めしくい・ざ・ろっく!   作:布団は友達

73 / 86
じっとり目の少しギャグ調。


乙女にした男

 

 

 

 

 

 最近は学校で肩身が狭い。

 特に物を隠されたり等の実害は無いが、教室に入ると女子からの視線があまりにも冷たかった。

 別に親しくない相手とはいえ怖いのだ。

 しかも、席替えなんてして隣が女子だったとしてもガン無視される可能性も有り得るほど関係性は最悪と言っても過言ではない。

 どうして、そんな事になったのか。

 それは俺の与り知らぬ処で出回っている俺の異名の所為である。

 

 

 その名も――山田リョウを乙女にした男。

 

 

 字面のインパクトもさる事ながら、読み返すと綺麗に意味が分からない。

 山田はアレでも元々乙女なのだ。

 どうせ、何処かの厄介な野次馬が流布したに違いない。年頃だから、こういった話題には男女共通で敏感なのだろう。特に普段から密かに注目度の高かった人間となれば尚更だ。

 く、何もかも本を質せば悪意に満ちた山田の自己紹介の所為だ。

 あれから俺に振られる話題は山田の事ばかり。

 折角知らない人が話しかけてきたので、てっきり新しい友だちが出来るんじゃないかと胸を躍らせた俺に対して彼らは口々に「おめでとう、山田一郎」とか戯言を述べてくる。

 おい、誰が何処に婿入するって?

 

「一郎。お昼食べよ」

 

 諸悪の根源こと山田はいつも通り。

 若干周囲の女子からの詮索に辟易しているが、コイツにしては珍しく律儀な質問への応対を見せている。

 真面目になる所が違うんだよなぁ。

 オマエが積極的に情報提供をする効果は遺憾なく発揮され、山田リョウを信奉する女子勢からの怨嗟の眼差しが俺にびしびしと突き刺さっている。かつて山田が家に入り浸り始めて女子が関係を疑ってきた頃なんか比ではないくらいだ。

 今まで交際を隠していた……つもりは無いが、こういう経験が浅いのでどうしたらいいか最善が思いつかない。

 でも、これで山田と一緒に飯食ってたら話題を提供する事になるんだろうな。

 ……無難に熱りが冷めるまで校内は距離を置こう。

 

 

「悪い、山田。俺ちょっと用事あるから」

 

 

 俺は席を立って教室を出る。

 さて、何処で食べようかな。

 生憎と教室で堂々と一人飯をするか、お情けで虹夏たちに交ぜて貰っていた俺が他に一人で昼食を安心して取れる場所など見当もついていない。

 ひとりはこういうのやけに詳しいけどさ。

 こんな事なら伝授してもらうんだった……!

 

 そんな風に手頃で静かな食事スペースを探そうと考え、歩を進めていたら服の裾に何かが引っ掛かった。

 

 ぐん、と後ろに引っ張られて立ち止まる。

 こんな廊下の真ん中で何かに引っかかる事ある?

 まだ教室を出て間もないから急いで距離を置きたい俺は慌てて払おうとして、服に引っ掛かった物が人の手である事に気付く。

 手の主は…………陽キャ君だった。

 

「カノジョを置いて何処に?――山田一郎くん」

「悪魔か?」

「新婚からそれだと先が思い遣られるよ」

「悪魔か?」

 

 堂々と周囲にも聞こえる声で言うのはやめろ。

 俺が顔を引き攣らせてその場に立ち尽くしていると、話を聞いていたのか教室から虹夏が飛び出してきた。

 

 

「そうだよ。あたしを置いて何処行くのさ!」

 

 

 やめろよPart.2。

 しかもカノジョって君の事ではないだろ。

 誤解した周囲がざわざわと俺に怪訝な眼差しを向け始めているではないか。たった二人で地獄を作り出す辺り、本物の悪魔と堕天使なのかもしれない。

 泣きたくなりながらも俺は陽キャ君を見る。

 

「何でここに?」

「早足で教室を出る君を見かけたから」

「何で止めた?」

「逃がしたくないなって」

「悪魔か?」

 

