最近あった悲劇。
アニメを観ていて……。
自分「『鬼滅の刃』といい、『Fateシリーズ』といい……夜しか動けん奴ら多すぎね?暗くないと自由に動けないとか……さてはみんな陰キャなのか?!戦ってねぇでロックやれ!(暴論)」
友だちA「俺、『鬼滅の刃』だと炭治郎が嫌いだな。アイツのせいで日本中の長男がこうあるべきと言われてハードルが上がる。我が家じゃ妹の方が強いのにさ、守るべき存在感が皆無……逆に守られたい。
あと鬼舞辻無惨も嫌いだな。単純に頭が悪い、上弦の使い方も雑だから炭治郎とか柱を殺し損ねるし、俺ならもっと人間追い詰められる……(略、長すぎて憶えてない)もっと理的に納得できるアニメ観たい!」
友だちB「あー、来世は虹夏ママから産まれたい。それか『ゆるキャン△』のなでしこみたいな可愛い子の幼馴染になりたい。
あ、でも『俺ガイル』の由比ヶ浜結衣の弟にもなりたい!」
自分「へー」
友だちA
「「そういうアニメかゲーム教えて」」
友だちB
自分「『BLOOD-C』ってアニメが良いよ」
後日、視聴した両名から呪詛みたいな感想がきた。
午前中に期末試験が終わって一息つく。
これから始まるのは夏休みだ……バイト尽くしの。
でも、夏休みはある意味で稼ぎ時だ。
特に友だちなんていないしな。
映画を観て、働いて、映画を観て、働く……それしかやる事が無い。
…………。
「……やっぱりか」
俺はスマホを確認した。
メールで親から連絡が来ていた……今回の夏も帰る事は無いらしい。
申し訳無さそうなのが文章から伝わって来る。
小さい頃からなので慣れっこだし、取り敢えず『気にしないで』と打っておいた。
さて、今日はバイト無し。
帰ったら久々にゆっくり出来るな。
山田もこのテスト週間は家に来なかった。……何やら伊地知さんに付きっきりとかいう羨ましい日々を過ごしているらしい。
いいなー!!
何で山田はいつも良い思いしてんだよ。
「ま、俺も夏休みを満喫してやる」
俺は席を立ち、教室を出た。
すると、廊下に出てすぐ見知った顔を見つける。
「山田さん、暇?」
「みんなで打ち上げにカラオケ行かない?」
山田の周囲に人がいる。
へえ、アイツって人に誘われることあるんだ。
意外な光景に思わず足を止めて見てしまう。
それにしても、キラキラした女子に包囲されているのは気の毒に思う。万が一にも俺の周囲に無い環境だが、あの場にいるのが俺だったなら死んでいただろう。
来てくれるかもしれないと期待に弾んだ声だ。
あんなの陰キャに断れる空気じゃない。
「ごめん、愛犬のイチローが家で留守番してるから」
……こ、断りやがった。
真正面から毅然とした態度で答える姿には少しだけ尊敬すら覚えてしまう。
それにしても、山田は犬を飼ってたのか。
イチローって名前がまた俺と重なってるようで何故か鳥肌が立つ。
「まーた嘘付いてるよ」
「うおっ」
「やほ、前田くんっ」
至近距離で声がして思わず跳ねてしまった。
隣を見ると、伊地知さんが笑顔で立っている。
ぐ、鎮まれ心臓……!
「リョウってば、あの手の嘘が豊富だよなぁ」
「え、あれ嘘なの?」
「そもそも犬飼った事すらないからね」
呆れ気味に伊地知さんが暴露する。
アイツ、陽キャの手勢に真っ向から断るだけでも相当な胆力が要るというのに、まさか堂々と嘘をつくとは大したもんだ。
道理で俺の家でふてぶてしく寛げるわけだよ。
「あ、その、伊地知さんはどうしたの?」
「私も帰るところなの」
「……そっか」
「これから夏休みだね。何かみんなに会えなくなると思うと寂しいな」
「伊地知さんが誘えばみんな来るでしょ」
「あー、私の家がライブハウスだからバイトで忙しいんだよね」
「ライブハウス?」
へえ、家がライブハウスか。
何かちょっとカッコいいな、それ。
っていうか、い、いい伊地知さんと会話できてるよ俺!
