「というか君、怪異、取り込んでるよ」
社長が彼女、エルシアに向けて放った言葉。この言葉を聞いた彼女は少し固まっていた。
「……ふっ……そんなわけないじゃん。だって私、怪異を取り込んだっていう記憶が全くもってないからね!」
『怪異を取り込む方法』
取り込みたい怪異を弱らせた後、体に傷をつけ、血を出す。次に自分の体にも傷をつけ、血を出す。自分の傷と怪異の傷にあて、血を交わらせる。すると弱った怪異は傷の中に吸い込まれ、取り込み成功となる。
彼女は生まれて17年。この動作をしたことがなかった。なので、自分が怪異を取り込んでいることという社長のセリフを鼻で笑い、否定した。
「怪異を取り込んだ記憶が全くない……と。でも君は怪異を取り込んでいる。となると……君のお父さんかお母さん、おじいちゃんがおばあちゃん。誰か天人じゃなかったかい?」
「なんでそんなこと……」
「怪異は遺伝する」
彼女は言葉を失った。
「または怪異が死ぬ瞬間と君に命が宿る瞬間がタイミングよく合えば奇跡的に取り込むことがある。まぁ後者はありえないだろうな」
エルシアの祖父母はエルシアが生まれてすぐに亡くなり、両親は彼女が4歳の時に交通事故で亡くなっている。なので彼女は祖父母と両親がどんな人だったのかを知らずに生きてきた。
両親が死んだあと、親戚に引き取られそこで育ったが、その親戚も3年前に亡くなった。
「とりあえず、君が取り込んでいる怪異は今の所わからない。他人が何の怪異を取り込んでいるかわかるやつがいるが、そいつは今沖縄にいるから今すぐ知ることが出来ない。残念だ」
「……私はあまり両親や祖父母のことをよく知らない。だから遺伝だとか突然言われてもよくわからない。取り込んでるなら取り込んでるでそれはもう仕方の無いことだ。でも一つだけ確認させて。ここに、この会社に、今までいたの天人の記録とかある? あるなら見せて欲しい」
彼女は社長を見つめた。遺伝と言うのであれば、もしかしたら自分の両親か祖父母の事が記録され、保管されているかもしれないと思ったからだ。今まで両親や祖父母のことを考えずに生きていた彼女だが、遺伝によって怪異が取り込んでいると言うのならば、話は変わってくる。
エルシアは初めて、自分はどのような血統から生まれたのか、知りたくなった。
「……いいねその目……すごく素敵だ……。気に入った! 君もそう思わないか? アストロ君」
「そうですね」
「ア……アストロ……?」
「彼のニックネームさ。ほら、自己紹介」
「
「あ、いえいえ。そんな……あ、轟エルシアです」
「轟……?」
彼女の苗字を聞いた社長はなにか思い当たるような顔をした。
「どうかしました?」
「いや……別になにもないよ……社長の
2人と握手した彼女はひさしぶりの人の温もりを感じ、握手した手を見つめ、2人にバレぬよう微笑んだ。
「さて、エルシアちゃん……と言ったね? 君はお金大好きだろう?」
「はい」
「そんな君にいい話がある。君は今、月に何体の怪異を倒せているのかな?」
「えーっと……4、5体くらいかな……」
「少ないね」
エルシアの回答に社長、スムノは即答した。後から部屋に入ってきた男、アスト、通称アストロもスムノの「少ない」という言葉に対し頷いていた。
「この会社に入れば少なくとも15体は怪異を狩れるよ。お金はもちろん、怪異を倒した証拠を持ってる人のもので、それプラス、月に1回、銀行か手渡しで給料が──
「ここで働かせてください」
エルシアの目は輝いていた。
彼女の輝いている目を見てアストロは少し引いていたし、スムノも固まっていた。
お金のことだけでここまで目を輝かせられるのは全世界で彼女だけだ。
「少なくて15体とか最高じゃん。何? 多くて2倍の30体とか? はぁ……通帳が光る未来が見える……」
「あの……この会社に入ってくれるってことでいいんだよね?」
「はい!」
「元気のいい返事だね。んじゃあこれを渡しておくよ」
スムノがエルシアに渡したものは小さな黒いスイッチだった。
「そのスイッチは人口怪異の『出勤スイッチ』というものだよ」
『人口怪異』
それは怪異は人の噂話などが具現化する性質を利用し、「こんなものがあればいいな」というものを怪異で作ったもの。作るのはかなり難しい
「人口怪異って……作るのすごく難しいんじゃない?」
「1人ならな。エルシアちゃん、君はこの会社に何人がいると思う?」
「えっと……100人くらい?」
「残念。200人」
「200人……それだけいれば人口怪異を作るのも難しくは無いね」
「んで、この『出勤スイッチ』なんだけど説明……アストロよろしく」
「はい。分かりました」
スムノの右斜め後ろに立っていたアストロがポケットから「出勤スイッチ」を取り出しエルシアに近づいた。
