二期おめでとぅ!
俺――前田一郎は、窮地に立っていた。
高校二年になったばかりの春、別に新学期を楽しみにできた人生ではないが、急速に深く広くなった人間関係から生じる問題で精神が疲弊していた所為で、体も気分も重かった。
まあ、人間関係も原因ではあるんだけど、特に最近の大きな問題は寝不足かな。
何せ、毎晩のようにリョウの相手をさせられる習慣が睡眠時にまで悪影響を及ぼし、夢の中にまであの憎き尊顔を拝む羽目になったのだった。
内容は……思い出すほど泣きたくなる。
何せ、夢の中のリョウは別人すぎた。
容姿、服装、表情に乏しい部分や声と喋り方はそのままだが、性格や態度が人格レベルで異なる。
俺を労り、細やかな楽しみや幸いを共有して嬉しそうに微笑み、真正面から好意を伝えてくる。……これが俺の深層心理から発露した願望なのだとしたら、もう入院しようかと思います。
そして、そんな夢を見て現実に帰ってくれば、その凄まじいまでのギャップに吐き気を催しつつ、何故かクソな方のリョウに安心感を覚えて発狂したくなる。
――夢の中のリョウは、不覚にも可愛いかったのにッ!!
まあ、こんな風に長々と語ったワケだが、要するに心身共に休まっていないのだ。
夢以外でも、親戚関係やリョウの両親への気遣い等でスリップダメージが延々と入り続けているしな。
「はー。……土に還るのもアリか」
ため息と一緒に漏れた無意識の声。
何と言ったかは分からないが、どうせ愚痴に違いない。
俺はバイトを終え、雨中の下北沢を歩いて家を目指す。
帰ってもリョウがいるだろうし、晩飯を先に作ってから風呂にゆっくり入ろうとぼんやりした脳で帰宅後の予定を組みつつ、玄関扉を開けて中へと入る。
……おや?
おやおや?
「リョウの靴が無い……」
その事実に、空気が澄んでいく気がした。
軽い、呼吸が軽いぞ。
ああ、アイツが居ないという認識だけでこんなにも世界は鮮やかになるものなのか!
……落ち着け、前田一郎。
こういう展開を腐るほど味わった事を忘れたか。降って湧いた幸運かと思って縋った先に、いつもリョウの理不尽や虹夏の闇、妖しいキターン光線で狙い撃たれたんだ。
確認の為にリョウにロインでメッセージを送るが、返信はない。
時刻は10時前……この時間帯は、すでにリョウも入浴を済ませてゆったり過ごしているし、勉強もせず、かといって俺の家は音楽に適した設備でもないから作詞くらいしか出来なくて暇だから常にスマホ貼り付いている筈……俺のロインが見れていないなら、逆に何かしらの作業に専念しているのだ。
つまり、実家に帰ってギターでも弾いてるに違いない!
「よし、風呂入っちまおう」
飯を急かされる事もないなら、シャワー浴びて久し振りの静かな時間を堪能しようではないか。
俺は玄関扉の鍵を施錠するや否や、床に荷物を置いて浴室へと直行する。
何者にも阻まれない自由な空間。
俺は、帰宅後から僅かな時間で有頂天になっていた。
上着を脱ぎながら、気分に任せて豪快に脱衣所の扉を開く――。
「今日でここ最近の分を回復してや――!」
「えっ」
その先は楽園じゃなかった。
そこに、水の玉を青い髪の毛先に作るリョウがいた。
俺を見るなり戸惑いの声を上げてこちらに向いた一糸纏わぬ肢体は、充分に温まった後で白い素肌にほんのりと赤みが差して上気している。頬を拭いていた長いバスタオルが垂れて、身体の前面を隠してはいるが、露わになった形のいい臀部の側面と晒された程よく筋肉のついた脚の美しい線……そして、予測していなかった人間の登場で固まったままの無防備な顔。
俺の体は頭頂から爪先まで完全硬直……いや、目だけはジロジロとリョウを見回してしまった。
お互いに見つめ合う無言の時間が続く。
やがて、リョウがため息を漏らした。
その些細なアクションだけで、俺もハッと我に返る。
「何故いる? ……靴も無かったぞ」
「濡れたから、別のところで干してる」
「何処に」
「一郎の部屋」
「なんてことしやがるんだオイ」
床がびしょ濡れじゃねえかよ絶対。
いや、それより先に。
「すまん。……これは偶然だからな」
「うん。早く閉めようか」
「はい。ごめんなさい」
リョウがあまりにも冷静なので、逆に俺も気分が落ち着いている。
謝罪しながら、彼女の指示に従って踵を返した。
「一郎」
「はいはい、すぐ出ていくから」
「扉、閉めるだけで良いんだよ」
……俺は足を止める。
…………どういうこと?
