相変わらず構成は素晴らしい……素晴らしい、けど……また山田(特典ストラップ)かよォォォォオオオオオ!!?
「一郎。――何か隠してる?」
家に来て開口一番。
仏頂面のリョウから放たれたのは疑問だった。
俺はその問にドキリとしながらも、今日は四時間かけて考え抜いて事前用意した言い訳を繰り出す。
「いつも家に来てるヤツに隠しようが無いだろ」
決まった。
なるべく動揺を表に出さずに話せた筈だ。
今朝の学校は随分と挙動不審になってしまったので、リョウには大変疑われたものだ。
何せ、昨晩はどう話してもお怒りを買いそうだし。
そもそも……話そうにも記憶がないのだ。
何せ、ひとりに「好き」だと言われて気付いたらベッドの上で眠っていたのだから。疲れてはいたが、唐突に意識を失う程の蓄積は無かった。
いや、それだけなら別にいい。
自覚できていない重篤なレベルで疲弊していたと片付けられる。
問題なのは……起きたら、ひとりを背中からぴったりと密着した状態で抱き締め、しかも彼女の項に顔を埋めながら眠っていた事だ。
そうなった内訳は理解している。
まあ、自覚したのではなくホームルーム前に陽キャ君に相談したら爆笑されながら解説されたからではあるが。
ずっと崇拝していた相手が実は大変魅力的な女の子だと気付き、そんな相手からの「好き」を無防備に食らってしまった結果だ。
恥ずかしいだろ。
たった一言で理性を失ったんだぞ。
因みにひとりによると、抱き着いてベッドの中に引き摺り込み、愛を囁く以上の事は何もしていないだそうだ…………十分やっちまってるよ。
如何に大海の如き懐の広さを持つひとりでも流石に引いたと思ったが、ひとりは慈悲深く優しげに微笑んで流してくれた……本当に女神じゃないのか?
そんな事で、どうにかひとりから絶交されずに済んで一安心の俺だったが、陽キャ君の指摘や学校でリョウに尋ねられた時は肝を冷やした。
終わる……。
陽キャ君は口が堅いから良いけど、こんな事がリョウに流出したら、この醜聞は間違いなく結束バンドにまで面白おかしく伝達される。
そうなったら、あの訳分からない虹夏や喜多さんの導火線に火が点いて想定不可な規模の爆発が起きるかもしれないからだ。
俺の平穏を守るためには、何としてもリョウに昨晩の全容が露見する事を防がなくてはならない。
俺が発揮できる一〇〇%の演技力での言い訳。
これが俺の今出せる最善策だ。
「ぼっちに手、出した?」
「出してない出してない」
「……私、ぼっちと争いたくないんだけど」
「争う……意味は分からないが安心しろ。そうなったら全力で俺はひとりをサポートする」
「………………」
リョウの表情に変化は無い。
納得してくれただろうか。
ひとりを支えられないのは心苦しくはあるが、しっかりとリョウの味方をすると伝えられたし、これで機嫌は直るに違いない。
しばらく黙り込んだリョウは、そのまま無言で俺の隣を過ぎていく。
ややフラフラとした足取りなのは、今日の練習がバイトだったからだろうか。
「あ、そうだ。リョウ」
「……なに?」
「俺、結束バンドに投票する事にしたから」
「……そう」
俺の一言に反応して、リョウが振り返る。
「一郎は、私に投票してね」
それだけ言ってリョウは廊下に鞄を置きながら風呂場へ直行する。
………………。
いや、結束バンドに投票できてもオマエ個人に投票は無理なんだが。
取り敢えず、今晩は尋問される覚悟やシチュエーションも想定していたので、リョウが不機嫌になる場合も見越してひじきの煮物や和風ハンバーグ等を出して黙らせようと用意している。
これで鎮まってくれると助かるんだが。
俺は台所へ移動し、アイツが出るまでの時間を考えながらハンバーグを焼き始める。
もうリョウの大体の入浴時間やら過ごし方を把握しているのは、虹夏や俺くらいだろうな。
リョウのご機嫌取りをしたら、課題をやって、山田夫妻に電話もして、明日の準備をして眠る……。
やることが山積みだ。
特に、山田夫妻との電話はずっとリョウちゃんの成長記録とやらを聞かされるのだが、何回やったって未だにエピソードが尽きるどころか二周目の物が現れず、常に新鮮な事である。
俺ですら後藤家エピソードにそこまで抽斗に自信が無い。
過ごした時間もあるだろうけど……。
