めしくい・ざ・ろっく!   作:布団は友達

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 総評価ポイント14,000有り難うございます。
 これからも頑張って…………頑張って?妄想垂れ流していきます。





頼る相手を間違えたの巻

 

 

 

 

 午前のバイトから上がって帰途につく。

 今日は山田も『STARRY』でバイトらしいので、恐らく家には居ないだろう。

 真面目に働くのは良い事だ。

 遅刻は如何な物かと思うが、それでも無断欠勤をしないリョウのその部分だけは数少ない美点と言える。

 残る美点は三つ。

 

 容姿が整っている。

 スタイルが良い。

 ベースが様になる。

 

 ……ん、内面が無い……?

 幾らなんでも、外見だけで判断するなんて最低な事があるか。そんな筈は無いと再思考するが、やはり挙げられる美点はその三つに限る。

 俺が最低人間なのではなく、ヤツが外見のみという最悪評価を叩き出す存在というだけなのでは?

 逆に、嫌な所はすぐに思い浮かぶ。

 

 無断で家に踏み入る。

 勝手に風呂を借りる。

 飯を旨そうに食わない。

 服を借りて礼の一つも無し。

 俺の意思を問わない。

 財布の管理が甘い。

 責任感が低い。…………etc。

 

 駄目だ、際限なく湧くように挙げられる。

 これは俺の所為ではないんじゃないだろうか。

 霧が晴れるような爽やかな気分になって、俺は呼吸がしやすくなる。

 ああ、俺は悪くないんだ……!

 今は欠点ばかり目につくが、もしかすると俺が知る山田リョウは彼女における一側面の僅かな部分で、これから美点がもっと発見される可能性もある。

 うん、人間は希望を捨てちゃ駄目だよな。

 

 ……山田リョウの分からない点、か。

 

 最近、寝る前にキスしてくるのは何だろうか。

 しかも、唇が触れ合う以上の……アレ。

 過激な接吻と称する他ない行為の意味が未だに分からない。恋人でもなければ、あのリョウが俺を愛しているワケでもない。

 実際、言葉にされた事は無いし。

 リョウ自身も、学校では俺を友だちと言うし。

 だが、友だちでそうなるだろうか。

 あのキス、時折だが変な風に盛り上がってしまう時があって、その場合は俺が逃げているが、あのまま行ったらどうなるのだろう。

 そ、想像したくない。

 何を考えてアイツは俺にあんな事を……。

 

 くそ、何で俺だけこんなに深刻に考えているのに。

 これでリョウだけが気楽に日常を送っていたら、俺はどうにかなってしまいそうだ。

 

「……リョウからのロイン?」

 

 ポケットのスマホが震動する。

 取り出して見ると、リョウからのロインだった。

 開いて見れば。

 

 

『みんなで江ノ島観光、海老煎餅うま』

 

 

 ミキリ、とスマホが軋む。

 気楽そうだな、こいつ。

 真面目に働いているのではなかったのか。今日の晩飯は絶対に出してはやらないし、キスだってしない。

 しかし……それにしてもだ。

 写真を見ると、画像の端に揺れる金髪がある。

 これは、虹夏のトレードマークでもあるサイドポニーに違いない。しっかり者の虹夏も一緒という事は、バイトを抜け出したりしたワケではないのか。

 取り敢えず、『もっと美味そうに食え』と返信。

 

 ん……喜多さんからも、ロインだ。

 

 

『先輩っ!これから神社で先輩のコトお願いしちゃいますねーっ!(階段の画像)』

 

 

 ……俺の事って、何だ?

 無病息災か?

 勉学についてか?

 よく分からないが、いずれにせよ背景にある長く続く階段は厳しそうで、そこまで苦労して自分ではなく俺の事を願ってくれるとは良い後輩だ。

 ………ん?

 階段でくたばってるピンクジャージがいる。

 これまさか、ひとりか!?

 明らかに疲弊している、救援に向かうべきだろうか。

 でも、コレって江ノ島だよな。

 もしかして、結束バンドで観光しているのか。ならば虹夏や喜多さんが介抱するから、俺の救けなんて不要かもしれない。

 うん、仲が良いんだな。

 えーと、『ありがとう』と返信。

 

 お、虹夏からもロインか。

 

 

『エスカー楽ちん』

『でも、少し運動しなきゃなー』

『今度さ、ちょっと二人だけで運動しない?強化トレーニング週間、みたいな!』

 

 

 コメントも明るい。

 見ていて和むが、なぜ俺まで運動させようとする?

 最低限の体力は学校の体育とバイトで養われているので、さして問題は無いんだ。

 でも、普段からお世話になってるしな……。

 もし虹夏がトレーニングを始めたら、少しだけサポートしてみよう。

 うん、まあ無難に『頑張ろう』と返信。

 

 みんな夏休みの終わりを、楽しんでいる。

 俺はライブを見た以外、特にイベントで外に出たりはしていないな。

 うん、というか……………誰にも誘われてねぇ!!?

