めしくい・ざ・ろっく!   作:布団は友達

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少し短めですが、今後無いかもしれない程に、一郎くんの理性が蒸発します。


日頃から全力運動はしておこう

 

 

 

 

 山田たちのライブ当日となった。

 俺は張り切りすぎて色々と急いでいた。

 どうせライブ後には山田が家に来るので、折角ならと虹夏も誘って記念パーティーにしてやろうと、料理の下準備などを済ませておく。

 どんな仕上がりかは分からない。

 パーティーなんて用意されても迷惑かもしれないが、もしそんな気分でないのなら、彼らには記念ではなく打ち上げ会と変更して伝えよう。

 

 今日は豪勢にしゃぶしゃぶだ。

 青梗菜やキャベツ、もやしと豚バラ肉というスタンダードなしゃぶしゃぶだが、かなりの物量を揃えた。

 山田の胃袋などを考えれば妥当だろう。

 後は米をひたすら炊いた。

 

 後は、来客用のジュースなども準備が完了している。

 他にも色々と仕込んでおかなくては。 

 いそいそと家の中を忙しなく動く俺だったが、居間のテーブル上で震動し始めたスマホの前で止まる。

 着信だった。――山田である。

 

「もしもし。こちら前田」

『前田……』

「どうした?」

『…………その………』

「ん?」

 

 山田にしては珍しく弱々しい声だ。

 伝える事を躊躇うのか、肝心な内容が出て来ない。

 根気強く待とうとも考えたが、ライブ前にこの様子を見ると悠長に構えているのも危うい気がする。

 少し酷かもしれないが、先を促してみるか。

 

「ライブ、何かあるのか?」

『…………ボーカル』

「うん?」

 

 ボーカル――喜多さんか。

 彼女の事で何か問題でもあったんだな。

 元から合わせの練習が出来ていないという不安な事前情報もあったのだが、このライブ当日という土壇場でどんな爆弾を炸裂させたのだろう。

 少し聞くのが怖くなってきたが、俺は山田の先の言葉を待つ。

 

 一呼吸分の間を矯めて。

 

 

『ボーカルが、ライブ直前で逃げた……から、前田は来なくて良い』

 

 

 山田は信じ難い事を告げた。

 俺はその場で固まって、何も返せなかった。

 ボーカルが怪我をした。

 ボーカルが体調不良で来れない。

 そういった内容を予想していただけに、その上をいく事態を耳にして思考が停止させられる。

 逃げたって……そんな事が。

 

「あ、あれ……でも」

『今回は申し訳ない』

「い、いやいや……一応金は払ってるし、お、オマエのベースが聴けるなら別にボーカル無しでも」

『チケット代なら後で私が出す。……だから来ないで』

「な、何で」

 

 自分でも、どうしてここまで動揺しているのか分からない。

 どうしてもライブに行こうと縋り付く。

 普段の冷静さがあるなら、山田の意思なんぞ関係なくライブハウスに足を運ぶ事が出来た。

 こんな風に声を震わせることも無かった。

 どうして、こんなに焦っている?

 

「い、行くのは俺の自由だろ」

『……お願い』

「…………」

 

 そこから先は声が出なかった。

 口を止めて、思考が止まれば必死になって縋り付いた理由がストンと頭の中に落ちて理解が完了する。

 俺はただ、否定したかったのだ。

 ボーカルの不在だとか、緊急事態だとかそんな事はどうでもいい。

 そんな事実よりも――あの自信家の山田が、『来るな』と言っている事だ。

 

 去年、ずっと見てきた。

 

 俺の家で図々しく寛ぐ山田は腹立たしい。

 イライラさせられなかった日など決して無い。

 ただ、アイツがこの場所で弾く時の姿をずっと見ていた。

 弦の上を奔る指先と、ベースに注がれる山田の眼差しの色の深さ。

 凄く自信に満ちた演奏だった。

 家で見てもそうだったが、ある日の視聴覚準備室にて俺一人の為に開催した単独ライブの音の鮮烈さは、忘れていない。

 きくりさん達の凄いライブを観た後だって、山田のベースが一番だと言えたのは、それがあったからだ。

 

