最近のプチ不幸。
友人A「聞いたか!?リゼロの3期が制作決定したらしいぞ!!」
自分「何だってェ!?今!ディオと言ったのか!?」
友人B「観たかよ呪術廻戦のPV!伏黒パッパの声が合いすぎてマジやべぇ!」
自分「ジョジョー!!オレの最後の波紋だぜ、受け取ってくれェェエ――――!!」
友人A「未来見ろよ。過去ジョジョも面白いけどお前だけ何で新しい情報に見向きしないんだよ」
友人B「ところでさ、おにまいが終わったって言ってるけどアレって落として上げるって最近アニメ業界が使ってる戦法だよな?2期あるよな?」
友人A「お前は未来見てるけど幻まで見るなよ」
誰一人噛み合わない地獄が顕現した。
「一郎くん、早くおいでよー」
戦慄で固まっていた俺に虹夏が声をかける。
思わずはーいと応えてしまいそうな明るく柔らかい声だが、聞けば聞くほどに『箱』を持つ手が冷たくなってくる。
悪い予感が絶えない。
どうしたら逃げられるのか。
俺は渋々と、『箱』を袋に入れる。
逃げられない。
ここで逃げれば、虹夏が次はどんな手段を講じてくるか分かったものではない。今回の『箱』もかなりの奇襲だが、次はこれ以上の強硬策で来る危険性もある。
未然に防がなくてはならない。
それに、今日の為に最強の矛たる『言い訳』も用意しているのだ。
居間に戻ると、虹夏が期待に満ちた眼差しで俺を迎えた。
胃がキリキリする。
「ほら、机の上に全部出して」
囁かれる死刑宣告。
泣きそうになりながら俺は袋から一つずつ取り出した。
ジュース二本と、スナック菓子の袋………そして、『箱』。――の下からもう一つの『箱』が出てきた。
……………え゛。
何で『箱』が二つもあるんだろうか。
捉え方によっては、虹夏が俺をかなりのバケモノだと思っているように感じる。
ちらりと虹夏の顔を盗み見る。
ばっちりと目が合った。
どうやら、感想を求めているらしい。
何を言えば良いんだろうか……こ、ここで「これは何?」とか尋ねたら否が応でも虹夏の不穏なモノに触れてしまいそうだ。
「差入は、こんなのでいいかな」
「じ、充分すぎるよ」
「そっか」
「そ、それで……コレなんだけど」
俺を箱二つを手に取る。
すると、にっこりと虹夏が笑みを深めた。
駄目だ。
どんな目的であろうと、虹夏に何も言わせてはならない。
「それはね――」
何か考えろ。
こっちは『言い訳』だって用意したんだ。
レベル3案件なのは間違いないが、乗り越えなければ確実に明日から俺は虹夏とまともに顔を合わせられないような関係に、それこそ『結束バンド』のライブにも行けない絶体絶命の危機に瀕する。
臆してどうするんだ。
今までと違うと証明しなくては。
いちいち常識で物事を測ろうとするな。
虹夏が大胆に出たのなら、それ以上の度胸で俺は跳ね返さなくてはならない。
彼女の目的を頓挫させるような、衝撃的な一言。
俺は考えに考えて、箱を手に立ち上がる。
虹夏がこちらを不思議そうに見上げた。
「あ、ありがとう。――よく分からないけど、リョウと俺の関係を聞いて差し入れてくれたのか?」
声が震えないようにしつつ話した。
果たして―――。
「………え?」
虹夏の顔に貼り付いていた笑顔が消えた。
俺は平静を装ったまま、『箱』と一緒にスナック菓子の袋を持ってキッチンに移動する。袋を開けて、広い器に中身の菓子をすべて解放した。
その間も虹夏は黙っている。
口は閉じていても、目が明らかに泳いでいた。言葉が見つからない様子で、『箱』を話題にした第二第三の矢が放たれる事は無かった。
やはり、効果抜群だったか。
寝耳に水だろうな。
リョウと俺の曖昧な関係――宿主と寄生虫と称し、友とも恋とも判別の付かない感情で結ばれた紐帯を見て、以前から俺に関心を持ってくれていた虹夏やリョウを推していた喜多さんにも迷惑をかけた。
だから、ハッキリさせようと考えたのだ。
リョウからは特に指定が無く、ただ『俺がそうありたいと願う関係で良い』と許可は得ていた。
だから、この前……リョウと致してしまった時に決意したのだ。
『リョウ』
『ん?』
『全然そんな雰囲気無いかもしれんが、これから周りには恋人関係……って事にしないか?』
『いいよ』
リョウは即答だった。
むしろ予想していたように驚きは無い。
正直に言って、男女の浪漫も色恋の華すら無い最悪な告白ではあるが、リョウ本人が気分を害した様子が無いので良しとした。
ただ、これはあくまで体裁。
恋人、という事にしておこうという話だ。
対外的に曖昧だった関係を恋人と設定するだけで、俺たち二人の間に通う実情は恋人とはいささか異なる。
好意があるのかも微妙。
ただ友人の枠は超えたので恋人。
だから。
『ただ、互いの都合に支障が出たときは相手に申告して関係を解消するぞ』
『…………』
『この方がお互いストレスが無くて済むだろ。リョウが他に好きな人とか、添い遂げたい相手が出来た時に』
『……一郎は、そういう未来があるの?』
『正直絶望的に無いが、これから変わろうと考えた俺は未知数だ。もしかしたら有り得る』
『………』
『ん?どうしたリョんんッ―――!?』
……余計な回想が入った。
ただ、互いが望む限りは続いていくというのは好意の有無についてはともかく、本物の恋人と大差無いので周囲から変な誤解も受けないだろう。
……山田夫妻には途轍もなく罪悪感しか無いが……!