 さては愉しんでいるな、陽キャ君。

 俺は歯軋りしながら、諦めて教室に踵を返す。

 戻ってきた俺にえへへと嬉しそうに顔を綻ばせる虹夏だが、もう一度言うと君じゃないんだよ。

 渋々と室内に戻ると、やはり視線が痛い。

 しょうがない、下手に策を弄した今日の己への罰として甘受しよう……と思っていたら、俺の机に腰掛けた山田が蒼白い顔で俺を見ていた。

 な、何だそのリアクションは。

 

「い、一郎。どういう事」

「何がだ」

「に、虹夏と付き合ってるのは冗談だよね?」

「事実無根だ、俺は認めてない」

「じ、じゃあ何で山田って」

「いや……こうした方が恋人感無くて周りを刺激しないで済むかなって……」

 

 ちっ、と何処からか舌打ちが聞こえた。

 同時に、目に見えて山田……ではないリョウの機嫌が悪くなっていく。

 それ以上何かを言う事はなく、そっぽを向かれた。

 俺の席なので退いて欲しいが、退けと言ったら逆に何が始まるか分からないので俺は近くの椅子を借り、机に寄せて座った。

 

「リョウ」

「……」

「リョウさん」

「何?」

 

 敬称をつけないと駄目なのかよ。

 

「悪かったから機嫌直してくれ」

「……じゃあ、もう山田って呼ぶのやめて」

「そんなに山田呼び嫌なのかよ」

 

 正直、始まりは両親に恋人と偽装する上で必要な事だからと本物の交際関係になる前から互いに下の名前で呼ぼうと決めたのが切っ掛けだ。

 別に恋人になったから、なんて特別感が所以で始まった呼称ではない。

 だが、そこが気に食わないらしい。

 やはり分からん、リョウの地雷は。

 

 

 

「将来、山田になるから区別つかないじゃん」

 

 

 

 ぼそりとこぼされた山田の独り言に教室が凍り付く。

 ここに来て三連続で地獄を畳み掛けてきた。

 慄然とする俺の目の前で、仄かに赤く染まった頬を袖で隠すように頬杖をつくリョウの反応が尚の事教室の空気に多大な悪影響を及ぼしていく。女子の視線が孕む冷たさなんか氷点下にまで落ちきっていた。

 いや、元は小賢しくも浅ましい回避を図った俺の愚考が招いた結果だ。

 ……もういいや。

 何か疲れた、受け容れよう。

 

 力が抜けて、俺は黙って弁当箱を取り出す。

 

 ついでに用意していたリョウ用の弁当も本人に渡して昼食を始める事にした。

 ざわり、また教室に不穏な波紋が起こる。

 え、何が……あ、弁当か。

 駄目だ、何か自分で爆弾をセットしている気がする。

 

「おーい、あたしを空気にして楽しいかー?」

 

 虹夏の低い声に肩が跳ねた。

 何処から出してるんだ、それ。

 俺は彼女に謝ろうと振り返って――弁当箱を手渡された。

 ……………????

 

 

「はい。一郎くんの分ねっ」

 

 

 一郎くんの分…………!!?

 固まる俺に対し、次は女子以外からも殺意の視線が俺へと殺到した。

 な、んだと。

 どうして俺の分なんて用意してるんだ。

 依頼したワケでも無く、況してや食べたいだなんて最近記憶している限りでは言葉にだってしていない。

 恐るおそる受け取ると、至近距離からも冷気を感じた。

 見たくはないが、一応確認するとリョウだった。

 

「二股は認めてないけど」

「俺だって二股した記憶はない」

「言ったよね。私、一郎のロックは嫌いだって」

「話を聞いて」

「この前、郁代が首に痕付いてるって照れ臭そうに自慢してたけどアレは何?」

「待て情報の処理が追いつかない」

 

 喜多さんの謎ムーヴは置いておこう。

 いや無視できるワケがない。

 

「それいつの話だよ」

「一昨日」

「喜多さんとここ二週間くらい会ってないんだけど」

「二週間前は会ったんだ?」

「会ったというか、バイト先に現れて」

 

 そこから先は語りたくない。

 山之内さんに殺されかけたから。

 必死に弁明する俺に対し、面白くなさそうな顔のリョウは始終黙って話を聞いた後に席から立ち上がった。

 何事かと問う前に、肩に手を置かれるやリョウの額と俺の額が触れ合う。

 まるで王子様に壁ドンされる女子みたくなっているが、この状況は何なんだ。

 

