めしくい・ざ・ろっく!   作:布団は友達

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そういう事だな、神よ

 

 

 

 

 

「んぁ?――誰だよ」

 

 四月――つまりは新学期だ。

 アラーム時計をしっかり設定して起きようとしたのだが、俺を叩き起こしたのは時計ではなく、スマホの着信音だった。

 壁掛け時計を見れば、まだ一分は寝れる。

 一分という誤差とも言えない起床に億劫になりながら寝返りを打って、枕元のスマホの画面を見た。デカデカと『虹夏』と表示されたそれにまた眠りたくなる。

 早朝から電話するほど重要な事あったか。

 隣のリョウが呻き声を上げ、起こすのは可哀想だったので直ぐに『応答ボタン』を押しながら部屋を出る。

 

「も゛しもし」

『おはよう、一郎くん!』

「どうした?何かあった?」

『うん。一郎くんがいつも起きる時間を教えてくれたから、それで電話しようかなって』

「そうか。……何で??」

 

 寝ぼけ眼を擦りつつ、ベランダへ出た。

 たしかに、起床時間は教えたけどさ。

 今の話からじゃ、電話した目的は未だ不明である。

 

『私が一郎くんを起こしたいな、って』

「俺を?」

『うん。ほとんどリョウが独占してるなら、せめて朝の一言目は私が良いなーって思ったんだ。ごめんね?』

「あー……うん、そっか」

 

 それで補える優越感とは……。

 実行するなら、せめて昨日くらいに予告してくれ。

 今段々と脳が覚醒してきたところで、虹夏からの電話というのがかなりビックリな事であると理解できつつあった。

 しかし、朝の一言目の独占……。

 正直俺には何の価値があるのか微塵も分からないが、虹夏の声が嬉しそうなので良しとしておく。これをやめてくれと言ったら過激化しそうなので黙っておこう。

 

『明日からはアラームかけないでねっ』

「え゛。まさか毎日?」

『うん、毎朝。スケジュール教えてくれたら登校日以外もやるよ!』

「……いや虹夏が疲れるだろ、コレ」

『嫌なの?』

「そんな事は無い」

 

 急に声が冷たくなった。

 朝から怖いから、本当にやめてくれ。

 一気に目が覚めた。

 最近の虹夏は、一体何が起動スイッチになっているか分からない爆弾な部分もあるので、叶えられる限りの要望を叶えないと後にどんな危険行動に出るか分かったものではない。

 ……いつから、こんな猛獣みたいな扱いしなくちゃいけなくなったんだ。

 俺の初恋、どうなってるんだ。

 

「じ、じゃあ登校日だけで」

『うん。後でスケジュール教えてね!おはよう!』

「ああ、おう。おはよう……それじゃ」

 

 通話を切って欄干に突っ伏す。

 スケジュールなんて教えたら、いつならば家にいると把握されて遭遇率百パーセントになりかねないから勘弁願いたい。

 最低限、両親とは関わらせたくない。

 理解してくれそうな郁人さんならば兎も角、俺の日常をほぼリョウしか情報源のない彼らが最近俺の恋人を自称している虹夏の誤情報を叩き込まれても鵜呑みにしそうで恐ろしい。

 スケジュール情報だけは死守だな。

 

 俺はベランダから居間へ戻ろうと振り返って、窓越しにこちらを見るリョウと目が合う。

 いつからそこに……てか鍵閉めるなアホ。

 俺が窓をコツコツとノックするが、無視された。

 代わりにスマホにロインで連絡してくる。窓一枚隔てただけの至近距離で、何故ロインでしか会話してくれないのだろうか。

 呆れながらアプリを開くと。

 

『今の誰?』

『わざわざ離れて通話するくらいだから、知られたくない相手なんだ』

『白状するがいい、裏切り者よ』

 

 腹立つなぁ。

 苛立ちながらも虹夏だと正直に伝える。

 要件も話すべきか考え、登校日は毎朝アラーム時計替わりに虹夏コールが発動すると付け加えれば、リョウが眉を顰めた。

 リョウと虹夏は大の仲良し。

 虹夏の事なら仕方無しと納得する筈だ。

 

『分かった』

『最近は私が一緒に寝てるから起こさないで欲しい』

『って虹夏に伝えとく』

 

