めしくい・ざ・ろっく!   作:布団は友達

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ふ、またIQの低そうな話が書けてしまいましたぜ!!


明けても怖い

 

 

 

 

 元旦。

 初日の出を見た後に寝たのもあり、起床は遅過ぎる正午だった。

 同じベッドで眠るリョウはまだ起きる気配がない。

 目に毒な白い肩が露わになっていたので、毛布をしっかりと首までかけてから、俺は風呂場に直行した。汗などを流し、一通り身綺麗にしてから昼食作りに取り掛かる。

 後藤家に戻るのは、いつにしようか。

 例年通り、初詣は彼らと行……いや、もう行ってしまったかもしれない。

 また、ふたりが泣いていたらどうしよう。

 料理が終わったら連絡するか。

 

「ん゛。いちろー……?」

「毎回、声枯れてるな」

「私が可哀想だ」

「はいはい。悪うござんしたね」

 

 音で目が覚めたリョウが居間に現れる。

 俺がいるのを確認したかったのか、台所で料理する俺の顔を見るなり風呂場へとよたよた向かっていく。

 相当疲れてるな、アレは。

 あの状態のリョウを一人残して戻るのも忍びない気もするな。

 でも、年末の後藤家は俺の癒しだ。

 昨晩の事もあって、今すぐにでも後藤家特有の幸福空間に浸りたい。

 

 鍋に火を通して暫し、匂いが家中に広がる。

 

 大体は昨晩に用意していたので、正直手間という程の労力は無かった。

 今年の一年を縁起良く進める物である。

 匂いを嗅ぎ付けたのか、髪も乾かさずにリョウが戻って来た。

 心做しか目が輝いている。

 

「カレー……!」

「違うぞ」

「えっ。でも匂いが」

「カレーはカレーでも――カツカレーだ」

 

 自信満々で告げると、既にリョウは脱衣所に戻って髪を乾かすドライヤーの音が聴こえた。

 空振った感がして何だか恥ずかしい。

 決め顔までして言ったのもあって顔が熱くなる。

 羞恥心に堪えながら器に炊いた白米を盛り、そっとルーをかけた後に先程揚げたカツを乗せた。

 さて、リョウが来るまで後藤家に連絡するか。

 

『直樹さん。初詣って終わりました?』

『まだだよ。でも、ひとりはもう行っちゃったよ』

『何ですって』

『喜多ちゃんが家に来てね。ひとりを連れて行ってしまったよ』

『そうでしたか』

 

 喜多さん、いつの間に。

 ……あ゛っ、まだひとりにもふたりにも、それどころか喜多さんもそうだがクラスメイトとかにも新年の挨拶をしていなかった!

 喜多さんやクラスメイトについては、去年に入ってからの関係で不慣れなのだとしても、よもや後藤姉妹を忘れるなんて一生の不覚だ……!

 

『僕たちは先に初詣に行くよ!』

『俺も合流していいですか?』

『それは大歓迎だけど、友だちも増えたんだろう?折角なら、今年はそっちとも行ってみたらどうかな。きっと楽しいよ』

 

 涙腺の緩みそうな直樹さんのメッセージに俺は唇を噛む。

 耐えなければ溢れてしまいそうだ。

 でも、そうか。

 俺はもうこれまでと違って、色んな人と行けるのか。

 後藤家の貴重さは不変だが、たしかに色んな人と行ける良い機会なのかもしれない。しかも、ここでそれらを一顧だにせず合流したら、直樹さんに気を遣わせそうで何か気まずいしな……。

 リョウは……初詣とか行くのかな。

 

『分かりました』

『それじゃ、初詣に行ってくるよ―!あ、一郎くんも忙しいだろうから、ひとりやふたりへの新年の挨拶は後で良いと思うよ。特にひとりは今忙しいだろうし』

『そうですか。了解です』

『ふたりもちょっと拗ねてるから、後で沢山遊んであげてね。それじゃっ!』

 

 俺はメッセージアプリを閉じてため息をつく。

 ふたりが拗ねている、か……本当に悪い事をしたな。

 行き道で美味しい甘味でも買って献上しよう。

 俺がそう決心していると、髪を乾かして戻って来たリョウが卓上のカツカレーに小さな感嘆の声を漏らす。

 

「美味しそう」

「取り敢えず、まずは水を飲め」

「ん」

 

