それにしても、三話放送時ぐらいから追っかけで観始めたバンドリが今季は呪術も幸せな結婚もゾン100も抜いて個人的に面白かった……何で春日影やったのッッ!!!!
「一郎。お話がある」
新たな『箱』でのライブを控えた夜だった。
山田リョウは、いつになく真剣な眼差しで俺を見詰めている。虹夏も張り切っていたが、普段からマイペースで動揺しなさそうなコイツでさえも緊張しているのだ。
明日のライブは、俺も久々に予定が合う。
気合を入れて応援用の扇を鋭意制作中だった俺だが、真面目な雰囲気で自室に来た彼女を無視しておくワケにもいかず、一旦手を止めて体の正面を向ける。
すると、リョウはぽんぽんとベッドを叩いた。
随分と慣れた様子で俺のベッドの中央に寛ぐコイツだが、そういうのを見た男がどんな反応するか分かっていないのかというくらい警戒心が無い。
久々のライブ……俺もいつになくテンションが高い。
そのノリでベッドに乗ったらどうなるか。
「ここでいい。話せ」
「そこは駄目。動け」
「妙に頑固だな。話せる距離だろ、何が不満だ?」
「一郎こそ何を臆している。さては童◯?」
「誘い文句じゃなくて遺言ときたか」
今日の挑発はキレてるな。
俺は握っていたペンを手中でへし折ってしまった。
こんな調子でリョウの相手をしていたら、明日には本当にはベッドが事件現場になりかねない。……あれ、いつの間にかアレ的な興奮が殺意へと遷移している気がするぞ。
そんな事は、さておいてだ。
埒が明かないので観念して俺もベッドに移動する。
アイツの隣に腰を下ろすと、リョウはさらに視線を鋭くした。来いって言ったのオマエなんだけど。
「一郎。私の誕生日は9月18日」
「…………」
「一郎は、私と出会って既に二回も祝い逃しをしている」
「それ損してるの俺?」
「どう思った?」
「オマエがこの世に現れて十七年以上経ったところで何が喜ばしいのか全く以て分からん」
俺としては厄日とそう変わらない。
だが、山田リョウは俺の返答に満足しない。
分かっていないとでも言いたげに、憐憫の眼差しを注いでくる。この世に自分が生まれた事をここまで尊大に言えるヤツなんて太古の王侯貴族ぐらいだろう。
誕生日の何が良いんだよ。
勝手に親が俺を産み落とした日、というだけだ。
祝われたって何の嬉しさの欠片も抱けない。捻くれていると言われても仕方無いが、生理的な不快感を拭いきれないのだ。
いや……他人の誕生日までそんな不快には思わないけどさ。
ただし、山田リョウだぞ?
「大体、何で急に?」
「ぼっちに言われた。一郎の誕生日を知らないのかって」
「知らなくて良いだろ、そんなの」
「知りたい」
「何で」
「私が何ヶ月何日歳上か」
「なるほど、浅ましい」
誕生日を知りたい理由で、ここまで下らない理由が存在するなんて青天の霹靂である。というか年上前提かよ。
それでマウントって取れるのかさえ疑問だ。
それにしても、ひとりが俺の誕生日を知らないのかって発言した経緯を知りたい。まるでひとりは把握しているかのような口振りだ。俺は後藤家に教えた事なんて……いや、親戚関係で俺の親から聞き及んでいても不思議ではない、か。
でも祝われた事なんて……。
『生まれてきてくれてありがとう』
……あれか。
毎年、たしかに誕生日……だったか?それくらいになるとひとりから唐突に生まれた事を感謝される。急過ぎて嬉しいと感じるよりも戸惑いが勝っていた。
そうか、ひとりなりの祝福だったのか。
思い返すと、後藤家一同からも。