 

 

 

 

「浮気は駄目。――分かった、一郎?」

 

 

 

 

 

 え、はい。

 普通に言えないのかと思いながら首を縦に振る。

 教室のそこかしこで女子の啜り泣きが聞こえ始めた。

 

 

 

 明日から不登校になりそうだな、彼女らも……俺も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♪    ♪     ♪     ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 散々だった学校から帰宅し、ソファーの上に伸びる。

 あれから何を思ったのか、「前田くんの方が乙女だったんだね」とか「惚れるのは分かるよ」とか謎の同情が女子勢の中で伝播しており、すっかり俺たちの交際が認められつつある。

 結果オーライの筈だが、何かを失った気分だ。

 取り敢えず、喜多さんが恐ろしい。

 今日はバイトが無くて良かった。

 これ以上の疲労を抱えたら、きっとパンクしていた。

 俺は取り敢えず着替えようかと立ち上がるが、その途中で机の上に置かれた書き置きを発見する。

 

 手に取って確認すれば、どうやら両親からだった。

 

 内容は――もう海外支店に戻った旨の報告だ。

 戻る日取を教えると、自分たちの為に俺が準備したりと苦労をかけるからと秘密にしていたらしい。

 そう、なのか。

 突然居なくなられても困る物は困るのだが。

 

「また今日から一人か」

 

 両親の分は作らなくていいとして、恐らく今日も夜頃に家に来るであろう山田の為に献立を考える。

 アイツは最近、千切り大根の煮物といい肉じゃがまで白飯にかけて食うのがお気に入りらしいから作ってやるとして、あとは一品メインの肉でも添えてやろう。

 アイツが帰る頃に備え、まずは風呂に入った。

 それからキッチンへと戻り、作業に取り掛かる。

 

 四月に入ってから路上ライブによる知名度アップに力を入れて取り組んでいる彼女らは、きっとまた何処かで演奏しているに違いない。

 リョウも体力を使って十分に疲れて帰るだろうから、大蒜と生姜を有りったけ擦っておく。

 ふ、明日のヤツの口は臭いだろうな。

 ちょっとした今日の事への意趣返しとして一人笑いを堪えつつ、料理の手を進めていく。

 

「それにしても、リョウ達も大変だな」

 

 未確認ライオットは投票制とか言うが、具体的にソレがいつから始まるのか知らない。

 でも、その頃になればリョウ辺りが催促してくるだろう。客数からも察する通り、『SIDEROS』等に比べても知名度が不足しており、それは票数にも直結する。

 最低でも身内で入れられる分だけ入れないと不安だろう。

 俺も言われるがままではなく、予め調べて即投票しなくては。

 

 

 

 アイツが帰ると連絡のあった八時頃、料理が完成する。

 更に盛り付けた鶏もも肉に葱ダレをかけ、肉じゃがと炊いた白飯を碗にセットし、準備完了だった。申し訳程度にキャベツの味噌汁を添えたが、鶏もも肉か肉じゃがか……今日は白飯と食いたい物がどちらかで悩むリョウにとっては眼中にないだろうな。

 最近のリョウは風呂より先に飯だ。

 我ながら判断は誤っていない筈……冷めない内に着くと良いんだが。

 

「ただいま」

「来たか」

「おかえりは?」

「何だオマエ」

 

 山田一郎じゃないので言いません。

 疲れ切った顔で投げ銭箱を抱えて居間に入ってきたリョウは、葱ダレの匂いを嗅ぎつけたのか一瞬で目を輝かせて椅子に座ろうとする。

 その襟首を掴んで止め、まずは手を洗わせてから改めて食卓に着いた。

 

「ガッツリした物で助かる」

「今日そんなに疲れたのか」

「吐きそうになってる廣井さんから逃げるので走って体力使ったから」

「あの人置き去りにしたのか」

 

 それもそれで可哀想だな。

 呆れる俺の前で、リョウは目論見通り肉じゃがと鶏もも肉を交互に見て悩んでいた。

 どうせどちらも選べず、最後は白飯をおかわりしてどちらも一杯分楽しむんだろう。

 二年も一緒にいれば手に取るように分かる。

 

 二人で黙々と食べていたが、リョウがテレビを点けると海外の映画が放送されていた。

 

