後半は、二年生の夏休み。
短めです。
映画はちゃんと観に行ったんですが、特典が山田リョウ………イライザじゃないのかッッ!!?(冗談)
本当は虹夏狙いだったんですが、まあ、山田で我慢してやりますよ、チッ(喜)
『前田、映画館に来て』
却下。
夏休みのとある昼下がり、バイト帰りに山田から入ったメッセージに対して俺の反射的に出した回答はそれだった。
今上映されている物で特に観たい物は無いし、俺は観たい物も入荷を辛抱強く待つ気質だ。人の多い映画館より家でゆったり観たい派である。
オフの日は、廃墟、古着屋、楽器屋巡りをして一人の時間を満喫している山田だが、とうとう行きたい場所も尽きたのだろうか。
折角コイツが家にいないからと労働ですり減った心身を労ろうと家で寛ぐ気満々だったのに、日頃からストレスの源である寄生虫と映画を楽しめるとでも思ったか。
いけない、今日は疲労で一段と口が悪い。
何故なら、二つ上の女性の先輩を絡んでくる常連のオッサンから庇い、三十分近くネチネチしたクレームを聞き続けていたのだ。
もう表情筋が疲れすぎて今日は笑うと顔が攣りそうである。
なので、山田の相手などしていられない。
俺は短く『遠慮する』とだけ打って素早く返信した。
すると、間髪入れずスマホに着信があった。
見たくない……でも、これがもしバイト先やら学校からだったら無視するのも駄目だろうな。そんな心境で恐る恐る確認すると、危惧したとおり山田からだった。
「もしもし」
『前田。映画館に来て』
「いま断った筈なんだが、まさか俺が首を縦に振るまで誘うつもりじゃないだろうな?」
『前田の姿が見えないから首を縦に振ったかなんて分からない』
「いや、そうだけども」
『ただ、前田が「うん」と言うまで誘うだけ』
「この一連のやり取りだけでイライラする」
コイツは稀代の天才だ。
常連のいやらしいオッサンよりも、よっぽど俺をイライラさせる。
この態度でよく俺を映画に誘えたものだ。相手が来るとは微塵も思えない無遠慮。
いつ、とは言わない。
できる限り早くくたばれ。
「悪いけど行かないぞ」
『仕方ない』
「……?」
『我儘な前田には二つの鑑賞スタイルを選ばせてあげよう。好きなセットを選ぶといい』
「鑑賞、スタイル」
『一つ、私とこのまま二人で観る』
「……一つ目から魅力が欠片も無くて早くも二つ目の提案も不安なんだが」
『二つ目は――』
山田は少しだけ躊躇う間のような矯めを作って。
『私ともう一人、虹夏と一緒に映画鑑賞』
二つ目の提案内容に、俺は雷が落ちたかのような衝撃を受ける。
い、伊地知さんと、一緒……!?
どうしよう、行きたい気がする。
バイト帰りにあの笑顔、きっと癒されるに違いない。
『どっちにする?』
「勿論、ふた――」
山田の問に即答。
しかし、寸前ではっとして止まる。
仮に伊地知さんを誘って一緒に行く事になったとして……これをネタに、山田にイジられそうな可能性か思い浮かんだ。
虹夏がいないと来ないとか虹夏好きすぎー、みたいに。
あり得る、あの山田なら。
そんな空気で伊地知さんと一緒に行動しても余計に恥ずかしい。
『……前田?』
「……も、勿論、ふ、ふた、ふた……」
『…………』
「ふ……………」
『…………………………………』
「……一つ目で」
後でネタにされて延々と捏ねくり回されるより、俺は被害を最小限にする事を選んだ。
俺には最悪の一択目を採るしか道がない。
『……そう』
「ん、どした?まさか、日頃から家で寛いでるくせに外だと俺と二人は不満か?」
『……別に。じゃあ、映画館前で待ってる』
「ああ」
ブツリ、と通話が切られる。
俺の苦渋の選択に対しても素っ気なく答えるだけだった。
案外、二つ目を選んで俺を虹夏の面前にてイジり倒す展開を期待していたのかもしれない。
どうやら悪の企みを握り潰せたようだ。
やはり、正義は勝つ!!……のはさておき、結局俺は山田と映画を観ないといけない。
いや、というかアイツが提示した選択肢をよくよく思い返すと『行かない』が無かった。
後で文句言おう。
俺は、すぐに山田から送られてきた位置情報に従い、彼女の待つ映画館へ向かった。
少し経ち、ようやく到着した俺を独り待機していた山田が迎える。
何だか少しだけ頬が薄く赤らんでいるし、そわそわしているが……何かやらかしたのか?
