絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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決着

 

 もう目の前に家が見えてきたというところで、地を揺らすような音と夜が昼にでもなったかのように感じるほどの眩い閃光共に今まで立っていた家がガラガラと崩れていく光景がスイレンの目に飛び込んできた。

 

 今のは親父の奥義、『嵐亟龍』だ。あれを使ったということは決着は近い。急がないと。

 

 中で親父が戦っている。それは少し前から放たれていた殺気で分かっていた、しかし、それと同時に親父のものとは違う殺気の異常さに不安を感じていた。今まで戦ってきたどんな相手よりも重く圧のある殺気。今親父はとんでもない敵と戦っているのは明白だった。

 

「親父!どこだ!」

 

 やっとの思いで着いた崩れた家を踏み越えながら奥へと進みどこかにいる親父へ声をかける。

 

「...スイレンちゃん......」

 

 ほとんど霧のように視界を隠す大雨の中、少し離れたところに膝を付いた親父が目に入った。もしやと思っていた最悪の事態は起こっていないことに安堵し表情が緩む。そんなあたしを見た親父も同じことを考えたのか優しい笑顔を浮かべていた。

 

 全く心配をかけさせて、きつく言ってやらねばと思い近づこうと思ったその時、

 

 

「すまん」

 

 

 親父が笑顔のまま呟いたと思えば、親父の後ろの雨の中から大きな腕が現れ親父の頭を思いきり殴り飛ばした。

 

 無防備に膝を付いていた親父は体ごと家が崩れて出来た瓦礫の中へと吹き飛ばされ、姿が見えなくなってしまった。

 

「ふぅ、お互い死にかけたが俺の勝ちだな」

 

 親父を殴り飛ばした張本人はふぅと息を吐きながら首を押さえて姿を表した。

 

 柿渋色の肌に横を刈り上げた金色の髪、袖のないぴっちりとした黒の服を着ており、その鍛えられた体がはっきりと分かるが、今はその体の至る所がボロボロになり出血もひどい。腕や脚、目が怪しく紫に光っているのを差し置いても、一目見てこいつがロメロスなのだと分かった。

 

「ん?なんだお前は?」

 

「親父に何してくれてんだ!」

 

 相手がロメロスだと理解した瞬間、他のことは何も考えず飛びかかるスイレンだったが、

 

 向かってくるスイレンに対し、少し腰を落として構えたロメロスの右手から目にも止まらぬ速さの三連撃が繰り出されスイレンに直撃する。

 

「あぁ、思い出したぞ。オニバスの娘か」

 

 いとも簡単に殴り飛ばされ瓦礫に埋もれたスイレンはすぐに起き上がろうとするも体が痺れて動けないことに気付いた。

 

「なん...で、お前が...親父の技を...」

 

(今のは親父の『風雷坊』のスキルがあって使える技のはず。なんでこいつがそれを使える?)

 

「流石に分かるか。教えてもらったんだよ。お前の親父殿にな」

 

 ロメロスはスイレンの方を見向きもせずに自分の手首を二、三度曲げながら感触を確かめているようだった。

 

「親父がお前なんかに教えるわけないだろ...」

 

(まだ痺れが取れない。なんとか時間を稼いで動けるようになったら、今度こそぶん殴ってやる!)

 

「確かに懇切丁寧に教えてもらったわけではないが、見せてはくれた。俺にはそれで十分だ」

 

 ロメロスは話しながら紫に光る目の横のこめかみをトントンと叩く。

 

「この眼はどうやら武術に関するスキルなら一度見ただけで原理を理解し行使できるようになるらしくてな。こういうのを魔眼というのだろう?オニバスの『風雷坊』も要は雷と風を扱えるスキルなだけだ。基本の属性魔法さえ使えれば似たようなことはできる」

 

 そこまで話すと、ロメロスは左手を握りしめて力を込めると、その周りに風が巻き起こり始める。

 

「こんなふうにな!」

 

 言葉と共に風を纏った拳を天に突き上げると、竜巻のように舞い上がった風は空を覆う厚い『滝雲』に直撃し、かき分けるように雲を払いのけてしまった。

 

 確かにロメロスの言っていることは論理的には可能である。しかし、その属性魔法を手に纏い『風雷坊』と同等のクオリティーで扱うとなると、とんでもない技量が必要になってくる。

 

(そんなことが出来るの?でも現にこいつは今やってのけた。嘘を言ってるとは思えない)

 

 ロメロスの実力に少しの恐怖を覚えつつも、体の痺れが取れてきていることを確認したスイレンはいつ反撃に出るか機を伺っていると、ロメロスから声をかけられる。

 

「どうした、もう痺れは取れただろう?時間稼ぎに乗ってやったんだ。かかってこないなら帰るぞ」

 

 もう諦めるべきだと感じた。なんとか時間を稼いだつもりなのに、それすらも理解された上で待たれていたという事実に、それが分かっているのに止めを刺しにこなかったのは確実に勝てるとわかっているから。最初の一撃ですでに勝敗は決していた。それほどに圧倒的実力差のある相手。

 

(でも...)

 

 引くわけにはいかない。こいつはここで倒さねばならない相手。野放しにするわけにはいかない。

 

 スイレンは立ち上がり、ゆっくりと構えをとる。

 

 たとえ勝てなくとも、たとえ死んだとしても、少しでも傷を負わせればこの後こいつと戦う誰かの助けになるかもしれない。

 

 目に覚悟の炎を灯したスイレンは、もう一度ロメロスに立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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