ひとりが黒歴史をまた一つ作っている頃、喜多さんはトイレの目の前にいた。
心なしか普段よりも足が速く感じたひとりをこの近くで見失ったのだ。
トイレに駆け込んだことが予想されるため、外で出てくることを待っている。
突如、男子トイレからこの世のものとは思えない叫び声が聞こえた。
「えっ!?何、この声....。聞いたこともないような....叫び声」
つい聞いたこともないと表現した喜多さんだったが、聞き覚えがあることに気づいた。
あれは確か、結束バンドのみんなでイソスタの話をしていたとき....。
「後藤さんっ!」
一切の躊躇なく男子トイレに飛び込む。
嫌な想像が脳裏をかすめる、人の言うことを断れない後藤さんの性格と男子トイレ、悲鳴も合わさりどうしても思い浮かべてしまったその光景を拭い去ることが出来ない。
「間に合って!!」
飛び込んだ喜多さんの目に入ったのは、お小水にまみれた後藤ひとりと股座でいきり立つふとましいスティックの姿だった。
少し後藤ひとりに起きた現象について解説するなら、それには大きく分けて二つの原因があった。
まず尿を長時間我慢していたこと、それによって勢いが非常に強くなっていた。
さらにピックではなくスティック状態になっていたため尿道に圧力がかかってしまい勢いが増す、加えて天を指すスティックをつかんで軌道を操作するという常識がひとりにはなかったこと、それに対する生理的嫌悪から触れることが出来なかったこともある、それらの理由からあのような惨状を生んでしまったのだ。
そんな状態でひとりはどうしているのかというと、茫然自失としていた。
後藤ひとりはその異質さからハブられることはあってもいじめられることはなかった、ましてや尿をかけられることなどあるわけがない。
衝撃からかスティックはピックに戻っており尿も出し尽くされているようだ、不思議とひとりが黄金の水溜りと一体化してスライムのように見える。
ドタドタと足音が響き始める。
駆け付けた喜多さんはさすがに動揺した様子だったがすぐに現状を大体把握した、約一点理解不能な点があったがそれには目をつむった。
「後藤さん!とりあえず服脱いで個室に入ってて、私のジャージ持ってくるから。人が来ても絶対でちゃダメよ」
「あっ、ぃやっまって...何も、言わないんですかぁ....」
「大丈夫よ、安心して。後藤さんのこと、私、好きだから」
そういってウインクしながら喜多さんは去っていく、その顔は少し彼女の髪のように赤みがかっていた。
アンモニア臭の漂うこの空間の中で喜多さんの後ろ髪から香る匂いがひとりの鼻孔を刺激した、ひとりの顔は既に喜多さんの髪よりも真っ赤に色づいていた。
頭から噴き出した湯気がトイレ中を占有し、真っ赤な物体が塗りつぶされていった。