めしくい・ざ・ろっく!   作:布団は友達

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ぼざろ五巻収録の伊地知姉妹ストーリーを呼んだらボロ泣きでした。
久々に「あれ、いつの間に涙が……」ってヤツを体験しました。『ライフ・イズ・ビューティフル』を観た時以来の感動の仕方でしたね。



何が悪い・前編

 

 

 

 冬休みまで残り僅か。

 クリスマスイブを超えれば本格的に始まる。

 バイト先の人にはゴールデンウィーク、夏休みやお盆、シルバーウィーク、助っ人出勤に至るまで働いていた分だけ融通を利かせて貰ったので、年始年末は問題なく後藤家で過ごせるだろう。無理だったらバイト辞めてた。

 でも、今年はひとりが受験だ。

 邪魔しないように後藤家に行くのはやめるべきか。

 しかし、生き甲斐である彼らに会えないのは中々に堪えるものがある。

 夏にひとりとは会ったけど、冬は冬だ。

 どうしたものか。

 

「前田」

「ん?」

「クリスマスって予定あるの?」

「バイトだな」

「人と会う約束は?」

「何もないというか何かする気もない」

「そっか」

 

 教室に来た山田に即答する。

 当たり前だろ、クリスマスが一番忙しいんだよ。

 年末年始の休みを勝ち取るためにも、ここは店長や同僚に媚を売っておくのが最適解だ。現に働き過ぎて店長には最近は引かれている。

 働いて何が悪い。

 互いに利があるなら構わないだろう。

 だが、即答した後になぜか空気がつめたくなった。

 特に山田の変化は無いが、周囲からの視線が鋭い。窓際に固まってる男子数人と教壇を専有する陽キャ女子の眼差しがギラギラしていた。

 アレは、敵意だ。

 イラッとする。

 今のでどうして俺が不興を買わなきゃいけないんだよ。

 内心の苛立ちが顔に出ていたのか、さっと集まっていた視線が俺から逃げた。あ、心証悪くした……もう友だち諦めよう。

 

「クリスマスに何かあるのか?」

「何も無い」

「え?じゃあ、何で俺の予定なんか訊くんだ」

 

 てっきり、クリスマスに俺を使って何かしたいから尋ねたのかと思った。

 山田の事だから……駄目だ、想像が付かない。

 

 

「前田が独りって知りたかっただけ」

 

 

 は?と思わずドスの利いた声が出そうだった。

 俺が誰かといると何か悪いのかよ。

 手に持っているスマホを投げたい衝動をなけなしの理性で必死に抑え込む。危うく教室で怪我人を出すところだった。

 クリスマスに一人なのはリア充に非ず、と。

 でも言われてみればクリスマスとはそういう日だ。

 俺はいつも独りだったし。

 バイト先に入店するカップルを羨んだ事は無いし、況してや誰かとそういう関係になりたいなんて虹夏さんが初めてだったからな。

 

「山田は予定あるのか」

「……私がリア充か気になるのか」

「単純にクリスマスって何してんだろうって疑問だよ」

「私はクリスマスライブ観に行く」

 

 聞くまでもない。

 山田は基本的に一人が好きなヤツだ。

 他人の予定に合せるのも正直苦手という自分本意な人間だから、誰かと過ごすのかという問いこそ愚問である。

 

「へー、ちょっと羨ましいな」

「まあね」

「ドヤるな。……誰のライブ?」

「『SICKHACK』っていう――」

「アー。ウン、ウラヤマシー」

 

 そのライブは予定が空いていても行きたくない。

 クリスマス後なんて、特にきくりさんが荒んで暴飲していそうだから、そこで俺が絡まれようものなら死に至るだろう。

 それより、この前のライブで酒掛けられたのは最悪だったな。まあ、それを見越して雨合羽を着ていたから特に被害は無かったけど。

 

