めしくい・ざ・ろっく!   作:布団は友達

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 以下、ネタバレでは無いのでご安心を。

 素晴らしかった……!
 劇場版『PSYCHO-PASS PROVIDENCE』の完成度が高過ぎましたね。
 第一期の一連の事件を観た時に、私が「誰かがやらないと、作中の社会にこの問題点を周知させるのは無理だ」と思っていた事を十年越しで見事に常守朱がやってくれたので、感動しかありません!!
 アンタの覚悟と正義にまた惚れました、常守監視官。

 時系列として第三期の一年前なのにこれまでの全ての総決算だと思わされる今回の映画を機に、まだPSYCHO-PASSを知らない人にもシリーズ全作品観て欲しいですね……。









部外者は呼ぶべきではない

 

 

 

 

 

 クリスマスライブ後、居酒屋にて催された打ち上げに俺は参加していた。

 打ち上げとは言うが、もう一つ目的を兼ねた集まりでもある。

 それも星歌さんの誕生日会。

 面子としては『FOLT』のスタッフは別の場所でやっているらしく、今日が誕生日だという主役の星歌さんと今日のライブで頑張ったバンドマン達――『結束バンド』や『SIDEROS』だけが揃っている。

 大トリの『SICKHACK』は、残念ながら個々人で用事があって不参加だ。イライザさんは……二次創作の同人誌の投稿があるとか何とか。途中のやつを読ませて貰ったけど面白かったので完成品が気になる。

 

「一郎くん、美味しい?」

「あ、ああ。美味しいな」

「居酒屋って本当に料理美味しいよねっ。お酒とか関係無しにご飯目的で来たい!」

「そ、そっか」

 

 ライブ後の打ち上げはバンドマンの慰労の場。

 本来なら部外者は立ち入っても空気が読めず、始終場違い感に晒されて悶々とする物だとばかり思っていた。

 俺もそれを覚悟で参加した。

 だが、実際はどうだ?

 隣の虹夏がどうしてか隣にぴったりと貼り付いて、笑顔で話題を振りながら楽しく食事をしている。最近は頻発している怖いモードとも違う、普段の明るい彼女の筈なのに触れている部分にじっとり汗が滲む。

 さっきから、俺の左腕を抱くのは何故だ。

 料理が美味しいという割には、食べている俺の姿を見ているだけだ……。

 

「あのさ、虹夏」

「ん?なになに?」

 

 俺から話しかけられた事が嬉しいのか、虹夏は今まで以上に眩しい笑顔を見せる。

 

「星歌さん、寂しそうだけど」

「――――」

「今日はあの人主役だし、構ってあげ」

「嘘つき」

「ひゅっ」

「お姉ちゃんを理由にして逃げるんだ?」

「ぁっ………ぃぇ」

 

 笑顔の色が変わって、俺はその迫力に口を噤む。

 ちらりと星歌さんを見れば、いつ箸を投げ飛ばして来てもおかしくない形相と体勢だった。

 打ち上げって魔境だったのか。

 帰りたいな……と思ったのは、単に虹夏が怖いからだとか右隣からニコニコと黙って太腿を撫でてくる喜多さんの手が煩わしいとかの諸々の理由を除いても、人の誕生日会という慣れないパーティーに参加する緊張感があったからだ。

 助けを求めてリョウに視線を投げた。

 退屈そうにスマホをいじっていた彼女だが、珍しく俺の危機を察知してくれたのか目が合った。

 

「もう恋しいのか、一郎」

「何か調子乗ってない?」

「いや、初めてリア充としてクリスマスを迎えた気分が思いの外心地良い」

「その所為で今俺のリアルが危ないんだぞ」

「茨の道か、一人で辛いだろうけど頑張れ」

「せめて一緒に歩けよ」

 

 他人事みたいに言いやがって。

 いつにも増して調子に乗っていやがる。

 普段から自分に酔っているヤツだが、今日はまた次元が違う。

 リア充として迎えたクリスマス、か。

 少し前まで憧れはしても、叶う事は決して無いと考えていた夢物語が現実になっている。

 でも……何で微塵も嬉しくないんだろう!

