ファナンを発つのが明日の正午に決まった後、色濃い茜色に染まり始めた街並みを私は一人歩いていた。
情けないことにファナンに到着してからの日々をほぼ筋肉痛からの回復に費やしてしまったため、私とモーリンの交流は皆に比べて圧倒的に少ない。それでも身体の調子や生活に不便はないか、何かと気に掛けてくれたモーリンに感謝を伝えたい気持ちは負けず劣らずだったものの、急に設定された残り時間がこうも僅かではお礼の品を見繕うにも難しい。やっと普通に歩けるようになった自由と解放感を噛み締めつつ、何か上手い手はないものかと中央大通りから市場通りに掛けての店先を覗きながら頭を悩ませていた私は、聞き覚えのある足音が勢いよく迫ってきたことに足を止め、おもむろに振り返った。
「タキツ! もう、一人で出歩くなって言っただろ」
私のすぐ後ろで足を止め、息を切らして顎先に伝う汗を拭いながら顔を上げたマグナの眉は吊り上がっている。荒い呼吸を整えながらでも怒っていることが一目瞭然だ。ちょっと出てくると言って道場を後にしたけれど、まだ一時間も経っていないのにどうしてこんなに早く私の不在に気が付いたのか。不思議に思っていればそれを一目で察したのだろう。アメルに聞いた、と不機嫌そうな様子を隠しもせずに返されて、私は曖昧に頷き返した。
薄々そんな気はしていたけれど、今回の一件でマグナはすっかり私に過保護になってしまったらしい。
筋肉痛で弱り切った身体も八割方は回復したし、海賊だとか荒くれものの多い地域柄を踏まえて一応刀だって下げてきたのに、マグナを安心させるにはまだまだ足りなかったということか。そうは言っても何が懸念材料になっているかさえ分からなくては迂闊に謝罪も口に出せない。もう日も暮れてるのに、と小さい子供相手にするような注意をされて堪らず苦笑が込み上げてくるけれど、軽く肩を竦めるだけで流した私はのんびりと声を返した。
「大丈夫だよ。もう帰るところだったしね」
「あれ? まだ何も買ってないみたいだけど……いいのが見つからなかったのか?」
下町飲食店街へと続く路地に足先を向け直しながら言えば、目敏く私の手元を見て取ったマグナは困ったように眉を下げた。急な心変わりの理由が分からない、とでも言いたげな視線を感じながら、あえて気が付かない振りをしたのはささやかな意趣返しだ。無自覚だろうが何だろうが、この年になって子供扱いをされるのは決して愉快なものじゃないし、何とも言えない居た堪れなさだってある。
「髪紐でも贈ろうかと思ったんだけどね、気が変わったんだ。そういえばアメルは?」
わざとらしく話の矛先を変えた私にいよいよ眉を下げながらも、マグナは素直に疑問への答えを口にした。
「アメルはあれからケイナたちを誘って台所を掃除してたよ。自分に出来ることは何だろう、って暫く考え込んでたみたいだけど」
「そうか。なら私は風呂掃除でもしようかな」
夕暮れの街にぽつぽつと橙色の灯りが灯り始めると、昼間とは違ったどこか享楽的で刹那的な華やかさが場の雰囲気を染め変えていく。さざ波のように満ちていく夜の気配を夜風と共に心地よく浴びながら返せば、マグナは何か聞きたそうな顔をしたけれど、結局、それを口に出すのは止めたらしい。次第に行き交う人影が増え始めた路地の通路側へと割り込むように収まると、私を壁側へと押し遣りながら溜め息交じりに俯いていた顔を上げる。頬を持ち上げるだけの中途半端な苦笑を浮かべたマグナは気の抜けるような声で呟いた。
「本当、タキツは元気づけ方が独特だよな」
その目は何より雄弁で、何を言わんとしているかなんて詳しく掘り下げるまでもない。酔っぱらいの喧騒や活気のいい笑い声が響き始めた路地を行く足取りはそのまま、自然と思い返すのは出かける直前に見たアメルの、怒ったような泣き顔だった。
「なんでそんなことが言えるんですか……まだお礼も何も言えてないのに、お別れするんですよ……?」
