ぼっち・と・ぼっち!   作:承認欲求モンスター

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ぼざろアニメが終わってしまったという事実……
もう二期が待ち遠しい


やはり、彼女の瞳は綺麗な色をしている

 血を吐きながらもゆらゆらと立ち上がった後藤(怖い)は、ようやく自分がなぜ下北沢に呼び出されたのか理解できたようだった。

 

「あ、アー写、ですか」 

「そうそう、バンドの宣伝とかに使うやつ! 今日はみんなの予定も空いてたし撮影会やろうかなって」

 

伊地知先輩の元気な言葉に、後藤は何事か小さく呟いたかと思うと、なぜか俺の方をチラリと見た。すぐに逸らされる視線。

 

「あっ、えっと頑張ります」

 

俯く様子はとても頑張ろうというようには見えなかったが、しかしすぐに逃げ出さないあたり一応やる気はあるらしい。

 

「ていうか俺がいる意味あるか? 結束バンドの写真なんだから、映らないだろ」

「比企谷君はぼっちちゃんの通訳兼カメラマンでしょ! いいからついてきて!」

 

 日本語を話す者同士で通訳が必要とはいったい……? まあ後藤のコミュ障はかなりのレベルなので、気持ちはわかる。しかし俺もコミュ障なのだ。正直なところ、綺麗な顔をしている結束バンドの面々と会話するのは未だに緊張するし、たまにどもりそうになる。

 

 先輩たち、そして喜多はそれで話は終わりだと言わんばかりに歩き出してしまうので、仕方なくついていく。

 

 休日の昼間、下北沢の街中はそれなりの活気で賑わっていた。年若い男女が、洒落た格好をして外を闊歩している。

 気後れしている俺と後藤を放置して、三人はスタスタと先に進んでいってしまった。

 

「あ、あの……」

「……ん? ああ、俺か?」

 

 後藤が進んで話しかけてくるなんて滅多にないものだから、聞き返してしまった。

 

「こ、この前は歌詞の相談、ありがとうございました。おかげで、良いものができた……気がします」

 

 少しだけ口元を綻ばせて、彼女は嬉しそうに言った。

 いつもネガティブな表情と調子に乗った表情しか見せていない彼女の素直な笑顔に、俺は少し動揺する。

 

「あ、ああ。まあ別に俺は具体的なアドバイスとかできるわけじゃないからな。良いものができたんなら、それはきっと後藤自身の力だろ」

「そうですね……私の力……えへ、えへへへ……天才作詞家私、自身の曲をカバーして表舞台に登場、紅白歌合戦の大トリを……」

 

 あ、また自分の世界に入った。いつもの後藤だ、と少し安心する。

 

「ぼっちちゃんたちー! 早く早く、ここの古着屋面白そうだよー!」

 

 伊地知先輩の声に、慌てて後藤の手を取り駆けだす。女の子の手を握っているという状況に、俺はいつの間にか慣れてしまったようだった。

 

 古着屋を冷やかし始めた時は「この人たちやる気あるのかな……」と思ったものだが、当初の目的を忘れてはいなかったらしい。

 

 公園。坂道。よさげな壁。

 写真映えしそうなスポットを物色する。俺も頼まれて数枚写真を撮った。正直なところ、結束バンドは全員顔面偏差値が高いので十分絵になっていると思うのだが、彼女らとしては納得していないようだった。

 

「うーん、なんかしっくりこないんだよなー」

「俺は良いと思いますけどね」

「そう? ……でもアー写ってバンドの方向性を表す大事なものだからさー」

 

 撮った写真をスマホで確認しながら言う伊地知先輩。その後ろから、ひっそりと忍び寄る影があった。

 

「あ、あの……」

 

 油断している伊地知先輩の肩を静かに叩く後藤。それにまったく気づいてなかった伊地知先輩は、大きく肩をびくりと震わせた。

 

「うわっ、びっくりした。なんだ、ぼっちちゃんか。どうしたの?」

「あ、あっちの方にいい感じの壁が……」

 

 後藤が見つけたのは、大きな木の絵が描かれた壁だった。確かにこの前に立ったら、いい写真が撮れそうだ。

 

「じゃあ、早速撮っていこう! 比企谷君、よろしくね!」

「はい。じゃあ、行きますよ。……はい、ピーナッツ」

 

 パシャ、と伊地知先輩のスマホのシャッターを切る。

 

「……いつも思うけど、その掛け声何? ピーナッツ?」

「知らないんですか? 千葉県民はみんなこう言って写真を撮るんですよ」

「いや、聞いたことないんだけど……」

 

 周囲を見渡すが、どうやら全員本当に聞いたことがないようだった。

 

「いいですか? 千葉県民はやれ東京の名前を借りすぎだのディズニーランド以外に何もないなどという誹謗中傷を浴びせられ続けられていますが、意外なことにピーナッツの生産量が日本一なんです。そんな千葉県民の誇り、魂を表すのが、このピーナッツという掛け声なんです。分かったら、都民の皆さんも俺に続いて唱えてください。はい、ピーナッツ」

「「はい、ピーナッツ」」

 

 まじかこの人たち。ノリいいな。

 

「ってそんなことどうでもいいよ! いいから写真見せて!」

 

 もう十分ノリに付き合ってもらったので、大人しくスマホを差し出す。四人がスマホを覗き込んだので、俺はスス……と距離を取った。

 