だから、俺は断るつもりでいる。
以前はリョウと判然としない関係故に、虹夏が手段を選ばなくていいと理性の枷を外させてしまったのだが、この事実がストッパーになる筈だ。
そして、リョウという恋人がいる以上は……虹夏とは付き合えない、と。
「はい、菓子」
菓子を入れた器を卓上に運ぶ。――と、器を持つ手をいきなり掴まれた。
「嘘、だよね」
「な、何が?」
「リョウと恋人って。付き合い出したのが最近だとしても、そんな素振り二人に無かったよ」
「嘘じゃない」
虹夏は微笑んでいた。
俺はそれを見てゾッとする。
こちらは本当の事を言っているので、虹夏に罪悪感はあっても隠し事などに起因する後ろめたさは無いからはっきり嘘と読み取れるサインを発してはいないだろう。
しかし、虹夏の声は明らかに確信を得た上での強さを帯びていた。
まるで、俺がまた嘘でも言っているかのように。
「それに、リョウから何も言われてない」
「え、うん」
「リョウは私にそういう事を隠さない」
「俺の口から言うまで秘密でって頼んだ……その日の弁当代を貸す交換条件に」
「ッ………」
苛立っているのか、俺の腕を掴む虹夏の手が握力を強めるあまり爪を食い込ませる。
痛い……。
「私って、そんな迷惑だった?」
「そんな事は決して」
「私が鬱陶しいから、適当な理由を付けてるんだよね」
「違っ」
「だって、そうだよ。リョウと付き合うなら、まず付き合う前にさ、先に告白してた私に返事をしておくべきだよね?一郎くんはちょっと抜けてるところあるけど、他人への配慮は欠かさない人だからそこを忘れるなんて不自然だと思うんだ。だから絶っ対ウソ、ウソじゃないと駄目なんだよ。ほら、去年のクリスマスの時に聞いたときもそうだけど必要以上に距離を縮められるのが嫌だって、独りにしてくれって話だったよね。だからいつもグイグイいくリョウを甘やかして受け止めてはいたけど苦しそうな顔してたのも私見てたんだよ、そう、去年の春からずっとずーっと見てたんだよ。私が一番最初に見つけたんだもん、一番最初に気持ちを口にしたんだもん。それを後にしてなんて、一郎くんがそんな事するわけないよ。あ、でも最近の一郎くん少しだけ形振り構わないところがあるから、そうなのかな?リョウを理由にして私を友だち以上に近い距離の関係に詰めさせないようにしてるんでしょ。リョウも驚いてるだろーな、自分をカノジョって事にして私をフろうとしてるだなんてさ。一郎くん、それだけは絶対にダメだよ?だからさ、本音で言ってよ。私どれだけでも待つよ、一郎くんが誰かを迎え入れられるくらい心に余裕を持てるくらいの準備なんて幾らでも待てるの。えへへ、私ってそんなにしつこかったかな。一郎くんのストレスにならないように、必要なら一番最初に助けられるようにって心懸けた距離にいたつもりなんだけど、それも邪魔だったのかな?じゃあ、直すね。だから、また頼ってよ。私の事、まだそんな風に突き放さないでよ。酷いよ、何でそんな嘘つくのさ。最近の一郎くん、凄い意地悪だと思う。だから、やっぱり『箱』持ってきてよ。私に悪いと思うなら、キスとか恋人みたいな事がダメだっていうなら、もう夫婦みたいな事しよ?そうすれば分かるよ、一郎くんの事どれだけ想ってるか。私は一郎くんのこと苦しませないようにちゃんとするから。一郎くんのこと、ホントに大好きだからさ」
「――あ、と」
決河の勢いで雪崩れ込む虹夏の感情に、俺は気圧されて言葉にもならない声が口から出る。
虹夏の手が腕から離れた。
おもむろに立ち上がった彼女が、早足でキッチンへと向かう。そして間もなくして俺が避難させた『箱』を再び手にして戻ると、再び俺の腕を捕まえる。
まずい。
このままでは、虹夏のペースだ。
本当にやられてしまう。
虹夏が腕を引っ張り、俺の自室へと真っ直ぐ向かう。
まずい、本当にまずい!