「何これ」

「ああ、『ミ◯ト』だ」

「霧?」

「そう。一回観たけど、不気味な終わり方するんだよ」

「今日露骨に私を避けようとした一郎みたいな?」

「…………」

 

 そんな風に受け取られていたなら謝るしかない。

 何も言えずにいる俺の前で、リョウは淡々と箸を動かす。

 

「一郎、もう諦めなよ」

「何が?」

「もう自己紹介で私にプロポーズをした時点ですべて決した。私もオーケーしてしまった以上、責任を持って現実を受け止めなきゃいけない」

「どっちがプロポーズしたか分からん言い方だな」

「私を乙女にした男」

「知ってるか?蕁麻疹って内臓にもできるんだぞ?」

 

 そのワードでいつか体調不良を起こしそうだ。

 俺がため息をつくと、予想通りリョウが白飯をおかわりする。…………てか早すぎるだろ。

 相当空腹に悩まされていたのか、皿の上を平らげつつある。

 俺の倍速で食べているのでは……?

 食べっぷりに驚嘆していたら、リョウがじろりと俺を睨んできた。

 

「何だよ」

「郁代の首の痕」

「本当に身に覚えが無い」

「虹夏の弁当は?」

「頼んでもない。……弁明すると、朝のコールも本当に虹夏の自発的行動だ」

 

 断じて俺の意思は関与していない。

 

「……ならいいけど」

 

 納得したリョウが箸を置く。

 早、すぎる……。

 そのままスタスタと歩いて風呂場へ向かった彼女を見送り、漸く肩の力が抜けた。虹夏は要注意として、そろそろ喜多さんの問題も片付けなくてはならないな。

 触れると爆発しそうな危機感があって極力関わらないように動いてきたのが裏目に出たのかもしれない。

 言語化出来ないが、喜多さんの何かを刺激してしまっている。

 

 ……はあ、ひとりに会いたい。

 

 今のところ、『結束バンド』としてバンド活動に取り組んだり、バイトに勤しんだりと成長は見せても、決して俺に変な負荷を掛けずに癒しだけを与えてくれる。

 こんな状況だからこそ、変わらずにいてくれる物がなによりも有り難く感じるのだ。

 最近、ロインもくれないけど大丈夫かな。

 

 

「一郎」

 

 

 風呂も早いのかよ。

 物思いに暮れていた俺は、後ろに振り返る。

 例の如く薄着――俺のシャツ一枚で堂々と佇んでいるリョウにはため息しか出ない。今まではその姿が日常化していて特に注意しなかったが、いざ両親が帰宅してリョウも泊まるとなった時、彼らに指摘されて漸く問題として再認識できた。

 シャツ一枚姿……やっぱり、他人からは異常に映るらしい。

 本人が楽だからとその格好をしているが、目の毒には変わりないのだ。

 こんな所をひとりや後藤家に見られたら死ぬんじゃないだろうか、俺。

 

「一郎」

 

 俺の憂慮も知らず、にやにやとしているリョウが襟を開いて首を晒す。

 そこには……一点だけ朱色が滲んでいた。

 

 

「この痕、何だと思う?」

 

 

 ……ほう。

 俺はリョウの首の一点を凝視した。

 あれは少なくとも俺が付けた物ではない……では、一体誰が?まさか悪戯で他のやつに付けられたとか。

 思考すればするほど、不快感が湧いてくる。

 あれだけ俺に注意していながら、自分はこの始末か。

 

 俺は平らげた皿に箸を置き、立ち上がってリョウの方へ歩む。

 

 そんな俺を見るなり目を見開いて固まり、冷や汗を浮かべ始めたコイツの反応がイラッと来る。

 俺は逃げられないようリョウの肩を掴んだ。

 

 

 

 

「リョウ。――ちょっと話がある」

 

 

 

 

 俺はリョウを担いで自室に移動した。

 長い長い話になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、乙女顔で登校したリョウを見たクラスメイトによって、校内に知られる俺の異名は『山田リョウをニンニク臭い乙女にした男』に更新された。

 解せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近読んでて思うこと。

  • イチャイチャじゃなくて曇らせて
  • もっとイチャコラしろ
  • BADENDシリーズはいつ?
  • いつになったら日の呼吸使えんだよ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。