めしくい・ざ・ろっく!   作:布団は友達

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お久しぶりです。
忙しかった…………。




大人に頼ろう

 

 

 

 

「こんばんは!!結束バンドですっ!」

 

 虹夏の元気な挨拶が会場に響く。

 俺はさっと手にしていた団扇を掲げるが、盛り上がっているのは俺だけらしく、周囲は今までよりも静かになっていた。

 周囲と自身の温度差に少しだけ気恥ずかしさを覚えてしまうが、隣には同じように『結束バンド』を応援しに来てくれた同志が二名いる。

 俺は独りじゃない!

 心強き味方へと俺は振り返って……何で星歌さんも毒♡闇も若干距離を取ったのだろうか。

 

「次はロックバンドか」

「ロック聴かないしな〜……」

「このライブ何でジャンルがバラバラなの?」

 

 そんな声が周囲から聞こえる。

 ジャンルがバラバラなのは、俺も不思議に思っている。さっきの「黒髪以外はビ◯チ」?なる攻撃的な音楽を披露していたアイドルも、本当に『結束バンド』の出演するライブハウスか悩まされた。

 出演者に統一性が無い。

 だから、観客の興味もバラバラなのだ。

 実際に『STARRY』で見る『結束バンド』のファンの顔がそこかしこに見受けられるが、ほとんど皆がロック自体に興味ある人間という訳ではなさそうでアウェー感が少しだけ滲み出ている。

 このライブハウスは、普段からこんな感じなのだろうか。

 

『今日は来てくれてありがとう!いきなりだけどメンバー紹介いきます!』

 

 お、来たか。

 

『ベース――山田リョウ!』

 

 リョウのベースが鳴き声を上げる。

 家で聞いている時とは段違いの本気のキレを感じる音に、俺はリョウ向けの団扇を掲げて大きく振る。

 これだよ、これ。

 最近はバイトで路上ライブも全然行けなかったのでかなり間隔が空いていたが、俺はライブハウスに立って大胆に立ち回るリョウたちを観たいのだ。

 

「ベースってあんな音出せるんだ〜……」

「スラップかっけー」

「あの人かっこいいかも……」

 

 へー、スラップ?って言うんだな、あの演奏法。

 つくづく自身の無知に呆れながらも、リョウを見て恍惚としている女性たちに思わず忠告したくなる。

 立派な見目に欺かれるな。

 あれは一度懐を許せば際限なく搾取する寄生虫だ。

 現に俺が持っている団扇は、日頃のアレコレに起因する殺意を乗せたメッセージである。決してフリでも冗談でもなく、ガチだ。

 

 ふと、団扇を掲げる俺とリョウの視線が交わる。

 

 ふわりとリョウが微笑んだ。

 やや流し目で体を軽く揺すりながら見せた表情に、ますます周囲で女性たちの蕩けるような甘い嬌声が上がる。相変わらず謎に女性の心を掌握する雰囲気とルックスを遺憾なく発揮しているようだ。

 その反応にリョウはというと、滅多に無いソロ演奏が出来た充実感に打ち震えている。……あと団扇がお気に召したようだ、変人だから。

 

『今日は私達の演奏で疲れた心を癒やし安らぎの一時をお過ごしください……』

「何言ってんだアイツ」

「雰囲気で生きてる人間だからな」

 

 いつの間にか元の距離に戻っていた星歌さんと一緒にアイツを鼻で笑った。

 まあ、楽しそうなら何よりだよ。

 

『リードギター――後藤ひとり!!』

 

 紹介に与ったひとりがギターを弾く。

 合わせるのが苦手と言っていただけあり、ソロ演奏ではやはり周囲をあっと言わせる演奏力だ。人目があるので未だ全力とはいかないが、俺が見た以前のライブの様子よりも大胆さがある。また成長してるんだな……と思ったら恥ずかしくなったのか後ろを向いてしまった。背中が可愛い。

 俺はもう一振りの団扇を振って応援を頑張る。

 

『ボーカル――喜多ちゃん!』

『はーい!不思議なライブだけど、これも何かの縁!今日はみんな一緒に楽しみませんか!東武?西武?池袋〜!』

「何だアレは?」

「『結束バンド』の前にやってた天使のキューティクル?とかいうアイドルがファンとやっていた掛け合いですね」

「なるほど。ああやって他のファンを引き込むのか、上手いな」

「あ、ひとりが歯ギター始めましたよ」

「ボトルネック奏法といい、ぼっちちゃん流石だな。引き出しがそこらのヤツと違う」

「冷静に分析するのやめろ。一周回って冷めてるように見えるからねアンタたち?」

 