 ちょっと待てオイ。

 慌てる俺の前で、涼しい顔のリョウがスマホ画面に指を滑らせている。動き方からして確実にキーボード操作……虹夏に連絡していやがる。

 俺的には有り難い提案だが、内容が駄目だ。

 リョウが隣で寝ているなんてプライベートな……というか家に帰って欲しいのに勝手に寝泊まりし、あまつさえ俺のベッドに無断で入るリョウこそ先に断罪されるべきなのだが。

 そんな俺の不満も届かず、手元のスマホが震える。

 えと……虹夏からの着信だ。

 

 応答したくない、とリョウに助けを求める。

 

 だが、いつの間にか窓の前からアイツは消えていた。

 やるだけやって逃げやがった。

 よし、今日は朝食が出ると思うなよ貴様。

 

「もしもし」

『じゃあ、リョウがいない日は教えてねっ』

「あ、はい……」

『改めて、おはよう!それじゃ』

 

 ぶつりと切られる。

 声は明るかったけど、きっと怒ってる。

 なぜ高校三年生のスタート日の朝から、こんな心労を抱え込まなくてはならないんだ。こんな事なら、いっそ毎日リョウが居る事にして……それも危険か?

 もういいや……飯を作ろう。

 両親も出勤があるらしいし。

 取り敢えず、俺はリョウに電話をかける。

 

「もしもし」

『何?』

「窓、開けろ」

『そんな窓は君なら破れる』

「そうか、なら窓の次は貴様だ」

 

 もう何も食えない体にしてやる。

 そんな脅し文句が効いたのか、いや効いてないだろうけどリョウが眠そうな顔で戻って来て鍵を開けた。

 俺が肩を回しながら、さてコイツにどんな制裁を与えようかと愉快に思案していると、リョウが欠伸をしながらスマホを弄り始める。

 

「二時間は寝れる……」

「遅刻スレスレで行こうとすんな」

「眠い……」

「今日は午前中だけだし、帰ってからにしろ。……と、早く飯作らないと」

 

 俺が室内に入ると、リョウはソファーの上に座った。

 キッチンへと移動し、バイトがある俺と両親の分の弁当作りへと取り掛かる。

 リョウは午後の予定は無いらしい。

 クソ、俺も休みたい。

 いや、春休みを満喫したんだからその分働かないとな。念願のキャンプに行けたし、しかも後藤家から年明け以来ずっと遊べなかったからとふたりを預けられ、一緒に一晩楽しめたのだ。

 後藤家に帰す時なんか、珍しく泣いて「帰らないで」とワガママを言ってくれた時は俺が後藤家の地縛霊になりかけた。

 うん、楽しかったマジで。

 今度また行こう、ふたりと。

 

「……ん?何だよ」

 

 料理中、ふとリョウと視線が合う。

 いつの間にかオープンキッチンのカウンターテーブルに頬杖を突いて、俺の事を観察しているようだった。

 オマエの分の弁当は無いぞ?

 朝食はまだだし、何なら時間もあるから二度寝もできるのに、リョウはいつも通りの何を考えてるか分からない表情の薄い顔でこちらを見ている。

 

「寝ないのか?」

「目、覚めたから」

「高三か……。俺、一応理系進学で授業組んでるから。オマエは虹夏と一緒だし、今年から別々になるからノート見せろとか言っても無駄だぞ」

「それは一郎もでしょ」

「いや誰がオマエに頼むかよ」

 

 一極集中状態でないとポンのコツであるオマエにノートを写させて貰う日など来るものか。

 

「もしかしたら、クラスも違うかもな」

「……そうかな」

「そしたら、面倒見なくて済むから俺としては安心」

 

 しかし、下北沢高校のクラス決めは基本的に成績順を念頭に置き、そこから人間関係、とか優先的な判断基準があるらしい。

 成績不振なリョウとは違い、それなりに頑張っている俺と虹夏が二年で同じ教室になれた奇跡などが二度も起きるとは考え難い。

 会えないと寂しいとは思わ……思……うん、思わないな特に。

 清々しいほどリョウの有無が気にならないと自分の気持を再確認していると、くすりとリョウが笑った。

 

「人見て笑うな」

「良いじゃん、別に」

「良くないんですけど」

 

 俺が睨むが、リョウは意に介さずじっと見てくる。

 

 

 

 

「ご飯作る時の一郎の顔、好き」

 

 

 

 

 

 ベランダに閉め出したから俺はオマエ嫌い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♪    ♪    ♪     ♪

 

 

 

 

 

 

 

 遅刻寸前を目指そうとするリョウを引っ張り出しながら家を出て登校する。

 まだ眠いと愚痴る声を無視し、下北沢高校――最後の登校の年となる道を歩きながら、俺は昇降口に張り出された紙を見る。俺とリョウは『3-B』、名簿を確認すれば虹夏も同じだった。

 また奇跡が起きている。

 その分の不幸を別の所で受けて帳尻を合わせろ……そういう事でしょうか、神様?