 二人で卓につき、カレーにスプーンを入れる。

 リョウの表情は……満足気だ。

 お気に召したようである。

 

「……でも何でカツカレー?」

「ああ、願掛けだよ」

「願掛け」

「カツと“勝つ”を懸けてるんだよ。今年は『未確認ライオット』もあるし、色々と結束バンドとして勝負事が増えていくだろ」

「――――」

「あとは受験とか」

「私はしないから別に」

「じゃあ、俺の為の願掛けも込めてのカツカレーだ」

 

 カツを頬張りながら、リョウは深く頷く。

 今年はたしかに忙しい。

 受験戦争に本腰を入れる三年生としては勿論、リョウは『未確認ライオット』を控えているのだから、是非とも頑張って欲しい。

 俺も一ファンとして、『結束バンド』の躍進に期待しているのだ。

 

 これは、その為のカツカレー。

 

 しっかりとした食感と、カレーの味の深さがやる気をくれる。

 さあ、今年もストレスを乗り切ろう。

 

「い、一郎」

「ん?」

「その……」

 

 リョウはスプーンを置いて、頬を紅潮させながら俺から視線を逸らす。

 何だろう、うまく火が通っていないカツがあったか?

 

 

「す、スタミナの付く料理って事は……第二回戦?私はもう無理なんだけど……」

 

 

 尻すぼみしていく声で告げられた内容に、俺は――コイツを無視する事にした。

 人がカツカレーを作った意図に歪んだ解釈を持ちやがって。

 ダイニングテーブルをひっくり返してやりたい憤りを抑えて、黙々とカツカレーを食べる。

 そんな俺に「あれ違うの?」と純粋に小首を傾げるヤツの顔も見えてない、断じて。

 

「一郎は初詣行くの?」

「ああ」

「一郎、捻くれてるから神とか信じてないし行かねーって言うと思った」

「逆だよ。神の実在とか信じてる派だから」

 

 後藤ひとりって女神の実在が証明されている。

 他にも神がいたって可怪しくない。……助けられた事は無いから半信半疑だけれどな。

 初詣で願掛けに加えてブースト効果を与えたい。

 今年は実りある一年にしなくては……頓挫しそうな人間の台詞になってきたな、かなりのフラグが立っていそうだ。

 

「リョウは?」

「信じたい時に信じる派」

「そんなもんだろうけど正直過ぎる」

「何事も私は私を信じる一郎を信じて挑戦する」

「失敗したら責任転嫁する気満々だな」

 

 オマエの分まで不幸は背負いたくない。

 新年始めから調子の良いリョウを見ていると、自分の方が気負っているように思えて自然と力が抜ける。

 今は、とりあえずカツカレーを味わうか。

 テレビを点けると、既に初詣で神社に殺到している人々の大行列が映し出された。

 うわ……行きたくなくなってきた。

 中には着物を着込んで臨んでいる人も見受けられ、この熱気に気圧されている俺のような人間もちらほらいた。

 

「……リョウは」

「ん?」

「着物とか着た事あるか?」

「七五三とかで」

「やっぱりか」

「一郎も?」

「ああ。ボロボロの着せられて行ったな」

 

 公開処刑みたいで苦しい思い出しかない。

 着物に良い思い出とか無いんだよ。

 だから、テレビのチャンネルを何回も切り替えるが、どこの局も初詣ラッシュを報道している番組ばかりで避けられなかったので電源を切る。

 これから初詣に行くのに、気分が悪い。

 一人で行ったら顔に出そうだけど仕方無い。彼らには罪はない、俺が捻くれているだけだ。  

 舌打ちでもしたい気分で、カツカレーの最後の一口を平らげた。

 

 じっと、俺を見るリョウの眼差しを感じる。

 

 いかん、顔に出ていたか。

 努めていつも通りの顔を保っていたつもりだったが。

 目を合わせるのが怖いが、恐る恐る彼女を見た。

 

「私も初詣に行くよ」

「え?オマエ、ああいうお祭り騒ぎの場所とか苦手じゃないか?」

「別に。カツカレーを消化してから行けば問題ない」

「斬新な強がりだな」

 

 リョウも完食して、二人で合掌する。

 重なった「ごちそうさま」の声が少し可笑しくて笑いを堪えながら、二人分の食器を流し場へと運んだ。

 俺が食器を片付ける間、リョウはそそくさと歯磨きを済ませて外行きの服に着替え始める。……大胆ですね、俺がいる事に気付いていないのでしょうか。

 

