キャラクター名→人間として・恋愛
メインヒロイン
山田リョウ→尊敬50%ストレス50%・34(???)%
その他
後藤ひとり→何かもう色々と100%・53%
伊地知虹夏→親近感65%可愛い35%・63%
喜多郁代→畏怖40%明るさ55%憧れ5%・14%
前回のIFブルーロックは削除しましたが、単品で投稿するのでご心配無く……。
尚、原作タグは『ブルーロック』になってます。
日直の仕事で私――伊地知虹夏は残っていた。
リョウも待たせている……というか、勝手に待っているんだけど、退屈な時間を過ごさせるのは可哀想なので急いで終わらせた。
それにしても、疲れたな。
夢に近付く道のり、その進捗は捗々しくはない。
流石に喜多ちゃんが揃った辺りに思い描いていたくらい上手く事が運んだ事は無い。
実際に、まだ次のライブも未定だ。
でも、不思議と焦りは無い。
初ライブも失敗に終えるかと思ったら、ぼっちちゃんが窮地の最中にある私たちをヒーローそのもののように音で救けてくれた。
たった十人くらいの客員数でも笑顔にできた。
だから、次のバンド活動にも前向きに取り組める。
ぼっちちゃんとリョウも、あれから止まる事なく新曲の作成を続けているし、喜多ちゃんも練習を怠らない。
うん、順調って言えば順調!
なら……この胸のモヤモヤは、やっぱり……。
私は胸に手を当てて考える。
脳裏に浮かんだのは一人の少年だ。
今は同じクラスで、去年から目で追ってしまい、関わるようになってからはつい気分が浮足立つ。
些細な会話だって嬉しい。
今日は特に。
『あの、虹夏……』
『どうしたの?』
『き、今日さ……古文の課題を家に忘れちゃって。お願いだけど、ノート写させてくれないか……?』
『た、大変だね』
『頼む。――助けてくれ』
助けてくれ。
彼からその言葉を聞くと、背筋がゾクゾクする。
堪らなく嬉しくなって、私は何でも叶えてしまう。
私がノートを差し出せば、凄く嬉しそうにしてくれる顔を見た時なんか、そのまま抱き締めたくなった。
……余談だけど、忘れたと思しきノートは誤ってリョウが自分のバッグに入れていただけだったので事なきを得た。
彼に頼られる、それが凄く嬉しい。
私にあの目が向けられている時がドキドキする。
でも、何でだろう。
最近は、喜多ちゃんやぼっちちゃん……特にリョウばかりで、私を見る瞬間が少ない。
距離感が無いけど、それが不自然には見えない。
それを見るとチリチリと胸が焼かれるように痛くなる。
できる限り、アプローチを仕掛けていた。
リョウみたいに家に入り浸ったり、抱き着いたりとか大胆にやらないと駄目なのかな。
い、いやでも一郎くんが嫌がるのはいけない。
ちゃんと誠実に、手段を選んでいかないと。
でも、それじゃ遅いのかな。
二人の親密さは去年の比じゃない。
それが顕著に見られるのは、今日のノートの一件でのやり取り。
『っ、おい!ノートに涎垂らした?』
『あ、本当だ』
『何してんだよ……』
『多分、
『う、わ……マジかよ……恥っず』
そんな一連の会話があった。
ノートを閉じるや顔を赤くして悶える一郎くんの反応も怪しい。
リョウは嬉しそうにしてた。
ノートの涎、って何?
寝ている一郎くんかリョウが垂らしたなら分かるけど、『した』ってどういう意味なのかな。
思考するほど解らなくなる。
うんうんと頭を悩ませながら歩いて教室に辿り着く。
考えても仕方ない。
一郎くんは恥ずかしがってたからどうかと思うけど、リョウなら正直に答えてくれそうだし、直接尋ねてみるのが近道だ。
教室で待っているだろうし、早速訊こう。
私は扉の取手に手をかけて――。
「一郎。いいよ」
リョウの声がした。
扉の小窓から、室内の様子が見える。
窓枠に腰掛けたリョウの前に、一郎くんが立っている。
……何で、そんな、顔、近……?