まあ、最近は山田夫妻すら知らないリョウのエピソードを俺が着実に積み重ねてはいるが、いずれも娘を溺愛する両親に聞かせられるような内容ではない。
最近、もう婿殿って言われ始めるのが極大のメンタル攻撃なんなよな。
「ハンバーグ」
いつの間にか風呂を終えて出ていたリョウが俺の作業を隣から覗いていた。
「ぼっちの好物だ」
「いや、あの子はデミグラスソースたっぷりの方が好きだぞ。これはおろしポン酢ソースだし」
「…………」
「え、何?」
じっと俺を見た後、そのまま居間へと歩いていった。
いつもそうだが、今日は特にアイツの情緒が分からない。
今日のリョウもまた不思議な爆弾状態なのか。
内心びくびくしながら完成した料理を食卓へと運び、リョウの前に並べる。
バイトが無かった俺は既に食事は済ませているので、ダイニングテーブルから離れたテレビの前に腰を下ろし、不自然に思われないよう平静を装いなからリョウに背中を向ける位置を陣取る。
そして、特に口を挟めないように話題の映画『マーター◯』を再生した。
陽キャ君が勧めてくれた物なので、きっと酷い話に違いない。これで話を始められるような雰囲気を断つ!
「今日、三人で尋問した」
無駄だった。
おもむろにリョウが声を発した。
「一郎の家に泊まってから、ぼっちの様子がおかしいって虹夏と郁代に相談して、バイト後に少しだけ話したんだよね」
「……へ、へえ」
「そしたら、ぼっちは何て言ったと思う?」
何か怖い。
まさか、ひとりから既に情報を入手していた?
玄関での質問は、知った上で俺がその事実を素直に話すか否かを試していた……とか、まさかまさか。
俺はへー、と少し惚けた感じで傾聴の姿勢を取る。
果たして、ひとりが言った内容とは――。
『さ、最近人間関係が複雑で疲れる……もう私以外に癒やしがない、って……いっぱい甘えてくれました。い、いっくんも学校でクラスメイトとかに苦労してるんですね……?』
…………記憶に、無いんだが。
いや、無意識なのか。
俺は振り返るのが怖くて、だがテレビにも集中できず深呼吸する。
皿に箸を置く硬い音。
俺の肩も情けないくらいにビクリと跳ねた。
カーペットを踏む軽い足音が近づく。
それは俺の横を通過し、寝巻き姿のリョウが俺の胸に背中を預けるようにして、胡座をかく膝の上に座った。
「どんな風に?」
リョウが振り返る。
その瞳は、特に感情の色を映していない。
縋るようにリモコンを握っていた手の上にリョウの手が腕の上を滑りながら重ねられる。
優しく指を解いて持ち上げると、リョウは自分の首元に抱き寄せた。
「やってみて。……ぼっちにやった感じで」
リョウの声はやや低かった。
そこで愚かにも、俺はようやくリョウが怒っている事に気付いた。
ちらりと目を逸らして食卓に視線を向ければ、一口もつけず放置されたハンバーグが寂しそうにしている。
「晩飯、要らないのか」
「…………」
「ほ、本当に今日はどうし……すみません。ただ普段のオマエを見てると甘えるとかそういうの無理だ、うん、はい。あと昨晩は本当に記憶が無いから、自分でもどうやったか分からないです」
リョウの圧が凄くて正直に打ち明ける。
噛み跡を爪で引っ掻いたり、吸い付いて跡を残すなんて不機嫌になった時はよくあるが、それに比べても今日は一段と凄い圧力があって逆らえない。
「……無意識」
ボソリとリョウが何かを呟く。
すると、俺の手を捨てるように払うとその場で抱いた自分の膝に顔を埋めてしまった。
眠ってしまったかと錯覚する長い時間、あまりにも不気味なほど静かで動かない。
膝も痛いし、寝るならせめてベッドに行け……と言える雰囲気ではなく、恐るおそるリョウの肩を揺すって確認した。
「リョウ。どうした?」
「一郎って、一郎のお母さんと似てるのかもね」
「え?」
「厄介な人に捕まって逃げられなくなるとこ」
口振りから、恐らく実母の事だろう。
そういえば、郁人さんと一緒に話した時にコイツもその場に同席していたから知っていて当然か。
そんな事を考えていたら、いつの間にか顔を上げていたリョウの目はテレビを向いていた。画面には、陰惨な拷問シーンが映し出されている。
「苦しくても逃げられないから――絶対に」
リョウは少し微笑んでその言葉を口にすると、あとは今までが嘘だったかのようにいつも通りに過ごした。
♪ ♪ ♪ ♪
一郎がぼっちを慕っているのは知っていた。
