絶対不可避の異世界更生   作:浅葱 沼

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噂の魔獣の正体

 

 朝、辺りに魔獣がいないか注意を払いながらテントから顔を出す。ジャック山は危険な魔獣も少なく、安全な場所なのは知っているが、サルビアから聞いた魔獣のこともある、慎重になって損なことはない。

 

「大丈夫かな」

 

 焚き火は消えており、少し肌寒く感じるが、気持ちのいい朝だ。テントを畳み、後片付けをしてから湖へと歩き出す。

 

 一時間ほど山を登ると開けた場所にでた、そこは大きな湖が広がっており、サルビアが言っていた場所だとすぐに分かった。ただ一つ違和感があるとすれば俺の視線の先、湖のほとりに先客が一人いる事だ。

 

 フードを被っていて性別は分からないが、背丈から見るにどうやら子供らしい。いくらこの辺りが安全とはいえ子供が一人で来るには危なすぎる。

 

 俺はふと異世界に来たばかりの頃を思い出した、あの時俺はこの世界の右も左も分からない子供のようなものだった。運よくゴートと出会ったから今俺は生きていると言っても過言ではない。

 

 ゴートならこんな所に一人でいる子供は放っておかないだろうと、俺は声をかける事にした。

 

「なぁ君、迷子か?」

「ぴひぃ!?」

 

 突然声をかけられた事に驚いたようで、フードの子は変な声を出して、その拍子にフードが取れた。

 

 肩まで伸びた薄い銀色の髪に丸くて大きな瞳は驚いた事で潤んでおり、透き通るような青をより強調させる。どうやら女の子らしい。しかもよく見ると耳が少し尖っていて長い、ファンタジー世界でよく見るエルフってやつかな?

 

「お、オバケさん?」

 

 身を縮めて震えながら俺を見上げるエルフの少女。はたから見れば俺が犯罪者に見えそうな状況だが…、身をかがめて話し続ける。

「驚かせてごめんよ、オバケなんかじゃないから安心して。君が一人でいるように見えたから心配で話しかけただけなんだ。誰か大人と一緒だったりする?」

 

 少女はまだ怯えているようだが、俺の顔を見て小さい声で喋り出した。

 

「私が人に見えるんですか?」

 急に当たり前のことを聞かれて思わず首を傾げる。

「そりゃ人以外にはとても見えないな。それがどうかした?」

 

 変な質問に笑いながら答えると少女は目にいっぱいの涙を浮かべて泣き始めた。

「やっど、わだしがびえる人に会えました〜」

 少女の瞳からは大粒の涙がボロボロとこぼれる。

「え!?なんて?俺なんかした?だとしたらごめん!」

 

 突然、女の子に泣かれた事でどうしていいか分からず、バッグに入っていた食料なんかを出してみて食べるか?とか聞いてみたり、しばらくあたふたしてその場を行ったり来たりしていると、

 

「ふふっ」

 少女は声を上げて笑い出した、そして涙を拭いた後もくつくつと笑いながら

どうしてお兄さんの方ががそんなに慌ててるんですか?」

 

 どうやら俺の慌てようは笑えるほど酷かったらしい。ちょっと恥ずかしいがひとまず泣き止んでくれたからいいか。

 

 

 しばらくしてお互い落ち着いてからは湖で顔を洗い、俺が持っていた食べ物を食べながら自己紹介をする事にした。

 

「すいません急に泣いたりしてしまって。私の名前はクゥです。 クゥ・ネルと言います」

「俺の方こそ驚かせちゃったみたいでごめんな。俺はコウイチ。ツガヤマ コウイチだ」

「いえいえ!私は誰かと久しぶりに話せてとっても嬉しいです」

 ちょっとずつ俺のあげた干し肉を頬張っている。小動物のようで可愛らしい。

 

 俺も一口、干し肉をかじり質問する。

「それにしても、クゥはなんでこんな所に一人でいたんだ?」

「そのことなんですが…」

 

