感想にあった作品。
映画『時計じかけのオレンジ』は強烈過ぎて観るのに覚悟が要るけど、色々と教訓を得る作品。
アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』を観た時と同じくらい衝撃的で、まどマギは『そもそも夢なんて物を抱いてしまう人間の業の深さと付け込まれる弱さ、脆さ』という感想がある。
それと同じであの作品は『人間が求めた快感とその危険性』というのがよく分かってある意味勉強になる、と個人的には思った。
正直、私が雑魚メンタルなのもあるけど、最初に観た時は直視できない感じで、何度か観てようやく感想持てるくらいに慣れたという感じでしたね。
はい、以下から本編。
夏休み中はほとんど一人だ。
友だちなんていない上にバイト以外やる事が無い、娯楽もゲームか映画鑑賞だけ。
そう―――意外と暇なのだ。
ただ、今年はそうならないと決まってしまったのだ。
それは先日の昼、バイトが休みなので新作映画でも探そうかとスマホで検索していたら、唐突に着信が入った。
相手は登録した番号――後藤家の物だった。
前田家と後藤家は親戚関係にある。
親が一年中仕事で家を空けるため、常に一人の俺を心配して年末年始は自分たちのいる金沢八景へ招いてくれる親切な人たちだ。
数少ない、俺を気にかけてくれる貴重な存在でもある。
「はい、もしもし」
『あ、一郎くん。急にゴメン、いま電話は平気?』
「大丈夫ですよ。暇してたところです」
声の主は、後藤家の大黒柱の直樹さんだ。
『あれ、一郎くん。また声が低くなったかな』
「そうですか?自覚は無いですけど」
『声の感じがお父さんに似てきたね』
ふ、声の変化なんて分からない。
こういうのは、友だちがみんなで遊んでいる現場を撮影した物に混じる自分の声などを聴いて自覚するなどの機会があるのだが、俺には機会そのものが圧倒的に不足している。
ただ直樹さんには黙っとこう。
心配させるだけだし。
ただでさえ、娘のひとりが重症だしな……。
『実は一郎くん、頼みがあって』
「何です?俺に出来ることなら――」
『一泊二日だけ、そっちでひとりの面倒を見て欲しくてさ』
「…………」
俺の聞き間違いだろうか。
「ひとりを?」
『た、頼めるのが君しかいなくて』
「………」
ひとり。
それは後藤家にいる二人の娘の内の一人だ。
俺と一歳差があり、妹みたいな子でよく可愛がった覚えがある。引っ込み思案で、人の輪に入れず困っているとボヤいていた。
それが最近は特に重症化している。
自意識過剰で一度自分の世界に入ると止まらない。
いつも俯きがちな顔は、はっきり言って今まで見た中では超絶美人なのだが、人と目を合わせるとなると直ぐに原型も分からないほど崩壊させる。
「どうして俺の家に?」
『ほら、ひとりが高校受験するんだよ』
「たしかに今年で中学三年生ですからね……?」
『何でか分からないけど、下北沢方面の高校を受験するらしいから。下見とかさせようと思って……』
何で近場じゃないんだ。
金沢八景って横浜市内だぞ、下北沢とかなり離れている。
はっきり言って高校の通学路としては長い。
よほどその志願校が受験したいと思わせる特色でも備わっていなければ、手を出す距離ではないぞ。
相変わらず、ひとりは何を考えているか不明だ。
「俺のところに泊まる、ですか」
『頼めるかな』
「でも、往復で帰れる距離ではありますよ……?」
『いや……あの子はきっと、人の多い空間だし下見なんて一人で出来ないし、色々あって気疲れして倒れたりしたら大変だから近場で休ませた方がいいと思って』
「あー……」
過保護、と言いたい。
でも、ひとりなら当然の処置とも言える。
「ひとりには、この事を話しました?」
『嬉しそうにしてたよ』
「あの子は……」
ひとりはこの話を了承したのか。
それならば、後は俺の意思のみである。
世話になっている後藤家からの頼みだし、近所で絶望しているひとりの姿なんて見たくもないどころか想像したくもない。
最初から、選択肢が有るようで無い案件だ。
「分かりました、いつからですか」
『今月の○○日なんだけど、そこは空いてるかな』
「はい」
『良ければ、見学にも付いて行ってくれると……』
「安心して下さい。ひとりを本当に独りにしたら、それこそ下北沢で死体になってますって」
『助かるよぉ』
うわ、直樹さん涙声だ。
娘想いなんだろうけど、逆にここまで心配されるひとりって……………。
そういうワケで、俺は駅前にいた。
改札から出て来る人々から、待ち人の姿を探す。
すると、ギターケースを背負った制服姿の少女が俯きながら出てきた。
あの人波の中、誰よりも濃い影を背負っている。
若干、アイツを避けるように人流が変化していた。
目立ちたくない割に悪目立ちしてる……。
「おーい。ひとり、こっちだ!」
俺が呼ぶなり、はっと少女が顔を上げた。
初速から全力だと分かる速さでこちらに駆けると、勢いよく俺の腹部にダイブゥウウウウ!!!