 喜多さんやひとりの立ち回りを評価していたら毒♡闇に盛り下げるなと注意された。

 黙れ、オマエの年齢詐称ほど盛ってねえよ。

 そんな口にしたら一瞬で殺し合いになりそうな雑言を心の中に仕舞いつつ、ライブに集中する。

 

『最後に、ドラムの伊地知虹夏です!それじゃあ、一曲目やりまーす!』

 

 全員のメンバー紹介が終わったところで、早速曲が始まった。

 本人たちの立ち居振る舞いが功を奏してか興味を引けたらしく、観客が減る事は無かった。面白そうだと思ったのか、最も危惧していた天使のキューティクル?とかいうアイドルのファン達も留まってステージを見上げている。

 一曲目の演奏を俺が注目していると、隣から苦しげな声が聞こえてきた。

 

「それはそうと、お前なんで来てんだよ」

「あ゛たしは暇があれば色んなライブ観るようにしてんの……!」

「お前が余計な事言ったせいでアイツら気にして……一郎?」

「べ、別に嘘は言ってないでしょっ!」

「いや、年齢を誤魔化している」

「黙ってろよおまえ!?」

 

 何故か怒られた。

 

「ともかく、ギターヒーローさんが才能を無駄にして『結束バンド』で燻ってるの勿体ないじゃん。あんな才能持ってる人稀なのに……周りのメンバーも絶対差を感じて……」

 

 差を感じる、か。

 正直、バンド内で実力を発揮できないひとりに対し、それほど虹夏たちは差を感じてはいないだろう。動画の中のひとりとギターヒーローは、ある意味では別人だ。いつか本当の力を披露できる日は来るかもしれないが、何も虹夏たちだって成長していないわけじゃないし、動画もライブも見ている俺からすれば、いずれ実力の差を感じて本人たちの中に軋轢を生む事は無いと思っている。

 

「だからギターヒーローさんは『結束バンド』以外の舞台が相応しい……って思ってたんだけど、最近は下北沢でも評判らしいし、前よりは……その、いい感じじゃん。前よりはね!?」

「おお、初めて本音を……」

「嘘ばっか言ってるわけじゃないから!?」

 

 記者なだけあり、しっかりと変化にも目敏く評価を改められる価値観があるようだ。

 嫌味なだけの人間でない事は、以前路上でぶつかって少し話した時に知ってはいたが。

 俺と星歌さんが毒♡闇さんの素直でない態度にふ、と笑っていると。

 

「え〜お店以外でも会おうよ……いつも同伴してるのに……」

 

 背後からそんな声を聞いて、三人で振り返る。

 このライブハウスの店主が、隅に座って寝言を言っていたようだ。

 呆れる俺の横で、星歌さんと毒♡闇さんが動く。

 

 

「「いいライブ・真剣にやってんだから、ちゃんと見ろ!」」

 

 

 二人が寝ている店主を叩き起こし、説教を始めた。

 ジャンルがバラバラな事といい、薄々とブッカーの方に問題があるのは察していたが、まさかいい大人二人にライブ中ガチ説教をされるとは哀れな……。

 それはそれとして、俺は二人から少しだけ距離を置いて応援を続ける――が、両肩を摑まれた。

 

 

「「私たちから距離を取るな!!」」

「すみません」

 

 

 何故か俺まで怒られた。

 理不尽さに肩を落としつつも、会場と一体になって楽しげに躍動する四人に俺たちは思わず笑みをこぼす。

 ライブを楽しんで、その上で楽しんで貰えるなんて、やっぱり素晴らしいバンドだと思う。応援していて良かったと思えるし、ここ最近のライブを観れなかった後悔が膨らむ程だ。

 ちゃらんぽらんな店主とか年齢詐称するヤツとか妹を盲目的に信じて俺を批難する人とか、今はそんなのどうでもいい。

 今だけ。

 

 

「やっぱ凄いな。――『結束バンド』」

 

 

 俺も感動して、団扇を激しく振って彼女たちの声に合わせた。

 

 

 

 

 

 