 

 重い足というかリョウを引き摺って教室に行けば、既に着席していた虹夏が手を振っていたが、リョウの顔を見るなり固まっていた。

 何だ、どうした?

 

「え――!?またリョウと同じクラス!?あたし達ずっと同じじゃん!も〜やだ〜〜〜〜〜〜」

「虹夏にここまで嫌がられるとは」

「よろしくね」

 

 リョウがVサインを手で作る。

 コイツ、道中はクラス分けの事もあってナーバスだったのだ。

 最悪の可能性である俺と虹夏両名とも別のクラスだった未来を想定し、孤独な高校三年に怯えて震えていたというのに、すっかり調子が戻っている。

 

「今年も私山田リョウは、課題を写させてもらったり移動教室で起こしてもらったり寄生させて頂く所存です!」

「堂々と宣言するな!」

「校内では虹夏、校外では俺か……本当に害悪だな」

 

 いよいよ駆除した方が良い気がする。

 

「もー!今年は絶対リョウの面倒見ないからね!!」

「リボン直してくれてありがと」

「はっ!?」

「虹夏。オマエ、そこまで……」

 

 もう体が反射的にリョウの世話をするようになっている。

 下手をすれば俺よりも重篤な症状だ。

 流石は幼馴染、哀れだ。

 

「制服にアイロンかけてあげたり脱いだ服洗濯機に入れてあげたりもしないからね!」

「いやそれは虹夏が勝手にしてるだけ……というか最近は一郎がそれしてる」

「アイロンでシャツ焼き尽くしてやろうか何度も悩んだわ」

 

 虹夏の役目が俺に継承されてるとか嫌味だな。

 

「もういいや、一郎くん行こ」

「ああ。と、俺の席は」

「私の隣だよ」

「はっ?……マジか」

 

 黒板の張り紙を見て苦笑する。

 席順的は、通路側から男子の五十音順、そして女子の五十音順となっており、俺の隣は丁度良く虹夏となっていた。

 運命だな、これは。

 その分の不幸を別の所で受けて帳尻を合わせろ……そういう事だな、神よ。

 

「えへへ、教科書忘れたら見せてね」

「虹夏が忘れる事あるか?」

「……無いかも。いつもリョウの為に自分はしっかりしておかなきゃって思ってるから。忘れ物とか無いか家出る前に二回確認しちゃうし」

「じ、重症だ……」

「一郎くんもでしょ」

 

 俺の確認作業は一回だけだ。

 でも、その内増えているかもしれないから他人事だと思って笑うことができない。

 それにしても、今朝の電話では怒っていると思ったのに虹夏の様子は至って普通だ。リョウもいたし、開口一番にその事で責められると内心では身構えていたんだが。

 

 それが杞憂だったと胸を撫で下ろしていたら、担任の教師が入室してホームルームが始まる。

 

 少し先生が高校三年生における心構えを説くと、毎年恒例の自己紹介の会が開催された。

 席順から有馬くんより自己紹介が始まる。

 次々と人が変わっていくが、やはり定番とも言うべきか趣味とか好物の話が多い。

 俺の趣味……趣味……。

 いや、抱負とか語るべきか。

 将来はコレになる為に頑張ります!とか……去年も結局そんなに友だち作れなかったから、自己紹介で良いスタートを切りたいんだよな。将来の夢とか切り出して受験意識する皆を緊張させるような話するのもアウトだろうし。

 将来、将来かぁ……。

 このまま順当に行ったら、恐らくリョウの世話をしている気がする。

 アイツ、絶対に未来でも俺に寄生してるよな。

 そして、俺も高校一年の頃に比べたら着実に受け容れられるような感覚と体に作り変えられていっている。山田夫妻にも何か婿扱いされて退路も無くなっていってるし。

 マズイよな……。

 一人を養えるくらいの財力は蓄えておかないと。

 

「次、前田」

「はい」

 

 とうとう俺の番だ。

 えーと。

 将来、山田、将来、財力……。

 

 

 

「前田一郎です。趣味はバンドのライブを観る事で……恋人を将来も養える良い職に付くために頑張ろうと思います。一年間よろしくおねがいします」

 

 

 

 すらすらと語れた。

 うん、というかほとんど無意識だった。

 俺が着席して、次の人が始ま……らないけど、どうしたんだろうか。

 振り返ると、後ろの三輪くんが固まっている。

 

「……あの?」

「あ、ああっ、ごめんな」

 

 慌てて三輪くんが立ち上がって自己紹介を再開した。

 何だ、そんな俺の自己紹介が可笑しかったのか?