『一郎くん!万歳!万歳!』
『一郎くん、そっちにご飯作って送ったから。食べてくれると嬉しいな』
『いっくん。ケッコンまであと◯年だねっ』
『アウ!バウッ!ウガルルッ』
後藤夫妻は、万歳とか言ったり少し豪華なご飯を送ってきてくれたりしたな。ふたりは謎のカウントだし、ジミヘンはその時だけ聞いた事も無い鳴き声で話してくれる。
あれも祝いのつもりだったんだな……。
俺が鈍過ぎただけで、実は誕生日を祝ってくれる人はいたんだな。少なくとも前田家に来てからは。
「教えない」
「……」
「そんなに知りたいなら、俺のロインのプロフィール欄からでも探れば良いだろ。一応設定してあるし」
「なるほど」
「じゃあ、この話題は終わりだな」
「……一郎」
「ん?」
「一郎って今、何歳?」
「……まだ十七だけど?」
そろそろ誕生日だけどな。
呆れながら答えると、面白い物を眺めるような目で俺を見つつ、ニヤニヤと笑う口元を袖で隠しだす。目的が分からず、鳥肌の立つ腕を抱きながら少し距離を取ろうとすると服の裾を掴まれた。
な、何なんだ一体。
「もう少しで十八。結婚はいつする予定ですか?」
ぴきり、と俺の中で亀裂の走る音がする。
何を言い出したかと思えば、コイツ……。
内心穏やかではない俺の心中など察する事無く、くつくつとリョウは喉を鳴らして笑いを堪えている。自己紹介の時からだが、プロポーズのネタで腐るほどイジられていた。
忘れかけていた殺意が蘇る。
「一郎、頑張らないとまずいよ」
「……何が?」
「今の内に私の身も心も物にしておかないと、いずれ世界的ベーシストになってしまう私は引く手数多。頑張らないとね……」
「あ?」
まるで俺が必死にならなくてはならない立場のような言い方だな。
心底山田リョウに惚れているとでも言いたげだ。
生憎と第一印象変人、第二印象が寄生虫、そして現在に関しては恋人という名で寄生した害虫という認識の相手に、繋ぎ止める事に躍起になれという方が間違いだ。
一度分からせてやるか……?
やっぱり、最初は十字固めで絞め上げて……待て。
落ち着け、これは挑発だ。
一々取り合っていたら、明日の準備に間に合わない。
「ふ、そうかい」
「何……!?」
「オマエの方も、俺がいなくなったら虹夏の美味しい飯しか食えないぞ」
俺は敢えて余裕な態度を装う。
む、とリョウの顔が曇る。……いやいや、俺も適当な事を言ったけど、よくよく考えたら虹夏の飯食えるだけでもかなり役得な人生じゃないか?
外面だけ取り繕ったが、中身スカスカ過ぎた。
これだけじゃ足りない。
捻り出せ、コイツの牙城を崩す一撃を。
「第一、胃袋掴まれてるオマエが俺にデカい口を叩けるのか?」
……これも駄目だ!!
いつも俺の飯をよく食べてはいるが、果たして胃袋を掴むと形容できる段階までコイツの味覚的幸福を満たせているかも疑問だ。実際にリョウは食えれば何でも良い質なので、空腹が凌げれば雑草にまで手を伸ばす。
二撃目も失敗……。
ちらりとリョウを見ると、顔面蒼白になって狼狽えていた。
く、コイツ……「そんな事よくドヤ顔で言えたな」って引いてやがる。
次だ!
えーと。
「それに、いつもの反応的には物に出来ていると思うぞ。……何がとは言わんが」
くそ、気持ちの悪い発言しか出ない。
ちらりと再びリョウの様子を窺う。
着ているシャツの裾を握り締め、顔は俯いていて分からないが、耳どころか見える限り全身真っ赤になっている。ド直球な変態発言で反応するのも危うい、という感じだな。
駄目だ、何も効いていない!