「本当に行く気か?」

「うん」

「……まあ、オマエが辛くないなら」

「うん」

 

 妙に乗り気だな。

 音楽関連でもないのに、リョウにしては外出に積極的だ。

 逆に不気味に思えて、こちらが躊躇う。

 もしかして気を遣わせた……いや、リョウがそんなまさか。とも思ったが、去年も落ち込んだ俺の為に音楽準備室で小さなライブを開いてくれた事もある。

 有り得なくもない、か。

 俺は食器を洗い終えたので、急いで自分も外出準備を始める。

 五分後、コートを着て居間に戻った俺を優雅にリョウは待っていた。

 

「すまん。待たせた」

「一郎。君が準備を完了するまで十分かかりました」

「何その嫌な先生みたいな反応」

「冗談。少しだけ待たされた」

「オマエもちょっと嫌なヤツ感出すな」

 

 素直に待たされて退屈だったと言えよ、コイツ。

 リョウはソファーから腰を上げる。

 俺も鍵を持って、リョウがコートを着るのを待ってから玄関へと向かった。

 

「リョウは家族とじゃなくて良いのか?」

「今は一郎と居たいし」

 

 リョウの声に、思わず足が止まりそうになる。

 こういう時、急に素直になるのもどうかと思うぞ………。

 面映い気持ちになって俺が黙ると、リョウが隣で笑……鼻で笑いやがったコイツ。

 

 

 

 

「チョロいね、一郎」

 

 

 

 

 

 はいはい、そうかもね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♪     ♪     ♪     ♪

 

 

 

 

 

 

 

 初詣も終えて、俺は後藤家に向かう事にした。

 駅の改札口まで見送るという不気味な気遣いを見せるリョウに恐怖しつつ、その前に一旦家に戻って色々片付けるべくゆっくりと帰路を辿っていた。

 その途中で、見覚えのある人物を発見した。

 あれは――陽キャ君!

 

「明けましておめでとう、前田君」

 

 あちらも俺に気付いて手を振ってきた。

 相変わらず眩しさは喜多さんに似ていて、だが彼の好む作品傾向からあまりその笑顔を信用できない。

 相談すると頼りになるが、今のところ不穏な予測しか的中していないので、進んで相談したいという気分にも慣れない複雑な関係だ。

 

「明けましておめでとう」

「あれ、山田さんも一緒?」

「ああ。初詣に行ってきた」

「新年早々デートかぁ。羨ましいな、僕も女子と遊びたいよ」

「いや、絶対にいるだろ誘える女子」

「いやね。僕を誘ってくれる女子はいるけど、いずれも恋人持ちなのに二人きりでって頼まれるから却下してるんだよ」

 

 ははは、と爽やかに笑っている。

 聞いている俺が引き攣る事実を笑って流すな。

 隣で聞いているリョウも、俺に「ロックだ、一郎は見習うなよ」と失礼な事を耳打ちしてくる。オマエは黙ってろ、ホントに。

 

「大変だな」

「あ、さっき伊地知さんと会ったよ」

「そうなんだ?」

「少し話してね。僕が一郎君の色んな相談も受けていたんだって話したら、『余計な事を吹き込んでたのオマエだな』って感じの目で見られたよ。何でだろうね」

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 

 罪悪感を煽られて、俺は何度も頭を下げた。

 陽キャ君は何も悪くない。

 俺が虹夏の優しさに甘えて振り回すような事をしたから、勘違いを幾つも重ねて彼女を疑心暗鬼にし、遂には暴走させてしまった。

 陽キャ君は悪く……悪く……一割くらいは悪い事にしておこう。本人には言わず心の内だけで……俺の心の健康の為に。

 

「山田さんもデート楽しかった?」

「はあ」

「何かぽやんぽやんしてるね」

「ああ。会場の空気に中てられてテンション上がったらしくてさ、一通り騒いだ上に俺の金で屋台のじゃがバター食ったら満腹感で眠くなってる感じ」

「単純だねぇ」

 

 俺を駅まで見送るとか言いながら、俺の片腕に掴まってウトウトしている状態だ。

 きっと家に着いたら寝てるんだろうな。

 年が明けても本当に自由なヤツである。

 

