ぼっち・と・ぼっち!   作:承認欲求モンスター

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思わず、彼は言い募る

 元気に話しかけてくる喜多に、どもりそうになりながら返答を返しながら一緒に廊下を歩く。

 

「──それで、比企谷君は後藤さんの応援に来たわけね!」

「応援っていうか、なんていうか。まあ、あいつが本当にうまくやれるのか不安だったのは事実だな」

 

 しかし、人にものを伝えること一つにも応援がいる人間とはいったいなんなんだろうか……。

 

「ふーん、なんか素直じゃない言い方」

 

 喜多は少しだけ笑いながらそんなことを言った。

 少し話した感じ、喜多はどうやら嫌味なところのない真のリア充のようだった。誰かを蹴落とすことなどということには見向きもせず、ただ自分が楽しく、そして周りが楽しくなるよう努める、真のリア充。

 

 逆に中途半端に劣等感のあるリア充などだと、俺のようなぼっちを見かけると積極的に攻撃してくる。このことから、ぼっちは真のリア充とリア充モドキを識別するリトマス試験紙だと言えよう。

 

 リトマス試験紙たる俺だからこそ言えるが、俺は喜多にリア充への憎悪を越える好感を覚えていた。

 というか、俺的にはぼっちというだけで攻撃してくるリア充ではないだけで悪くない感触を得ていた。おい、俺ちょろすぎるだろ。

 

 

 

 

「あ、いた! 後藤さ……えっ、何で泣きながらギターで弾き語りしてるの……?」

 

 後藤を見つけた喜多は若干引いていた。階段の下では、後藤が滝のような涙を流しながらギターを弾き鳴らしていた。

 どうやら自らの黒歴史についての歌らしい。歌詞はふざけていて歌声も適当なのに、不思議と惹き付けられる演奏だった。

 そういえば、あいつが一人でギターを弾くのをちゃんと見るのは、これが初めての気がするな。

 

「すごい後藤さん! ギター上手なのね」

 

 いつの間にか後藤の元に近づいていた喜多が、キラキラした目で称賛を口にしていた。

 

「あっ、えっ、今の聞かれて……!」

「ねえねえ、他にも弾けるの? もっと聞かせて!」

 

 目をキラキラと輝かせて、喜多は後藤ににじり寄った。

 瞬間溢れでる陽キャオーラ。喜多の周囲に光が差し、周囲の気温が上昇する。しおれた植物がこの場にあったのなら、きっと一瞬の満開の花を見せたことだろう。

 まずい、伏せろ後藤! 目を焼かれるぞ! 

 

「うわああああ! 浄化されるううううううう!」

 

 予想通り、喜多の陽キャオーラが直撃した後藤は目を抑えて悲鳴を上げていた。見間違いでなければ、抑えた目からはうっすら煙が出ていた。

 

「あー、喜多。その辺にしてやってくれ。後藤が消滅する」

 

 なおも後藤に近寄って演奏をせがもうとする喜多を、俺はやんわりと制止した。

 

「それで後藤、お前の要件を伝えてみたらどうだ?」

 

 蒸気を出した目を少しずつ回復させる後藤は、さながらとある漫画の巨人のような姿だった。俯いたまま、彼女は言葉を探していた。

 

「えっと、喜多さんギター弾けるって聞いたから、それでうちのバンドのギターボーカルして欲しいってお願いしたくて……」

 

 しどろもどろで早口だったが、それでも後藤の言葉はなんとか喜多には伝わったようだ。内心少しだけ胸を撫で下ろす。

 

「ああー。……ごめん。私、そのバンドには入れないかな」

 

 喜多の申し訳なさそうな声に、後藤が焦り出す。

 

「あっあの、私以外のバンドメンバーはこんな根暗な感じじゃなくて、週末はバーベキューするし、ライブ後はいつもリムジンで躍り狂ってて……」

「そんなパリピなバンド嫌なんだけど……」

 

 追い詰められた後藤は、なぜか口からでまかせを吐いていた。

 

「ていうかそっちの人はそんな雰囲気に見えないけど」

「あっ、比企谷さんはいつもマラカス持って賑やかししてます。あと荷物持ち」

「おい、俺の扱いひどくないか」

 

 口を出さずに見ているだけのつもりだったのに、ついつい言葉を出してしまった。

 ……こいつ、言葉の端々からそんな気配を感じてたけどやっぱり俺のことなめてるんじゃないだろうか。

 

「喜多、コイツの妄言はともかく、わりとまともな奴らだぞ。後藤に比べればな」

「ひ、ひどい……」

 

 勝手に落ち込む生意気な後藤を放置して、俺は彼女に問いかける。

 

「喜多、お前は何を躊躇っているんだ?」

 

 ちょっと接しただけだが、喜多が未知に対して躊躇わずに飛び込める奴であることは何となく察しが付く。真のリア充とは、常に新しいものには敏感なものだ。(ぼっち調べ)

 

 ともかく、ギターに興味を示したのにバンドには入りたくない。そんな態度を、どこかちぐはぐなものに感じたのだ。

 俺の目線を受けて、喜多は少しだけ口ごもった。わずかな沈黙。彼女は最後に後藤の顔をチラと見ると、やがて言葉を吐き出した。

 

「私実は、ギター弾けないの」

 

 わずかに後藤が目を見開く。完璧で、何でもできそうな喜多の晒した、思わぬ嘘。

 どうしてそんな噓を、と問う前に、彼女は訳を話し出した。

 

「憧れている先輩がいてね。ベースやってて、前のバンドの時頑張って追いかけてたの。でも急に辞めちゃって、それでその先輩が新しいバンドのギターを募集をしていたから、思わず手を上げて、でもギターなんて弾けないから、結局ライブ前に逃げて来ちゃったの」

 

 喜多が下を向き、ぎゅっと裾を握る。彼女の陽気なあの輝いていた目が今どんな色をしているのか、俺には見えなかった。

 

「だから、私はバンドなんかやっちゃいけないの。だって、逃げ出したんだから」

 

 逃げ出したから、という言葉を、喜多は重苦しい響きを以って吐き出した。裾を握る手に力が籠る。

 

「──別に逃げたっていいじゃねえか」

 

 思わず、声を上げる。これ以上俯いた喜多を見たくなくて。

 

「え?」

「なんで一回逃げたらバンドやっちゃいけないんだよ。別に逃げた後に他のところでバンドやってもいいだろ」

「でも……」

 

 なおも言い募る喜多に、俺は唇の端を上げて笑って見せる。

 

「俺なんてバイト二回もバックレたけど、未だに新しいバイトしてるぞ。ここにいる後藤なんて、バイト初日に風邪ひいてバックれようとしてた」

 

 気まずそうに少し目を逸らしながらコクコク頷く後藤。

 

「お前が一度逃げただけでそんなに思い詰めている理由が分からない。──ぼっちは、その程度の失敗何度も繰り返しながら生きてるぞ」

 

 思うに、喜多はなんでもできるから自分に厳しいのではないか。勉強も運動も友達作りも、妥協せずに頑張る。だから結果が出る。

 けれども、それじゃあ息苦しいのではないかと俺は思う。

 

 その点、ぼっちは良い。なんでもはできないぼっちは、失敗の数だけならリア充よりもずっと上だ。

 

「お前みたいな奴は、俺みたいにダメな奴を見習え」

「ふっ……ふふふっ。なにそれ、普通逆じゃない?」

 

 耐えかねて、という風に喜多は笑った。それは、今まで見た笑顔とは少し違うようだった。

 

「でも、今回だけは騙されてもいいかも」




喜多ちゃんはヒロインではありません
そのつもりで書いてたはずでした
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