げほ、ごほ、えほっ。
支柱に凭れていたので、飛び込んできた少女とサンドされた胴体が潰れたかと思った。
少女は俺の胸に顔を埋めて震えている。
相当不安だったのだろう。
あまり知らない土地だし、人も多いしな。金沢八景だって人はいるが、ひとりにそれは関係ない。知らない人間に囲まれていること自体が苦痛なのだ。
その影響なのか。
「かひゅー、かひゅー、かひゅー」
「ひとり。深呼吸しろ、深呼吸」
頭を撫でて落ち着かせる。
呼吸を整え終えた後、ようやく顔が上がった。
「無理、もう嫌だ……!」
「もうグロッキーかよ」
「い、いいいいいっくんが居るって思ったから来れたけど、こんなの無理……!」
「こっちに登校したら毎日コレだぞ」
「あ、そこは慣れると思う」
「急に落ち着くな、逆に怖いから」
周囲からの視線が集まりそうだったので、俺は取り敢えずひとりの肩を掴んで優しく引き剥がす。
「よく一人で来れたな、偉いぞ」
「えへ、ひへ、えへへへ」
褒めると、だらしなく相好を崩す。
緩みきったひとりの手を引いて、俺は取り敢えず駅から出て家に向かう事にした。
知り合いに見られてもマズいしな。
「ひとり、家まで我慢できるか?」
「う、うん。あ、いつもみたいにいっくんの後ろなら何とか」
「はいはい」
そう、これがお決まりの陣形。
前田の俺が先導し、後藤のひとりが追従する。
漢字を覚えたばかりのひとりが、名字に託けて「こうあるべき!」とか言い出し、二人で外出する時は前後の順を決めて歩くようになった。
何がこう在るべき、なのかは分からんが。
これで安心できるようだし、ひとりの意思を尊重しよう。
「元気そうで良かったよ」
「あ、あ、い、いっくんもね」
ちょっと顔を赤くしながら、ひとりが笑う。
うん、可愛い。
「前田………と、誰」
♪ ♪ ♪ ♪
『ブ――――、ブ――――、ブ―――――』
着信音がさっきから止まない。
音が鳴る都度にひとりが後ろでびくりと跳ねて、振り返ると顔が暗くなっていった……何で?
理由は分からないが、取り敢えず頭を撫でた。
すると、顔色が戻って再び緩んだひとりになる。
しかし、さっきから本当にうるさい。
俺相手にそんな緊急の連絡を入れるなんてバイト関係だけだが、そういう時の為に特別な音源設定をしているので直ぐに分かる。
じ、じゃあ誰だろう。
プライベートでこんなかけてくる相手いるワケない。
「あの、いっくん……スマホ」
「何か怖くて出たくない」
「で、でも」
ひとりが不安そうに見ている。
丁度よく家に着いたので、玄関を開けて彼女を中に招いてから電話に応じる事にした。
「はい、もしもし」
『前田』
「山田か、今日は絶っっ対に家来るなよ」
『………なんで』
何か声に棘がある。
今日は不機嫌なのか……?
