残響ノクターン   作:平華 慶兆

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第3話「天人の男」

「ふぅ……結構余裕で勝てたな」

 

エルシアはトラック並みにでかい怪異の死体の上でタバコを吸っていた。

先日の由良トンネルで戦ったヤスデ人間に比べると、今回戦った怪異は大きさはヤスデ人間の約3倍だったが弱かったらしい。

 

「……今思えば由良トンネルの時、銃撃つ時タバコ吸うの忘れてたな。久しぶりのライノでの戦いだったからなぁ……タバコ吸ってたらもっと楽に勝てたかも」

 

人差し指でタバコをトントンと振動を与え灰を落とし、また口に持っていく。

 

「前までは倒したらまだまだ吸えても捨ててたけど、最近値上がりしたしなぁ。全部吸わないともったいないんだよなぁ。」

 

最後まで吸うことに慣れていないのか軽く咳き込みながらタバコを短くしていく。中心にタコ型の遊具がある公園で倒したのでタバコを吸っても大丈夫なようだ。

怪異の遺体の処分は基本、町がやるのだが、町に処分を頼むと一日はかかる。道路の真ん中などで倒すと通行止めになるだけで済むが、今回倒したのは公園だ。なので公園で遊びたい子供たちのため、急がなければならない。急ぎで死体の処分をする時は「天人」に連絡する。「天人」なら3時間あれば片付けてくれるが彼らも忙しいのでなかなか来てくれない。

となれば自分が片付けるしかないか。でも自分がやったところで早く終わるのか、とエルシアは悩んでいる。

タバコを吸いながらこの死体をどうしようかと考えていると

 

「ほぉー……先を越されたか」

 

声をかけれた。

声の方を見ると、そこには1人の男が立っており、ニヤニヤしていた。

男はフードはグレー、それ以外は檸檬色の猫耳フードを被っており、サングラスをかけていた。

 

「……天人さんですか?」

 

先程の「先を越された」という言葉から相手を天人だと思い質問する。その質問に対し男はニッコリと笑った。

 

「そうだよ。天人だよ。このタコ公園に怪異が出たって言う通報があってね、急いできてみたら、君がいた」

 

指を刺されたエルシアは死体から飛び降り、出口向かって歩き、出口前に立つ男に下から目線で言葉をかけた。

 

「なるほど。誰か通報してくれてたんだ。でも今回は私が倒したから、当たり前だけど私がお金を貰うよ。天人さんならこの死体を処理しといて。子供たちが遊びに来るんで」

 

そう言いながら男の横を通り過ぎようとすると

 

「こいつの処理を……俺が?まさか。やだね。他のやつに任せるよ」

 

エルシアの背中に「他のやつに任せる」という言葉をぶつけてきた。少しその言葉に驚いた。なにせ天人というのは怪異を倒し、死体を処分するまでが仕事だからだ。

彼女が天人にならない理由は「怪異を取り込むのが生理的に無理」の他にこうゆうのがあるからだ。

 

「あなた天人だよね?何を面倒くさがってるの?さっさとやんないとその他のやつ(・・・・)に怒られるよ?」

 

「真面目だねぇ。それより君、臭うよ。すっごく」

 

「さっきまで死体の上に座ってたからね。匂いくらいつくよ」

 

「ちがうね。もっと中に匂いがある。きて。会社でその匂い落とすから」

 

「会社……?天人の?」

 

「そう。天人の」

 

「……無料で匂いを落としてくれるなら、行くけど」

 

「もちろん無料だ」

 

「じゃあいく。言質とったからね。お金とったらぶっ〇す」

 

匂いを落とすのを無料にしくれるとの事なので、天人の男について行くことにした。

遺体の処理は男が歩いている最中電話をしていたので別の天人がするだろう。

 

◆◇◆◇◆

 

「ちなみに君は会社の存在については知ってる?」

 

男について行ってる最中、そんな質問を突然してきた。もちろん答えは

 

「知ってるよ」

 

天人が集まる会社があるというのは1+1=2と言うくらい世間では当たり前だからだ。

 

「じゃあ会社名は?」

 

「それは……知らない」

 

だが会社名までは話題になっていない。エルシアのように知らない人も多くいる。

 

「会社名は『デーモンカンパニー』って言うんだ」

 

「なぜにデーモン…」

 

「君は『始まりの怪異』を知ってるかい?」

 

「……いえ」

 

「じゃあ教えるね。怪異ってのは人の噂話などが言霊になり、さらに言魂になってそれが具現化したものってのは知ってるよね?」

 

「うん」

 

「この地球上で生まれて初めて言魂が具現化した存在ってのが2人いるんだ」

 

「初めてなのに2人なの?」

 

「そう。その怪異は『天使』と『悪魔』だ。この2人は同時にこの世に生まれ、とてつもなく強い力を手に入れたんだ」

 

「『天使』と『悪魔』ねぇ……。なんで悪魔の名前を入れたの?天使の方がよくない?」

 

「『エンジェルカンパニー』じゃなく『デーモンカンパニー』になった理由は勿論ある」

 

「理由?」

 

「なんと天使と悪魔が殺し合いをするんだ」

 

「殺し合い……」

 

「殺し合いをする前に悪魔が不意打ちで天使の体を『トリアイナ』というフォークみたいな武器で串刺しにしたんだ」

 

「さすが悪魔」

 

「でも悪魔より天使の方が強かったから、結局引き分けになって、お互い息絶えた」

 

「不意打ちしても引き分けになったんだ。天使どんだけ強いんだ。で、会社名に悪魔が入ってる理由は?」

 