 せめてもの救いは、ひとりが居る事だけか。

 そっとひとりの方を盗み見る。

 すると、何かに気付いたようにはっとした顔でひとりが席を立った。

 

「あっあの、虹夏ちゃん」

「……ぼっちちゃん?」

「い、いっくんがポテト食べたそうなので」

 

 虹夏に一言断って、俺の手を握ったひとりが自分のいた別のグループ席へと誘導してくれる。

 心にじんわりと沁みる気遣いに涙をこぼしそうになりながら、リョウとひとりの間に腰を下ろした。

 

「だ、大丈夫?」

「助かった……オマエは天使だな、ひとり」

「てっ!?」

 

 天使と称されたのが嬉しかったのだろう。

 顔の形が崩れるほど喜んで、俺の手をにぎにぎとしている。

 さて、ひとりの厚意に甘えてポテトでも食べるか。

 これで何もせず休んでいたら、虹夏にまた恨まれそうだからな。

 俺は皿へと手を伸ばして――ほとんど空の器の光景に唖然とした。

 えっ、な、何!?

 どんなペースで食えば、こんなにも早く無くなるんだ?

 虹夏たちの方は会話も盛り上がっているので未だ卓上は料理の彩りが絶えていない。

 

「い、意外と食うの早いな」

「失礼ね、食いしん坊って言いたいワケ!?」

「うわ、めっちゃ噛みつくじゃん」

 

 吠え始めたヨヨコに思わず耳を塞ぐ。

 なるほど、会話量の少なさに反比例して食事の手は進むという事だな。

 どうやら、間を持たせる為にヨヨコもよく食べていたらしい。

 仕方無く、次のポテトを注文しておいた。

 

「リョウも食べてるのか?」

「うん」

「うわ、口汚っ……拭けよ」

「頼んだ」

「自分でやれ。……っと。こっち向いてくれ、ひとり。ほら、拭いてやるから」

「えっ。い、一郎……私は?」

「え、自分で拭けって」

「え?」

「え?」

 

 ひとりの口周りも汚れていたので、俺はそっと拭き取った。

 抵抗せず目を瞑って身を委ねる姿を微笑ましく思い、終わった後に頭を撫でてやる。

 よしよし、いい子だ。

 ……今日は妙に手の方に強く擦りついてくるな。それだけライブで疲れたから労って欲しいのかもしれない。

 ひとりに構っていると、ヨヨコの方から冷たい視線を感じた。

 

「……恋人出来た、って聞いてたけど後藤ひとりだったのね」

「違うけど」

「はあ!?じゃあ誰よ!?」

「隣のリョウ」

「対応逆でしょ。恋人こそ甘やかしなさいよ」

「…………?」

「その何を言ってるんだ、オマエは……?みたいな本気の顔やめて!!正論言ってるのに傷付くんだけど!?」

 

 リョウを甘やかす、だと?

 日頃から俺に甘えきっている人間を労る必要性は皆無に等しい。

 落ち込んでいたら助けたいとは思う。

 だが、特に何も無ければただの寄生虫だ。

 構うだけ搾取されるだけなので、何をしても骨折り損にしかならない。

 

「アンタね、相手の気持ちを考えてみなさい」

「リョウの気持ち?」

「山田リョウが他の男とイチャついてたらどう思うのよ」

「金を借りる交渉中……?」

「アンタに秘密で他の男と休日歩いてたら?」

「財布にされてるな」

「他の男に貰ったお揃いのアクセ付けてたら!?」

「多分少ししたら転売してる」

「他の男の家に一泊してたら!?」

「きっとベッドも取られてるから男が可哀想」

「他の男に対してキスしてたら!?」

「その時はもう俺たち別れてると思うぞ」

「何なのコイツら!?」

 

 ヨヨコが戦々恐々としている。

 交際関係に一定の誠実さとか常識だとか共通する物はあるだろうが、それらを物差しにしたって俺とリョウを計る事は出来まい。

 始まり方からして、俺が知る物とは違う。

 リョウが他の男に情熱を注いでいるとしたら、自分のやりたい事に素直だからその前に別れようとする筈だ。

 元々、他に意中の相手でも出来たら別れようなんて言う浅い関係だったし……?

