ぼっ喜・ざ・ぴっく!   作:ライトニングピストン佐藤

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my new hero...

後藤母によるミッションを課せられてから数日、ひとりは結束バンドの練習に何度か参加していた。

「ひとりちゃん最近調子わるいねー、オーディションだからって必要以上に緊張する必要はないんだよ?お姉ちゃんとPAさんしか見ないんだし」

「……」

「私と後藤さんは場慣れしてないですからねやっぱり緊張しちゃいますよ」

喜多さんがフォローを入れる、ひとりの事情を知っているため最近の不調の原因を微妙に勘違いしてしまっているのだ。

しかし、喜多さんは生えたことに悩んでいると思っているが、私は裸を見せてもらうことに悩んでいるのだ。

結局は不調なまま練習が終わってしまった。

心なしかいつもより背中を丸めたひとりが帰路につくと背後からこえをかけられる。

「ぼっち、ちょっとまって。ご飯でも食べに行こう」

「....リョウさんお金は持ってますよね?」

「大丈夫、そんなに高いとこにはいかないから」

つまりは奢れということである。

 

 

 

少し移動して客がまばらなカフェに入り窓際の席をとる、リョウはしばらく何も話さないひとりを観察してから言った。

「ぼっち、何に悩んでるの。オーディションのことじゃないよね、でも結束バンドに関連してる...そうでしょ?」

何もかもを見通したように澄んだ瞳にじっと見つめられたひとりは観念をして話し出す、自分一人の事情で結束バンドに迷惑かけるわけにはいかないと改めて認識したためだ。

「実は....」

全ての事情を小声で話した、内容がないようなため公共の場で話してひとりの顔は赤くなっている。

「......ぼっち....ロックだね....」

(リョウさんでさえ言葉を失った!?....いやそうだよね、もうすっかり慣れちゃってたけどおかしいもんね)

こんなにおかしな状況に慣れきってしまっていたことを認識して落ち込むひとり、その姿は段々と灰になっていき存在感が消えていく。

そんな状態のひとりを見かねてかリョウがある提案をする。

「5000円くれたら裸でもなんでも見せるよ」

「あっ、うぇっ、ピぇ!?!?」

「帰ったら送る、みんなには内緒ね」

悠々と去っていくリョウ、少しだけいつもより歩幅が広い感覚がした。

 

 

 

帰宅してソワソワとした感覚を拭いきれず落ち着かないひとり、一人で自室にいるのにも耐えきれずソワソワを誤魔化すためにリビングにいた。

「お姉ちゃんいつもより変だね。ね?ジミヘン」

「ワンッ」

ロインの通知が鳴った、コソコソと画面を隠すようにジャージの袖で包んで自室へ帰る

一般的な家庭なら何かやましいことでもしてるんじゃないかと勘繰る場面だが、ひとりの場合友達からのロインという一大イベントを出来る限り堪能しようとしているだけにしか見えない。

自室に帰りスマホを見ると案の定リョウからだった。

生唾を呑み込みながら震える手でロインを開く、喜多さんの件からロインの通知で何が送られてきたかはわからない設定に変えてある、つまりどんな画像かは全くわからない。

リョウの画像を見て一番最初に浮かんだ感想は「芸術品だ」だった。

スタイルがいいのはわかっていた、顔がいいのもわかっていた、そう思っていた。

女性的美しさや男性的魅力といった元々リョウに持っていた印象は消し飛んだ、生物的というよりむしろ芸術品、ミロのヴィーナスや機械仕掛けの大時計のような無機質で、更なる美の可能性と完成された美を感じさせる二律背反を孕んだ魅力の器だった。

美しいものというのは例外なく人を絶頂に導く。

絵で、音楽で、彫刻で、風景で、方程式で、小説で、声で、そして何より肉体で。

リョウの肢体という最上の美にひとりが絶頂に導かれるのは必然だった、けれども、それを必然ではなくする一つの要素が何か存在していたらしい。

「あれっ?!!?」

ピックはピクリともしていなかった。

その様子を見てひとりはこれまでを振り返る。

(そういえば男の子は授業中にそうなって困るって聞くのに全くそういうことはなかったな。....むしろそうなったことの方が少なくて....朝起きたときと....喜多さんに...)

その事実に気づいたひとりは爆散する、頭が巨大化し、つむじから流れ出た湯気が部屋中を覆い尽くして爆音が響く。

当然家は揺れたが家族はいつものことかと流す。

破裂した風船のようだったひとりが集まって再生していく、ぐるぐる目になったひとりは自覚したことをボソリと呟く。

「そうか....私って...喜多さんを....」

女の子が女の子を好きになるって変なのかな?それとも今時は自然?...今の私は男の子でもある、それはきっとこの想いへの免罪符になってくれる。

神様ありがとう、切掛をくれて、最後に背中を押してくれて。

(私の好きなロックは神様に唾を吐いてた、社会を人への厭世観に満ちてることも多かった。どうしてみんなみたいになれないのかなってずっと思ってた、神様も世界も嫌いだった。)

「けどようやく、世界を、自分を好きになれる気がする」

後藤ひとりは明日喜多郁代に告白することを心に決めた。

ギターを通してじゃなく、ありのままの自分を好きになってもらいたいそういう相手に、気持ちを伝えることを決めた。

 

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