「『不意打ち』ってのが俺は好きでね。悪魔が天使にしたことが俺にはすごく刺さったからこの名前にした」

 

「……え?この名前にしたってあなたただの社員でーー」

 

「じゃーん!ついたよ!『デーモンカンパニー』」

 

男と話していて気づかなかったが、有畑川町の中で1番でかいビルの前に立っていた。

 

「たまに知性を持つ怪異がいる。そいつに攻撃されないようこの会社の存在を分かりにくくしている。君が目の前まで来ても会社に近づいているというのに気づかなかったのはそういうことだ」

 

自動ドアが開き、中には大勢の社員、いや、天人であろう人達がそれぞれ自由に過ごしていた。

電話をしながら歩いている人やコーヒーらしきものを飲んでいる人。なにかの書類を見つめて頭を抱えている人もいた。

 

 

「お帰りなさいませ。社長」

 

「お帰り!社長!!」

 

「戻ったか。後で話があるからよろしく社長」

 

 

ビル内に入ると数名の天人が近寄ってきて男のことを『社長』と呼んだ。

 

「『社長』……『社長』!?」

 

驚きの声が社内に響いてしまい、エルシアは頬を赤く染めた。

無理もない。猫耳パーカー着てサングラスしてる男が社長だなんて誰が思うか。

 

「……天人のこと、なにもしらないんだね。とりあえず社長室行くよ。なに、取って食おうとかじゃないから安心してね」

 

驚きの余韻を残しながら天人の会社の社長だった男と一緒にエレベーターに乗った。

エレベーターが上がっている感覚を感じながらも沈黙が続いていた。

 

「……エレベーターに乗ると、黙っちゃうよね。この現象に名前とかないのかな」

 

「…………」

 

「ないなら名付けようか。そうだなぁ……『エレベーターオンシャラップ現象』」

 

「…………」

 

彼の独り言を聞いているうちに目的の階についた。エレベーターの扉が開き、廊下を挟んだ前に扉があった。

 

「ようこそ。この扉の奥が社長室だよ」

 

エレベーターを降りた男、デビルカンパニーの社長は扉を開けエルシアに中に入るよう手招きをした。

中に入ったエルシアは目の前の光景に驚きを隠せなかった。

社長に案内された社長室は、想像していたオシャレな部屋ではなく……

 

ただのゴミ部屋だった。

 

◇◆◇◆◇

 

「悪いね。俺……掃除が苦手でね」

 

「だから公園での怪異の処理をサボったんだ」

 

「サボってない。社員に仕事を与えただけだ。てか俺が社長だと分かったんだから敬語使えよ!」

 

「絶対やだ」

 

なぜか分からないがエルシアは社長室の掃除を手伝わされていた。

赤と白で有名なメーカーの缶ジュースや先週発売された漫画雑誌、チェーン店の紙袋など、普通社長室にはないような代物が沢山積まれていた。

 

「この部屋が綺麗になったら君の体に染み付いた怪異の匂いを落としてあげるよ」

 

「……ねぇ、無料でって言ったよね?これ、働いてるよね?」

 

「えーっと……何が言いたいんだ?」

 

「給料出してね」

 

「君はどんだけがめついんだ!」

 

「嘘をついたのはあんたじゃん!この汚社長!」

 

「汚……汚社長!?」

 

「無料だから来たのになんでこのくっそ汚い部屋を片付けなきゃいけないの!お金払わなかったら〇す!」

 

エルシアの言葉に後退りをした社長は何か言い返そうとしたが、反撃の言葉が思い浮かばなかったのか、肩を落とし、悲しそうな顔でゴミを捨てていた。

 

約3時間後、部屋が綺麗になった。エルシアは体に染み付いた匂いを落としてもらい、そしてお金を貰えて喜んでいた。その時、扉をノックされ、一人の男が入ってきた。

 

「失礼します、社長。あれ?部屋掃除されたんですね」

 

エルシアはその男の頬に目がいった。なぜなら頬から鼻に向かって1本の傷があったからだ。

男は前髪をチラつかせたオールバックをしており丸メガネをしている。それだけなら普通の一般男性と変わらないただのサラリーマンだが頬の傷が普通じゃないことを語っている。

 

「君が手伝ってくれないから、この子がやってくれたんだよ?」

 

「へぇ……君が……。なるほど。では、これからよろしく」

 

「え?よろしくってどういうこと?」

 

入ってきた男に握手しろと言わんばかりの手を差し伸べてきた。エルシアは困惑して立ち止まっていた。それと同時に握手を返してきてくれないエルシアに対し困惑する男。両方の頭の上にはハテナが効果音を立てて増えているだろう。

 

「どういうことって……社長、この子、うちに入るんですよね?」

 

「え」

 

男の言葉にエルシアは酷く驚いた。彼女は特別な匂いを落としてもらうべくここまできただけなのに、なぜかこの男には会社に入ってもらうということになっている。

 

「いやいやいやいや、入らないですよ!入社しません!というか、ここに入社できるのは、怪異を取り込んでいる人達だけと聞いたんですが」

 

「え、誰情報?それ」

 

さっきまでエルシアと男の行動を見てニヤニヤしていた社長が目を見開いて聞いてきた。

 

「誰情報と言われましても……そういう噂というか……」

 

「うちにはそんなきまりないよ。現に怪異を取り込んでない人も働いてるしね。というか君……」

 

社長は私の方を指さした。

 

「怪異、取り込んでるよ?」

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