 だから……聞きたくなかった。

 山田の弱った声も、その口からライブに来るななんて言葉も。

 

 俺は頭痛がして眉間を揉む。

 お願いなんて。 

 

「……俺は行くよ」

『……でも、私と虹夏しかいない』

「それでも行く」

『…………』

「……本当に来て欲しくないのか?」

『……うん』

「……一応、理由を訊きたい」

 

 俺は呼吸を整えながら尋ねる。

 山田の返答次第でどうなるか分からない。

 もし、あの山田から自信のない弱い感想なんて聞いたら。

 

 

『一郎には、ちゃんとした私の音楽を聴かせたい』

 

 

 その一言で、俺は脱力して座り込んだ。

 ……そこまで言うなら仕方無い。

 何て答えたかは覚えておらず、ただ通話はそこで終了された。どっちが切ったかも定かではない。

 スマホを隣の床に置く。

 準備していた何もかもへの失望感は無い。

 それ以上に押し寄せる怒涛の感情の整理で俺の体はそれ以外の全てを放棄する。

 だから俺は暫く、ぼーっと天井を見上げながら放心していた。この日を楽しみにしていただけに、予想外の頓挫の仕方に心構えも何もかもが無為に陥り、感情が追いつかない。

 空虚だった。

 それだけに最後の方は山田の声がリフレインしている。

 

 どんな顔をして、次は山田に会えば良い?

 

 やっと動き出した脳みそが最初に提起した問題はそれだった。

 別に、当初の予定が少しズレただけだ。

 本人たちさえ良ければ、打上げはここですれば良い。

 ただ、今の山田に俺はどんな風に接すれば……。

 

 この絶望感、前にも覚えがある。

 

 たしか、五歳の頃に少しだけ自分を変えようとして当時世話になっていた親戚の人の誕生日に子供なりのプレゼントを贈呈したのだ。

 残念な事に、それは目の前で床に叩きつけられて踵で踏みにじられ、罵詈雑言を浴びせられ、翌日のゴミ袋の中に残骸を発見する羽目になった。

 その時に似ている。

 

 あれが嫌だったから、人にプレゼントなんてしなくなったし、自分の誕生日も言わなくなったな。

 

 誰かに気遣われるのも嫌で、誕生日はできる限り独りになれるように立ち回る。

 当日両親から届くプレゼントにも胸が躍らない。

 後藤家に言祝がれてもさほど喜べない。

 

「……重く、考えすぎか」

 

 俺はようやく力の入った足で立ち上がる。

 取り敢えず、ライブが終わった後は我が家で打ち上げ会を皆でしようと山田…………いや、虹夏に連絡する。

 さて、打ち上げ会だけでもどうにかしよう。

 山田の件は後回しでいい。

 

 今回駄目だっただけだ。

 またいつか聴ける、今はそう思う事にしてこの混乱と無理やり折り合いをつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♪    ♪    ♪    ♪

 

 

 

 

 

 

 夜になり、俺は机に突っ伏していた。

 あ゛ー……何もやる気が出ない。

 虹夏からは打ち上げ会の件について『了解』という返事を頂いている。後は、彼女らのライブが終わって笑顔で迎えるだけ……なんだけどな。

 俺は壁の時計を見る。

 もう、ライブは終えた頃だろうか。

 

「ん……ロインか。虹夏かな?」

 

 俺は机の上のスマホを掴む。

 画面を見れば、虹夏ではなくひとりからだった。

 

 

『助けて』

 

 

 突然の救難信号だった。

 何やら位置情報が送られてきている。

 助けて…………か……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「任せろォッッッッ―――――――!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 草臥れている場合では無くなった。

 全身に力が漲る。

 気力が金色の光として可視化できる程に自分の体から充溢しているのが分かった。

 ライブが観れなかったなど些末な事!!

 

 俺は上着を掴み、家から飛び出した。

 エレベーターでは遅い。階段を四段飛ばしで駆け下り、マンション出口を滑り出て、位置情報で示された地点へと力走する。

 入学から一ヶ月以上経ち、ひとりは未だに俺を頼った事は無かった。

 きっと、俺を不安にさせまいと努力していたのだろう。

 今回は何があったか知らない。

 だが!