 クゥは俺の質問に顔色を暗くし、俯いて干し肉を眺めた後、勢いよく俺の方を見上げて、

「お願いします!私を助けていただけないでしょうか?」

 クゥはまた涙目になっている。

「実は私、呪いをかけられているんです!」

 

 

 話をよく聞くと、どうやらサルビアの言っていた強そうな魔獣というのはクゥのことらしい、クゥは一週間程前、エルフの里から出てきたらしいのだが、出てすぐに何者かに呪いをかけられたらしい。しかもクゥにかけられた呪いは強力なものらしく、魔力を持っている者には魔獣に見えるとのこと。

 

 そのせいでジャック山にいる魔獣も恐れてクゥを避け、山に来た探索者に助けを求めようとしても初心者向けのジャック山に来るような探索者にもクゥは強そうな魔獣に見えるため、逃げられてしまうので途方に暮れていた所に俺が現れたらしい。

 

「でもなんで俺はクゥが魔獣に見えないんだ?」

「あの、その事なんですが、私は魔力感知のスキルを持っているんですけど、コウイチさんからは一切の魔力を感じないんです。全ての生物には魔力器官があるので少なくても魔力があるはずなのに…」

 

 うーん、身に覚えしかないな。

「それなら多分、俺には魔力器官ってのが無いからだと思うよ」

「魔力器官が無い!?ほんとにオバケさんですか?」

 俺のカミングアウトにクゥはまた少し怯えた様子を見せた。

 

「いやいやオバケじゃないって、説明は難しいけど、色々あってさ」

「なるほど、でも魔力が無くて生きている人は初めて見ました。やっぱり里を出て正解でした。世界は不思議でいっぱいです」

 クゥは小声で何やら呟いているが、どうやら喜んでいるらしい。

 

「そんなことよりクゥ。助けて欲しいのは分かったけど、具体的にはどうすればいいんだ?」

「無茶なお願いなのは自分でも分かってるんですが、呪いを解く為の解呪の札が欲しいんです」

 

 解呪の札か、初めて聞くな。

「それってどこで手に入るんだ?」

「王都にある教会で売っていると思うんですが…その…ちょっと高いらしいんです」

 クゥの声はどんどん小さくなっていく。

「どうした?買ってくるぐらいならお安い御用さ。ところでその解呪の札っていくらなんだ?」

 

 

「金貨15枚ぐらいだったと思います…」

 

 

 なるほど金貨15枚か…

 

 

「金貨15枚!?そんな高いのか!?」

 俺の声にびっくりして謝りだすクゥ。

「ごめんなさいごめんなさい!やっぱり無理ですよね、最近は食べられる植物も見分けられるようになりましたし、コウイチさんに貰った干し肉のおかげで元気が出ましたから」

 

 また今にも泣き出しそうなクゥ。どうしたものか、助けてあげたいが俺の手持ちじゃ解呪の札なんて到底買えない。

 

 

 待てよ。そういえば…

 

「なぁクゥ」

「はい、なんですか?」

「俺がここに来たのはシズク草を取りに来たからなんだ」

「はぁ」

 気の抜けた返事だけ返ってくる。

「知ってる?」

「知っているのは知ってますが、貴重な薬草ってことを文献で見たことがある程度ですね」

「ああ、そのシズク草がどうやらこの近くの洞窟にあるらしいんだ」

「それは凄いことですが、どうかしたんですか?」

 

 どうやらクゥはシズク草の噂は知らないらしい。

「そのシズク草って呪いも解呪できるって噂なんだけど、試してみる?」

「本当ですか!?」

 クゥは耳をぴくりと動かして顔が明るくなる。表情豊かで見ていて面白いな。

 

「そうと決まれば早速取りに行くとしよう!」

 

 お互いその場を立ち上がり、シズク草を求めて洞窟へ向かった。

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