出発が明日と決まった直後、それじゃあ、とのんびり伸びをしながら席を立った私の一言が、アメルの震え声の原因だった。
「最後のファナン観光にでも行ってこようかな。見納めかもしれないし」
紫熟をひと撫でして玄関に向かおうとした私の背中に咎める声を投げかけて、アメルは涙を堪えるようにぐっと唇を噛んだ。真一文字に唇を結んで、薄茶の瞳は溢れんばかりに涙を溜めて、この場にいるのが私たちだけで良かったと心底から他人事のように思う。アメルの糾弾を受けたところで大して痛む心はないが、まだ話すことがあるからと部屋に引っ込んだマグナやネスティが残っていたらまず間違いなく気まずい空気になっただろうし、あの双子が居合わせていれば悪役そのものの扱いを受けたことだろう。気風のいい姉御肌、初対面の自分たちにも親切で気さくなモーリンにすっかり懐いていたアメルからすれば、たった三日での別れはそれだけ心苦しく受け入れ難いものだったのだ。
頭では理解出来ても心では受け止め切れないそれは多分、このまま二度と会えなくなることを危惧するあまりの衝動だったのだろうけど、ネスティに告げられた宣言だけならアメルも耐えられたはずだ。ただ、不用意な私の一言のせいで堪えに堪えてきた気持ちが決壊してしまった。渦巻く感情の吐き出し口が、ぶつける先が必要になってしまったのだ。
せっかく我慢して飲み込もうとしていたのにと、無自覚に非難するような眼差しは傲慢ながらに純粋無垢で、不安も葛藤もまた一人で抱え込もうとしていたらしいアメルに呆れと感嘆入り混じった思いを抱きながら私はその瞳を正面から受け止めた。
「悲しむのはいいけれど、アメル、君はそれでいいのか? お礼も出来ていないと気にするくらいなら、今からでも出来ることを探した方が有意義だろう? 自分に出来ることを考えて行動に移す。ただ悲しみに浸るよりはよほど意味があると思うけどね」
また会う日のためにもさ、と当たり前のように続けた言葉が、アメルにとってはよほど思いがけないものだったのか。ぱっと目を見開いた拍子に涙の粒が勢いよく転がり落ちていく。
「私に、出来ること……今の私に、してあげられること?」
舌の上で転がすように小声で繰り返していたアメルが何を考えたかは知らないし、返事も期待せずに軽く声を掛けて去った後、何があったかなんて分からない。聖女ではないただの少女、レルム村の一件でひどく傷ついていたアメルの癇癪に近いそれを受け流す代わりに向き合うことにしたのは私の気まぐれでしかないから、それでアメルの心境がどんなふうに変わったかも興味はない。ただ、さほど間を置かずに部屋から出てきたらしいマグナには私がアメルを泣かせたとバレているはずで、それなのに元気付けるための言動だったと解釈されているのは不幸中の幸いだったと言えるだろうか。
てっきりマグナが追いかけてきたのも苦言を呈するためだと思っていたことは黙っておくべきかと、私が少しばかり逡巡していると躊躇いがちな声が降ってくる。
「でも、髪紐を贈るのもいい考えだと思ったけどな。今からでも買いに戻ろうか?」
探し物途中で邪魔してしまったとでも思って気に病んでいるのか、一転して随分下手に出てきたものだ。おずおずと私の様子を窺うように尋ねてきたマグナに大きく瞬いて、声を上げて笑ってしまった私はゆるゆると頭を振った。
「っく、ふふっ……いや、いいよ、本当に気が変わったんだ。ただでさえ思い出に縛られているモーリンにこれ以上、物を渡すのもね」
マグナの気遣いは嬉しいけれど、目ぼしいものがなかったわけじゃない。最後に立ち寄った露店で見つけた髪紐は、実際、とても良い物だった。ファナンの海を思わせる深い藍色が綺麗な組紐仕立てで、きっとモーリンのお眼鏡にも適ったことだろう。だけど、手に取ろうとする寸前であることが頭をよぎったのだ。