「俺もそのバンドのライブ観に行ったよ」

「そうなんだ」

「あの人たち凄く良いよな。ちなみに俺はきくりさんのベースが好き、飲酒パフォーマンスは最悪だけど」

「…………ベース」

「山田?……何で怒ってるんだよ」

「別に」

 

 若干だが眉間にシワがある。

 なるほど、怒ってるな。

 もしかして、俺にマウントを取りたかったのか。

 自分の推しのバンドを布教したかったのに、相手が既にそれを知った上で良さまで理解しているとなれば面白いと思ったのだろう。

 浅はかなヤツだ。

 いや、もう山田はどうでもいい。

 今は年末、ひとりの迷惑になることを勘案して後藤家に行くか否かを考えるべきだ。

 後藤家には、気遣い0で毎年誘われている。

 

『一郎くんと遊びたいゲームあるからおいで!』

『一郎くんのお布団新調したの、寝においで?』

『い、いっくんと年越ししたいなって……へへ、何言ってんだろ私消えたくなってきたそれでは新曲聞いて下さい『誘い方が気持ち悪くて自分が気分悪くなる私の――』

『いっくんと遊びたい!』

『ワンッ!』

 

 俺に価値を見出してくれる後藤家。

 行きたい……が、ひとりの迷惑になってまで自分のつまらない欲求を満たすのは違う。

 だが、一年の終わりと始まりにひとりの顔を見ないと俺は生きていけない気がする。俺の中では、ひとりに会う事が初詣も同然なのだ。

 駄目だ、幻聴が聞こえてきた。

 耳元でいっくん、って呼ぶ声がする。

 行きたいが、迷惑になるなら……。

 頭を抱えて苦悩していると、山田が俺の肩を叩く。

 まだいたのか。

 

「なんだよ」

「私のベースとあのベース、どっちがいい?」

 

 何か推しと競い始めた。

 まあ、ここは忌憚ない個人的な意見を述べよう。

 

「え、うーん……山田」

「じゃあね」

「今の質問は何?」

 

 俺が返答するや山田が教室を出ていく。

 よく分からないが、なにかに満足したのだろう。

 やはり、山田リョウという生き物は理解できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ♪    ♪    ♪    ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマス当日のバイト終わり。

 俺は店のロッカールームで着替えを終えて帰り支度をしていた。

 その途中でスマホが鳴る。

 ……『両親』からだった。

 内容は、クリスマスに独りにする俺への申し訳無さと来年の四月には帰れそうなので一緒に過ごしたいという報告だ。

 これを見ても、胸が踊らないところが末期だな。

 俺は『楽しみにしておくよ』の一文と、それだけだと味気無く嘘っぽいようになりそうなのである程度は言葉を添えておいた。

 送信、と。

 申し訳ないが、やはり俺は二人の息子にはなれない。

 

「おーい、一郎」

「はい?」

 

 男子大学生の先輩から呼ばれる。

 うわ、陽キャの塊みたいな人だから苦手なんだよな。

 俺は舌打ちしそうになるのを堪える。

 手を止めて先輩を見ると、ニヤニヤと笑っていた。

 

「……俺の顔、面白いですか?」

「そんな失礼なこと考えてないって!」

「じゃあ、何でしょう」

 

 先輩はニヤけ面をやめない。

 嘲笑ではないとしても見ていていい気分がしないんだよな。

 クイクイ、と何やら先輩がホールの方を指差す。

 

 

 

「早く支度済ませろよ――恋人が待ってるぜ」

 

 

 

 やや決め声で先輩が妄言を吐いた。

 何かのドッキリだろうか。

 俺に恋人は過去から現在に至るまで一瞬たりとも存在しな……いや、後藤宅に行った時ふたりのままごとで恋人役はやったことがある。あの時、何故かひとりが押入から出てこなくなってしまったが。

 ともあれ、先輩は錯乱しているようだ。

 

「先輩、俺は恋人いませんけど」

「えっ、前田くん本当!?」

 

 何故か俺が非リアだと言うと、一つ歳上の女子高生の先輩が嬉しそうに訊いてくる。

 最近、俺が独りと知ると喜ぶ人間多くないか。

 根拠もない嘘で周囲まで巻き込むのは迷惑だから本当にやめてくれ。

 

 俺の言葉に、いやでも!と先輩が狼狽する。

 あの慌てぶりは何だろうか。

 まさか、本当に俺の恋人を自称する怪しい人間が待っている……?