 

「どうした、リョウ」

「本当に……ぼっちと仲良いね」

「まあ、ひとりは俺の至福だからな」

「……あっそ」

 

 リョウはまた退屈そうにスマホに視線を落とす。

 

 

「それなら、ぼっちと付き合えば良いんじゃない?」

 

 

 ぶっきらぼうな言い方だった。

 やや苛立たしげなリョウの様子に、俺は驚きを禁じ得なかった。

 これは、拗ねているのか。

 自分より、ひとりを優先している状況が気に食わないという反応に見える。

 お、可怪しい……。

 普段なら、即刻皮膚に爪を立ててきたり噛み付いたりする筈なのに、それもしないなんてらしくない。

 

「いや、ひとりは妹みたいなものだし。な、ひとり?」

「…………」

「いや、そんな可愛い顔されても」

 

 俯きがちに、だが期待しているような上目遣いに俺も困惑させられる。

 こういう話題は苦手だから、ひとりは即刻同意してくれる物だと思っていたんだが。

 ……どうしよう。

 拗ねたリョウの機嫌の直し方なんて分からない。

 これまで一方的にキレて、そして一方的に鬱憤を晴らして、勝手に満足して立ち直るのがリョウだ。

 思い返せば、俺の方から能動的に動いた事が無い。

 

「り、リョウ。口拭くからこっち向け」

「もう拭いた」

「な、何か奢るぞ」

「別に今じゃなくていい」

 

 奢るのは確定かよクソが。

 機嫌を直す、か。

 スタンダードな手段なら、何かを献上したり褒めたりと言うのがある。前者に関しては既に奢らなくてはいけないらしいので却下とし、後者は――。

 

「今日……リョウのベース最高だった」

「廣井さんの時の方が嬉しそうだった」

「いつ酒吹きかけられるか分かんなくて身構えてたんだけど?」

「……ホントに?」

「それに演奏中、オマエがこっちにウィンクしたファンサの方が嬉しかった」

「……SIDEROSのベースの鎖骨ばっか見てた」

「幽々さんの?中々見た事無かったファッションだから。首のとこのアレ、どうなってるのか気になって」

「……ホントに?」

「初めて見せられた時は色々あって感動薄れてたけど、ライブで新しいオマエの『結束バンド』パーカー姿を見た時はカッコいいと思ったぞ」

 

 滅茶苦茶恥ずかしいがストレートに褒める。

 恥ずか死ぬのは後で良い。

 今はリョウの機嫌を直す事に注力する。この状態で仮に俺の家にまで持ち越したら、またどんな地獄に見舞われるか分かったものではない。

 これでどうだ……!?

 リョウの顔色を窺いながら褒め言葉を畳み掛けていると、やがてスマホの方に固定されていた顔の向きが少しずつこちらに向けられ始めているのを見て手応えを感じた。

 よし、このままいけば……!

 

 

「い、いっくん……私、も……頑張ったよ……?」

 

 

 何、だと?

 後ろからひとりが自分もとばかりに乞うて来る。

 それはいけない。

 体が逆らえるワケが無い。

 ひとりの要望は全力で叶えたい俺の日頃の習性が働いてしまう……!

 俺の体がひとりの方へと正面を向け―――。

 

 

 

 

 

 

 

「あはっ、私も褒めて下さい先輩♡」

「私が落ち込んだ時は何で同じ事してくれないのかな?」

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか虹夏と喜多さんが立っていた。

 南無三。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♪    ♪    ♪    ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星歌さんへのプレゼント披露宴も終わり、打ち上げは解散となった。

 店の外は雪が降っている。

 関東での積雪は珍しいから、入店前とは異なる街の雪化粧には思わず見入ってしまう。深くはないが、踏めば音を立てて靴が沈む。

 途中で入店して来たきくりさんの頭や肩に積もっていたのを見た時に外が降雪状態なのは知ったが、まさか積もるとまでは思いもしなかった。

 

「雪、か」

「一郎、雪好きなの?」

「まあ、雨よりは好きだと思う」

 

