ノルンは笑わない   作:くものい

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7ー1:波乱の港

 小さくて柔らかい指が、頬に触れている。ほのかに温もりが伝わる感触が懐かしくて、口元が緩むのが分かった。水面を目指す泡のように、微睡んでいた意識がゆっくりと浮かび上がっていく。頬をなぞる優しい指先を追いかけて、重い目蓋を押し上げて、知らず、息をもらしたらしかった。

「あ、起きた?」

 夢現の中でビーニャだと思い込んでいた手の主は、ミニスだった。

 現実を正しく理解するのに数度の瞬きを要した私は、声を返す代わりに目だけを動かして周囲の様子を探る。よく磨かれた木の板が均等に敷き詰められた床、木目調の天井に壁の材質も分かりやすく木造作り、簡素な作りながらしっかりしたベッドに寝かされた私の傍にいるのはミニスだけ。なるほど、記憶にあるゲームの流れを思い返すに、ここはファナンにあるモーリンの家だろう。砂浜で皆と揃って目を覚ます流れになるはずが、なぜか道場ですらない空き部屋に私だけ寝かされていた理由はさっぱり分からないけれど。

 ひとまず状況は把握出来たはずなのに余計混乱が深まってしまって素直な疑問を浮かべた直後、あまりにあっさりしたミニスの回答に私は頭を抱えることになるのだった。

「だから、ロッカよ。タキツをここまで背負ってくれたのはロッカ! マグナも運ぶって言ったけど疲れて歩くのがやっとだったし、ネスティは足を痛めてたし、フォルテはいやらしいから。ロッカだって別に気にしてなかったわよ?」

 昨晩、ミニスを抱えて慣れない夜道をひたすら走った私は、自分で考えるよりずっと疲れ果てていたらしい。電池が切れるように眠りに落ちたことは覚えているものの、朝日を浴びて起きだした皆にいくら声を掛けられても肩を揺すられても、あまつさえロッカに背負われる時でさえぴくりとも反応しなかったそうなのだから相当だ。起こすのも忍びないし誰か運んでやんなよ、と見かねて提案してくれたモーリンに賛成の声を返した何名かのうち、消去法でロッカを選んだのだと説明するミニスに私は力なく息を吐いた。

「そうか……でも、面倒を掛けたね。ロッカだって疲れてただろうに悪いことをしたな。ところで皆はどうしてるんだ?」

 よりによって、と思わなくもないけれど、純粋な厚意でロッカを選んでくれたミニスを責める気なんてない。最も警戒している相手に借りを作る結果になってしまったが、目を覚まさなかった私にこそ非があるのだから、ロッカにもきちんとお礼を言わなければ。事態の理解が済んで動揺の波も大分静まってくると今度は新しい疑問がいくつか浮かんでくる。

 それにしても、ミニスはどうして残っていたんだろう?

 直球で尋ねるのも気が引けてそれとなく水を向ければ、その質問を待っていたとばかりにミニスは意気揚々と口を開いた。

「女性陣は井戸端で汚れを落としてさっぱりしたところでモーリンの案内でファナン観光よ。男性陣は……鍛錬とか、観光とか? マグナとネスティ、ロッカはまだ道場にいたはずよ。私は、そうね、タキツにお礼が言いたくって残ってたの」

「……私に?」

 ベッドの端に腰かけて、ぴっと立てた人差し指を途中から思案気に傾けながら記憶を掘り起こしていく姿に微笑ましさや申し訳なさを覚えてた私だけど、予想もしなかった理由を告げられて目を丸くした。思いがけない答えに半ば面食らったような思いで言葉を失っていると、ミニスは呆れたように息をこぼして足先をぶらつかせる。

「タキツがこんなにまで目を覚まさなかったのって、それだけ疲れ切ってたからでしょ? ネスティやフォルテが苦笑してたわ、相変わらず無茶するなぁって。……ありがとう、何だかいつも助けてもらってばかりで少し、悔しいわ」