混乱する私に気付かず、二人は会話をしている。
リョウの角度からは私が視界の隅にでも見えて可怪しくないので、慌てて一度小窓から身を退く。
ど、どうして。
気になってしまって、再びこっそり覗く。
「ほ、本当にやるのか……?」
「うん」
「と、トランプゲームで負けた罰ゲームにしては重すぎないか?てか、家でもよくない?」
「敗者に口無し」
「調子乗ってるなぁ」
イライラしている一郎くんの声だ。
け、喧嘩……なのかな。
いや、罰ゲームっていうから、これから何かするんだろう。
「てか、本当にコレ罰ゲームで良いのかよ」
「え。いつも私からだし、こういうのもアリかと」
「いや、でも恋人でも無いのに――」
「あと、罰ゲームにしないと小心者の一郎には多分出来ないだろうから、丁度いい。他にもやりたい事は、またゲームで勝てば良し」
「突き落とすよ?」
なぜかリョウは挑発的な態度を取る。
一郎くんも煽り耐性が低いのか、喧嘩を買って出た感じで動き出した。
彼の片手が、リョウの右頬に添えられる。
その瞬間から、甘い緊張感が教室の外にいる私にまで伝わってきた。
リョウが目を閉じる。
一郎くんはそれを見てプルプルと震えていたが、やがて彼女に向かって自分の顔を近付けていった。
「ほ、本当に良いんだな?」
「一郎にして欲しい。……それくらい、私には『価値』がある」
「そ、そう、か」
え、待って、え?
な、何これ。
二人は何をしてるの?
私は唖然として、二人がゼロ距離になったのを見詰めるしか出来なかった。
リョウの手が、一郎くんの服を掴む。
びくりと彼の体が跳ねて、慌てて離れようとするのを止めている。
数秒か、数分か。
そのままだった二人が、やっと離れた。
一郎くんは力が抜けたように、直近の机に崩れ落ちるように突っ伏す。
「ど、どうだ……罰ゲームは完遂したぞ」
「……思いの外、下手……」
「俺、何やってんだろう。何か泣きたくなってきた」
「そろそろ虹夏も戻ってくるから、元気だしなよ」
「窓から飛ぶ覚悟は出来たか?」
項垂れている一郎くんを見下ろしながら、リョウは微笑んでいる。
それを見て、私は踵を返した。
頭が真っ白になって、校内をそぞろ歩く。
教室から遠退いて、でも嬉しさとか悲しさとかは無い。
ただただ無感情だった。
何で歩いているかは、分からない。
ただ、何かがぷっつりと切れて――そこで足は止まった。
「手段なんて選んでたら、遅いよね」
私が、変わった気がする。
♪ ♪ ♪ ♪
今日はSICKHACKのライブ当日。
この日は必ず空けておくのが去年から習慣化した俺――前田一郎は、早くもライブハウスに到着していた。
その名も、『FOLT』。
SICKHACKの活動拠点になっている場所だ。
まだ開店前なのだが、俺は迷わず中へと進んでいく。
本来なら、この時間は関係者以外立ち入り禁止だが、不思議にも俺は入れる。幸か不幸か、きくりさん関連で迷惑を被っているし、彼女をライブハウスに届ける時もあったのでスタッフ側にも顔が通じていて立ち入れるようになった。
みんな優しくて気のいい人たちだ。
どうせ、きくりさんがまた二日酔いとかになっていそうなので、それを予見した『専用きくり装備(水、家で作った蜆の味噌汁を入れた水筒、酔い止め……etc)』をバッグの中に備えてある。
志麻さんの血管がブチ切れそうだから俺が頑張らないと。
「失礼しまーす……」
「あら、一郎ちゃん」
「あ、銀さん。こんばんは」
「こんばんは。今日もライブ観に来てくれたのね」
俺の目の前に一人の男性が立つ。
外見は三十代で、パンクロックを意識したその長身を包むファッションとピアス、初見なら絶対に近付くのを避ける厳つい印象を受ける外見の割には女性的な柔らかい対応をしてくれる不思議な雰囲気の持ち主。
この『FOLT』の店長こと吉田銀次郎さんだ。
愛称は銀ちゃん、だが……俺はそこまで距離を詰められないので銀さんと呼ばせて頂いている。
「ライブ前に、きくりさんのコンディションを整えようかと」
「あら。毎回ごめんなさいねぇ……」
「いえ。それで、肝心の本人は……?」
「まだ来てないのよ」
「え、リハは」
「もう終わってるのよ」
「えーっ」
まだ、来ていない……だと?
バンドマンにとって、どれだけリハが重要かを志麻さんが懇切丁寧に説いてくれた。
それを欠かす事は、かなり危ういとまで言っていた。
リハ無し……正気か、きくりさん。
しかし、何処に行ったのだろうか。
折角用意した味噌汁などが無為になってしまう。
どうしたものか。
彼女がまた酔い潰れていたのなら、ライブが出来ない。しかし、骨の髄までバンドマンなのかあれだけ呑んだくれでもライブに来ないなんて事は志麻さんに聞く限りでは無かったそうな。
仕方ない、待つか。
「出たわね、廣井姐さんの腰巾着!」
アぁ?
