残響ノクターン   作:平華 慶兆

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第5話「魔人」

「しかたない、アストロ。被害が少ないうちにあの炎の魔人をなんとかするんだ」

 

 /////

 

「はい」

 

 突如商店街に現れた魔人。その魔人は体に炎をまとっており宙に浮いている。

 

「手斧よし」

 

 手斧をベルトから取り外し、魔人に向ける。

 目をつぶると髪の毛が若干逆立つ。

 一瞬の沈黙を挟み、目を見開きその場でジャンプする。そのまま地面に落ちるかと思いきやアストロの体は横に引っ張られたかのように移動した。移動すると言うよりかは横に落ちている(・・・・・・・)ようだった。落ちる速度は段々と加速していき、体制を変えることで地面スレスレだった体が徐々に上に上がった。

 魔人との距離が縮んできたところで体制を整え手斧を構えた。魔人は未だアストロの存在に気づかないでいた。

 

「御免」

 

 呟きながら手斧を振りかざし、速度を維持しながら魔人の首を掻っ切った。

 ……と思ったがアストロの手斧は魔人の首を空ぶった。と同時に魔人は体にまとっていた炎を消し、地上に落ちていった。

 

「な、なんで……」

 

 アストロはその場で維持しながら落ちていく魔人を見ながら疑問に襲われていた。

 息を飲んでゆっくりと地上に向かい降下していく。

 地面に足がつき、魔人の元に駆け寄り、魔人の顔を見たことによりようやく分かった。

 

 魔人は自分が手斧で首を掻っ切る前に何者かに頭を撃ち抜かれ死んだのだと

 

 /////

 

「魔人の反応が消えました」

 

「よし、よくやったアストロ! 今すぐアストロに電話を繋げろ。これからの指示を出す」

 

 /////

 

 スムノからの着信にアストロは出た。スムノはアストロを褒め、これからの指示を出そうとしたがアストロはそれを遮った。

 

「社長……私は殺ってません」

 

 /////

 

「……は?」

 

 アストロの思いもよらない返答にスムノと社員たちは困惑した。

 

「殺ってないって……アストロお前が魔人に飛んでって手斧で首を掻っ切ったんだろ? モニターでもお前の位置と魔人の位置が重なり合った途端に魔人の生命反応は消えたぞ?」

 

 /////

 

「私は空ぶっただけです。私が掻っ切る前にこの魔人に何者かが撃ち抜いたのです」

 

 /////

 

「何者かに……」

 

 アストロの報告によりモニター室に困惑の空気が流れる。そこに、アストロの元に向かう1つの生命反応があった。

 

「この天人は?」

 

「えっと……轟……エルシアです」

 

「……もしかして」

 

 /////

 

「あれ? アストロさん? やっぱり! 弾当たるかと思ってヒヤヒヤしたよ!」

 

「弾……だと……?」

 

「これ、私が倒した怪異ですからね! 横取りしないで下さいよ? って……この怪異めっちゃ人間に近い……というか人間……」

 

 死んだ魔人を未だ人型の怪異と思いまじまじと死体を見つめるエルシアを見てアストロは驚きと同時に悩んでいた。

 魔人とはいえエルシアは人を殺してしまったのだから、それを伝えるべきか伝えないべきか。

 アストロ自身は魔人を殺すことに慣れているが、この幼き少女が人を殺したという事実を知ったらショックを受けるんじゃないかと冷や汗を垂らした。

 

「エルシア……そいつはだな……」

 

「あ、スムノから着信だ」

 

 /////

 

「エルシア、アストロと共に、会社に戻ってきてくれ。色々と説明したいことがある」

 

 ◇◆◇◆◇

 

「この会社、地下もあるんですね」

 

 会社に戻ってきたエルシアとアストロは地下に向かうエレベーターの中にいた。

 地下一階に着き、エレベーターの扉が開く。扉の向こう側は何も無いただだだっ広い部屋の真ん中には先程エルシアが撃ち殺した魔人の死体があり、それを囲むように4、5人の白衣を着た研究員らしき人が書類を手に色々と話し合っていた。

 

「あ! さっきの怪異の死体もう運ばれてる! 私たち一直線で会社に戻りましたよね? いつ抜かされたのかな」

 

「このデビルカンパニーには俺らのようなパトロール、討伐班や死体の周りにいる研究班などがいる。魔人や怪異の死体の除去をするのも研究班だ」

 

「あの……アストロさん……。魔人ってなんですか?」

 

「魔人というのは電力を使って悪さをする人のこと」

 

 なるほどと魔人の説明に納得したかのように頷くエルシア。その説明を聞いての上で死体に目をやった。

 

「……じゃあもしかしてあれ魔人?」

 

「初めて人を殺した感想は?」

 

「……普通に怪異を殺した時と変わらないですね」

 

 意地悪な質問をしたアストロはエルシアの回答に対し目を見開いた。普通の子なら震えて吐き気などを催すが、このエルシアという少女は表情をピクリとも変えず、しかも人間とは違う怪異を殺したのと「変わらない」ときた。

 

「変わってるね」

 

「そう? 普通ですけど」

 

 そんなこんなで死体を観察している研究班達を遠くから見ていると後ろのエレベーターの扉が開いた。

 