「そんなの、気にすることじゃないのに……っふふ」

 拗ねた顔をして感謝の言葉を口にするミニスだけど、子供っぽい不満と葛藤交じりにむくれる様子につい、笑みが誘われてしまった。勝手にやったことにお礼を言われる据わりの悪さを覚えなかったではないけれど、悔しいと言いつつも頬が緩んでいるミニスがあんまり素直で可愛らしくって、吐き出す息にも笑みが混じった。その拍子、緩んだ声までこぼれ出た私を見て、ミニスがぽかんと口を開けた。不思議な反応に首を傾げたところで、金の瞳を興奮に輝かせたミニスがずいと身を乗り出してくる。

「やっぱりタキツ、笑うと可愛いじゃない! 笑った方がいいわよ!」

「ちょ、ミニス、私はまだ汗を流してないしそんなに近寄るのは」

「話をずらさないで! ぜーったい、勿体無いわ!」

「ミニス、タキツの様子はどう……って……」

 一体どこで火がついたのか。ぐいぐいと布団に乗り上がる勢いのミニスから逃れようと仰け反れば仰け反るほど距離を詰められ、背中を起こす時にさえ軋むような痛みを訴えていた身体は呆気なく限界を迎えてしまう。いくらミニスが軽いと言っても満身創痍の身には耐えきれず、ついに重心を崩してひっくり返ったところで部屋の扉が音を立てて開いた。

 ベッドの上、仰向けに押し倒された私とその上に乗り上げているミニス。マグカップを手に固まったマグナと、扉を押し開けた格好で動きを止めているロッカ。

 全員、確実に目が合っているのに誰ひとり声を発せない奇妙な沈黙が場を覆う。息すら躊躇うような静寂が破られたのは、ミニスを受け止めた衝撃でひそかに悶絶していた私がどうにか、抗議の声を上げるだけの余裕を取り戻した後だった。

 

「タキツはミニスに甘いよな。俺の扱いは大分適当なくせしてさ」

 ぐちぐちと恨みがましく呟いている背中に向けて溜め息をひとつ、身体を拭き終えたタオルを手に顔を上げた私は不貞腐れたようにそっぽを向いたままの紫紺の頭へと目を向けた。主、と心持ち優しく呼びかけてみても反応はない。すっかりヘソを曲げてしまったマグナの機嫌は大分よろしくないようで、どんな呼びかけになら反応を返してくれるか、少しの間考える。結論を出すまでに掛かった時間は数秒、他に居合わせる人もいない部屋の中、苦笑に緩んでしまう唇でそっとマグナの名前を紡いで呼び掛けた。

「分かった、私が悪かったよ。だからそろそろこっちを向いてくれないか、マグナ?」

「……それで機嫌を直すほど単純じゃないからな、俺も」

 そう言いながらも気まずそうに口を結んでこちらを振り返ってくれるのだから可愛いものだと思うけど、あえて口に出しはしない。私の手から抜き取ったタオルを浅めのタライに入れて、わざとらしい不機嫌顔で渋々とばかり顔を向けてきたマグナに、分かってるよ、と私は内心を隠すことない柔らかい笑みを投げ返した。

 ミニスに召喚してもらったエールキティの憑依召喚であの場を乗り切った代償は、あまりに大きかった。攻撃力や防御力、移動速度といった個々人の身体能力の底上げや低下に秀でた憑依召喚は、その強力さもあって戦闘中、あくまで一時的に使用するのが一般的だ。本来の実力以上の力を発揮させるドーピングを長時間、やむにやまれずとは言え掛け続けてもらった私の身体は、手足だけでなく腹部や背中に至るまで余すところなく重度の筋肉痛に陥ったのだった。

 筋肉痛とだけ聞けば大したことないように思えるが、その実、絶対安静に近い有様だ。本来の能力を超えて全身を酷使した反動もあって一部は筋断裂寸前のダメージを受けている。生まれたての小鹿のような足は普通に立って歩くことすら許してくれないし、本来男女の部屋割りだったところをマグナと同室になったのはそういった采配もあった。更に付け加えれば、皆も皆、私ほどとは行かずとも多かれ少なかれ身体を休めなくては立ち行かない状態だったらしい。ファナンの町外れで拳法道場を営んでいるモーリンの厚意に甘える形で、暫くの滞在が決まったのは必然とも言えた。

