「さっきの
「すっごい大きい雲でしたね。私達と同じサランの街の方へ向かって行ってたみたいですけど」
王都サランにはまだ少し遠い砂漠のど真ん中にて、今日はここで野宿をすると決めたキーラとクゥはテントを張って焚き火の火に当たりながら遠くの空を眺めていた。
「コウイチさん、今頃どうしてますかね?」
クゥは、コップに入った温かいお茶を一口啜る。
「あいつのことだし、どうせまた変な事にでも巻き込まれてんじゃないの?」
「だ、大丈夫ですかね」
クゥはコウイチのスキルのこともあるため、あながち間違えていなさそうなキーラの予想に心配そうに焚き火を覗く。
「さっさとサランに行って捕まえて帰らないとね」
「ですね。キーラちゃんも寝言でコウイチさんの事呼んで心配してましたし」
「あつっ!!」
クゥのこぼした一言に動揺したキーラは注いでいたお茶を手にかけてしまう。
「あ、あたしがそんな事言うわけないでしょ!?」
「え、でも昨日言ってましたよ?」
「クゥの聞き間違いよ!あたしがあいつのこと心配なんかするわけないでしょっ!」
キーラは、クゥの言葉を否定しながら隠れるように毛布を被って小さくなってしまった。
「あのバカはあたし達がいないと何もできないんだから、しょうがなく行ってあげてるだけなんだから…」
「ふふっ、そうですね。早く会いたいですね」
「だから、そういうわけじゃ……」
もぞもぞと動く毛布の塊となったキーラが抗議してくるのを見ながら、クゥも毛布にくるまって目を閉じた。
(コウイチさん。どうか無事でいてくださいね)
◇◇
「はぁっ!!」
「…ちっ、鬱陶しい!」
「ゔっ!?」
スイレンの息もつかせぬ激しい攻撃がロメロスに襲いかかるも、一瞬の隙を突いて反撃を受け吹き飛ばされる。そんな攻防が続く中、スイレンはロメロスがまだ自分を殺しきれていない現状に勝機を見出していた。
(反撃は受けるけど、攻撃にどこかキレがない。親父との戦いで満身創痍なのは間違いない。これなら今のあたしでもなんとかなるかもしれないけど、決定打がない。普通の『崩山拳』の技じゃ仕留めきれない。何か、今のあたしにもできることは...)
倒れた体を起こそうと地面に手をついた時、彼女の手にある物が触れた。
(これ...これならもしかして。でも、あたしにできるのか?......いや、やるんだ。やってみせる!)
「くそっ。しぶとい娘だな」
ロメロスは痛む左の脇腹を押さえながら中々致命傷を与えられないでいることに悪態をつく。スイレンにも予測されている通り、ロメロスの体はオニバスとの戦闘で限界を迎えていた。かろうじて勝利したものの、全身に風でできた切り傷に電撃によるダメージが残っており体の動きが鈍い。特に最後の『
(薬の効果が弱まってきたか?魔力ももうほとんど残っていない。長引けば増援が来るかもしれんしな。)
ゆっくりと起き上がるスイレンを見据えながら次に来るタイミングで残る力を全て使いきる一撃を放つ覚悟を決めたロメロスは右手に魔力を集中させる。
(......来るっ!)
ロメロスの予想通りスイレンが弾かれたようにこちらに走ってくる。しかし、真っ直ぐは向かって来ず、まだお互いの拳が届かない距離でロメロスの左側に移動するようにステップを踏む。
(体を横に向けて拳の出所を隠したつもりか?だが、左に飛んだ時点で脇腹を狙いにきているのは明白。射程距離に入った瞬間こちらからいかせてもらうぞ!)
ロメロスの予想に反し、まだ拳が届かない距離でスイレンが隠していた右腕を全力で振るった。
「......がっ!?」
直後、ロメロス向かって何かが飛んできて彼の脇腹を貫いた。
(なんだ!?攻撃?どうやって?何を使った?武器は持っていなかったはず...)
痛みに表情を歪めながらスイレンの方を見るとこちらに向かって振り切った彼女の手が
(水?そうか、俺がやって見せたように魔法を使って......)
「生意気なぁ!!」
怒りにより生まれた力によってスイレンに一瞬で近付いたロメロスは握りしめた拳にさらに力を込める。
その時に発せられた殺気に、スイレンは心の底から恐怖し、それと同時に死を覚悟した。
「ちょっと待てゴラーーー!」
今にも電撃を纏った拳がスイレンに襲い掛かろうとしたその時、ロメロスの背後から大きな声が聞こえた。
不意にかけられた声に一瞬動作が止まり振り返ろうとしたロメロスは側頭部から体ごと横に吹き飛んだ。
「......コウイチ?」
ロメロスに勢いよく飛び蹴りを決めた青年は、すたりと綺麗に着地するとスイレンに振り返る。
「絶対こんなこと言うべきじゃないけど、やっぱり来なきゃよかったかも」
そこには、今にも泣き出しそうな顔のコウイチがいた。