モーリンのゴーグルは確か、憧れの叔父さんから譲り受けたものだったはずだ。サモンナイト3までのゲーム知識がこの世界の実情と合致しているのなら、モーリンはこれまで、父親や叔父さんとの大切な思い出を守るために生きてきたようなものだ。いつか大事な人が帰ってくるかもしれない場所を守って、一人でも大丈夫だと思い出の品を心の支えにして、背筋を伸ばして胸を張って明るく強く在り続けてきた彼女を思うと、手が止まった。
「縛られるってそんなの」
「私がそう思っただけだし、気のせいかもね。ただ、物があるとそれを見るたび思い返して、忘れられなくなるだろう?」
重石になりたくないんだ。
伸びた毛先が夜風に揺れて首筋を撫でていくのがくすぐったくて、緩やかにまとめた髪を左肩へと流しながら言えば、マグナは気まずそうに押し黙った。あくまで推測を出ない考えに過ぎないのに真剣に受け止めすぎだと苦笑をこぼせば、だけど、と情けない顔をして眉を下げる。素直なのはいいことだけれど、護衛獣に過ぎない私の言葉を真剣に受け止めすぎだろう。
「あくまで想像だよ。そんな顔をしないでくれ」
長年一人きりの道場とはいえ、師範代を務めるだけあってモーリンの実力は本物だ。下町の用心棒として皆に頼りにされていることも、その腕っぷし以上に朗らかな人柄でもって皆に慕われていることも、そんな町の人たちを心から大事にしているモーリンにしてみればこの上ない幸いであるのだろう。だからこそ私の憶測は杞憂に過ぎないかもしれない。モーリン自身、過去のことだと割り切って大して気に留めていないかもしれない。だけど、もしそうじゃなかったのならモーリンを縛り付けるものをこれ以上増やしたくない、というだけの話だ。
「だけど、俺は……」
忘れたくないと思う、と独り言のように呟いたのはマグナの優しさだろう。そんな叱られるのを待つ子供のような顔をして言うことじゃないのに、一体どんな反応が返ってくると思っているのか。雨に打たれた犬のように項垂れるマグナへと、私は息を吐くように笑みこぼした。そんなの、マグナの自由でしかないことだ。好きにしなよ、と振り返りもせず歌うように続けた私に、返事はなかった。
次の日、下町飲食店街の外れまで見送りに来てくれたモーリンと私たちは別れの挨拶を交わしていた。元気でね、世話になったな、と思い思いの声を掛ける皆の表情はそれぞれだ。寂しいと表情いっぱいに訴えていたり再会を確信している快活な笑みを浮かべていたり、私はと言えば本当はストラのコツを教わりたかったこともあって、少しばかり残念そうな顔を隠しきれなったかもしれない。気の力で患部の治癒力を高めて怪我を治す治療法というのはフォルテが語ってくれた説明だけど、それだけの技術を身に着けるまでモーリンはどれだけの修練を積んできたのだろう。数知れずの苦労と辛酸を舐めてきたことを最後までおくびにも出さず、モーリンは快活な笑みを浮かべていた。
「全部片付いたらさ、また遊びにおいで? 楽しみに待ってるからね!」
その言葉にアメルの瞳がじわりと滲むけれど、嬉し泣きだと分かっていてわざわざ指摘するような人間はいない。爽やかな海風の吹き抜ける街らしく、後味のすっきりした別れを迎えるところだった。
だからこそ、遠く尾を引くような音が聞こえたと思った次の瞬間、響き渡った轟音と地鳴りの音に全員が目を剝いた。動揺に驚愕、怒りに困惑と様々な表情を浮かべたのも束の間、間髪入れずに落ちてきた二発目によってその顔どれもが戦闘を意識した険しいものへと変わる。大砲の砲撃だと鋭く叫んだネスティに応えるように海賊の仕業だと目尻を吊り上げたモーリンが脱兎の如く駆け出せば、それに続かないものなんて誰一人としていなかった。加勢するぞ、と先陣を切って走り出した中には足の手当てをしてもらったネスティの姿もあり、驚きと嬉しさが半々に入り混じった顔のマグナが見える。
「僕らに取ってもまんざら無関係な話じゃないからな」
「ネス、それじゃ!?」
「ああ、ちょっとした恩返しといこうか?」
ふ、と口元を緩め珍しく悪戯っぽい表情を浮かべたネスティが目を細めた。その内心を語るように持ち上がった口角は柔らかな弧を描いている。
