燐さんが暴力を振るわれているのは、まず間違いないし、手を出しているのも9割9分9厘おじさんだろう。動機はわからないが、おじさんにストレスが溜まってそうな日の翌日には暴行の痕跡があったことから、ストレスの発散の可能性が高い。

 

 そしてストレスを溜め込む気質と、私や茉莉ちゃんの前では我慢している事実。これらから、私がお泊まりをした日の翌日に、かなりの高確率で燐さんが暴行を受けることがわかる。

 

 

 つまり、私が遊びに行くとお兄さんが苦しむのだ。それなのに私のことを邪険にするでもなく、暖かく迎えて優しくしてくれる。こんな燐さんがこの後暴行を受けると考えると、少し興奮する。

 

 

 

 

 それから何度か同じような日々を過ごして、次第に茉莉ちゃんは学力が上がっていった。それに合わせて、ストレスを持て余すようになったABCDによるいじめも悪化していったが、勉強に集中している茉莉ちゃんはあまり気にすることなく、4人はそれにいらついた様子でいた。

 

 

 

「瑠璃ちゃん!!!合格っ!!!わたし、合格したよ!!!!」

 

 そんな状況で勉強を続けて、茉莉ちゃんはめでたく、と言うべきか、無事に、と言うべきか、第一志望であるお兄さんの通っている高校に受かることが出来た。

 

 私の手を握って、ぴょんぴょんしながら喜びを顕にする茉莉ちゃんを、よく頑張ったねと褒めながら合格者手続きのために移動する。当然のように私も受かっていたため、一緒に行動する。

 

 

 心底嬉しそうに、安心しきった様子で家族に連絡する茉莉ちゃんを連れて学校まで戻り、浮かれっぱなしなこの子を家まで送る。このまま一人にすると、なにかしでかしそうで心配だからだ。

 

 

 無事に連れて帰って、おばさんとお兄さんと一緒に茉莉ちゃんをもみくちゃにする。合格おめでとうと、よく頑張ったねと、心配したんだからねの気持ちを込めて、茉莉ちゃんの髪形や服装が崩れるまで撫で回す。

 

 誤解を避けるために述べておくと、髪形がお兄さん、服装が私とおばさんだ。かなりシスコンを拗らせているお兄さんも、さすがに年頃の少女の体をまさぐったりしない。むしろ、そんなことをする人であれば百年の恋も冷めるというものだ。

 

 

 ちょっとくたっとした様子の茉莉ちゃんを主役にして、沢山お祝いをした。きっとこのあとメインで待ち構えているであろう家族だけのお祝いには全く届かないものの、つなぎのお祝いとしては十分なほどのおめでとうを伝えられただろう。

 

 

 茉莉ちゃんに与えられるお祝いの言葉と、私に向けられる、やっぱり受かった、受かって当然という、納得の言葉。

 

 結果だけ見れば、同じのはずだ。なのに、茉莉ちゃんは私を含めて誰からも祝われて、私はそうあって当然だと、自分自身からも、両親からも流された。誰も、私の合格を疑っていなかった。誰も、私のことを褒めてくれはしなかった。

 

 いや、私が受かるのは自明だったことは、間違いのない事だ。誰から見ても受かって当然の人間が受かっただけのこと。それに対して、無為な褒め言葉を重ねろというのもそれはまた無茶なものであり、出てきたとしてもそれは上辺っ面だけのものになるだろう。

 

 

 そんなことを考えながら一人布団に入って、何故か少しむしゃくしゃしたので、茉莉ちゃんに曇って貰うことにした。まだする必要がなかったことだけれど、少し早めて壊してしまおうと思った。

 

 遊びに行って、泊まりに行って、おじさんがストレスを貯めていそうな日。その日を選んで、私は茉莉ちゃんをお出かけに誘った。お兄さんは置いていって、私と茉莉ちゃんの2人だけのお出かけ。少しだけ遠いから、お財布が必要なお出かけで、私は意図的に茉莉ちゃんの荷物から財布を抜き取って、いつも置いてある机のところに戻しておいた。

 

 

 ただの忘れ物。家に帰って、ただいまと言って、持って出ればすむだけのことだ。それなのに、茉莉ちゃんは出たばかりの家にすぐ戻ることを、恥ずかしいことだと思ってしまった。そう思うように、私が出発前の会話の内容を少しだけ調整した。

 

 

 こっそり家に戻った茉莉ちゃんと、家でストレスを溜めていたおじさん。何が起きるのかは、自明のことだろう。

 

 

 駅の前でようやく、カバンに入れたはずの財布がないことに気がついた茉莉ちゃんが、申し訳なさと多少の恥ずかしさを混ぜながら、私にそのことを告げて、一度家に取りに帰りたいのだと言う。

 

 

 ああ、きっとお兄さんはそろそろ、おじさんからストレス発散のための暴力を受ける頃だろう。茉莉ちゃんに見てもらうのは、まさに暴行されている瞬間がベストではあるが、最悪事後の、お兄さんが苦しんでいる姿だけでもいい。どちらにせよ茉莉ちゃんにとってはショックなことだろうし、私にしてみれば美味しいものだ。

 

 

 それを踏まえた上で、茉莉ちゃんを家に帰らせた。私は外で待っている状態で、3割くらいの期待値で起こるであろうそれを求めて、茉莉ちゃんを待った。

 

 

 

 私が何も関われない、そのやり取りの先。その先でたどり着いたのは、見るからに、なにか良くないものを目にしてしまった、それによってどこか血の気が引けた様子が見える茉莉ちゃんの姿だった。

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