絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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今日から新しい連載小説を投稿し始めたのでそちらも是非読んでください!


救世主

 

 勢いで蹴りかかってみたものの、その後のことを考えていなかったコウイチはその場でフリーズしていた。

 

(どうする?スイレンが危なそうだったからつい飛びかかったけど、あれってロメロスだよな?なんか腕とか脚ぼんやり光ってなかった?そんなことよりこれからどうする?とりあえずスイレンと一緒にどこかへ逃げる?...でもロメロスは放置でいいのか?あんな蹴り一発でやられるわけないし、ここはスイレンだけでも逃がして時間を稼ぐか?)

 

 「......イチ......コウイチ!」

 

 固まったまま様々な思考が頭を巡る中、スイレンに呼びかけられてはっと我に返る。

 

「はっ!すまん。よしスイレン、俺があいつを引きつけてるうちに一緒に逃げよう!」

 

「落ち着けって。それだとコウイチが二人いることになってるぞ」

 

「......すまん、忘れてくれ」

 

 変なことを口走ったせいで熱くなった頬を両手で叩いて一旦落ち着く。

 

「今どういう状況なんだ?」

 

「あたしもゆっくり説明したいけど、そんな暇ないみたいだな」

 

 スイレンが話しながら目線を移した先を見ると、手をついて今にも起きあがろうとしているロメロスが目に入った。

 

「どこの誰かは知らんが、俺の邪魔をするなら覚悟はできてるんだろうな?」

 

 隠す気もない怒りの表情をしているロメロスは、見るからに満身創痍だが自分がこいつと戦えるイメージはこれっぽっちも浮かんでこなかった。

 

「スイレン。お前だけでも逃げろ。そして急いで助けを呼んでくれ。じゃないと確実に俺が死ぬ」

 

 ロメロスと目が合っただけで膝が笑い出している中、スイレンに命懸けの願いを伝えると、

 

「すまんコウイチ......あたし...もう立てないかも...」

 

 スイレンの力無い言葉に後ろを振り返ると、スイレンは、ぐったりとうなだれたまま動かなくなってしまった。

 

「スイレン!」

 

「余所見とは余裕だなぁ!」

 

「しまっ...!」

 

 ここぞとばかりにこちらに襲いかかってきたロメロスに、反応が遅れて避けられないと悟り、両腕でガードを固めて力の限り踏ん張る。

 

 

 

 

「......ん?」

 

 いつまで経っても飛んでこないロメロスの攻撃に、ふと目を開けて前を見ると、

 

「ぐぅっ......!」

 

 目の前には苦悶の表情を浮かべたロメロスと、その彼の鳩尾に拳を突き刺しているツルリと光る頭の老人の後ろ姿があった。

 

「なんとか間に合ったようじゃの」

 

「ヨンのじいさん!?」

 

「よう耐えた。もう安心せい」

 

 俺とスイレンの師匠として、今まで見てきた中で一番頼りになる後ろ姿と、その言葉に安堵の息を漏らしてしまう。

 

「次から次へと、鬱陶しい...」

 

 後退りしながら腹を押さえるロメロスだったが、その体から発せられる殺気を見るに、未だ闘志は消えていないらしい。

 

「今回は見逃してやろう。さっさと行け」

 

 ヨンから出た予想外の言葉にロメロスは驚いたが、それ以上に驚いていたのはコウイチだった。

 

「何言ってんだよヨンのじいさん!そいつ、この国に喧嘩売ってるようなやつなんだろ!?スイレンの家もスイレンもこんなにされてるのに!」

 

「コウイチ。少し黙っとれ」

 

 小さく落ち着いた声だった。しかし、その背から放たれた言葉自体に殺気が込められているようで言葉を失ってしまう。

 

「わしだってむかついとるよ。だからもし、お前さんが戦うというなら相手をしよう」

 

 ヨンは、その声のままロメロスに話しかけると、ロメロスは考えるようにしばらく黙り込むと口を開いた。

 

「見逃してくれるというなら、お言葉に甘えさせてもらうか」

 

 そう言い残して、その場から背を向けて足を引き摺るように去っていくロメロスを見ていることしかできなかった。

 

 

 

「ヨンのじいさん。なんで見逃したんだよ」

 

 ロメロスの姿が見えなくなり、ヨンに今の説明を求めてみる。

 

「奴はオニバスを倒した。この国のNo.2を倒したということは、国王に決闘を申し込む正当な権利を有したことになる。ならばわしらはもう出しゃばるべきではないんじゃよ」

 

 話しながらスイレンの元まで歩くヨンの顔は見えない。

 

「でも、ここまで酷いことされてるのに......」

 

「悔しい気持ちは分かる。だが、それがこの国のルールなんじゃよ。余所者のお前さんの出る幕ではない」

 

 突き放すような一言で、それ以上は何も言い返せるはずもなく、スイレンを抱えたヨンが彼女を開けた場所に寝かせた後、オニバスを救出した。

 

 

 その間、俺とヨンはお互い言葉を交わすことはなかった。

 

 

 気付くと、東の空に太陽が昇り始めていた。

 

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