全速力で砂浜へと続く路地を駆け抜けた先、視界が一気に切り替わり青い海と白い砂浜ばかりが飛び込んできたそこで、海賊の親玉らしい男と勇ましく向かい合うモーリンが見えた。
いかにも海賊らしい意匠の厳めしい帽子にマント、眼帯に髭まで揃っていれば、あれがジャキーニかと疑う余地なく納得がいく。その間にも握りしめたサモナイト石に魔力を注いだジャキーニが高笑いと共に呼び出したのは霊界サプレスの召喚獣、タケシーだ。始めて目の当たりにする召喚獣を前に怯んだモーリン目掛けてそれが容赦なく雷撃を放ったところで、息を整えるのも後回しに赤いサモナイト石へと魔力を注いでいたマグナが怒鳴るように叫んだ。
「させるかっ!」
どん、と足元を揺らすような衝撃が走り、放たれた召喚術同士が互いの威力を受けて消滅する。咄嗟に放ったにしては上手く調整出来たものだと思うけれど、召喚師でもないジャキーニからすれば侮られたと感じたらしい。侮られた舐められたコケにされた、どれも意味することは海賊としての面子を潰されたということだ。癇癪そのままに砲撃の先を下町へと向けたジャキーニを一体どうするべきか、マグナが判断に迷う間にも次弾が装填されて容赦なく発射されてしまう。海辺の海賊船から砂浜、砂浜から路地を挟んで下町飲食店街へと滑るように迫りつつあった砲弾は、けれど、その目的を全うすることはなかった。
「キエエエイッ!」
気合い一閃、浪人風の身なりの男性が振るった刀に両断されて真っ二つになった砲弾、いや、砲弾だった金属片が下町手前の路地に呆気なく転がり落ちる。鈍い音を立てて転がったそれはご丁寧に導火線もしっかり断ち切られていて、これでは爆発なんて起きるはずもない。あまりのことにモーリンやミニスたちまで呆気に取られているけれど、嘘でしょお、と唖然とするケイナの声が聞こえたのかどうか。澄んだ音を鳴らして刀を収めた男性は悠々と砂浜に降りてくると、マグナとモーリンに向けてかすかに目元を和らげた。そして、二人はそれで思い出すところがあったらしい。カザミネさん、と駆け寄りながら名前を呼んだマグナに釣られたように笑い返して、カザミネはざっと砂浜を踏みしめると海賊船を眼光鋭く睨み付けた。
「シルターンが剣客カザミネ、義によって助太刀いたす!」
世話を受けたことの恩を返すべく刀を振るったのだと当然のように言い切っただけあって、カザミネの覚悟は決まっていた。一緒になって海賊船に乗り込むと甲板やマストの影から襲い掛かってくる下っ端の海賊たちを相手に縦横無尽に立ち回り、身体の一部のように刀を振るう。段差がある相手には居合を放てないと言う縛りこそあるけれど、サモンナイト1から登場している侍だけあってカザミネの実力は本物だ。この世界の侍は強いものだと相場が決まっているけれど、空腹で倒れそうになっていた姿と戦場を悠々と駆ける姿が上手く結びつかないのか、マグナは何度も目を擦っては感嘆の眼差しを向けている。同じ刀の使い手として肩身の狭さを覚えなくはないけれど、あくまでビーニャの盾役として武器も扱えるようにしただけの自分と比べる方が失礼と言うものだろう。半ば自分に言い聞かせながら海賊の鳩尾を殴りつけた私は、蹲ったその背中を抑え込むように紫熟が圧し掛かるのを見て視線を上げた。
「……ネスティとマグナで、同時に召喚術を使ったのかな」
激しい閃光と轟音が鳴り響いたのは船の上方、この場所からだと角度的に見えないが、最も高い位置に据えられた見張り台の方向だった。雨あられのように召喚術を落としながらジャキーニが高笑いをしていたはずだけど、召喚術らしい濃厚な魔力の気配が炸裂してからはまったくと言っていいほど物音が聞こえてこない。付け焼刃も付け焼刃なだけあって、召喚術の威力のみならず命中率も半分以下だったジャキーニ目指してモーリンが鉄拳を振るいながら甲板を突き進んでいた姿を覚えているけれど、であれば今頃はおそらく。想像に浮かんでしまったジャキーニの末路に口端を苦く緩めながら、私はまた一人、皆が無力化した海賊に縄を掛けることにした。