「色々あって家に人泊める事になった」
『人………』
「だからオマエが来ても寝る場所は無い」
『前田のベッドがある』
「俺のベッドは俺のだよ」
堂々と非常識なこと言いやがって。
山田が家に来ても百害あって一利なしだ。
ひとりにあのマイペースで図々しいヤツを相手させたら、十分で生命活動を停止してしまう。
メンタル的に間違いなく保たない。
悪いが俺は緩衝材のような人間には役不足だ。
『どれくらい』
「ん?」
『泊まるの、どれくらい?』
「え、一泊二日」
『分かった』
「分かってくれた?ようなら何よりだが」
『じゃ、また夜にかける』
ぷつり、と通話が切れる。
……何で夜に。
やめて欲しい、ひとりの相手で色々と忙しくなるので夜だろうとなんだろうと迷惑だ。
着拒にしたいが、そんな事をしたら学校で会った時に気まずくなりそう。
「いっくん?」
「あ、放置してごめんな。荷物は適当な所に置いといて」
「う、うん」
「見学って明日なんだろ?なら今日はゆっくり休もう」
「いいいいいいっくん!明日、明日は一緒に……!!」
「勿論行くよ」
高校の下見とは言うが、単に貰ったパンフレットやネットのホームページから校内の様子や校風を確認したりして、実際に現地へ向かってやる事は通学路の確認くらいだろう。
それならお安い御用だ。
ただ……志願理由は気になるな。
「ひとり、何処受けるんだ?」
「秀華高校……」
「でも、たしか近くにも高校って無かったか?」
「わ、私を知らない人のいるまっさらな環境で一からやり直したい……やり直さないと、無理………」
なるほど、よく分からん。
俺の知らない間に学校で払拭し難い黒歴史でも大量生産してしまったのだろうか。
いや、この子はこういう子だ。
消極的で常に受け身、きっと色々あって堪えられない何かがあったのだ。
俺の役目は、ひとりの意思を尊重する事だけ。
辛いことばかりのこの子を甘やかすのが仕事だ。
「受験頑張れよ、ひとり」
「ひ、ひぃっ……わ、私ごときじゃ高校は無理ってこと……!?そ、そのまま学校にも行かずニート……結婚も働きもせず、押し入れの中で夜を明かす日々……」
いけない。
いつものひとりの癖が始まってしまった。
なまじ想像力が豊かなので最悪の未来を辿る自身も鮮明に思い描けるのだろう。
駄目だ、そんな沼から引き揚げなければ。
「安心しろ、ひとりが失敗してもフォローする」
「ふ、フォロー……?」
そうだとも。
「ひとりがそんな事になったら、俺が結婚して養うからな」
この可愛い妹分を一生面倒見る覚悟くらいはある。
それが後藤家への恩返しとなるなら、ひとりの安泰に繋がるのなら是非はない。
伊地知さんとは恋人になりたいが、結婚までは今高校生なのもあって想像できない。
ただ、仮に将来ひとりがそんな事になるなら俺は全力で助けるだけの意思は固めている。
「ふぇっ!?」
俺が言い切ると、顔を真っ赤にするや驚倒してしまった。
頭を抱えて、小さく縮こまってしまった。
受験を不安に思っているのだろう。
「俺程度じゃ支えるのに不安かもしれないが、味方がいることを頭の片隅に入れておいてくれ」
「あ、あ、あ……!」
その後、「あ」しか言わなくなってしまった。
俺はひとりがシャワーを浴びている間、映画を観ていた。
夕飯も準備は完了している。
そういえば、ここ最近はこの時間帯の居間を山田が占領しているから、こんな風に寛げないんだよな。
「あ、風呂出た?」
「う、うん……いっくん、映画?」
「そうだよ」
「……どんなの?」
「気になる?」
「せ、青春コンプレックスを刺激する物だったら観るの避けようかなって…………」
「学園物じゃない。『最○のふたり』ってやつ」
学園物ではなく、足の不自由な金持ちのお爺さんとお金の欲しい若者の交流を中心とする実話に基づいた話だ。
最初はただの雇用主と良いバイトに喜ぶ男という関係だが、次第に二人の間だけで芽生えていく独特の友情と、紆余曲折あって一度は離れた二人が終盤にまた会うシーンは胸にぐっとくるんだ。これを何度も見返している。
視聴していると、ひとりが横で震え始めた。
「さ、最強……のふたり」
「え?」
「どうも……妹と違って最弱のプランクトンひとりです」
ひとりの妹がふたりという名である。
そんなところに着眼してたのか。
たしかに、題名の『ふたり』が平仮名表記なのもあって意識しやすいのかもしれない。……言われるまで俺も気にすら留めなかったけど。
でも、ひとりは繊細なのだ。
いけない、また傷つけてしまった。
「安心しろ。ひとりは最高だ」
「うへへ、そ、そう〜?」
褒めるとすぐ調子に乗る。
この不安定さがあるから俺も不安でつい面倒を見てしまうのだ。
近くにいたら目が離せない謎の魅力。……魅力?
とにかく、ひとりには何かの素質がある。
きっと、将来は俺の助けもなく自分の力で成長していくだろう。
それまでは、俺にできる範囲で。
「ひとり」
「は、はい!」
「(おまえが羽ばたける日まで)ずっと支えてやるからな」
「こひゅっ」
「ひとり!?」
キミにきめた!(註:特にストーリーに反映はしません。アンケートを使った遊びです。)
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