「このスイッチを押すとあなたの位置情報が会社内のモニターに表示され、同時にあなたの健康状態などが表示されます。タイムカードも押されます。ですのでこれを押して、再び押すまでがあなたの仕事です」
「健康状態……なるほど。その健康状態には感情とかも入ってるの?」
「感情……まぁそれに似たようなものもは入ってますね。サボりに対する罪悪感、サボりに対する背徳感がそんな感じですね」
「つまりサボれないと」
「そういうことです」
「要するに! スイッチを押している間にどれだけ怪異を狩れるかだね。そして近くに怪異が出現したらそれをしらせる通話機能もついてるよ」
「なるほど。いつもは目視でしか確認できなかった怪異が近くにいるだけでわかるようになると。だから怪異を会社に入る前より多く狩れるってことね」
「そういうこと!」
スムノに手渡された「出勤スイッチ」をポケットにいれた。
「で、私の初出勤はいつから?」
「明日からだよ」
◇◆◇◆◇
今日が初出勤のエルシアは早起きすることも無く、いつもどうりの朝をすごしいつもどうりの身支度をした。
深緑の帽子、帽子と同じ色のモッズコート、ダメージ多めのダメージジーンズ。そしてネットでしか売っていないバンクと言われる値段が高めの靴をはいて外に出かけた。
家の鍵を閉め、スムノに貰った「出勤スイッチ」を押した。
/////
「轟エルシア、出勤スイッチを押しました」
「了解。初出勤、初仕事、君の強さ、見せてもらおうかね」
「デビルカンパニー」の2階。そこには巨大なモニターの前に約50名の会社員がパソコンと向かい合っていた。巨大なモニターには有畑川町全体の地図が映っており、「出勤スイッチ」を押した天人が写真付きでどこにいるのかがわかった。もちろんその中にエルシアも含まれている。
「さて、エルシアちゃんの監視、任せたよ。アストロ」
/////
「はい。わかりました」
エルシアの後方10メートルからアストロが壁を背にしエルシアの行く末を監視していた。
エルシアが歩くとアストロも歩く。決して見つからないように、エルシアとの差、10メートルを崩さぬように歩いていく。
歩いていくと人も段々と多くなり、建物も多くなってきた。彼女の中ではパトロールのつもりなのだろう。辺りを見渡しながら歩いている。
(そういえば……彼女……学校とか大丈夫なのか?)
朝9時。普通なら学校では1時間目の授業をしている所。彼女は学校に行ってないのだろうか、もしくは行けない理由でもあるのだろうか、などと考える。
悲しいことながら、正解である。
正解したことをしらずにアストロはただひたすらエルシアを監視し続けるのであった。
◇◆◇◆◇
12時。さらに人が多くなり飲食店も忙しくなる時間だ。
エルシアはスーパーで買った黒と赤で有名な炭酸飲料を飲み歩きをしながら怪異探しをしていた。
「固形物とか食べても良かったけど、お金もったいないし、炭酸飲料でおなかいっぱいになるんだったらそれでいいもんね」
後方のアストロはスーパーで買った栄養食を片手にエルシアの監視を続けていた。
/////
「昼飯がジュースだけって……昼飯食えるくらいの金はあるだろうに……」
スムノは牛丼を片手にモニターでエルシアをモニタリングしていた。
他の社員は一足先に昼食を済ませ、パソコンとにらめっこをしている。
「今日は平和だな……。なんにも現れやし」
「社長! 魔人が現れました!」
1人の社員が叫んだ。スムノは叫んだ社員の横にいき、社員のパソコンの画面と巨大モニターみた。
「どこに現れた」
「くらぶり丁商店街の南側です!」
『魔人』
怪異を取り込み、得た力で犯罪をする人のこと。
「近くにいる天人は」
「露崎アストと轟エルシアです」
「普通の怪異なら良かったんだが……魔人と来たか……。初仕事のエルシアに任せるのはちょっとしんどいな。過去に魔人を相手にしてきたかもしれないが、アストロに任す。アストロに電話を繋げ……いやいい。アストロの方からかかってきた。もしもし」
/////
「社長……エルシアが……廃墟ビルの中に入って行きました。負いますか?」
/////
「廃墟ビルに……一体なぜ」
「社長!」
また別の社員が叫び、スムノはその社員の方へ体を向けた。
「今度はなんだ!? また何か現れたのか!?」
「轟エルシアが……廃墟ビルの屋上で喫煙を」
「うそ……だろ」
平華慶兆です。投稿がかなり遅れました。その理由と言ってはなんですが、書いている途中、どのようにして書けばいいのかわからなくなってしまい、無理やり話を殴り書きに書き続けた結果、このような文になりました。
この話はまだ書き足したいというか手入れをしたい部分が出てくると思いますので後書きをかかせていただきます。