「おぬし、本当に往生際が悪いでござるなぁ……」
呆れるカザミネの言葉が何よりその場の声を代弁していた。陸に上がるのはイヤだと駄々っ子のように泣いて嫌がるジャキーニの帽子やマントは見事にボロボロ、後ろ手に縛られながらも身を捩って嫌がる様はいっそ感心してしまうほどだ。お芋さんのようとアメルが例えるほど頭をボコボコに殴られておいて、こうまで頑強にこちらの要求を突っぱねられるというのはある種の才能かもしれない。モーリンが揶揄い交じりに脅しを掛ければ一層激しく泣き喚く始末で、これが大の大人の姿かとネスティなんてすっかり呆れてしまってる。とりあえずファナンの兵士に引き渡して後のことは頼もうと、砂浜での話し合いがひと段落したところだった。ネスティが何かに気が付いたように顔を上げた先、金鎧の兵士を従えて優雅な出で立ちの女性が砂浜を歩み寄ってくる。
「貴方たちですね? 海賊たちをやっつけてくれたのは」
「成り行きですが、一応はそうですけど……」
見た目同様の穏やかさで話しかけられたマグナが困惑ながらに答えれば、瞬時に顔を引き攣らせたミニスがフォルテの背中にさっと身を隠した。今頃隠れても遅いことはミニスが誰より理解しているだろうに、身体に染みついた条件反射なのだろう。しげしげとマグナやネスティの顔を眺めていた女性が、困ったわ、物忘れかしら、と不意に形のいい眉をおっとりと下げた。
「派閥にいる子たちの顔は覚えているつもりだったのだけど……」
「気のせいではないですよ、僕たちは蒼の派閥の召喚師ですから」
小首をかしげていかにも困った様子の女性に襟を正して折り目正しく声を掛けたのはネスティだ。
「金の派閥の議長、ファミィ・マーン様」
蒼の派閥と対を成す金の派閥、そのトップに当たる議長役。そしてミニスの母親であり、ファナンの街の顧問召喚師。
物腰穏やかな女性の正体が判明した後は、あれよあれよという間に話が進んでいった。元々好感を抱いてなかった金の派閥のトップの登場に戦闘の高揚と憤りのままモーリンが噛みつく一幕こそあれ、海賊退治よりも下町の被害を食い止めることを優先したという事実が明るみになればその勢いも一気に衰える。穏やかな対応は崩さないまま真実すまなそうに声を弱めたファミィを見れば、海賊退治の礼と謝罪を告げていた言葉が見せかけではなかったと証明するに事足りた。真摯で誠実な対応を受けて気勢を削がれてしまったこともあり、ファミィの話術とペースに飲まれていると気が付いた頃にはもう話の終盤だ。ジャキーニたちを引き立たせた金鎧の兵士たちへと短く指示を出し、後で私が直接お仕置きしますから、と穏やかに微笑んだファミィが最後にもう一度振り返って、マグナとミニスそれぞれに視線を合わせて瞳を和らげた。
「それではまた明日、ごきげんよう」
金の派閥本部に招待されることが決まったマグナと、ファミィの娘であるミニスが脱力しきった様子で立ち尽くすその傍ら、優雅に会釈をして去っていくファミィの後ろ姿を見送りながら私たちも知らず詰めていた息を吐いたことは言うまでもない。
「あ、そうだ、タキツも」
「行けるわけないだろ。私は御呼ばれにあってない、呼ばれもしないのに行っては失礼だ」
早くも頭を抱えて絶望の声をこぼし始めたミニスの様子に当てられてか、少しでも連れを増やそうと明るく振り向いたマグナに私は呆れ混じりに返した。ようやく事の重大さに気が付き始めたマグナの視線がネスティへと移り、それを待っていたとばかりに深い溜め息をこぼしたネスティが静かに眼光を強める。
「マグナ。君は、蒼の派閥の召喚師代表として見られるんだからな?」
低く言い聞かせるようにネスティが告げ、そのとおりとばかりに私は無言で首を縦に振る。今更のように震え上がるマグナに救いの手を差し伸べるものは、当然ながらいなかった。
ゲームの立ち絵でもマグナの不機嫌そうな微妙な顔がね、好みでしたね。