その証拠に、笑いを堪えて限界なのか真っ赤な顔のまま少し期待するような目でちらちらと俺を見てくる……何かエ…………いやいやそうじゃない。
くそ、さっきから墓穴を掘っている。
何か有効打を……これだぁ!
「油断してると、俺が他に相手を見つけるかもな」
その瞬間、室内に木枯らしでも吹いたかと思った。
冷水でも落とされたように背筋を悪寒が駆け上がり、俺は小さな悲鳴が口からこぼれた。
リョウの体は、さっきまでの赤みが引いていく。
代わりに、双眸から強い眼光が放たれた。心臓でも掴まれた錯覚に俺が全身を強張らせると、動けない獲物を見定めた肉食獣のようにじりじりとベッドの上を這って躙り寄って来た。
細い指が微かに震える俺の喉元を撫でる。
包むような優しさで顎を握られ、視界の隅ではアイツの顔と開きつつある口が迫っていた。
がり、と首筋に痛みが痛い痛い痛い痛い!
逃げそうになる俺の肩と顎を強く掴み、リョウは首筋に噛みついて離れない。
十秒ほどそのままだったが、やがて満足した彼女から離れていく。
「一郎」
「痛ァ……は、な、何か?」
「私も本気出さないとね。……楽しみだ」
「た、楽しみ?」
リョウの目が妖しく細められた。
「あと何年で、一郎は身も心も堕ちるかなって」
どうやら、眠れる肉食獣の尻尾を踏んでしまったらしい。
雑草食ってろ。
♪ ♪ ♪ ♪
翌日、俺は件のライブハウスに来ていた。
既にリョウ達は入っているらしく、俺も少し遅れて応援グッズを装備しながら来場した。
池袋なんて、初めて来たぞ。
新宿なら通い慣れてしまったが、ここの賑やかさも凄まじい。特にこのライブハウスも、俺と同時に入る人数もかなりある。
ある……んだが、様子が尋常ではない。
「今日は……ハロウィンか?」
可怪しい……まだ夏前だぞ。
愕然とする俺を他所に、次々と奇っ怪な衣装に身を包む人々が入って来る。いずれもスタッフらしき方々に挨拶をしている辺り、今日演奏する人たちなんだろうが…………ロック?ロックとは縁遠いジャンルがちらほらと見受けられる。
ライブハウスを間違えた、ワケないよな。
貰ったチケットは、ここで間違いない。
「これは、何が起きて……」
「あ、アンタはっ……!」
「その声はまさか、俺が会いたくない人間第六位……毒♡闇!」
「ぽいずん♡やみ!微妙な順位が逆にリアルでメンタルにクるんですけど!!?」
背後からの声に振り返ると、いつぞやの記者ぽいずん♡やみこと毒♡闇がそこにいた。どちらが本当のペンネームだったか覚えてはいないが、結束バンドに一度は亀裂を生んだちょっぴり危険人物なやつ。
俺が警戒に身構え、いつでも反撃できるように団扇を構える。
「あのっ……」
「動くな。それ以上こちらに近付いたら貴女の頭をアシンメトリーにしてやる」
「団扇で!?てかそれ、応援用?」
「ええ、まあ」
俺は団扇を毒♡闇さんに見せる。
「これで応援しようかと」
「『山田リョウ、昨日殺すか、悩んだぞ』……?………………………いや応援どころか通報レベルのメッセージ!!俳句な感じで音揃えたんなら季語持って来いや!?字余り!!下手くそか!!」
「もう一つあります」
「何なに?……『ファイト!結束バンド!』ってこっちは捻りも無いじゃない。もう少しアイデア無いわけ?殺意マシマシの団扇といい、ちょっと頭おかしいんじゃない?」
「……ぽいずん♡やみ14歳なんて名乗ってる佐藤愛子23歳よりは正常ですが」
「ぷぼろばァッッ!!!?」
俺のカウンターに毒♡闇が吐血する。
ふ、貴女みたいなアクの強いキャラはネットにアンチが必ずいますからね。そういう人で辿っていけば本名も年齢も出てきますよ。
よほど効いたのか、毒♡闇の吐血が止まらない。
それを優秀なスタッフさんが速やかにモップで掃除してくれたが、あの手際からして死体処理に慣れているような後ろ暗さを感じる。何者なんだ……?
