めしくい・ざ・ろっく!   作:布団は友達

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喜多ターン直前とアンケート展開までしたけど、すみません嘘です。
今回予定でしたが、この後のひとり回などの兼ね合いで消去だ……スマン、喜多。


喜多を最推しにしている人が思っていたより少ない……。







チョコに詫びろ・後編

 

 

 

 

 バレンタイン以降、クラスメイトにはよく話しかけられるようになった。

 バイトとは違う環境で構築される人間関係。

 不思議と新鮮な気分だった。

 特に最近、ストレスの無い日を送っている影響もある。

 理由としては、まず山田を出禁にした事だ。

 あまり叱らなかったが、鍵を没収して二週間を言い渡した。渋々と出ていくアイツを見送ってから急いでチョコを食べて虹夏に感想を送ると、今度一緒に出かけようと誘われたので了承のメールを返しておいてある。

 

 それにしても……不思議だ。

 

 特に、山田に憤らなかった自分に驚いている。

 好きな子のチョコを食べられかけたし、言い付けを破った山田へかつてない程の怒りが湧くんじゃないかと、一瞬悪怯れもなくクラスメイトのチョコを完食したアイツを前にした時に思ってはいたが一切そんな気配は無かった。

 

 何でだろうか。

 一目惚れの女の子、なんだけどなぁ。

 

「んー」

「どうしたの前田くん、考え事かい?」

「え?」

「凄い顔してたよ」

 

 陽キャ男子の一人が話しかけてきた。

 そんなに物憂げな感じが伝わっていたのか。

 陽キャ、か。

 恋愛については、俺よりも一日の長があるのだろう。

 先達として教えを乞いたいが、初っ端から恋バナなんて俺が叩き込んできたら引かれるかもしれない。

 今更の話だけれども。

 

「少し、教えて欲しいんだけど」

「うん」

「実は去年の春に一目惚れした子がいてさ」

「凄いパワーのある話題だな」

 

 予感していた通りの反応だ。

 だが、陽キャ男子は席の横に立っていたのに俺の前の席に座って聞く姿勢を作ってくれている。

 優しさが眩しい。

 そうか、陽キャって太陽なんだな。

 

「実はその子にチョコ貰って」

「おお!凄いじゃん!」

「初めて好きになった人でさ。でも、そのチョコを他の子に食われかけたんだよ。しかも、本人はチョコをくれた子とも交流があるんだけど反省感ゼロで」

「あ、あちゃー」

「でも、俺あんまり怒れなかったんだよな。思えば貰った時も内心で叫ぶほど喜んだりもしてなかったし」

 

 その話を聞いて、陽キャがピンときた顔をする。

 もう察している雰囲気だ。

 俺自身が分からないというのに、この人は何処から答えを導き出せたのだろう。陽キャだからこそ理解できる分野の問題だとでもいうのか。

 

「どう思う?」

「いや、それは最初から答えが出てるよ」

「それって」

 

 さ、最初からって。

 そんなに初歩的な事なのかよ。

 これでは山田にも言われたが、やはり俺は自分の感情に対しても鈍いという事になる。

 いやいや、彼がまだ正解というワケでもない。

 まずは、彼の回答を聞いてからだ。

 

 

「前田くん、春の時ほどその子を好きじゃないんだよ」

 

 

 陽キャ男子が確信を宿した声色で断言する。

 俺は……唖然とするしかなかった。

 春の時ほど好きではない、そんな単純な答えなのだとしたら拍子抜けにも程がある。

 でも――好きでは無いと断言されても、否定されたと怒る気にすらならない。寧ろ、腑に落ちたというように静かな納得が胸の内に生じる。

 俺が虹夏を好きではない、か。

 

 思えば、彼女に手を握られた時もそうだ。

 

 以前ならば、浮足立つほど喜んだ。

 ただ、クリスマスに招かれたり少し話すようになったりして、少しずつ距離が縮まっていった。

 慣れなのか、彼女とも落ち着いて話せるようになったと自覚している。

 チョコを渡す時に手を握られたけど、手の小ささや感触にはドギマギしたが、虹夏さんに握られた事実自体に興奮していたか微妙だ。

 