不名誉な呼称に、俺の怒りが沸点間際まで上昇する。
明らかに俺を指した蔑称だった。
呼ばれ始めたのは、俺が『FOLT』に通うようになってからで、そんな呼び方をする人間は一人しか思い当たらない。
声は背後からした。
だから、俺は後ろに――振り返らない。
断固として、そちらを向かない事にした。
こういった相手の気持ちを損なうような輩に対しては、取り合わない事が重要だ。
バイト時の客ならば仕方ないが、今回の俺は客だ。
反応する必要性は皆無。
「な、何よ!無視するなんて良い度胸ね」
振り向くものか。
このままSICKHACKの二人へ挨拶に行こう。
そうすると、何故か疲れた顔の銀さんに肩を叩かれた。彼がちょいちょいと後ろを指差すので、仕方なく避けていた方向に視線を運ぶ。
「ゆ、許さない……!」
「はいはい。悪かったよ」
「ち、ちゃんと頭を垂れなさいよ!」
「そういうの、パワハ――」
「ちちち違うわよ!私がそんな事するワケないでしょ。私は節度あるバンドマンなんだから」
泣きそうになっていた少女が、漸く俺が反応したとあって毅然に振る舞おうとし始める。
やれやれ、本当に厄介なヤツだ。
切れ長の瞳とツインテール、本人の気質を表すようなタイトでスタイリッシュな服装をしている。気難しそうな険のある表情を常にしていて、俺にもやや攻撃的だ。
去年から『FOLT』に通うようになって、同い年とあって初対面から礼儀のない態度を取るので苦手というか若干警戒している。
「相変わらず元気が良いな、ヨヨコ」
「ふん。生意気ね、イチロー」
腕を組んだ尊大な態度で俺を見る少女――大槻ヨヨコに対し、俺も負けじと睨み返す。
「わざわざ推しじゃないバンドのライブに来たワケ?」
「いや、SICKHACK推しだけど」
「え!?い、一ヶ月前は私たちのライブを主目的にして観に来るって言ってたじゃない!?」
言ったっけ、そんな事。
ヨヨコのバンド――『SIDEROS』のライブは、結束バンドと同年代でありながらも完成度が高い。
正直、このライブハウスではSICKHACKの次に注目していると言っても過言ではない。
ただ、やはりきくりさんの演奏が聴きたくてここに来ているんだ。
本当にそんな事を言った覚えが無い。
いや、待てよ……たしか、先月……。
『いい加減にしてくれ、きくりさん』
『えー。いいじゃ~ん、私のライブ楽しめたでしょ?だからシャワーとご飯ー!』
『……分かりました。来月からはSIDEROS推します』
あ、あー、アレか。
あまりにもだらしなくて、それでも世話になろうとするきくりさんに呆れて、俺はそんな冗談を言った気がする。
それをいい感じに捉えてしまったようだ。
お気の毒に。
ヨヨコ自体は悪い人間ではないし、SIDEROSだって好きだ。……でも嘘はつけない。
「あれは冗談だ」
「あ………そ、そう……ふーん……べべ、別に?アンタなんていなくても、私にはファンが沢山いるし……」
ガタガタと青褪めて震えるヨヨコ。
少し言い過ぎただろうか。
しかし……このヨヨコの態度に普段から苦しめられているから、お互い様という事で。
しかし、フォローもしておくべきか。
一見、気の強そうなヨヨコだが承認欲求が強くてファンの数や盛り上がり方は勿論だが、ちょっとした否定の言葉にも過敏に反応してしまうほど弱い。
よほど期待されていると思っていたんだろう。
そうでないと知ってこの有様なら、このままライブで挫けてしまうかも。
それは、可哀想だ。
「でも、同年代として誇らしく思うくらいには『SIDEROS』も注目してるから。――頑張れよ」
少し気恥ずかしくてぶっきらぼうに言ってしまった。
ヨヨコは……静かだ。
し、失敗したか?
恐る恐る見ると。
「ふ、ふふん!アンタにそんな事を言われなくたって、私は頑張ってるし!?」
ご覧の通り。
繊細だが、多少の褒め言葉で沈んだ心が急上昇もする。
扱いやすいのか扱い難いのやら……。
調子を取り戻すヨヨコが再び攻撃してくる前に離脱すべく、足音を消してその場を離れた。
やれやれ、気が休まらない。
ライブ後はリョウも家に来るって言っていたから、飯の用意もしなくてはいけないし……。
「始まってもないのに疲れた……」
「あっれー?少年じゃーん!」
「ぐえ」
疲弊していたところに、胴体を横合いから突く衝撃を受けた。
そのまま体に巻き付いたのは、きくりさん。
やはり、見立て通りライブの日は必ず来る。
俺はきくりさんの肩を掴んで引き剥がそうとし――その背後にいる人物たちに気づいた。
こちらを蕩けた顔で見詰める喜多さん。
半泣きで俯いているひとり。
面白くなさそうな顔のリョウ。
そして――無表情な虹夏。
「こんばんは、一郎くん」
もう、疲れた。
最も一郎に侵食されていそうなキャラは?
-
山田リョウ
-
伊地知虹夏
-
後藤ひとり
-
喜多郁代
-
廣井きくり
-
ゴーリキー