「待たせた」

 

 エレベーターから手をポケットに入れたスムノが気だるそうに出てきた。

 

「おそい」

 

 文句を言うエルシア。それに対しニヤッと返すスムノ。そして死体に指を指した。

 

「あれは魔人だエルシア。アストロに聞いたか?」

 

「聞いた。あんたが来るかなり前に」

 

「はは……で、どう? 殺した感想は」

 

「別に……普通の怪異を殺したのと変わらない……ってか私これさっきも言った! アストロさんにさっきも言った!」

 

「変わらない……か。やっぱり君、天人の才能あるよ」

 

「……は?」

 

「天人の才能、それはいかに人を殺すことに躊躇がないか、だ。アストロも昔は魔人を殺すのに結構躊躇ってたんだぜ? 足もガタガタ震えてたしな」

 

「昔の話です」

 

 死体の方に向かって歩きながらスムノは語っていた。

 スムノが死体に近づくと同時に研究班が死体から離れていった。

 

「……頭に穴が空いてるね。君がやったの?」

 

「私がやった」

 

「何で?」

 

「銃で」

 

「銃……か……」

 

 顎に手を当て上を見るスムノ。

 くるっとエルシアとアストロの方に体を向け腕を伸ばし親指と人差し指をピンと立て左手で銃の形を作った。

 

「カチャッ……バンッ!」

 

 スムノが声に合わせて左手で撃つ真似をした。するとエルシアとアストロの間に何かが通り2人の髪の毛を風邪で靡かせ後ろのエレベーターの扉に何かが当たるような音がした。

 振り返るとエレベーターの扉にはまるで弾丸が当たったような跡があった。

 

「君の言う銃ってのは……こんな感じ? 違う?」

 

 左手をプラプラさせながら話すスムノに対しエルシアは驚きと鳥肌を隠せずにいた。

 

「とりあえず、初のお仕事の相手は魔人ってことで君の記録に記入しておくね。ここに来てもらったのは魔人がどんなやつかってのと、君がどうやってこの魔人を殺したのかを直接聞きたかっただけ。ごめんね? 仕事の邪魔をして」

 

 凄いだろと言わんばかりのドヤ顔をしながら二人の間を通り、エレベーターの開くボタンを押し中に入った。

 

「もうすぐ天人界隈の中で凄いやつがくるからそいつに君が怪異を取り込んだ、あるいは自分の中に怪異が取り込まれた際に会得した能力を教えてもらいな」

 

 言い終わると同時に扉が閉じ、スムノを乗せたエレベーターは上に向かった。

 

「……はぁ……。社長は新人に対してはいつもああなんだ。新人の驚く顔が好きなんだと」

 

「……まんまと驚かされましたよ。アストロさんもあんなことできるんです?」

 

「いや、俺はできない」

 

「あ、そうなんですね……」

 

 気まずい空気の中、研究班が仕事している様を2人で見ていた。

 アストロはいかにも見なれていると言った感じだがエルシアにとっては初めての光景で興味津々なようだった。

 研究班の1人が部屋の隅にある机の上から刃渡り30cmくらいの包丁を手に取り死体に近づくやいなや解剖を始めた。

 

「メスとかでやらないんですね」

 

「メスだと楽しくないそうだ」

 

「あ、そういう……」

 

「……俺に社長のようなことは出来ないのか、という君の質問について少し話そうか」

 

「取り込んでる怪異が違うからとかですか?」

 

「それもあるが、俺と社長ではまず『天力の量』が違うんだ」

 

「『天力の量』?」

 

「例えば俺が500ミリリットルのペットボトルだとする。すると俺は天力を500ミリリットルまでしか持てない」

 

「そうですね。当たり前のことです」

 

「俺が500ミリリットルのペットボトルに対して社長は100リットルのペットボトルなんだ」

 

「なにその聞いたことないペットボトル」

 

「つまり社長はめちゃくちゃ天力があるということ」

 

「見た目弱そうなのに……」

 

「人は怪異を1つしか取り込めないって言われている。2つ取り込むと体が天力に耐えられなくなり爆発するそうだ。だがスムノは怪異を5体取り込んでるそうだ」

 

「……え」

 

「社長のように特別な天人は今の所社長入れて日本に3人しかいない」

 

「日本に3人……」

 

「天人には甲、乙、丙の3つのランク的なものがある。甲が1番上で丙が一番下だ」

 

「じゃあスムノはその『甲』ってこと……?」

 

「違う」

 

「あ、違うんだ 」

 

「社長は甲のさらに上『特殊天人物』というのに分類されている。その『特殊天人物』が日本に3人しかいない」

 

「なんか……かっこいいな」

 

「そのうち1人が多分だがここに来る……あ、ほらきた」

 

 エレベーターのモニターが下に降りている表記に代わった。数秒後、モーター音が止まりエレベーターの扉が開く。

 中から出てきたのは、茶色のロングコートに体のラインが丸見えな黒いシャツと黒いピチピチのズボンを履いた眼鏡をかけたポニーテールの小柄な女性だった。

 

「……君がエルシアだね」

 

 その人の目はとても黒く、そして深く、エルシアは目を離すことは出来なかった。

 

「どぉも。ドイロ・アローシカです」

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