今回は番外編。
原作一年前編の時に書くだけ書いて投稿し忘れていたボツ案のホワイトデー話です。
ついでに、また呪術廻戦のヤンな話を書き始めました。
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『逃げられない呪い《https://syosetu.org/novel/317586/#》』
良ければ暇潰しにどうぞ……。
新学期を控える三月中旬の休日である。
まだ吹き込む風は冷たいが、洗濯物を干す時の辛さは緩和された。季節的には夏が冬の二択ならば後者だが、基本的に春や秋が好きだと言う身には有り難い。
俺は静かな家を見渡して胸を撫で下ろす。
今日は帰国した両親が朝から出払っている。
久しい日本というのもあるが、基本的に俺と同じ空間にいるのが堪えられないからなのかもしれない。だから積極的に外出も多い。
「……それで」
「ん?」
「何故オマエは家にいる?」
ちらりと見れば、同級生――山田リョウがいつもの如く寛いでいる。
本当に遠慮を知らないヤツだ。
俺のシャツ一枚で過ごす姿は不幸な事に見慣れてしまったが、さらにその無防備な格好で両親の前でも平然とテレビを観ていた昨晩の過ごし方には呆れを通り越して感嘆してしまった程だ。
しかも、コイツが両親に余計な事を言って二人には俺たちが恋人だと誤解されている。
「朝飯を食ったら帰れよ」
「一郎、バイト?」
「今日は休み。……オマエは?」
「無い。じゃあ、二人で映画観る?」
「一人で観るから帰って」
俺の事が嫌いではないのだろう。
こうして無警戒で接してくれるのは一種の信頼。
しかし、俺が帰れと言っても帰らないどころか、人の服を借りて勝手に泊まり、飯を食い、果てには人の予定すら捻じ曲げる。
人のいい山田夫妻の教育を疑いたくはないが、この山田の態度を見ると一回だけお腹の中から人生やり戻して欲しいとさえ考える時があった。
俺の場合は生まれたくもなかったけど。
「一郎、朝ごはん何?」
「……今日はカップラーメンだ」
「え……」
「俺だって偶には食いたい時がある」
普段から自炊していると思うのだ。
スーパーで出来合いの物などを見ると、無性に美味しく見える。主婦にもあるそうだが、店の作ったコロッケの香りが立っているだけで予定していた献立を忘れてしまう。
例に漏れず、俺も度々そんな事があった。
自分が作る飯は、正直に言うと味見などをしていて分かる通り、自分の予想の域を決して出ない。だから他人の手で作られた物を欲してしまう瞬間があるのだ。
山田は、自炊した事も無いし俺の飯を食うばかりだから論外だ。
「あのさ、一郎」
「何だよ、文句言うなら自分で作れよ」
「………」
「な、何だよ。そんな目したって作らないぞ」
普段は無表情なくせに、こんな時に限って捨てられた猫のような目をする。無駄に整った顔立ちが放つ哀訴は、何も悪くないのに俺への自責の念を植え付ける質の悪さがあった。
俺の袖を摘む手も、簡単に振り払えそうで罪悪感に体が縛られる。
く……コイツ、こんな処でヒモの才能なんか見せるなよ!