 とは言え、今や集団のリーダーでまとめ役でもあるマグナをファナン滞在中、ずっと傍に引き留めておく気なんて毛ほどもない。そんなの本意ではないどころか全力で回避したい事態だ。せっかくの見聞の旅なのだし、今後の展開を思えば今のうちにファナンの街並みや雰囲気を知っていくことも重要になってくる。時間さえ掛ければ一人で移動出来ないわけでもないしと、こちらは気にせず出かけてくるように気楽に促した私に対して、けれどマグナはひどく渋い顔をした。だとしても今のタキツを一人にするなんて俺はイヤだ、と眉を吊り上げて幼子に言い聞かせるように告げるマグナは見たこともないような真面目な顔をしていて、とてもじゃないが口先ひとつで言い包められるような雰囲気じゃない。実際、多少の痛みや不自由さに目をつぶれば何とか、という前提を伏せて提案した負い目もあって困り果ててしまった私だけれど、そこに光明となって差し込んだのはまさかの人物からの援護だった。

「それじゃ、タキツのことよろしく頼むよ……本当に目を離さないでくれよな、ロッカ」

「そう心配されなくても大丈夫ですよ。まず一人になんてさせませんから」

「少しはプライベートも欲しいんだが……?」

 何度も何度も振り返りながら石畳の路地を下っていくマグナはどうにも後ろ髪引かれると言った具合で、にこやかな笑みで見送るロッカとは対照的だ。マグナに代わって私の付き添いを快く引き受けた人物、ロッカに穏やかに微笑みかけられて、私は少しばかり緊張に強張る頬を笑みの形に持ち上げた。

 仲良くしようと決めた後でも、私がロッカに対して抱いた苦手意識はまったく拭いきれていなかった。救いの手を差し伸べてくれたことへの感謝は本当だけれど、隠し切れない不審を抱いてしまうのもまた本心で、まず間違いなく私の態度はぎこちなかったはずだ。せっかくの厚意に向けるべきじゃない反応だと自覚があった分、ロッカにどんな扱いをされたとしても世話になっている間は大人しく付き合おうと、覚悟は決めていたのだけれど。

「左足はもちろんですが、今日は腕もなるべく使わないで下さい。気が引けるのは分かりますが、今日は僕が貴方の手足の代わりです。繰り返しますが、遠慮はいりませんからね」

「そうは言っても君だって疲れてるだろうに……ってこれはちょっと、さすがに!?」

 予想に反して、ロッカはとても親身になって寄り添ってくれた。ベッドから足を下ろすだけで表情が強張ったのを見ていたのか、マグナの見送りに出た後は問答無用で抱え上げられてしまって思わず悲鳴をこぼしたけれど、羞恥と混乱に手足をばたつかせた反動で顔を引き攣らせる私を見下ろす瞳は手の掛かる子供に向けるようなそれでしかない。言ってみればリューグやアメルに向けるのと同じ、呆れと窘めの入り混じった顔をして、それだけの状態なんですよ、と懇々と諭すような口振りで言われてしまえば反論なんて封じられたようなものだった。

「そのまま力を抜いて、出来るだけ僕に身体を預けてください。これでも鍛えてるので変な気遣いは不要ですよ」

 それが意地悪でも皮肉でも何でもない、単に私を気遣っての言葉だと分からないはずもなかった。身じろぎだけでも引き攣るような痛みが走る私を見かねてか、何通りも想像していた揶揄い文句のひとつも寄越すことなく、ロッカは宣言どおりに淡々と私の手足の代わりを務めてくれた。妙な触り方をしないのはもちろん、肩や膝裏に手を回す動きには気後れひとつないのにあくまで必要最低限の接触に留めていて、年頃の青年に手を貸してもらっているとは思えないほどの安心感を覚えるのに数時間も掛からなかった。これも村の自警団で培った不動の精神によるものなのだろうか。ロッカならいやらしくないからとミニスが評したのも納得でしかない対応に、一日が終わる頃には勝手に警戒して身構えていたことの謝罪が口を突いて出たほどだ。