「待たせてすまん」
「……別に。今来たところだから」
「オマエはずっとここにいたのでは???」
何だ、そのカップルの待ち合わせド定番のような回答は。
様子の異変のいい、落ち着かない割に妙にいつも以上に無口な山田に違和感を覚えるが、一々コイツの一挙手一投足に気を配っていたら今の体力では身が持たない。
「それで、何て映画観るんだ?」
「『ジミヘン・ざ・ろっく』っていう映画。何か変人四人組バンドのサクセスストーリーらしい」
「名前に凄いパワーを感じるな」
「……前田」
「ん?」
「……何でもない」
山田はそれ以降、何も言わず俺に背を向けて先に映画館内を歩く。
一体、どうしたというのだろうか。
触らぬ山田に祟り無し……いや触らなくても祟ってくる山田だから、この異変が後から強大な何かに変わって襲って来なければ良いんだが。
「前田?」
「ん、考え事してただけだ。すぐ行く」
振り返った山田に不審がられたので、平静を取り繕いながら駆け足で隣に並ぶ。
失礼な事を考えていたとバレたら後々面倒なので、黙っておこう。
その後、悲しい事に映画館内で爆睡してしまった。
疲労に加えて心地よい暗さと空調の魔力による睡眠によって帰りは気分が優れていたが、そのまま流れるように我が家へ来た山田の世話でプラスマイナスゼロ。
俺は瀕死の状態で就寝した。
余談だが、その日は伊地知さんから『私も一緒に行きたかったな』とメッセージが来ていた。
俺だって行きたかったよ……。
♪ ♪ ♪ ♪
スクリーンに映し出されるスパイ映画。
シリーズ物であり、私も一郎の家で前作を観た事があるので興味本位に観に行こうと思っていた。
しかし、お金も無いのでどうしたものかと考えていたけど、そういえばちょうど一年前に一郎とこの映画館に来たなと思い返し、誘ったら去年の焼き直しかと言いたくなる同じやり取りをして現在に至る。
映画代は前田に借金した。将来前田の財布は私の財布になるので、特に問題無い。
一年ぶりの前田と夏休みの映画館。
彼は去年のように、また座席で心地良さそうに寝ている。
この寝顔を見ると思い出す。
私が誘っても頑なに来ようとしなかった前田を、虹夏を餌にして二択を迫った。
てっきり、普段から隠す気が無いのかという程に好いていた虹夏と居られる二番目を選ぶかと思ったけど、熟考の末に私と二人きりを選んだ。
私との時間が虹夏以上に大事なんだという予想外の結果に少しだけ動揺した。
虹夏を誘うメッセージは送ってしまっており、まだ既読が付いていなかったので慌てて『削除』した。
彼が映画館に到着した時も、まだ動揺から立ち直れていなかったので怪訝な顔で見られたけど、鈍い前田が気付く事は無かった。……前田の向こう側に虹夏の姿が見えたから、慌てて顔が見えないように背中を向けて歩いて余計に不審がられたけど。
「……一郎」
小声で呼ぶ……目は覚まさない。
無防備。
一年前より、少しだけ大人っぽくなったと思ったけど、寝ている時は変わらない幼さがある。それが嗜虐心を唆り、去年は寝ている彼の頬をつついたり、耳朶を指で弾いて遊んでいたっけ。
でも、今年の私は去年よりも欲深い。
幸い今日観に来た映画は午前中で、しかも人が多いのは苦手だと言う彼に配慮して上映終了間近の海外映画を選んだので、座席には最前列に座る人と最後列で観ている私たちぐらいしかいない。
他の人が見ていないのを良しとして、私は前田の顔に近づく。
眉毛を触ったり、頬や鼻を擽ったり、半開きの唇を噛んだり……。
それに夢中になっていると映画は佳境に入っていて、盛大にビルが吹き飛ぶ爆発シーンが映された。凄まじい音に、びくりと一郎の体が跳ねる。
そして、半開きの目が私を見た。
「今、凄い音しなかった?」
「ビルが爆破された」
「げ……また寝てたのか」
「誘った意味が無いくらいには」
「……悪かった。でも、オマエは何でスクリーンじゃなくて俺の顔ガン見してんの?」
「この映画面白くないから」
「オマエこそ何で誘ったんだよ」
何でって、映画館はこういう事が出来るから。
前田はまだ、映画館の楽しみ方がなっていない。
家での映画鑑賞では決してできない事ができる。
「一郎も興味無いでしょ」
「興味無いというよりは、この前だけどイライザさんと一緒に来て観たから二度目で……」
私はため息をついて、座席に体を戻す。
サラリと浮気発言をされた気がするけど、それは家に帰ってから罰すればいい。
今はとりあえず、また少し時間を置いて一郎が眠るのを待とう。
私の映画の楽しみ方は、まだあと時間は残っているようだし。
総集編を改めて観て、誰が一番可愛かった?
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山田リョウ
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後藤ひとり
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伊地知虹夏
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喜多郁代
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伊地知星歌
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PAさん
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後藤パパ・後藤ママ
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後藤ふたり
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廣井きくり
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ファン一号・二号
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でかつよ族