一度、というかもうある意味で見慣れてしまったリョウの大胆な姿に対し、なけなしの紳士精神で背を向けつつ、リョウの言葉の真意を考えた。
出ていけって話ではないのか?
リョウは……何も言わない。
取り敢えず、扉を閉める。
すると、上着の裾を後ろから引かれた。
振り返……るべきなのか?
いや何だコレ超怖いぞ、何か試されている最中なんじゃないか?
駄目だ、疲れてて頭が回らない。
あれだけ気分爽快だったのに、もうこの突然の事件で再びドン底に落とされた気分だった。思考すら億劫で、もう後の事でどうなっても土に還ろうという気分で振り返った。
「――よし、二回目。今度は自分の意志で見たから通報」
「待て待て待て待て待て」
後ろでリョウがスマホを片手に構えていた。
いつの間にか、体にタオルを巻いている。
畜生。
「悪かった……家に居るって知らなかったんだよ。だから、これも事故だ。情状酌量の余地はあるだろ?」
「ふ、甘いね一郎。乙女の裸は事故なんて一言で片付けられる被害じゃないんだよ」
「…………」
「それも、舐めるように眺めて」
「…………………………」
……仕方ないじゃん。
黙ってたら美少女なコイツが無防備な姿を晒していたら、男の視覚が駄目だと分かっていて動かない道理は無いだろう。
ああ、何か正当化しようとしたけどモノローグの字面が犯罪者だ。
何でリョウなんかに嵌められただけでこんな胸糞悪い気分に……。
それに、コイツは顔を見れば飄々としているのが分かる。
裸を見られたショックがどれ程かはともかく、もうこの件を材料に強請ろうという悪戯心で目が輝いていた。
「……何が望みだ」
「話が早い。……私のベッドが酒臭い、速く消臭して」
「ああ、はい……俺のベッドね」
「よし。ならいい」
フンスと尊大に吹いて、リョウは脱衣所を出ていった。
……意外だ。
もっと無理難題を要求されると思っていた。
奴のクズ精神なら、ここぞとばかりに相手の迷惑をあまり考えないので俺も身構えていたのに拍子抜けである。
案外、冷静さを装っていただけで内心はかなり混乱していた……は流石に無いか。
俺は肩の力が抜けると同時にドッとバイトの疲労以上の物に体が重くなる気分だった。
「ん?」
ふと、脱衣所に置かれた衣服……というかアイツの今夜用と思しき下着と俺のシャツが置かれていた。
タオル一枚で出ていったが、もしかして俺がいるから着替えるのを遠慮したのか。
悪いことをしてしまったな。
だが、これからきくりさんの残り香――アルコール臭をリョウのリクエストに応えて消し去りに行くので、その間にでも着替えて貰おう。
俺はリョウがいるであろう居間へと向かった。
「リョウ。俺作業するから着替えても――」
「見られた……見られた……」
リョウは、ソファーの上で抱き締めたクッションに顔を埋めて何事かを囁いている。
顔は見えないが、耳も首筋も風呂上がりにしても異常なほど真っ赤である。
本日二度目の事故……のような気がする。
気付いていないようなので、俺はそっと気配を消してその場を後にした。
色々と衝撃がありすぎて、疲れも何もかも飛んだような気がする。出来れば記憶ごと飛んでほしかったが。
よし、今晩の事は全て無かった事にしよう。
夢の中より可愛いかもしれないと思った事も。
総集編を改めて観て、誰が一番可愛かった?
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山田リョウ
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後藤ひとり
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伊地知虹夏
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喜多郁代
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伊地知星歌
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PAさん
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後藤パパ・後藤ママ
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後藤ふたり
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廣井きくり
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ファン一号・二号
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でかつよ族