「好きじゃない、か」

「うん、よくあるよ」

「あるの?」

「手が届かないから良いっていう人もいるし。君の感情って、どっちかというと恋愛の好意じゃなくてアイドルとかに対する憧憬だったりするんじゃない?」

「憧憬……」

 

 俺は机に視線を落とした。

 この違和感は好意の種類による問題だ。

 虹夏に対して憧れを抱いていた――と考えると、今自分が彼女と話すようになった頃より変化した自分の感情にも説明が付く。

 ……薄情な人間だな。

 チョコの件で焦りもしないとは。

 心の底では、クラスメイト達に貰ったチョコと虹夏のチョコを同価で見ていて、食べられても不安はないと判断していたから、封が開けられかけた痕跡を見ても怒気が湧かなかったのだろう。

 山田も山田だが、俺も大概だ。

 彼女の自制心の無さを知っている者としては配慮が足りなかった。

 次の一緒に出掛ける時にでも虹夏に一回謝ろう。

 

「どうかな」

「いや、納得した」

「助けになれたなら何よりだよ。……でも、前田くんってば知らない内に恋とかしてたのかぁ。もっと早く話しかけてればよかったな」

「それは……近寄るなみたいなオーラが出てたから?」

「かもね」

「ぐ」

 

 この陽キャ、凄い。

 今まで言葉すら交わさない仲だったのに。

 バレンタインで少し気を許した途端、もう内懐へと大胆に踏み込んでくるではないか。

 遠慮のないリアクションに少しだけ傷つく。

 でも、これが当たり前なんだよな。

 今まで俺がやって来なかっただけで。

 

「助かったよ」

「あ、そうそう」

「ん?」

「さっきのヤツに補足だけど……実は他にしっかりと好きな子がいるから、憧れの子をそんなに注視しなくなったんだと思うよ」

 

 ウィンクまでして陽キャが告げる。

 他に好きな子、か。

 虹夏への感情が恋愛ではなかったと理解した今、俺はまた振り出しに戻ったのだ。

 恋愛については、ほとんど知識ゼロ。

 

 果たして、俺の好きな子って誰だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♪    ♪     ♪     ♪

 

 

 

 

 

 

 放課後になって、俺は教室を出た。

 バイトも無いし、今日はゆっくり映画三昧かな。

 ……あ。

 

「一郎くん、いま帰り?」

「前田だ」

 

 昇降口で虹夏と一緒にいる山田と遭遇する。

 出禁にされたのに、元気そうだ。

 しかし、いつもと違うのは……『食いしん坊』と書かれた札を首から下げている。これは一体、どういう処刑法なんだろう。

 俺の視線で気付いた虹夏が苦笑する。

 

「あ、これチョコの罰ね」

「罰?」

「一郎くんへのクラスメイトのチョコ目一杯食べた罰!」

「な、なるほど」

 

 ぷんすかと虹夏が腰に手を当てて激怒アピール。

 山田は相変わらず反省感ゼロどころか、チョコの味を思い出しているかのように「美味しかった」と呟いている。本当に懲りないな、コイツ。

 

「私のも食べようとしたしね」

「あんまり怒ってないんだ?」

「まーね。リョウならやると思ったし」

「信用無いな」

「だって!一郎くんと食べたクリスマスケーキ、残ったから私用にって残してたのにリョウが冷蔵庫にあるからって食べちゃったんだよ?寧ろ私のチョコが残ってたのは奇跡だって」

「ああ……」

 

 どうやら本当に予見していた事態のようだ。

 逆にそう思われる山田って……。

 

「でも、俺がしっかり管理してないから」

「いやいや、一郎くんは悪くないでしょ」

「そう。美味しそうなチョコが悪い」

「貴様は反省しろ」

「ハイ」

 

 虹夏に冷たい声で言われて山田が萎縮する。

 自業自得、ここに窮まったな。

 しかし、話してみた様子では大して俺の杜撰な管理による虹夏と山田の不和などは無さそうだ。普段から二人は本当に友だちなのかという信用の無さが垣間見えるが、今まで友だちすらいなかった俺には分かり得ない何かがあるのだ。