 自分で何を言ったのか正直覚えてないけど。

 

 やがて男子は終わり、次は女子一番目――伊地知虹夏の回である。

 

 

「伊地知虹夏です!これから一年間よろしく!『結束バンド』ってバンドやってて、一郎くんも観に来てくれてます!よかったらみんなも観に来てね!」

 

 

 何故か俺の名前が出た。

 まあ、知られても別に問題無いし良いか。

 

「バンド活動にうつつ抜かすのもいいけど受験頼むぞ〜。被り物とかしてダイブする色物バンドなんだろ?」

「知られてほしくない情報だけ広まってる!てかそれあたしじゃない!」

 

 虹夏が悔しそうに着席した。

 この学校は進学第一だからバンド活動をあまり推奨しないんだよな。去年もそんな感じで、進路相談から戻って来る時はいつも顔を曇らせていた。

 音楽で食うのは大変だって言うのは分かる。

 きくりさんを見て、それを痛感した。……ん、あの人は単に泥酔状態でライブして機材ブッ壊すから金欠なだけなんだけどな。

 

 でも、『結束バンド』にそんなダメ人間はいないから、いつか『SICKHACK』に比肩するバンドになれば生活に困窮する程にはならないのかな。

 

 いや、待てよ……ダメ人間いるじゃないか。

 俺は思わず窓際最後列に座る人間を見た。

 

「じゃあ最後に山田〜」

「はい」

 

 リョウが席から立ち上がった。

 

 

 

 

「山田リョウです。――将来は前田くんが養ってくれるそうなので今年一年気楽に過ごします」

 

 

 

 

 瞬間、教室から音が消えた。

 先生すら笑顔のまま固まっている。

 アイツ、何て事を……てか俺は養うなんて一言も言ってねえぞ!!

 しばらくして、再起動した先生が咳払いをする。

 その音で全員がはっとした。

 

「お、お前らは山田みたいに力抜かず真剣に進路考えなきゃ駄目だぞ〜」

 

 先生が冗談を一つ言って、その他連絡事項を伝達してからホームルームは終了した。

 すると、終わった直後に全員が席を立って二つの席に殺到した。

 男子は俺の席に、女子はリョウの席に。

 

「前田ッ!おま、カノジョいたのかよ!?」

「しし、しかも山田って羨ま……羨ましいのか?よくわからんけど妬ましい!」

「友だちはいないとか言ってたけど、女友達は沢山いるんだろ裏切り者め!!」

「あの日、俺たちと交わした『非リア同盟』の誓いを忘れたのか!?」

 

 ちょ、怒涛の勢い過ぎて怖い。

 特に最後のは身に覚えがないので訂正しておこう。

 みんなと仲良くなりたい気持ちはあったが、こんな形で注目集めても不服でしかない。

 それにしても、俺の方は騒がしいが女子の方では啜り泣く声すら聞こえた。……そうだった、リョウは女子からも人気が高いんだった。

 

「付き合ってるってホント?」

「うん」

「いいいいいつから!?」

「去年。……眠い」

「どっちから告白したのーー!?」

「一郎。……おやすみ」

 

 リョウの方も大変そうだ。

 俺はため息をついて、如何にして周囲に集まった男子たちを散らそうか悩んでいると、視界の隅で一人だけ大人しく着席している女子を捉えた。

 それは――あ、虹夏……。

 

 

 

 

 

 

 

「あたしの事も養ってくれるんだね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 断固拒否します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

将来、一郎が養ってそうな人間は?

  • 山田リョウ
  • 伊地知虹夏
  • 後藤ひとり
  • 喜多郁代
  • 廣井きくり
  • 伊地知星歌
  • 廣井きくり
  • 後藤ふたり
  • 清水イライザ
  • 岩下志麻
  • 吉田銀次郎
  • PAさん
  • 大槻ヨヨコ
  • セリム・ブラッドレイ
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