この雰囲気から分かるが、いくら弁解したって虹夏の中では『俺が嘘をついてること』になっている。
仮にリョウにでも連絡してコレが真実だと理解させても、『俺だけが悪い』と考えて罪を償うために色々とさせようとするに違いない。
つ、詰んだ……。
レベル2とレベル3には、こんな格差があるのか……。
俺では対処できない、俺個人では。
だが、誰かを呼べば二人きりという約束を自ら破る事になるので、益々虹夏の暴走を助長させてしまう。
終わっ―――――。
『ピンポーン』
インターホンが鳴る。
その音に、ぴたりと虹夏が動きを止める。
見れば、エントランスに喜多さんが立っていた。それを凝視して、虹夏は俺の事を信じられない物を見るような顔をする。
「喜多ちゃんを、呼んだの……?」
「呼んでない、断じて」
「嘘だよ、だって私と居たくないから」
「そんな事はしない。現に喜多さんとは約束もしてないし、何で訪ねて来たかも分からない」
俺がインターホンの音声会話をエントランスと繋ぐ。
「も、もしもし喜多さん?どうした?」
『あっ、先輩!そちらに伊地知先輩はいらっしゃいますか?』
「え、居るけど何で?」
『実はひとりちゃんが何故かスマホを持ったまま、ライブハウスの近くで即身仏になっているのを見つけてしまって。店長も手を離せないそうだけど私一人でも大変で……店長に訊いたら伊地知先輩がこちらに居るって聞いたんです』
「え、そうなの?」
『何度電話しても応答しないので、何かあったのかとマンションに来たんです!』
そ、即身仏……ひとりが?
もはや変身ではなく、生死すら自由に行き来できるくらいになったのか。生命の法則を超越してしまう親戚に戦々恐々とさせられるばかりだ。
ん?
喜多さんが何度も連絡しても答えなかった?
ちらりと虹夏を見ると、暗い表情で俯いている。
「虹夏に連絡してたらしいけど」
「……うん、気付かなかったみたい」
これは流石に分かる。
この為に通知をオフにしていたのだろう。
虹夏は小さくため息をつくと、居間へと戻って自身の荷物を持ち、玄関へと向かう。
「ごめん、一郎くん。今日は帰るね」
「あ、おう」
「でもね」
ぐい、と唐突に襟を掴んで引き寄せられる。
つよ――――!?
踏ん張る間もなかったので、されるがまま体勢を崩した俺の顔を、虹夏の両手が挟む。
そして………。
「………ぷはっ。えへへ、もう一郎くんの言う事なんて信じない。――次は無いから」
たっぷりと『一郎の味』とやらを堪能した虹夏が笑った。
レベルアップは、俺には無理だった。
♪ ♪ ♪ ♪
その日の晩、私は自分の部屋で悶えていた。
覚悟していたけど、実際の感触は違う。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
一郎くんとした感触が私の唇からずっと離れてくれない。
やっと、やっとだ。
これまで色んな不幸が重なって何一つ進展が無かったけど、ようやく私から行動できた。
リョウと付き合ってた、なんてウソで私を撒こうとしたりするのは……本当に迷惑だからなのかな。
どちらにしても、逃してあげない。
一郎くんを救けたいなんて願望より、今はもう一郎くんが欲しい。
私は『箱』を抱き締めて、笑みの溢れた口元を手で覆う。
「次、絶対に」
おまけ
一郎「リョウ、弁当代五百円返せよ」
リョウ「はい」
一郎「え゛っ……あ、あのリョウが直ぐに返せる、だと……!?」
リョウ「いつもご飯作ってくれてるお礼の五百円」
一郎「ソレは五百円で済まされんぞ」
この展開でこれから一郎に一番起こりそうな出来事は?
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山田リョウがさらに貪る
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喜多郁代が家に盗聴器を仕掛ける
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後藤ひとりが独占に動く
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伊地知星歌が息の根を止める
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廣井きくりちゃんが地獄を加速させる
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八頭身のジミヘンが現れる
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後藤ふたりが全てを奪う
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お隣に天使様が現れて皆を諦めさせる