幸せだ、夏休み前にこんな良い事あるなんて。
「前田くんは夏休み何するの?」
「俺もバイト尽くしかな」
「お、休みもダラけずとは……偉いね〜」
ほほ、褒められたっ。
「伊地知さんみたいに家を手伝いたいって綺麗な理由じゃないって。単にお金が欲しいだけだし」
「何か欲しい物があるとか?」
「映画とか……できれば一人旅してみたくて」
「えー!すごーい!」
一々リアクションが眩しい。
話していて俺も幸福感に包まれる。
ああ、いつまでもこの時間が続いてほし――。
「虹夏、何やってんの」
「ん?前田くんと話してたよ」
「前田、人の臓物の話とかしてなかった?」
「え゛っ、どういうこと!?」
「前田は食事前にグロい映画を観た後、肉料理を食べるのが好きな危ないヤツだから」
「違うからね、伊地知さん」
伊地知さんが青褪めた顔でこちらを見る。
違う、そんな特殊な趣向はしていない。
単に山田への意趣返しとしてであり、普段なら絶対にしない。
「適当言うなよ、オマエ」
「前田は酷い」
「いつもあんな事しないっつの」
「今日の夜はやめて欲しい」
「何さらっと家に来る予告してんだよ。来るなよ」
先月は週四の頻度で来ていた。
何でまた戻ってるんだよ。
最近は俺の部屋に山田の私物となる雑誌が何冊か置かれていたり、いつの間にか自分用の食器と箸が用意されているのには目が飛び出そうなほど驚いた。
やめろ、俺のプライベート圏内を侵食するな。
「あ、私も前田くんの家に行ってみたい!」
え。
「駄目、かな?」
え。
「虹夏、それは流石にワガママ」
「どの口が言っとんじゃ」
え。
い、伊地知さんが俺の家に来る……?
そんなご褒美イベントが……でも幸か不幸か、山田のせいで来客用のお菓子とかの備えは充分にある。
どうしよう、心臓が痛い。
「あ、前田くん……今日はバイト?」
「いや。何も無いから帰って映画観ようかなって」
「映画かぁ、どんなの?」
「それは――」
「あ、ゴメン電話。お姉ちゃんからだ!」
会話の途中で着信音が鳴る。
どうやら伊地知さんのスマホのようだ。
一言断って、伊地知さんがそそくさと少し離れたところで通話を始める。
ほ、本当に来るのかな。
少しウキウキしていると、隣の山田から視線を感じる。
「虹夏を入れるの?」
「伊地知さんが良いなら勿論……緊張するけど」
「虹夏をすんなり入れるのは不平等だと思う。私はやっと許されてきたのに」
「許したつもりは一度も無いぞ」
何を勘違いしてるんだ、コイツは。
俺と山田が話していると、通話を終えた伊地知さんが急いでこちらに駆け寄るや合掌した手を面前に持ち上げる。
「ごめん!今日忙しいみたいで急遽バイトが……」
「あ………そう」
「えっ、私より残念そう!?」
あ、来れないのか……残念。
良いさ。
陰キャが高望みしたって届かない物はある。
「ごめん!いつか必ず遊ぼうねー!」
「虹夏、バイバイ」
伊地知さんが手を振りながら走り去っていく。
山田とそれを見送って、俺は嘆息した。
「山田はバイトとかないの?」
「私も虹夏と同じとこでバイトしてるけど、連絡無いから大丈夫」
「あそ。じゃ、俺も帰るわ」
「私は本屋に寄って行くから」
分かった、そのまま自分の家に帰れよ。
もしこれで今日もオマエが現れても俺は絶対に中に入れたりなんてしないから。
神に誓って、オマエはもう通さない。
俺は決意を胸にし、手を振る山田と別れた。
♪ ♪ ♪ ♪
昼食を摂った後である。
俺は食後のコーヒーを淹れていた。
「前田、コーヒー淹れるの上手いね」
湯をフィルター内のコーヒー粉へ丁寧に注ぎ、少しずつサーバーの底に抽出された物が溜まっていく。
その過程を隣で山田が見ていた。
注いだ箇所から芳しい薫りが湯気と共に立って気分が落ち着く。
あれから山田の侵入を許してしまった自身への憤りも鎮められていくようだ。
「早く飲みたい」
「オマエ用じゃない」
「これに入れといて」
「話してる言語は同じはずなのに通じない」
結局、二杯分を淹れる事になった。
ちなみに一杯目は山田に譲った、無念。
二人でソファに座ってコーヒーを飲む。
うん、今年に入ってから練習しているけど最初に比べたら美味しい。
やはり淹れ方で味って変わるんだな。
上達が味で知れるのは何だか嬉しい。
「ん、美味しい」
「あ……そういえば、昨日の夜にバイトから持って帰ってきたチーズケーキがあったな」
「頂いてます」
「いつの間に」
気づいた時には、山田がコーヒーと共に召し上がっていた。
いけしゃあしゃあとやりやがった。
コイツ、俺がコーヒーを淹れている間に後ろで冷蔵庫でも漁っていたのだろう。浅ましい。
「うん、よく合う」
「俺のチーズケーキが……」
「前田、映画観ないの?」
山田がもくもくと食べながら俺の方を見る。
どうやったら、人間はここまで図太くなれるのだろうか。
呆れながらも、俺は観ようと思っていた映画のパッケージからDVDを取り出す。
「何それ」
「『ア○ファルト』ってヒューマンドラマ系の映画」
「洋画?」
「洋画……フランスの、だったと思う」
映画を再生する。
内容は、人の交流に視点を置いた物だ。
見ていると何だか心にじわりと色んな感情が滲むようで、最近はホラーやサスペンスが多かったので比較的に穏やかな気持ちで鑑賞し続けられる。
隣で山田もコーヒーを啜りながら集中しているようだった。
やがて映画が終わると、カップも冷めていた。
まだまだ日は高かった。
もう一本観る余裕はあるけど、少し休憩したい。
「面白かった」
「山田も?」