「恋人生活は順調みたいだね」

「本当にそう見える?」

「うん。後は君が余計な事をしなければ山田さんもこれ以上拗れる事はないと思うよ」

「そ、そうかな」

「問題は伊地知さんだねぇ。話していて分かったけど、まだ一郎くんには恋人がいないって自分に信じ込ませてる感じだ」

「ひぇ……」

「でも、君を見ると伊地知さんだけじゃない気がするけどね!あははは」

 

 本当に人の災難を良い笑顔で言い当ててくれる。

 言っている事が正確だから尚更素直にイラッとさせてくれないし、悲しい事に否定もできない。

 

「あ、友だちが待ってるから僕も行くよ」

「行くって?」

「これからカラオケなんだ」

「そっか。あ、今年もよろしく」

「うん。今年もよろしく」

 

 陽キャ君は手を振って去っていく。

 短い会話なのに、内容が脳裏にこびりついて離れない。

 心の健康に悪いな、あの人。

 新年初っ端から人伝てに虹夏の闇に触れるとは思わなかった。

 後で新年の挨拶メッセージをロインでしよう。

 

「一郎」

「ん?家まで少しだから寝るなよ」

「ほんとにぼっちの家に戻るの?」

「え、うん」

「…………そう」

 

 リョウは寝惚け眼をこすりながら、スマホを取り出して何やら操作し始める。

 すると、間もなくして俺のスマホが通知で鳴った。

 ロインで、リョウからメッセージが一件。

 

 

『寂しい』

 

 

 …………この距離で?

 普通に口で言えないのだろうか。

 去年だって電話で俺に………………あ、冗談って言ってたか、アレは。

 眠いとコイツは幾分か普段に比べて素直になるのか。

 まるで赤子のようである。

 寂しい、か……。

 でもなぁ、ふたりが拗ねてるって聞いたら無視できない。初詣は終えたとはいえ、例年通り(ひとり)にも元日中に直接挨拶がしたい。

 どうしたものか。

 

「……よし」

「ん?」

「リョウ。じゃん拳するぞ」

「何で?」

「俺が勝ったら後藤家。オマエが勝ったら、今日も家にいる」

「……え、面倒くさい」

 

 そうでしょうけども。

 優柔不断で申し訳ないが、じゃん拳で決定したら後悔しない気がする。

 

「いくぞ。最初は――」

「二回戦」

「………二回戦?」

「カツカレーも食べたから。二回戦するから、ぼっちの家帰るの無しで」

 

 何の二回戦?――と一瞬思考を巡らせて、カツカレーの単語からヒットした記憶で俺の体は硬直した。

 振り下ろしかけた『チョキ』の手が中途で静止する。

 リョウの目は、もう眠気も無いのかはっきりと俺を見詰めていた。

 

 …………。

 ………………。

 

 いや、でも………ねえ?

 俺が困惑していると、さっきとは逆でリョウが俺の腕を引きながら歩き始めた。

 

「次は一郎の声を枯らす」

「あの……いや、二回戦より先にあれしてくれ」

「………?」

 

 折角新年始めにいるのだから。

 

 

 

「オマエのベース聴かせてくれ」

 

 

 

 

 俺の頼みに、果たしてリョウは「任せろ」と返した。

 嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

 いっくんが帰って来ない。

 わたし――後藤ふたりは、怒っています。

 おねーちゃんと仲良しなのに、他の女の人のところに行っちゃういっくんを、ちょっとだけだらしないと思います。

 帰って来たら怒ります。

 お説教します。

 いっくんがおねーちゃんを好きだと思ってたから、ふたりも我慢しようって思ってたのに。おねーちゃんとくっついたら、ふたりとも遊んでもらおうって思ってたのに。

 昨日、家を出る時なんて。

 

『いっくん何処行くの?』

『ああ、一緒に年越ししようって約束してるから行かなくちゃいけないんだ』

『えー!ふたりと一緒じゃダメなの?』

『ごめんな……ホントは一緒にいたいけど、今年は約束してて』

『うーー!』

 

 絶対許さないのです。

 

 

 ぜったい、ゆるさないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

定期アンケート : 今のところヒロインレーストップは誰だ?3

  • 山田リョウ
  • 伊地知虹夏
  • 後藤ひとり
  • 喜多郁代
  • ジミヘン
  • 伊地知星歌
  • 廣井きくり
  • 大槻ヨヨコ
  • 清水イライザ
  • 岩下志麻
  • 後藤ふたり
  • PAさん
  • 吉田銀次郎
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