 うん、そうに違いない。

 

「二人も今帰り?」

「うん、そうだよ。あっ、一郎くんはこの後バイトか」

「今日はフリー。虹夏は?」

「フリー!じゃあ、遊ぼうよ」

 

 目を輝かせて虹夏が詰め寄って来る。

 映画三昧を企画していたので、若干遠慮したい気が………あ。

 遠慮したい、か。

 やっぱり、春頃とは違うんだな。

 

「ん?どうしたの?」

「いや、何でもない。……何かする予定?」

「ふっふっふっ……良かったら、『STARRY』でスタ練する私たちを見ていく?」

「スタ連……あの迷惑な?」

「スタジオ練習ー!」

 

 ぽこ、と背中を小さな拳で殴られた。

 痛くないのが幸いだ。

 しかし、『STARRY』は虹夏のお姉さん――星歌さんが運営しているライブハウスだ。必然的に、あのカッコいい歳上のお姉さんに会える。

 それに、スタジオ練習となれば……。

 ちらりと山田を盗み見る。

 俺の視線に気付いた彼女が、含み笑いをこぼした。

 

「私の音が聴きたい?」

「虹夏のドラムが気になるな」

「なぬっ?」

 

 山田は反省しておけ。

 でも、内心楽しみにしているのは否めない。

 ライブハウスで聴ける音がまた普段の物とは違うのは、きくりさんのライブ演奏を見ていて実感している。

 スタジオ練習に部外者が立ち入っても良いかと躊躇われるが、虹夏たちが対して問題視していないから誘ってくれているのだ。

 ここは貴重な体験になるし、行くべきか。

 

 俺が頷くと、早速とばかりに虹夏が先導する。

 

 俺はその後を追って歩き、隣に山田が並ぶ。

 

「反省してないから、一週間プラスな」

「……実は最近、虹夏もご飯くれない」

「自業自得だな」

 

 がくりと山田が肩を落とす。

 懲りてくれ。

 

「そういえば、前に言ってたボーカルの人とか見つかった?」

「それが募集中なんだけどねー」

「二人は歌えないの?」

「私は下手だし……」

 

 意外だな。

 虹夏ってドラムをやっているからリズム感は備わっているんだろうに、歌うのは苦手なのか。

 なら、山田は?

 ベースでもボーカルは張れる。

 何せ、きくりさんがそうだった。

 それに、山田が準備室だったり俺の家で歌っている時は上手な印象を受けた。

 

「山田は……」

「私がやると、ワンマンライブになってしまう」

「そうなのか……」

「コラコラ、一郎くんも真に受けちゃ駄目だよ」

 

 虹夏に即否定されるが、当の本人である山田は未だ自信有りげな表情を崩さない。

 度し難いやつだな。

 しかし、二人が辞退しているならボーカル担当になる子に求められる歌唱力もまた期待が高くなる。俺がライブハウスでいつか彼女らのバンドが演奏する時、どんな仕上がりになるのかな。

 

「前田は私の歌が上手いのを知ってる」

「そうなの?」

「何度か聴く機会があったから。綺麗な声だなとは思ってる」

「ふふん」

「でも、山田のワンマンっていうのは疑問だな」

「……」

 

 疑わしいからな。

 そんな会話を繰り広げている内に、件のライブハウスへ着い…………て………。

 地下へと伸びていく階段の先、薄暗い影の中に沈んだ黒い扉を見て俺は思わず足を止める。

 

 ま、魔境…………?

 

 じ、実は処刑場だったり……もしかして、笑顔ではあるが実はチョコの事をまだ許してないのでは?

 

「一郎くんっ」

 

 虹夏が笑顔で手招きしてくる。

 

 

 

「さ、行こう!」

 

 

 

 ごめんなさい、謝るから殺さないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喜多ターン直前SP!実際に喜多ちゃんをどれくらい推してる?

  • 最推しです。
  • 二番目かな。
  • ゴメン、No.3!
  • 四回転。
  • じ、実は苦手だったりして。

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