 ライブは恙無く終わり、出演者同士が互いを称え合っている。

 いつの間にか消えていた毒♡闇さんに取り残された俺と星歌さんは、壁際で他の出演者と交流する四人の様子を見守っていた。

 

「一郎。打ち上げくるか?」

「……団扇作るのに必死で放置してた学校の課題があるので心苦しいけど遠慮します」

「良いだろ、課題の一つや二つくらい」

「大人が言っちゃ駄目でしょ、その台詞」

「適度に力抜けって話だよ」

「え?」

 

 だからといって課題の未提出は問題だと思うが。

 

「物事を真剣に受け止めて考えられるオマエの気質は褒めるべきだ。でも、何でもかんでも深刻に捉えて行動すると空回りして余計に事態が悪くなる事もある。……虹夏の事といい、オマエはもう少し周りを頼れ」

「星歌さん……」

「百歩譲って虹夏がカノジョを自称してるとしても、そういう時に姉の私でもいいから頼れ」

「……今度からちゃんと相談します。ありがとうございます」

「ったく、今回の虹夏も含めてオマエも大体そつなくこなせるからいざって時に相談って選択肢が見えないからそうなるんだよ。気をつけな」

「はい。……今回の虹夏?」

 

 俺の疑問に、星歌さんが少しだけ逡巡して答えた。

 どうやら、『結束バンド』に来た誘いを見た時に、大体そのライブハウスがどんな物かを察して迂遠な言い回しで断念させようとしたが、それが逆効果になって虹夏が不貞腐れてしまったらしい。

 それから相談も何もなく、きっとライブハウスに着いた時には事実を知って落ち込んだだろう、と。

 

「……俺も星歌さんみたいな姉がいたらって羨ましくなりましたよ」

「誰が義姉(あね)だ」

「やっぱり羨ましくないです」

 

 星歌さんがどん、と俺の肩を強く叩いた。

 

 

 

「取り敢えず、大人を頼れ。……お前の事も見守ってんだから」

 

 

 

 ……なんて優しい人なんだろう。

 久しぶりに星歌さんが頼り甲斐のある大人に見えて苦笑してしまう。

 

「おねーちゃん!一郎くん!来てくれてたんだ!?」

 

 俺たちを見つけた虹夏が駆け寄って来た。

 

「一郎くん、久しぶりのライブどうだった?」

「楽しかった。三ヶ月分くらいの活力は補給できたか」

「あはは、三ヶ月だけなんだね」

「うん。だから、次のライブも早めに頼むよ」

「っ、うん!!」

 

 俺はそれだけ言って去ろうとしたが、虹夏に抱き着かれてしまった。

 俺の胸にすりすりと頭を擦りつけ始めたので、星歌さんに助けを求めると速やかに虹夏を引き剥がしてくれた。「あっ」と残念そうな声を漏らす彼女から颯爽と離れ、俺は出口へと向かう。

 虹夏が不貞腐れたと話にあったが、きっと二人で話したいことも沢山あるだろう。

 俺は邪魔だろうし、課題の為にも早く帰るか。

 

「一郎先輩♡」

「喜多さん、お疲れ様」

「どうでしたか?私、何度もライブ中に一郎先輩にウィンクしてたんですけど」

「えっ、あ、と……してた、っけ?」

 

 すまない、途中から星歌さんと毒♡闇に説教されたり、『結束バンド』全体に集中していたから、喜多さんがそんなサインを送ってきていたなんて知らなかった。

 当惑する俺の反応で察したのか、喜多さんが自身の体を抱いてぶるりと震える。

 

「気付かないフリ……酷いです……♡」

 

 もう、幸せそうだし何でもいいか……。

 思考を放棄し、喜多さんを躱して出口に向か――服の裾を弱々しい力で後ろから引かれた。この慎ましい力加減から察するに、ひとり!

 振り返ると、予想通りひとりがいた。

 ま、まずいな。

 あの夜のキス以来か。

 

「い、いっくん。どうだった?」

「カッコよかったぞ。やっぱり、ギター弾いてる時のひとりは輝いてるな」

「うぇへっ、うへへへ」

「元気貰ったよ。ありがとう」

「あっ、じ、じゃあ、また今度、家行ってもいい?」

「そりゃ勿ろ、ん……」

 

 あれ、流れでひとりを家に入れる約束を……。

 でもひとりなら別にいいだろう。と思っていたが、えへへと嬉しそうに笑いながら自身の唇を指でなぞる仕草を見て、もしかしたら軽率だったかもしれないと俺は微かに危機感を憶えた。