いよいよライブハウス合ってるか疑わしくなってきたぞ。
もしかして、最近観たシリアルキラーのいる玩具屋みたく入ったが最後のライブハウスだったりしないよな。
「それで、毒♡闇23歳さんも誰か観に来たんですか?」
「前にあれだけあたしにギターヒーローさんのプライバシー云々を語っておいて私のはズケズケと明かすの何で!!?」
「良いから答えて下さい」
「……け、『結束バンド』」
「え、本当ですか?でも団扇は貸しませんよ」
「誰がそんなトンチキなグッズに手出すと思ってんの?そんなので応援されて喜ぶの変人だけよ」
「あ、なら大丈夫ですね。喜びますから」
「『結束バンド』が!?」
正しくは山田リョウだけだが。
俺と毒♡闇が益体も無い会話をしていると、彼女が背後の誰かとぶつかってしまったようだ。
「あっ、ごめん」
「げ、ぶりっこメルヘン年齢鯖読みライター……」
「出会い頭にそんなすらすら暴言出る!?」
「いや全部事実だし」
「あれ、星歌さん。ご無沙汰してます」
どうやら、『結束バンド』が拠点にしているライブハウス『STARRY』の店長こと虹夏の姉である星歌さんまで来ていたようだ。
やはり、妹が他の箱でライブをするとあって心配して来たのかもしれない。
俺が挨拶すると、ギッと顔が険しくなる。
「一郎。虹夏と付き合ってるらしいな」
「付き合ってません」
「は?いやでも虹夏は」
「それは嘘です」
「オマエ……人の妹を嘘つき呼ばわりするのか……!」
「星歌さん。俺はリョウと交際中ですよ。二股もできる器量が俺にあると思いますか?」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや、虹夏は優しいからきっと何か甘い言葉でも囁いたんだろ」
「かなり悩んで絞り出すくらい無いんですね」
知らぬ間に最低評価だ。
虹夏は俺の事を家でも話しているらしい。
隣の毒♡闇も俺を汚物でも見るような目で睨んでくる。極めて心外だ。
「俺が浮気するようなクズなら、今頃は美人でカッコいいけど泊まる時に見た可愛い系の感じもある星歌さんにだって手が出てますよ」
イラッとしながらステージの方を見つつ吐き捨てるように身の潔白を弁解すると、何故か沈黙が下りた。
……何だ、信じられないって?
俺が改めて二人へと振り返ると、何故か顔を赤くして星歌さんが慌てふためいていた。
「ば、馬鹿野郎っ!?こんな所でなに口説いてんだ!」
えぇ……。
虹夏もそうだが、俺がただ普通に話しただけでも口説いたような言い回しだと誤解する。こういう部分は姉妹なのだろうか、それとも伊地知家の教育か。
少し呆れていると、隣で袖を引かれた。
「あたしは!?」
「いや、自称14歳は流石に……」
「おまえ四通りの死を味わわせるぞ!?」
ぽいずん♡やみなんてメルヘンな名前に似つかわしくない荒々しい脅し文句だ。
その前にネットで炎上死させてやる。
「あ、結束バンドの番が来ますよ」
俺が言うと、二人がステージ上に視線を向ける。
さて、茶番は終わりだ。
俺はさっと、紙袋からさらに追加で二本の団扇を取り出して掲げた。
『こんばんは!!『結束バンド』ですっ!』
ライブが、始まる。
ヒロインレース第何弾目か忘れた。
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山田リョウ
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伊地知虹夏
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後藤ひとり
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喜多郁代
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大槻ヨヨコ
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廣井きくり
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清水イライザ!!
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馬狼照英