「仕方ありませんよ。今のタキツさんはミニスにさえ簡単に抑え込まれてしまう状況ですから、いくら仲間とはいえ男である僕を警戒してしまうのも当然です」

 飼っていた小鳥の話でもされるんじゃ、と常々警戒していた手前、いっそ心苦しさを募らせていた私は優しすぎる言葉についに白旗を上げた。とにかく卓越した面倒見の良さ、甲斐甲斐しいほどの配慮や気配りに満ちた対応を受けておいて、それでも信用出来ないと構えを解かずに睨んでいては恩知らずどころの話じゃない。気にしないで下さい、と廊下の段差を越えるのに合わせて私の肩ごと引き上げるように力を込めながら、ロッカが穏やかに笑う。そこには打算や下心なんて微塵も見当たらず、無意識に強張りが解けるまま眉を下げての困り笑いを返した私に、お手本のような笑みを浮かべていたロッカも初めて砕けた苦笑を浮かべたらしかった。

 垣根は相手が作っているのではなく、自分自身が作っている。

 そう語った昔の哲学者について思い出してしまうくらい、ロッカとの関係は急速に改善していった。少しでも早く体力を取り戻したくて痺れの残る足を動かして銀砂の浜まで足を運べば、一人で出歩くのは、と眉を顰めて苦言を呈するくせ、せっかくだからとそのまま海沿いに伸びる小路を散歩に連れ出したり、何だかマグナを思い出すような接し方をされるうちに毒気が抜かれてしまったのもあるかもしれない。息をするだけで鋭い痛みが走った初日が過ぎ、痛みに耐えながらの二日目、そして三日目が過ぎると、まだ本調子とは言えないものの誰の手を借りずとも動き回れるようになってきた。リハビリも兼ねて道場の前に広がる銀砂の浜で紫熟とふたり、波打ち際をのんびり散策していた私は波と砂との間をなぞっていた視界の上方、不意に映り込んできた靴先に眼差しを緩めた。

「大分よくなったみたいですね」

「おかげさまで。皆には散々世話になってしまったけどね。今は、鍛錬の帰りかな?」

 寄せては返す波を浴びて伸び縮みを繰り返している紫熟に手を伸ばし、手から肘先にまで絡みついてきたスライム状の身体をゆっくりと抱き上げながら視線を持ち上げれば、そこにいたロッカも穏やかに笑う。

「ええ。遠目に貴方の姿が見えたので、少し寄り道をしようかと」

 いつか氷のように感じた声も雰囲気も嘘のように温かい。真面目一辺倒のようでいて意外と遊び心のあるロッカの行動としては違和感がないもので、ここ数日の遣り取りを何となしに振り返りながら私はかすかに口元を綻ばせた。

「そういえば、タキツさんの口調は誰かの影響なんですか? 男性のような言い回しをされるんだなと、前から気になっていて」

「ふふ、やっぱり一口あたりが小さいんですね。すみません、ついリューグたちと比べてしまって」

「仲間として当然のことをしたまでです。むしろ、どうしてそんなに気にされるんですか?」

 前にリューグに聞いたとおり、ロッカが私に興味を抱いていたのは事実だったらしい。そこに私を探る意図があったかどうかはともかくとして、気になるものが出来るととことん知りたくなる気質なのか、一度距離が縮まった後はあれこれと話を振ってこられて少し戸惑ってしまったくらいだ。敵将イオスとの関わりを疑っているような質問に背筋がひやりとしたこともあれば、奢ってもらったアイスの甘味を味わっている最中の楽しげな声に面食らったこともある。銀砂の浜から道場まで運んでくれたことのお礼をさせて欲しいと頼んだ私に困惑の面持ちで返した言葉も、それに何と言って返したかも、どれも記憶に遠くないものばかりだった。いつ借りを返せるとも分からないから、と曖昧に誤魔化しながら食い下がった私にロッカはいまいち納得出来てないような顔をしていたけれど、あれから真面目に考えてくれていたらしい。