 

 前後をひとりと喜多さんに挟まれて、どうしようかと考えていたら、横から腕を強い力で引かれた。

 

 どうやら、リョウに引っ張られたらしい。

 ライブ後なのに、やや不機嫌だ。

 

「一郎。ライブどうだった?」

「流石『結束バンド』。流石リョウだ、また観に来れて良かった」

「そう」

「そうだ。今日は家に来るのか?」

「うん、行く」

「飯は?」

「要る。お金無いし、打ち上げでもそんな食べられないと思うから作っておいて」

「俺の家でもそろそろ金払えよ」

 

 ライブはカッコよかったが、コイツやっぱり寄生虫だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♪     ♪     ♪     ♪

 

 

 

 

 

 

 あのライブから十日経った。

 何もする事が無い休日で、外の雨の所為で洗濯物も干せず、今日は憂鬱な気分である。家事をしないリョウには共感できない気持ちだろう。

 リョウが珍しく家に帰っているので、のんびりと一人で過ごせる事だけが不幸中の幸いともいえる。

 俺は陽キャ君から借りていた小説『砂◯女』を読み勧める事にした。

 

 五感を刺激する窓を叩く雨粒の音と紙の手触りに安らぎを覚えながら、文章から伝わる情報に集中する。

 

 いや、うん……相変わらずだな。

 陽キャ君が凄くお勧めしてきただけあり、今まで貸してくれた本の傾向からも大体予測していたが、オブラートに包んでも中々に残酷な物語だ。

 これを読んだ俺と、どんな感想会がしたいんだろうか。

 最近では虹夏とリョウの変なやり取りの所為で浮気野郎疑惑を向けられて居た堪れなくなり、教室を出ようとすると監視していたんじゃないかと思うほどピンポイントで陽キャ君が現れて阻止される。

 まさか、いつかこの本みたいな内容で俺を苦しめるという遠回しなアピールもとい犯罪予告なのでは?と邪推してしまう。

 

「ん?」

 

 インターホンが鳴り、思わず顔を顰める。

 最近は郵便配達でも、リョウかと思い込んで条件反射でこんなリアクションになってしまうのを直したい。何もかもアイツの所為だ。

 いやしかし、インターホンの音からしてマンション入り口の方からの呼び出しだ。リョウや虹夏たちなら、そのまま暗証番号で素通りして玄関まで来ている……これも普通なら可怪しいことなんだけど。

 

 俺は本を机の上に置き、インターホンを確認するとマンション入り口を映す画面には、濡鼠になった女性がいた。

 あのスカジャン、まさか。

 

「きくりさん?」

『あっ、少年ー。助けてー』

「何事ですか」

『お金無いし、濡れちゃうしで死にそうだよぅ……』

 

 呆れて物が言えないが、放っておくのも酷なので俺はきくりさんを迎えに行った。

 マンション入り口まで行くと、雨なのか涙なのか分からないがずぶ濡れの情けない顔で待っていた彼女を部屋まで案内し、風呂場へと直行させた。その間も散々腹を鳴らしてこれでもかと空腹を主張していたから、彼女が上がるまでに料理を用意しておく。

 

 切り刻んだ長ネギと豚バラ肉を熱を通したフライパンのごま油の上で炒める。どうせ酒を飲むだろうから、相性が良いと思ってキムチ風にした。……酒飲んだ事が無いから、肴に何が良いかなんて正直想像でしかないけど。

 きくりさんが上がる頃には出来上がっているので、ついでに昨日作っていたスパゲティサラダも一緒に机の上に出した。

 風呂上がりでほくほくとしたきくりさんが卓上の料理を見て歓声を上げる。

 

「うはーっ!さすが少年!」

「お酒!お酒に合いそう!」

「我が家に酒はありませんけど……どうせ自分で用意してるんでしょう?」

「ここに来る途中で買ったよ〜」

「お金が無かったのでは?」

「買ったからお金が無くなったんだよぅ。うぇーん」

「汚い涙ですね」

 

 泣き始めたきくりさんの顔をタオルで拭いつつ、椅子に着かせる。

 彼女が嬉しそうに飲み食いするのを尻目に、俺は再び本を読む。

 

「少年、今度ライブするから来てよー」

「是非」

「あ、大槻ちゃんが何で私のライブには来ないんだ〜!って怒ってたよ?」

「そのまま放置しておいて下さい」

「いやー相変わらず大槻ちゃんにドライだね……」

 