ぼっちと知り合う前から、彼が異様に尽くしている存在は仄めかされていたから把握はしていた。
でも、どこか余裕があった。
一郎の弱点は心得てる。
それを必要なタイミングで的確に突いて、小さな刺激で少しずつ育んで、その要因がいつも私だと刷り込んで、何事も隣にいるのが当たり前だと認識させた。
どうあっても結局私と一郎の二人きりの、あの空間が出来上がるって。
でも、思い返すとそれが少しでも揺らぐと私は無様なくらい必死になった。
冷静に対処すればいいのに。
最初は関係性に名前なんて必要無いといいながら、大槻さんや他の人の影が一郎の近くにちらつくと恋人なんてポジションに自分を収めてる。
一郎が目移りなんてしないように、心と体の繋がりをより深くしたり。
多分、二年前の自分が聞いたら鼻で笑うか青褪めていた。
でも、ここまでやって一郎の大体を掌握した。
ちょっとやそっとじゃ揺らがない。
私はあの空間と、安寧を手に入れたと高を括った。
でも、実際は一郎のほとんどを支配したと思っていたけど、一郎の核とも言える肝心な部分には手が届いていなくて。
薄々気づいてたけど、そこにはぼっちがいる。
現状、どう足掻いても私が付け入る隙が無い。
ぼっちはただ、自然体で一郎の核を握っている。
何となく、本能的にそこは敵わないとさえ思ってしまっていた。
「ぼっち」
「あっはい」
それでも、ぼっちを不思議と恨めない。
嫉妬もない。
ただ、ただぼっちを見ている一郎の目が……嫌い。
「一郎、欲しい?」
「えっ……」
バイト中、私の唐突な問にぼっちは驚いていた。
でも、それはほんの一瞬で。
「い、いっくんが誰といたいのかはいっくんの意思なので……わ、私の気持ちは、その次だと思います……?」
私の真意が分からず困惑しているのに、言葉にされた気持ちは真っ直ぐだ。
ぼっちのこういうところが私も好きだ。
一郎の気持ちもわかる。
でも、一郎がそう思うところが……嫌い。
「そっか。ぼっち、カッコいいね」
「うぇっ!?き、急になんですか……へへ、ま、まあ将来売れっ子ギタリストになるので強ち間違いじゃ――あ、お金は無理です、貸せません」
「違うから」
お金の催促と勘違いしたぼっちの真顔が面白くて私は少しだけ笑ってしまう。
そっか……一郎が誰といるかは、一郎の意思か。
一郎を本当に尊重してるんだね。
一郎が慕うのも分かる……分かるから、このままだとぼっちを選びそう。
今までは一郎が何があっても私を選ぶよう意思を誘導していたけど、変更せざるを得ないね。
だから、私の指針は定まった。
「うん。ぼっちの言う通りだ」
ぼっちの言う通りにはせず、一郎の意思は介さない。
一郎の自由も、私のモノだ。
総集編を改めて観て、誰が一番可愛かった?
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山田リョウ
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後藤ひとり
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伊地知虹夏
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喜多郁代
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伊地知星歌
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PAさん
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後藤パパ・後藤ママ
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後藤ふたり
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廣井きくり
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ファン一号・二号
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でかつよ族