 きっと、もう自分だけでは立ち直れない壁にぶつかったのだ!!

 

 ひとりの苦難は俺の敵ィ!!

 

 手段を選ばず木っ端微塵にしてくれる。

 ただの事態ならともかく、人が原因ならば全力で排除して二度と害意なんて抱かないよう徹底的に心底まで恐怖を刻みつけてやる。

 疾風のごとく駆けた俺は、いつも以上の速力が発揮できていた所為なのか感覚的に導き出していた到着予想時間を遥かに凌ぐタイムで現着した。

 

 位置情報の地点で、急ブレーキをかける。

 

 すると、ギターケースを背負ったままフラフラしているひとりを発見した。

 

「うへぁっっ!?いいいいっくん早い!!?」

 

 俺はひとりの傍へと止まるや、拳を構えて全方位に威嚇する。

 

「敵は何処だ、ひとり!」

「敵!?」

「安心しろ、オマエに害を為したヤツなんぞ血祭りにしてやる」

「ひ、ひぇ」

 

 随分と頭に血が昇っていた。

 ひとりが俺に怯えて悲鳴を上げる。

 おっと、いけない。

 優先すべき第一目的は、ひとりの心の安寧を取り戻す事である。俺が彼女を混乱させては本末転倒だ。

 まずはひとりを抱き締めて頭を撫でる。

 

「ごめんな、怯えさせて」

「うぉえ……(切り替え凄すぎて目が回る……)」

「一旦落ち着こう。大丈夫、大丈夫……」

 

 ひとりと温もりを分かち合っていると、少し下から扉を開く音がした。

 地下へと続く階段の先で、こちらを怪訝に見詰める視線が二つあった。

 

「えっ……い、一郎くん?」

「…………」

 

 俺もひとりから少し体を離し、視線に応える。

 よく見れば虹夏……げ、山田。

 どうして二人がここに?

 そんな疑問は、周囲を見てここがライブハウス『STARRY』だと理解した瞬間に解消された。

 

「……ライブお疲れ」

「み、店の外が騒がしかったから見に来たけど……何してるの」

「ひとりからロインを受けて、ここまで迎えに来たんだよ」

「ぼっちの?」

 

 山田が眉を顰める。

 それよりも、『ぼっち』って何だ。

 不吉な含意のありそうな単語に違和感を覚えつつ、腕の中で蒸発しそうになっているひとりの体が形を失わないよう強く抱きしめ直す。

 階下からの視線が鋭くなった気がした。

 どうでもいい。

 今はひとりが最優先だ。

 

「あれ、ひとり……何でこのライブハウスに?」

「ぁぅ……ぐぁ……」

「この様子だと再生まで三十分弱か」

 

 立ち直るまで介抱しよう。

 俺の家で一旦休ませてから、後藤家に連絡だ。

 俺は下から見ている二人に視線を投げた。

 

「これから、ひとりと家に帰るけど……二人は俺の家に来る?」

「………………うん、行くよ」

「目が覚めたから」

 

 二人が頷き、一旦帰り支度を済ませるとライブハウス内に戻った。

 俺も訊きたい事が山程あるので、今回は打ち上げ会と言うよりは尋問になりそうだ。

 

 …………む。

 

 俺はふと、自分の足が震えているのが分かった。

 じわじわと、脹脛や臀部の筋肉がぎこちなく淡い痛みを伴って張っていくのが伝わる。

 

 

 

 …………近年稀に見ない全力の解放に、どうやら体が追いつかなかったらしい。……筋肉痛だ。

 俺は階段横の欄干に縋り付いて立つ。

 駄目だ、これ以上は。

 

「お待たせー!……ってどうした!?」

「ごめん、家まで送ってくれ。もう動けない……!」

「何しに来たの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




このアンケート、私はウルキオラか山田に投票します!!

ぶっちゃけ、誰がヒロインレース一位に見える?

  • 山田リョウ
  • 伊地知虹夏
  • 後藤ひとり
  • 喜多郁代
  • ウルキオラ
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