絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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ジャック山のシズク草

 

「ふわぁー」

 大きな欠伸をしながらコルト亭の階段を下りる。

 

 最近暑くなってきたな。

 

 探索者として働き始めて2ヶ月程経ち、季節はもう夏に差し掛かろうかというところである。

 

 危ない討伐の依頼は極力避けて、採取の依頼を日々こなし、採取の時に時に遭遇した弱い魔獣などを倒して、その皮や牙を売って稼ぎの足しにしている。

 

 働き始めて分かった事だが、自分のレベルは魔獣を倒す事で経験値が手に入り上がるらしく、今の俺のレベルは5になっていた。

 

 他にも日々の鍛錬でもステータスは上昇するが、レベルアップによって上がるステータスの方が圧倒的に高いという事など、まだまだ俺はこの世界で知らない事が多すぎる事を痛感させられる毎日を過ごしている。

 

 

「おはようコウイチ」

 一階に降りると、シャロットがいつものように挨拶をしてくれるが挨拶の後に手をこまねいて近くに呼ばれた。

 

 近づいてみるとシャロットは顔をしかめて小さい声で俺に囁く。

 

「コウイチ、またあの人来てるんだけど」

 

 シャロットがチラリと視線を向ける先に目をやると、食堂の隅のテーブルに腰掛けている男と目が合う。

 

「やあやあコウイチ君、おはよう。いい朝だねぇ」

 

 俺に手を振ってくる男を一旦無視して、シャロットに一言謝り、朝ご飯と酒を一杯頼む。

 

「なんか脅されてたりするんなら私があいつぶっ飛ばしてあげるからね」

「そんなんじゃないから大丈夫だって」

 

 長髪で無精髭を生やし、着古した服を着た見るからに怪しい男の方を睨みながら袖を捲っているシャロットを制止して、男が座っているテーブルの方へ向かう。

 

 

「コウイチ君、今朝も早いねぇ、剣の鍛錬かい?真面目なのはいい事だよ。僕も見習わないとねぇ」

 

 この調子のいいことを言っている男の名前はサルビア。以前コルト亭の前で行き倒れていた所を助けたのだが、懐かれてしまったようで、たまにコルト亭に来ては俺に酒をせがみにくるようになった。

 

「サルビアさんさぁ、いつも飲んでるけど働いてんのか?」

「心配してくれてるのかい?大丈夫だよ。こうやってコウイチ君がお酒を奢ってくれるしね。僕は酒さえ飲めれば他は何もいらないのさ」

 

 目の前の酒に取り憑かれた男を見ながら呆れていると、シャロットがご飯と酒を持ってきてくれた。

 

「ありがとうシャロットちゃん。相変わらずかわいいねぇ」

「どうも」

 

 サルビアの軽口をさらりと流し、料理を置くとすぐに踵を返し厨房に戻っていくシャロット。

 

「サルビアさん胡散臭すぎるんだよ。せめてもうちょっと身なり整えて来てくれよ」

「僕はありのままで生きていたいんだよ。自由が一番」

 

 そう言いながら置かれた酒に手を伸ばすサルビア。

 

「ちょっと待った」

 

 俺は素早く酒を自分の手元に寄せる。

 

「まずは情報を聞いてからだろ?」

「ちぇっ、イジワルだなぁコウイチ君、心配しなくてもちゃんと教えるよ」

 

 なぜ俺がサルビアに酒を奢るのか、それはサルビアが俺に儲け話の情報をくれるからである。

 

 行き倒れていたサルビアを助けた時、俺がいつも薬草採取に行っている森のある場所に、ツノの生えた珍しいジブウサギ、ツノジブウサギが出るという情報を教えられ、半信半疑のまま薬草採取のついでに教えられた場所に行くと、見事にツノジブウサギを見つけ、俺はありがたい臨時収入を得る事ができた。

 

 それ以来、サルビアが俺に儲け話の情報を教える代わりに、その情報で得た報酬の一部をサルビアの酒代として支払う約束をしているという訳だ。

 

 

「んー、そうだねぇ。今持ってる情報でコウイチ君におすすめなのはジャック山にあるシズク草の話かな」

「シズク草?」

 

 ここクエス王国は周辺に大小12個の山々に囲まれている国で、ジャック山は王都から西に半日ほど歩いたところにある緑豊かな比較的標高の低い山で、魔獣も小型のジブウサギなどが大半で、稀に中型のローウルフなどがいる程度だが滅多に会うことはなく、探索者にとってもいわゆる『初心者向け』の山である。

 かくいう俺もジャック山には採取クエストで頻繁に行くのでお世話になっているが、シズク草という名前は初めて聞く。

 

「知らないかい?シズク草は薬にすると風邪とかの体調不良全般に効く万能薬になるんだよ。一部では呪いなんかにも効くって噂のね」

 

 話し始めたのでサルビアに酒を渡す。サルビアは幸せそうに酒を一口飲むと話を続ける。

 

「少し問題があるとすれば、ジャック山に最近とっても強そうな魔獣が出たって噂があることぐらいかなぁ」

「だったら俺あんまり行きたくないな、危険はできるだけ冒したくないし」

 前にあるご飯をスプーンでつつきながらサルビアの話を聞く。

「大丈夫さ、僕はその人が問題なくこなせる情報しか教えないよ。じゃないと報酬でお酒が飲めないからね」

「確かにサルビアさんの情報は信じてるけど…」

「心配なのは分かるけど、このシズク草はコウイチ君なら取ってこれると僕は思うがね」

 サルビアは飲み切った木のグラスをテーブルに叩きつけるように置きながら勢いよく息を吐く。

 

 俺はしばし考え込んだあとサルビアの仕事を受けることにした。人としては怪しいが情報屋としては俺はサルビアを信用している。

 

「ならシズク草のある場所を教えるとしようか…その前にもう一杯もらえるかな?」

 

 

 

 門番に探索者カードを見せる。門番が探索者カードとクエストの確認をすると、通っていいぞとだけ無愛想に言われ門をくぐり外に出る。

 

 探索者はクエストを受注していれば通行料を免除される仕組みになっている。ジャック山に行って今日中に帰るのは厳しいので、今日は山で野宿をし、帰るのは明日になるだろう。

 

 俺は歩きながらサルビアに言われたシズク草の場所を思い出してみる。どうやらシズク草は決まった群生地がない特殊な薬草らしく世界中どこにでも自生する事ができるが数が極端に少なく、見つけることが困難らしい。

 

 ジャック山にあるシズク草は山の中腹にある湖の程近い洞窟にあるらしい。そこまで詳しい場所が分かるならサルビアが自分で取りに行けばいいのにと思いつつ、道中金になりそうな薬草や小型の魔獣を狩りつつ、のんびり目的地へと歩を進める。

 

 

 ジャック山に入る頃には夜がそこまで迫ってきており、辺りが暗くなり始めていた。

 

「ちょっとのんびり来すぎたな」

 今日はここで一泊して、明日の朝にシズク草を取って帰ろうと考えながら火を焚いて道中に狩った魔獣の肉を焼きながら小型のテントの準備をする。

 

 小型のテントは泊まりでクエストに行く事が多いので買ったものだ。値段は銀貨6枚、痛い出費だが必要なので仕方がない。

 

 今回取りに来たシズク草は量にもよるが、サルビアの情報によると金貨一枚の儲けは堅いらしい。俺は何を買おうかと妄想を膨らませながら、その日は眠りについた。

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