 と、友だち居ない。

 

 俺も何処かへ行くべきだろうか。

 でも、一緒に行く人間がいないから寂しくなるだけではないだろうか。

 どうせなら遠出……キャンプするか。

 夏休み前に取った原付免許があるし、店長にシフトの都合とかで伝えたら「使わなくなったヤツあるから、良ければあげるよ」とか言ってくれたから手段としては可能だ。

 いつか出来ればと、キャンプ用具は三月に揃えてある。

 貯金がゴッソリ削れたのは、通帳見て背筋凍ったけど。

 

 ……行っちゃう?

 

 一人でキャンプとか普通らしいし。

 今月は映画も取り寄せてないから、バイト代や貯金も含めて余りあるから交通費は問題ない。

 ……………………。

 夏休みは終わるけど、エンジョイしてやる。

 幸い、来月の初旬は店長にメチャクチャ懇願されて三日くらいの連休がある。

 

 

 

 

 

 ……やってやるか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♪     ♪     ♪     ♪

 

 

 

 

 

 

 夏休み明け初日。

 俺は学校の机の上にて、以前意気込んで買ったキャンプの心得を説く本を再読していた。

 アウトドアへの挑戦。

 出来れば万全の姿勢で挑みたい。

 道具が揃っているとしても、道具は使い手がしっかりしていなければ機能を発揮してくれない。俺自身の心構えを作る必要がある。

 

 本来なら、家でじっくり読みたかったが……我が校は初日からしっかりと授業をするので、予習などもしなければならなかった。

 バイトと勉強で時間を取られる以上、授業の合間の休憩時間にて確保する他ない。

 

 

「あれ、前田くんキャンプ興味あるの?」

 

 

 昼休憩の時間だった。

 虹夏達に誘われた昼食を断り、手早く食事を済ませて再び読んでいたところに、クラスメイトの女子から声をかけられる。

 俺の前の席に座る子だ。

 名前は、前園さん。

 

「前園さんもキャンプするの?」

「うん、するよ」

「実は俺、この週末にしようと思ってて。でも初心者だから最終確認みたいな」

「えーっ、本当に?身近な人でキャンプに興味ある人いなかったから嬉しい!分からない所とかあったら聞いてね。先輩として教えちゃうから!」

「頼もしいな」

 

 何てことだ。

 まさか、先達がいたとは。

 アウトドア系は、雑誌などで初心者にも易しく丁寧に教えるよう書いていて助かるが、しかしどうしても実際に赴かないと分からない苦労という物があるという。

 それを楽しむのもまたキャンプの醍醐味だが、やはり知っていて損は無いだろう。

 先達の知識は、そういった面で貴重だ。

 

「何処のキャンプ場にした?」

「えっ、三日前までに決めれば良いかなって……」

「駄目だよ!せめて一週間くらい余裕持った方が良いよ?まあ、割と前日にパッと決めるタイプもあるけど、初心者ならそれくらいしないと」

「そ、そっか」

「良かったら、お勧め教えようか?」

「助かる。移動手段は原付バイクあるんだけどさ」

「ホント?なら、この――――」

 

 前園さんが張り切っている。

 肩を寄せて、彼女がスマホで検索したマップデータを俺にも見えるようにしてくれた。

 よほど同好の士を得た事が嬉しいのだろう。

 俺は彼女の話に耳を傾けた。

 話を聞いていく内に、心底自分が準備不足である事を痛感した。彼女は夏のキャンプにも精通しているらしく、俺が失念していた部分の問題を指摘したり、その解決策を教えてくれる。

 こ、これが……頼もしさ……!

 

「そう。ここに常連のおじさんがいるんだけど、たまにご飯くれて優しいんだよね」

「へー、親切なんだな」

 

 しかも、話が面白い。

 キャンプ場を見て行く過程で、自分が行った時に体験した話も織り交ぜてくれる所為か、すらすらと内容が入ってくる。

 素晴らしい体験ができるのか、キャンプって。

 

「――っと。ざっとこんな感じだけど」

「いや、凄い為になったわ」

「先輩として、今後もキャンプに興味を持ってくれるようにサポートしないとね」

「素晴らしい先輩に出会えた」

「そっかー。とうとう仲間が出来たか」

 

 前園さんが喜びを噛みしめるように頷く。

 俺も内心では感動していた。

 この会話、なんか友だちっぽい!

 凄いぞ、趣味を通じて繋がる友達って俺にはあまり居なかった。小説を貸してくれる陽キャ君や初めての友達の虹夏も同じ趣ではないからな。

 なんて貴重な人材だ。

 趣味友だち第一号・前園さん!