「うーん、なんかもうひとひねり欲しいよね。バンド感っていうの? 青春感?」

 

 その後も数枚写真を撮るが、なかなか彼女らが納得するものができない。

 俺としても、彼女らのためになればと意見を出す。

 

「ジャンプするとかどうですか? 古今東西、オープニングでジャンプする作品は神作品と言われています」

「私も聞いたことがある。ジャンプすれば神作品。つまり、私たちもジャンプすれば神バンドになるのでは?」

 

 意外にも山田先輩のノリが良かったので、一枚撮ることにする。手をつないでジャンプする四人。しかしシャッターを押した瞬間、俺は大きく目を逸らすことになった。

 

「どうしたの比企谷君、写真見せて」

「……はい、これです」

 

 隠すのも不自然なので、伊地知先輩にスマホを渡す。

 

「あー、ぼっちちゃんのパンツが映ってる。ぼっちちゃん、とんでもないものが撮れちゃったね」

 

 伊地知先輩がニマニマしながら後藤の表情を見る。

 

「あ、すいません、無価値なものを写してしまって。消してください……」

「いや、もっと可愛い反応期待してたんだけど……」

 

 後藤はどんよりとした表情で伊地知先輩に言う。とてもパンツを見られた女子高生の反応とは思えない。

 伊地知先輩は思わぬ反応にどうすればいいのか分からないようだった。微妙に気まずそうに視線を漂わせた彼女と視線が合う。

 

「ていうか、比企谷君ぼっちちゃんのパンツ見たな?」

「あー! 比企谷君、見たのに何も言わずにしらばっくれるようとしたわね!」

「比企谷最低。ぼっちにパンツ代払え。私に分け前を渡せ」

「いや、不可抗力ですよ。俺がパンツを見ようとしたんじゃなくて、パンツが俺の方に向かってきたっていうか、予期せぬ出会いだったっていうか、仕方ないことだったんです」

 

 やいのやいのと俺を批判してくる結束バンドに、なんとか弁解しようとする。しかし彼女らの視線は冷たいままだ。まずい。男が一人しかいない状況でこれはまずい。

 助けはないのか、と後藤の様子を窺う。張本人が何を言うのか。それにこそ、この俺の裁判の判決はかかっている。

 

「あ、あう……比企谷さんに私の……わ、あわわわわ」

 

 後藤はなぜか赤面しながらすごい動揺を見せていた。

 おい、さっきまで無価値なものとか言ってただろ!

 後藤の様子を確認した結束バンドの視線が一層冷たくなる。

 

「比企谷君、後藤さんをいじめるのもほどほどにね?」

「ダメだよー。ぼっちちゃんのメンタルは普通の人よりずっと脆いんだから、もっと大事に扱ってあげないと」

「比企谷、慰謝料。私にも払って」

 

 四対一。反論するまでもなく、俺の負けだった。

 

「いやその、すいませんでした」

 

 なんか理不尽じゃない?

 

 

 

 

 あれから、なんとか彼女らが納得できるアー写が撮れたので今回の撮影会は終了となった。

 

「比企谷君、今日はカメラマンありがとね」

「まあ、結束バンドの役に立ったならいいです」

 

 正直写真一つで何が変わるのだろうと最初は懐疑的だったが、出来上がった写真は案外結束バンドがどういうバンドなのか伝わってくるようなものだった。

 

「あ、あの。最後に、歌詞が完成したので見てほしいんですけど……」

 

 後藤の言葉に、全員が振り返る。心なしか嬉しそうな顔だ。

 

「本当? 見せて見せて!」

「は、はい」

 

 後藤が広げたノートを覗き込む三人。反応は上々だ。ここがいい、このフレーズが良いと好き好きに言い合う彼女らは楽しそうだ。

 

「あ、あの比企谷さん」

「おう、なんだ」

 

 そんな騒ぎからスルリと抜けてきて、後藤が俺に話しかけてきた。

 

「我儘かもしれないですけど、比企谷さんには私の歌詞、歌になってから見てほしいんです」

「……というと、山田先輩の作曲が終わってからってことか?」

 

 こくんと頷く後藤。正直後藤がどんな歌詞を書くのか楽しみにしていたのだが、彼女なりに何か考えがあるのだろうか。

 

「その、比企谷さんには、私を肯定してくれたあなたには、完成した状態の歌を見てほしいっていうか、一番良いものを見てほしいっていうか、その、結束バンドの外から、演奏する私たちを生で見てほしいんです」

「……あれか。完成途中のものは見られたくないとかそういうやつか」

 

 クリエイターという生き物はそういうことに敏感になるとか聞いたことがある気がする。後藤もそういうタイプなのだろう。

 

「そ、そうじゃないと言えばそうじゃないんですけど……まあいいか。と、とにかく、私が言いたいのは」

 

 そう言って、後藤は顔を上げた。長い前髪の奥にある瞳と直接目が合う。普段俯いているせいでなかなか見ることができないそれは、やはり綺麗な色をしていた。

  

「私たちのライブ、楽しみにしててください」

 

 遠慮がちな、けれど微かな自信を窺える笑み。

 ああ、やっぱりコイツは卑怯だ。いつもオドオドしているくせに、肝心な時にはこんなに堂々としているのだから。

 

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