 もしかして、またアレかな。

 最近は減ったんだけどな、宗教勧誘。

 俺が長く独りで過ごしているのを近所から聞きつけたのか、週二の頻度で宗教に訪問勧誘してくる人たちがいた。

 何で減ったんだっけ。

 ……ああ、山田がいたからだ。

 たしか、昼時に宗教勧誘に来た人に山田が間違って応対して――。

 

『どちら様ですか』

『私たち、こういう者でして』

『……宗教?何だ、頼んだピザかと思ったのに』

『え、あ、ちょ!?』

 

 彼らが訪問する以前にたまには食べたいから注文したピザと期待していたようで、山田は違うと分かるなり即座に扉を閉めてしまったのだ。

 その後もインターホンは鳴っていたが、ガン無視してベースを弾いていた。

 あれには俺も絶句したな。

 

 ……いや、話が逸れた。

 まさか、バイト先にまで宗教勧誘に来たのか?

 

「先輩、それってどんな人でした?」

「可愛い子だぞ。一郎と同い年っぽかった」

「じゃあ、宗教勧誘ではない……?」

「何を想像してたんだよ!?」

「違うんですか」

「店外の入口の横でずっと立ってるから、店長が尋ねたら「人を待っているから」って言って、可哀想だし中で待ってもらってる」

 

 同い年の女の子。

 まさか、歳の近い信者で攻め落とそうという魂胆なのだろうか。

 どちらにしろ、店に迷惑をかけるワケにはいくまい。

 疑念が募る一方だが、俺が応対しなくては。

 

 俺は眦を決して、荷物を携えてホールの方へと出ていった。

 

 

「あはは……ごめんね、バイト先まで」

 

 

 苦笑しながら虹夏さんが手を振る。

 なぜバイト先に彼女が……?

 連絡先は交換しているし、何か用があるなら連絡してくれたら良かったのに。

 

「虹夏さん、何でここに?」

「リョウからここがバイト先だって聞いてて。今日、実は一郎くんと話したい事があったから……ち、ちょっとサプライズみたいにしたくて」

 

 え、怖い。

 何で山田のヤツは俺のバイト先を把握してるんだ。

 一回も言った覚えは無いし、アイツが来店した記憶も皆無だ。

 家にいる時に何か知ったとか……?

 それにしても、虹夏さんの話したい事というのが気になる。サプライズという事は、重大発表なのかもしれない。

 

「サプライズ?」

「……今日、この後って何かあったりする?」

「バイト後は流石に何もない」

「じゃ、じゃあさ!」

 

 伊地知さんがぱっと伏せていた顔を上げる。

 キラキラとした目と視線が合った。

 顔が真っ赤だ。

 

「良かったら、一緒にご飯食べない?――私の家で!」

 

 この前のお礼もしたいしさ!と虹夏さんが言う。

 別に恩に感じる必要は無いが、それは野暮な話だ。

 山田もこんな風にお返ししようと互酬性のような物を身に付けてくれたら有り難いが、期待するだけ無駄だな。

 しかし、どうしようか。

 …………。

 さっきのメールが頭にチラつく。

 

「虹夏さんのご家族は?」

「あっ、お姉ちゃんが家にいるかな。それだと、一郎くんは気まずい?クリスマスケーキを三人で食べてみたいな、って思って……一郎くんクリスマスも一人だって聞くし」

「…………お姉さんいるんだ、仲良いの?」

「うん!」

 

 何だ。

 この人には一緒に過ごせる家族がいるじゃないか。

 俺なんかより、そっちと過ごす方が価値があるだろう。いつか突然、失ってからでは遅いんだ。

 俺の母親や父親みたいに、急に消えたりするかもしれないんだから。

 