俺はキッチンの戸棚の中のカップ麺に伸びかけた手をゆっくりと引いた。
我ながら自分の甘さに吐き気がする。
山田なんかに朝飯を恵んでやる必要も無いのに。
「はあ……分かったよ、作る」
「ありがとう」
「はいはい」
「じゃあ、その間テレビ観てる」
「ここで手伝うとか言える人間になろうな?」
リョウは軽快な足取りで居間へ踵を返す。
俺は冷蔵庫から春キャベツや魚肉ソーセージ、キュウリ等を取り出した。白米は昨晩に残った物をラップしているので、後でチンすれば二人分はあるだろう。
簡単な物で良いか。
山田の事だから俺の飯とは言ったが、単にカップ麺が嫌なだけだと思うし。
居間の方から、テレビの音が聞こえる。
音声から、今日はホワイトデーだと分かった。
「ホワイトデー、か」
ずっと縁の無い事だったので忘れていた。
しかし、今年は虹夏やクラスメイトからもチョコを貰ったのだから返礼をしなくてはならない。
憧れは無かったが、少しだけ嬉しい。
ただ、返すとなると既製品で良いのだろうか。
男の手作りが可怪しい、なんて時代では無いだろうが作るにしても材料は無い。やるにしても急がなくては間に合わないだろう。
しかも、夜になれば両親だって家にいるし……。
そもそも、学校はもう春休みだ。
誰にも会わないのだから、作った処で意味が無いが……せめて近くに住んでいる虹夏には何か返すか。山田を介せば渡しやすいだろうし。
「山田が食わなければの話だけど」
その辺りが少し信用できない。
何せバレンタインで人のチョコを食いかけた人間だ。
仲介役には少々危うい。
そう思いながら、焼肉のタレで味付けした焼きキャベツと火を通したソーセージに、輪切りにした魚肉ソーセージとキュウリを添えた物をダイニングテーブルに運ぶ。
食器の音に、ぴくりと反応して山田が振り返った。
「シンプルだね」
「朝から手の込んだ物作りたくない。……虹夏の家は違うのか?」
「朝から沢山作ってくれる」
「良いなぁ。俺も虹夏の朝飯食べたい」
羨ましい。
山田ばかり良い思いをしている気がする。
俺が非難の目を向けると、何故かリョウもこちらを責めるような眼差しをしていた。
「……食べなくていいよ」
「何で?」
「鈍いね」
「またその悪口か」
今の一言で察しろ、という方が無理だ。
俺が虹夏の料理を食べてはならない理由を詳細に語って欲しい。
ただ、朝から山田にこれ以上の体力を消耗するのも無駄に思えたので、それ以上は言及せず黙々と食事の手を動かした。
テレビでは、カップルの幸せそうな顔が映る。
ホワイトデーのお返しは物品……チョコでなくとも良いのか!
唖然とする俺の前で、感触した山田が小首を傾げる。
「もしかして、デザートにチョコが?」
「何言ってんだオマエ」
「だって今日はホワイトデー」
「山田からチョコを貰った記憶がないんだが?」
貰う物が無いなら返す物も無い。
別に恩返しを求めるつもりは無い……いや求めたい気もするが、日頃から俺が飯を作っている分すら返して貰っていないので山田にホワイトデーで何かを贈るのは違う。
これ以上、山田に何を施せと言うのだ。
「虹夏には何を贈ろうか」
「一郎からなら何でも喜ぶよ」
「幼馴染としては、具体的に何がいいかとか無いのか」
「あるにはあるけど」
「例えば?」
「一郎が一日抱き枕になってあげるとか」
「友だち辞めてくれって言われると思う」
良識のある虹夏に狂気の贈り物なんてしたくない。
ホワイトデーで他人と関わった経験なんて無いから、本当にアドバイスが欲しいんだけどな。
テレビで挙げられるホワイトデーのお返しを見習うにしても、基本的にカップルや好きな相手が対象で、友だちの虹夏に渡すには中々に誤解を招いたり、かなりの勇気を要するような物ばかり。
参考にするにはハードルが高い。
「チョコか物か」
「何でも良いよ」
「だから何で貰う気満々なの?俺のホワイトデーに山田は一切関係無いから」
「チョコ作るなら言って欲しい。味見は任せろ」
もはや感動すらしてしまう図々しさに俺は逆に肩から力が抜ける。
取り敢えず、今日じゃなくても良いなら既製品のチョコでも溶かして、山田に味見でもして貰おう。
「分かった、味見は頼んだ」
「チョコにするんだ?」
「バイト先でチョコケーキとか作った事あるし。その要領で行こうかなって」
「――――」
「えっ、何?」
山田の目が光った。
「一郎はケーキも作れる……!」
あっ。
こ、コイツまさか!
俺がケーキも作れると知ったから、これから場合によっては飯だけではなくデザートまで要求し始めるかもしれない。
断れば良い話ではある。
でも、ズルズルと宿泊を認めたり、食事を出したりしている自分の現状から鑑みると、いつかケーキを乞われたままに作って提供している姿も想像できてしまった。
「作らないからな!」
「うん、いつか楽しみにしてる」
リョウは微笑んで、はいはいと頷いた。
定期アンケート : 今のところヒロインレーストップは誰だ?3
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山田リョウ
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伊地知虹夏
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後藤ひとり
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喜多郁代
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ジミヘン
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伊地知星歌
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廣井きくり
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大槻ヨヨコ
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清水イライザ
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岩下志麻
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後藤ふたり
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PAさん
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吉田銀次郎
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ゼットン星人