 寒い日にしか降らないし。

 それだけで特別感はある。

 ただ、積雪を見ると親戚の家に居た頃に自分をイメージして作った雪だるまを全力で殴ったり蹴ったりして鬱憤を晴らしていた頃を思い出すから好きだとは断言出来ない。

 久し振りにまたやろうかな。

 リョウと二人で家路を辿りながら、時折爪先で雪を前に蹴り上げる。

 

「『結束バンド』、大変だな」

「何で?」

「新宿で別れる時、ヨヨコが『SIDEROS』も『未確認ライオット』に参加するって言ってただろ」

「うん」

「手強いぞ、あのメンバーは」

 

 新宿で解散する際に、ヨヨコが未確認ライオット参加を表明した。メンバーには無断だったらしく、かなり紛糾する声は聞こえていたが……。

 『新宿FOLT』で『SICKHACK』のライブを観る際、前座として演奏する彼女たちを何度も観た事がある。

 若手ながら勢いがあって人気も現時点の『結束バンド』に比べてかなりある。ヨヨコの歌と演奏技術がまた素晴らしく、正直な感想を述べると今回のライブでも『結束バンド』をかなり霞ませてしまっていた。

 リーダーにして、ギターボーカルの大槻ヨヨコ。ドラムの長谷川あくび。ギターの本城楓子。ベースの内田幽々。

 四人とも素晴らしく技術力が高い。

 

 そんな俺の『SIDEROS』の評価を聞いて、だがリョウは不敵に笑う。

 

「私の新曲が火を噴く」

「ひとり達が協力してくれたヤツか」

「……うん。皆の為にも、未確認ライオットで失敗はできない」

「大切にしてるんだな、『結束バンド』」

「うん。大切……けど」

 

 じろりとリョウの瞳がこちらへと滑り動く。

 

 

「誰にも一郎を譲る気は無い」

 

 

 どうやら、機嫌は直っていなかったらしい。

 たしかに、あの後は虹夏も喜多さんも褒めて、ひとりを目一杯褒めていたら、何故かさらに「私達には何か無いわけ?」と『SIDEROS』からも批判され、彼女らの相手もしたら後で来たきくりさんが「ま、少年の一番はあたしだからねー!」と爆弾を落として地獄が始まった。

 だから、部外者を打ち上げに呼ぶべきでは無いと思うのです。

 

「ぼっちを褒める時は饒舌だった」

「そ、そうか?」

「虹夏にもベタベタしてたし、郁代に脚触られても払わなかった」

「どっちも軽率に振り払ったら後が怖いし……」

「『私の一郎』として打ち上げに呼んだのに話が違う」

「オマエは俺を殺したかったのか??」

 

 星歌さんの誕生日会も兼ねているのだから、それだけはやめて欲しい。

 最近は本当に虹夏を蔑ろにしているのではないかという疑惑を掛けられているようで、俺を見る目が以前よりも厳しい気がする。今日だって箸を握り込む彼女の姿を何度か目端に捉えて俺は縮こまっていたんだぞ。

 

「頼むから穏便にしてくれ」

「分かってる」

「それにしても、未確認ライオットか……。たしかライブもやるんだろう?俺も観に行けるのか?」

「大丈夫だと思う」

「大舞台で観れたら凄いだろうな」

 

 今後の楽しみがまた一つ増えた。

 これは『結束バンド』にとっては試練そのものなのだろうが、俺やファンにしてみれば途轍も無く喜ばしい事だ。

 きっと、彼女達ならやってくれる。

 リョウが懸けている思いの強さや大きさも知っているから、尚更に期待してしまう。

 

「ところで、一郎」

「ん?」

「年末はどうする?」

「今年も後藤家に行くつもりだ」

「……そう」

「ああ、でも。大晦日は蕎麦でも茹でにこっち戻って来ようと思ってる」

「何で?」

 

 何でって……。

 

 

 

 

「去年は誰かさんが寂しかったとか言ってたし」

「……」

 

 

 

 

 

 リョウの手が俺の袖を摘んだ。

 

 その後は、ただ黙って歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PSYCHO-PASSの映画観た人!

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  • 波導の勇者ァァアッ!!
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