 俺は本に集中する。

 集中する。

 集中、する。

 集中……………くそ、風呂上がりで妖艶なきくりさんに気が散ってしまう!普段から目も当てられないくらい情けない姿ばかり見ている所為で変なギャップがある。

 そんな俺の内心を見透かしてか、ニヤニヤと笑いながらきくりさんがこちらを見ていた。

 上気した頬と、酒で酔ってとろりと潤んだ瞳、ちらちらと覗く鎖骨に俺はため息しか出ない。

 

「少年も元気になったね〜」

「はい?」

「考えてみてよ。最初は私を部屋に入れて風呂に入れたって、特に何も反応無かったのにさ。今も同じ事してるだけなのに、前より思春期男子らしい狼狽えぶりじゃん」

「馬鹿にしてます?」

 

 いやでも、言われてみればたしかに。

 やっている事は当初と何も変わらない。

 だが、伊地知家に泊まっていた時といい、最近きくりさんやらひとりやら、異性として意識していなかった相手を妙にそういう目(・・・・・)で見てしまうようになった気がする。……きくりさんは最初から薄着の事とか意識はしてたけどさ。

 

「段々さ、他人に興味持ててる証拠だよ」

「……そう、ですね」

「お、自覚アリ?」

「はい。ここ一年は特に、自分でも他人を受け入れて行動できるようになったな……と。勿論、グイグイ来る人が多いのが影響として大きいと思いますが」

 

 それを聞いたきくりさんが嬉しそうに笑い、手招きする。

 酒臭いだろうなと思いつつ、俺はきくりさんの隣に座った。

 ぐ、色気が……っ!

 香るような色気に、思わず目を閉じて呼吸も止めてしまう。だが、そんな俺の努力を嘲笑うようにきくりさんの細い体が肩に寄りかかってきた。

 

「なら、少年はもう大丈夫だね〜」

「そう、なんですかね」

「そうだよ。だってさー、酔ってたとはいえ私にキスするような乱暴までするしね」

「キス?乱暴!?」

「こんな風にさー。あぐ」

 

 憶えの無い事に混乱する。

 俺がきくりさんにキス、しただと?その時はもしかしたら天地がひっくり返っていたかもしれない、と以前までの俺なら言うだろうが、今はこの隣の色香を漂わせるきくりさん相手だと断言できない。

 俺が思考の迷路にハマっている間に、その時の事を思い出させるようにきくりさんが首筋に噛みついてきた。酔った時のこの人の噛み癖、後で志麻さんに連絡しよう。

 ……いや、ちょっと待て。

 

「俺に酒飲ませたんですか?」

「……し、知らない間に飲んじゃったみたいでー」

「……後でとか言わず、もう志麻さんと相談しますね」

「やめてー!!殺されちゃう〜!!」

「手遅れです。観念して…………お?」

 

 通報もとい志麻さんに報告しようとした時、再びインターホンが鳴った。

 今度は扉の前からである。

 まさか、リョウか……?

 まずい、他の人間を家に上げるだけでも不機嫌になるのに。酒臭いきくりさんなんて言語道だ……いや、アイツ一応きくりさんのファンだし大丈夫か?

 それに、リョウとも限らない。

 虹夏やひとり、喜多さんだって暗証番号を知っているから普通に玄関まで来る。……『結束バンド』で情報共有でもしてるのかな、やめて欲しい。

 

「はいはーい!」

「あっ、ちょっと……!?」

 

 きくりさんが俺の代わりにと玄関方面に向かう。

 ま、待て!

 虹夏だろうとリョウだろうと貴女が出ると事態がややこしくなる。折角この前のライブでも楽しい雰囲気で終われるくらいには関係が修復できたのに、また余計な誤解を生んでしまったら収集が付かなくなる!

 慌てて追いかけたが、もう遅かった。

 俺が廊下に出た先で、確認もせず玄関扉を開けたきくりさんが客人を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「一郎、何してるの」

「あはは、楽しそうだね。一郎くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、星歌さん助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒロインレース第何弾目か忘れた。

  • 山田リョウ
  • 伊地知虹夏
  • 後藤ひとり
  • 喜多郁代
  • 大槻ヨヨコ
  • 廣井きくり
  • 清水イライザ!!
  • 馬狼照英
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