「ああ、そうだ。この前のお礼の件ですが」

 思い出したような呟きを受けて顔を上げれば、僅かに目を細めて穏やかな笑みを浮かべるロッカと目が合った。

「もしもこの先、僕がひどく落ち込むようなことがあれば、優しく励ましてくれませんか? そうですね、タキツさんがマスターという方にするみたいに」

「別に、構わないが……」

 軽く冗談めいた言い方で告げられたそれを本気で受け止めてしまっていいものか。むしろ、本当にそんなことでいいのかと驚きも露わに返してしまえば、ロッカは困ったように眉尻を下げて口端は持ち上げた。足を止めて、逆光の中で私を見下ろす瞳は穏やかに微笑んでいる。なのにどこか寂しそうな、苦しそうな雰囲気が滲んでいるように見えて、一層の疑問を込めて見つめてしまえばその瞳が緩やかに歪んだ。

「僕には、それ以上は望めませんから」

 少なくとも、その時の私にはそう見えた。だからそれ以上のことを尋ねる代わり、少しの間を置いて小さく首を縦に振って頷き返した。

 一瞬、背中に走った悪寒は気のせいだろうと無意識に思考の端へと追いやって、胸の前で抱えた紫熟へと目を落とす。それでも少しの違和感とぼやけた焦燥めいたものを上手く飲み込めはしなかったけど、今晩の夕飯や鍛錬向きの場所だとかの雑談に映ってしまえば少しずつ、頭の端に引っかかっていたそれも忘却の淵へと押し流されて、道場の門を潜る頃には影も形もなくなっている。そうして再び街の方向へと去っていったロッカを見送り、部屋で読書に勤しんでいたネスティに声を掛け、早めに帰っていたアメルと一緒に夕飯の下拵えを始めてしまえば、もうそれを思い返すこともなかった。

「おかえりマグナ、モーリンも。それで……その、何かあったのか?」

 急に玄関の方が賑やかになった気配に顔を上げると、もう完成直前だから、と何を聞くでもなく快く送り出してくれたアメルに感謝を告げて向かった先、私は目を丸くして帰ってきたばかりのマグナやモーリンを見つめていた。玄関前の小上がりで瞠目する私の前にはまるで砂埃でも浴びたようにくたびれた格好の男性陣、フォルテやロッカ、リューグといった面々が、それぞれ半笑いやら呆れ顔やらを浮かべて立っている。マグナも似た様子だけど、モーリンだけは燦然と輝く笑みを浮かべて意気揚々と言った雰囲気で、一人だけファナンの太陽のようだ。私の疑問を受けてちょうど靴を脱ごうとしていたマグナが顔を上げるのと、モーリンが勢いよく胸を張るのは殆ど同じタイミングだった。

「ちょっと海賊を懲らしめてきたんだよ!」

「モーリン、すごかったよ……俺たちの助けが要らなかったんじゃないかってくらい」

 へらりと力なく笑ったマグナが言えば、うんうんとフォルテが実感を込めて頷くのが見えて、釣られて笑いそうになったところで思い出す。ファナンに到着して数日、モーリンとも気心知れた仲になった上で海賊相手の大立ち回りがあったなら、それはおそらく。

 その予感に正解を告げるように神妙な表情を浮かべたネスティへと目が行った夕飯後、部屋に戻ったマグナと私、そして一緒に来たアメルを待ち構えていたかのように現れたネスティは、想像どおりの言葉を告げた。

「モーリンには……明日になったらきちんと話して、出発しよう」

 毅然とした顔つきのネスティに悲しそうな顔をしたアメルが涙で潤んだ瞳を返すが、下された結論は揺らがない。ファナンの街との別れがすぐそこに迫っていた。




厚意や善意にチョロい。
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