 

「今まで一人だったからなー」

「一人キャンプも楽しいんでしょ?」

「他の人たち見てると、やっぱり誰かと一緒にやってみたいってのもあるんだよね」

「ほう」

「あ、そうだ!」

 

 ぱん、と前園さんが手を叩く。

 何か名案でも思いついた風だ。

 

 

 

「もし予定が合ったら、今度は一緒――」

「へー!一郎くん、キャンプに行くんだ!良いなー、ちょっと私も興味あるかも!」

「私が家に居る時はやめてね」

 

 

 前園さんの名案発表を遮って、虹夏とリョウが出現した。

 ちょっ、邪魔ですって。

 前園さんの声が聞こえなかったんだけど。

 虹夏は前園さんと俺の間から速やかに退いてくれ。後ろから首に腕を回して耳元で囁くリョウについては、吐息で耳朶が痒いのでやめて欲しい。

 急な登場に、前園さんも驚いているようだ。

 顔が引き攣っている。

 

「あの、前園さん。何て言ったかもう一回――」

「一郎くん、何処に行く予定なの?」

「美味しい土産を期待してる」

「えと……前園――」

「免許取ってたんだね!ちょっと憧れちゃうなー!」

「なら今度から私の送迎も出来るな」

「前園さん、後の話はロインでやろうか。連絡先交換しようぜ」

 

 俺は立ち上がって前園さんと連絡先交換を始める。

 ここでの会話は、もう諦めた。

 謎に俺のキャンプ話へ凄まじい勢いで興味を抱き始めた二人がいると、全く話が進まない。こうなったら、会話の場を別で設けよう。

 れ、連絡先交換……友だち……!

 ロインに登録された連絡先の数が48人……す、すごいぞ……!

 スマホを眺めて歓喜に震える。

 

「ま、前田くん」

「ん?」

「が、頑張ってね……色々」

「ああ。アドバイスして貰ったから、頑張れそうだ」

「……うん、頑張ってね!」

 

 前園さんが笑顔で去っていく。

 ……前の席なのに、何で教室を出ていくんだろうか。他クラスの友だちにでも会いに行くのかな。

 

「一郎くん。話を遮っちゃってゴメンね?」

 

 虹夏が微笑んでいる。

 謝罪は別にいいのだが……。

 話を遮ってしまった事に対する罪悪感などを全く感じない愛らしい笑顔だ。

 彼女の内心が全く分からない。

 

「でも私、寂しいよ」

 

 …………。

 …………………。

 ……………………………。

 ………………………………何が?

 

 たっぷり思考したが、全く分からない。

 一緒にいた彼女を置き去りにして話題を膨らませていたとかではなく、そもそも会話すらしていないのに寂しいとはどういう事だろうか。

 リョウがいるから、そんな気分になる筈は無いだろうが。

 てか、そろそろ背中から退け山田。

 

「ご、ごめん?」

「本当に思ってる……?」

「え、え?いや、も、勿論。不快にさせたなら謝る……そんな積もり?は無かった」

「………」

「ごめん。何で俺が批難されてるかマジで心当たりが無いです」

 

 正直に白状した。

 いや、突然こんな事言われて分かる人いる?

 俺がただ愚鈍ならそう言ってくれ。

 

 俺の謝罪に、虹夏が黙り込む。

 一体、何を思っているのだろう。

 互いに言葉が出ずにいる中、沈黙を破ってリョウが口を開く。

 

「私は虹夏と同じ気持ち」

「リョウ……?」

「虹夏は自分がインドア派だから一郎がアウトドアにハマるのが寂しいんだよ」

「成る程、リョウにも分からないんだな」

 

 的外れもいいところだ、黙っててくれ。

 

「虹夏……」

「ごめん。最近、一郎くんが喜多ちゃんとかぼっちちゃんと仲良いの見てて焦ってて……」

「は、はあ」

「ほんと、ゴメンね……?」

「う、うん?」

 

 え、俺が悪いのに謝罪された?

 もう何が何だか分からない。

 最近、俺の周囲の女子について不思議が多すぎやしないか。喜多さんの独特な言い回しといい、リョウのキスといい、虹夏のこの言動…………これって、何かの災厄の予兆だったりするのだろうか。

 俺が喜多さんやひとりと仲良しだと虹夏が焦る?

 

 それは嫉妬してて、もしかして俺に恋してる?……は、ふざけてるよな。真面目に考えないと失礼だ。

 

 もしかして、俺に自分の事をベストフレンドだと思っていて欲しい……とか?……これも違うか。

 

 ……はっ!?

 まさか、自分の方が喜多さん達と仲が良いって言いたい……ワケじゃないよな。それだと、前園さんとの間に入ってきた行動が意味不明だ。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ………マジで、どういう事?

 この膠着状態をどうにかして欲しい。

 まだ昼休憩の時間は残っていて、この自分たちでは破り難い雰囲気に縛られ続けている。

 こうなったら――頼りたくないが、オマエしかいない。

 ……山田ァ!!

 振り返ると、リョウがふと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お腹いっぱいで眠くなってきた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一生寝てろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ブルーロックENDは、ブルーロックのプロジェクトで山田や虹夏に会えない挙げ句、謎に凜に執着されてサッカーを続ける羽目になるのでBAD ENDです。
 ………BAD ENDか、コレ?

結束バンドで一番好きな曲を答えなさい。(因みに私は、『星座になれたら』です。)

  • 青春コンプレックス
  • ひとりぼっち東京
  • Distortion!!
  • ひみつ基地
  • ギターと孤独と蒼い惑星
  • ラブソングが歌えない
  • あのバンド
  • カラカラ
  • 小さな海
  • なにが悪い
  • 忘れてやらない
  • 星座になれたら
  • フラッシュバッカー
  • 転がる岩、君に朝が降る
  • タケシのパラダイス

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