「それで、どうかなっ?」 

「いや、遠慮するよ」

「えっ……」

「折角だから家族と過ごしなよ。それにバイトで疲れてるし、また別の機会で良いかな?」

「あ、と……ゴメンね、わざわざ店まで来て」

「ん?」

 

 俺のスマホがまた鳴る。

 ロインだな。

 確認すると。

 

『前田、クリぼっち楽しめよ』

「うるせっ!こっちは誰ともいたくない気分なだけだっつの、望んでクリぼっちなんだよ!」

 

 いけないいけない、山田のメッセージなんかに取り乱してしまった。

 取り敢えず、穏便に断って帰ろう。

 …………ん?

 

 

「ぁ………ごめん、なさい……」

 

 

 虹夏さんは固まっていた。

 顔から血の気が引いていく。

 あ、しまった!!

 

「いや、違う!誘ってくれたのは嬉し――」

「……ううん、私が勝手にやった事だから……気にしないで………ぅ」

「あ」

 

 虹夏さんの目から涙が溢れた。

 え、あ、え……え!?

 

「ご、ごめんねバイト先まで来て。気にしないで良いから!じ、じゃあ私帰るね!」

「あ、ちょ――」

 

 店の外へと虹夏さんが走っていく。

 俺は店側に一礼してから、慌てて追いかけた。

 彼女の姿はまだある――遠ざかりそうな背中を必死に追いかけた。幸い、足は長距離も短距離もクラスで上位のタイムなので、彼女を捕まえるのは容易い。

 

 でも……足が思ったより重い。

 

 バイトの疲労、は言い訳だ。

 彼女を止めたとして、何を話せばいいか分からない。

 また傷つけるだけかもしれない。

 でも、ここで逃しても良い事が無いのは確かだ。

 

「虹夏さん!」

「ッ……あ、あはは!ゴメン、困らせちゃって……でも大丈夫、もう大丈夫だから」

「………」

「うん」

「……あの、虹夏さん」

「な、何?」

 

 全くこっちを向いてくれない。

 女の子を泣かした事なんて昔のひとり以来だ。

 どう接していいか、が全く皆目検討も付かない。

 でも、虹夏さんをこのまま放置したら関係を悪化させるだけだし…………。

 

「やっぱり虹夏さんの家でご馳走になってもいい?」

「き、気遣わなくて大丈夫だって」

「いや。よくよく考えたら、帰って飯作るのも面倒だし……だ、誰かとクリスマス過ごすなんて久々だから緊張して変な空気にすると思ったから断った、んだけど良かったら……気遣いとかはマジで無いから」

 

 それらしい理由を並べる。

 その間もズキズキと胸が痛んだ。

 しばらく沈黙が続く。

 やべえ、空気が重たい…………虹夏さんの顔を直視できなくて思わず視線を逸らしてしまう。

 光の緒を引いて車が横を何台か通化していく。

 それを見送った後、虹夏さんの手が俺のコートの裾を摘んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「――虹夏、目腫れてるけど……ソイツ?」

 

 三十分後、虹夏さんの家で彼女の姉を名乗る人物のガンギマリした目で睨まれていた。

 はい、泣かしたのは俺です……どうぞ好きにして下さい。

 

 俺が悪いから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前編・後編の仕様は大体があの子のターンです。

喜多さんのターン?――キターン!……なんちゃって。
…………取り敢えず、つまらないギャグをかまして白けたストレスを虹夏ちゃんにぶつけてもっと曇らせようと思います…………。

今回の虹夏はどれくらい曇らせる事ができたと思う?

  • 0%
  • 1〜10%
  • 11〜20%
  • 21〜30%
  • 31〜40%
  • 41〜50%
  • 51〜60%
  • 61〜70%
  • 71〜80%
  • 81〜90%
  • 91〜99%
  • 100%
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