「眠くならなかったし」
「判断基準がそこかよ」
まあ、集中して観ていたからそうなのだろう。
選んだ身としては、嬉しい限りだ。
満足げな山田の顔、その口元にはケーキの残りカスがついている。……しばらく放置しておこう。
「何か弾きたくなってきた」
「……俺って、山田の曲とか聴いたことないよな。バンドとかの」
「…………」
「普段、どこで演ってんの?」
「前田は聴かなくていいよ」
「えっ、何で」
山田が一瞬だけ黙った。
そして。
「最近のは、つまらないし」
短く、冷たく言い捨てた。
俺に背を向けたまま、山田がベースギターを弾き始める。
声色がいつもと違うので、それ以上の言及はできなかった。
俺は山田が空にした皿とカップを手にキッチンへ戻る。
それらを洗いながら、爪弾く彼女の横顔を盗み見た。
相変わらずの無表情だが、何となく暗い。
前もそうだけど、バンドの事になると妙に触れられたくない感があった。あれだけ自身の腕前を俺に見せつけるように弾いたりするのに、そういう部分は自分の口で語ろうとはしない。
……俺は友人じゃない。
変に踏み込むべきではないな。
「そういえば、山田はテストどうだった?」
「…………」
「え、何その反応」
「大丈夫。留年しなければ問題ない」
「へー。そりゃ学年末考査が楽しみだな」
この言い方、さては勉強してないなコイツ。
意外に勉強できないんだな。
成績不振なら、伊地知さんとかが面倒見てくれそうだけど……。
「前田はどうだった?」
「手応え的に、今回も学年三十位以内は堅い」
「そういう嘘もつきたくなるのは分かる」
「いつか後輩になりそうなヤツが言うな」
「ぐふっ……酷い」
俺の一言に、山田が胸を押さえてソファーに寝転がる。
いい加減に帰ってくれないかなぁ。
何だか、この状況に慣れつつある自分にもじわじわと危機感を覚え始めている。
「…………前田」
「ん?」
「前田は普通だけど面白い」
「食後の運動に喧嘩でもしたいわけか」
「ううん」
ソファーから山田が体を起こす。
彼女の双眸が、じっと俺を真っ直ぐに見つめた。
「前田まで変わらなくて良いから」
思わず食器を洗っていた手を止める。
どういう意味なのか量りかねる。
返し方も分からなくて、俺も無言で視線を返した。沈黙が長く続くが、居心地の悪さは無い。
どうしてか、お互いにずっと相手を見ていた。
「山田」
「ん?」
「口の端にケーキのやつ付いてるぞ」
この妙に浸りたくなる沈黙からの誘惑に抗って、俺は山田の口にずっと付いていた物を指摘した。
指でそれを拭った彼女は、指先をぺろりと舐める。
「前田って夏休みはずっと一人?」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、いつでも来れる」
いや、だから何でそうなるんだよ。
コイツは少し自重して欲しい。
まあ、コイツがいてもバイト以外はきっと去年と同じような時間を過ごすのだろう。
何も変わらない。
山田に言われずとも俺は変わらない。
あ、けど――今年の夏休みは、一人じゃないのか。
「またご飯食べに来るから」
いや、頼むから一人にしてくれ。
キャラクター紹介
・前田一郎
身長175cm
下北沢高校に在籍していて山田リョウの同級生。
クラスメイトから、友だちになりたいけど本人が嫌そうランキングNo.1とされている。一郎は友だちが欲しい。
絶賛、虹夏に淡い片想いをしているが奥手過ぎて何のアピールも出来ていない。
映画好きで、バイト代をそこに注ぎ込んでいる。
両親が海外出張で一年を通じてほとんど一人だが、毎年の年末年始だけ金沢八景に住む親戚の後藤家で過ごす。
キミにきめた!(註:特にストーリーに反映はしません。アンケートを使った遊びです。)
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山田リョウ
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伊地知虹夏
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後藤ひとり
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喜多郁代
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後藤ふたり
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伊地知星歌
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廣井きくり
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ジミヘン
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ひとりのイマジナリーフレンド
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アニメ6話のミディアムヘアモブの子
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アニメ6話のロングヘアモブの子
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その他